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412:襲撃後の会議

 とある城の大広間に、再び近隣諸国の王侯貴族達が集まっていた。

 彼らはウナ・ヴォルタの周りにある国々で、協力し合って瘴気を阻む結界を展開する同胞達である。

 しかし、その中にはガラッと参加者の顔触れが変わってしまっている国があった。


「失礼だが、君達はどなたかな? 今までこの会議に参加していた者達とは異なる面子のようだが」


 問われた者達はそれぞれ名乗り、己の役職や立場を告げた。

 その中には王族は存在せず、大臣などの重役も不在。公爵位の貴族は居るが、今までの参加者とは異なる会議初参加の者だった。

 そして何より異質だったのは、ウナ・ヴォルタへ侵攻した部隊を率いていた部隊長がこの場に居た事である。


「なぜこの場に兵士が居るのだ? 例え部隊長とは言え、近衛騎士ならともかく一兵士が居合わせて良い場所ではないぞ」

「お、お待ちください! 彼はメッセンジャーなのです! 魔女からのお言葉を伝えるための役を与えられたのです。役目を反故にしたらどうなるか……」

「はっはっは! 魔女のメッセンジャーか! 初参加ながら愉快な言葉で笑わせてくれるな、公爵殿」


 大笑いした王の一人が指をパチンと鳴らすと、護衛として控えていた近衛騎士達が動き、公爵や部隊長のもとへとやってくる。


「つまみ出せ。くだらぬ事を抜かした貴国はこの会議のメンバーから除外する」


 命令を受けて近衛騎士達が部隊長を取り押さえようとするが、その瞬間に強い力に弾かれて壁に激突してしまう。


「強制排除はおやめになった方が良いでしょう。彼は魔女のメッセンジャーとして、害する者から守るという契約を受けています。我々は魔女からのメッセージを受け取るしかないのです」


 排除を支持した王が口をパクパクさせて言葉を失ってしまう。


「申し訳ありません。いま公爵が仰った通り、私は魔女からのメッセージを伝える役目を頂いておりますので、早速ご覧ください」


 そう言って部隊長が懐から小さな蒼い宝玉を取り出すと、それを机の上に置いた。直後、宝玉が輝きその上に魔女の姿が映し出された。


『早速メッセンジャーを攻撃してくれたみたいだね。次そういう事をやったら国諸共に滅ぼすから、やるならそのつもりで』

「「「「「なっ!?」」」」」」


 あらかじめ用意された映像を流すのかと思いきや、ついさっき起きたばかりの出来事を把握している。

 この瞬間に参加者一同は察した。魔女はリアルタイムにこの会議の様子を見ている。迂闊な事を言う訳にはいかない。

 しかし、そんな状況下であっても察しの悪い愚か者は混じっている訳で――


「はっ、何が魔女だ。我らは『王』だぞ。国の頂点に対して何という物の言い様だ。やれるものならやってみるがいい、やれるものならな!」

『ではリクエストに応えるとしようか』


 映像の中で魔女が指をパチンと鳴らすと、部屋の中までをも貫く程の凄まじい光と共に、耳を塞ぎたくなる程の爆発音。

 少し遅れて衝撃波が届き会場の窓という窓が完膚なきまでに砕け散る。窓側に陣取っていた者達は無数の破片を全身に受けて弾き飛ばされてしまう。

 机に座っていた者達もその場に突っ伏して室内を蹂躙する衝撃波を何とかやり過ごした後、恐る恐る外の様子を見て驚愕する。


「な、な、な、なんだこれは……」


 彼らが目撃したのは、いわばキノコ雲であった。凄まじい熱エネルギーが局所的に放たれた事で生じた上昇気流が形作るものだ。

 最も分かりやすい例で言えば原子爆弾の投下によって生じるものや、火山の噴火によって発生する噴煙がその類となる。

 つまりこれは、それらに類する程のとてつもない力が炸裂した事を意味する。当然、爆心地となった場所は無事で済むはずがない。


『やれやれ。まさか出来ないとでも思っていたかい?』

「あ、あがが……」


 魔女に対して煽ってしまった王は腰を抜かして、もうロクに言葉も発せない状態となっていた。


「この愚か者が! 貴様は前々から軽率な部分があるとは思っていたが、ここまで救えない程とは思わなかったぞ!」


 そして実害を出してしまった事で、煽った王に対して周りからの批判が集中する。

 実際に手を下したのは魔女であるが、今の出来事を見て正面から魔女を批判できるような肝の強さがある者はここには存在しなかった。

 煽りさえしなければ魔女はこのような事をしなかったという点を考えれば、やるように仕向けた者が悪いと判断される。


 腰を抜かしたまま近衛騎士に抱えられて退場していく王を尻目に、他の者達は言葉を止めてただ魔女の言葉を待つ。

 ここまでされてさすがに魔女に対して脅威を感じていない愚か者は居ない。皮肉にも一人の馬鹿によって、皆が話を聞く姿勢になった。


『とは言っても、私の要求は少ない。ウナ・ヴォルタの真実の公表と、放棄した土地の譲渡。それくらいだね』

「真実とは、我らの先祖がウナ・ヴォルタ壊滅の原因を魔女のせいとした事――で宜しかったですかな」

『あぁ、壊滅の原因が王の失態と知れ渡ると同じく王である自分達の印象が悪くなるとか言って魔女に全ての罪を押し付けた案件だ』

「……それに関しては、すぐに対処すると誓おう。ディカステリオンの意向を突っぱね続けるのも、正直リスクが大きい」


 居合わせた一同が首を縦に振る。これにより、会議に参加した国々はウナ・ヴォルタが滅んだ正しい経緯を世間に公表する事となった。


『それに関しては……という事は、もう一つに関しては首を縦に触れないという事かい?』

「いえ! いえいえいえ! 違います! あの女神官が言ったように、我々はウナ・ヴォルタの地を欲していながらも何もしてこなかった――と言うのは否定できない事実ですし、今更欲する資格は無いかと思います」

『代わりに何かを要求したいって所かい? こちらも鬼ではないから聞いてあげるよ』

「せめて、せめて国交を結べないでしょうか。ウナ・ヴォルタが中心で良いので新たな連合を……」

『なるほど。ならば、それぞれの国と国交を結ぶメリットを聞かせてくれるかい?』


 王達は順番に自国の強みや特色を述べていく。この中で少しでも優位に立とうと皆が必至だ。


『メッセンジャーの君があの国の代表に立っているという事は、やはり王達は滅んでしまったようだね』

「えぇ、愚かにも王は貴方から託されたキューブを私から取り上げてしまいました。その後、何をしでかしたのか中身が溢れてしまい……」


 部隊長はこの時点で最悪の結末を予想し、無断で早退した上に自宅に残っていた家族を連れ出し隣町へ出かけた。

 町の外からでも見える巨大な王城の頂上から赤黒い液体が大量に溢れ出したのは、まさに城下町を出て少し経ってからであった。 

 あれは万を超える人間が潰されて液体となった物だ。それを知るのは、今や彼のみである。


「事態を引き起こした王はもちろん、王城の中に居た王族、来訪していた貴族や重役達は壊滅。町にも深刻な被害が生じました」


 部隊長は魔女により自分以外の兵が壊滅させられキューブにされた事、王がそれを解き放ち被害が生じた事。

 それら全ての顛末を語ると、その場に居た皆が頭を抱えてしまった。と言うのも、他ではそこまでの被害が生じていなかったのだ。

 ひどい所ではほぼ壊滅という悲惨な結果もあったが、マシな所ではごく少数の人間しか死んでいないという国もあった。


「我が国では、兵達は転移魔術で全裸にされ無力化された上で海へ飛ばされたという。兵達の中で死んだ者は、魔術で飛ばされる前に自殺を図った者だけとの事だ」

「それは何という幸運な。我が国ではエヴィルトエガバスのナイラ・ブラーブを雇い入れすらしたのに、ほぼ壊滅という散々な結果だったぞ」

「死者こそ少ないが、我が国も幸運とは言い切れんのだ。何せ、兵が海に飛ばされた後に漂着した海岸があったのは別の国だ。兵達を救済してくれた代わりに、多大な見返りを要求されたぞ」

「我が国は兵士達が突然発狂して同士討ちを始めると言う訳の分からん結果に終わったのだが」

「なんと、我が国と同じ状況に陥っているとは……。こちらでも兵士達が疑心暗鬼になって互いを攻撃し始めるという事態に陥っていたぞ」

「我が国は映像の女神官と遭遇した。法力によって一瞬にして壊滅させられたと聞いたが、数少ない生き残りも異常に何かを恐れてそれ以上は口を開こうとせん」

「不死の怪物と遭遇した我が国が一番不運であろう。数少ない生き残りによると、相手は好戦的では無かったらしいが、こちらが好戦的だったが故に壊滅的被害を被ったと言っていたが……」


 会議場はいつしか我が国の被害自慢大会となっていた。

 落ち着きを取り戻し、普通の会議に戻るまで少しの時を要してしまったという――

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