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406:周りの国々を迎え撃つ

「……と、言う訳で周りの国々が攻め込んでくるよ」


 先程のエレナの映像を見た各地で様々な反応があったらしいが、残念ながら俺はその辺を詳しく把握していない。

 リチェルカーレは何処でそんな情報を仕入れて――って、フォルさんが居たか。俺が目線を向けると、無表情でVサインを見せてきた。

 フォルさんの特性を考えれば、極端な話何処へだって侵入できるんだよな。極秘の会議であろうと筒抜けだ。


「ウナ・ヴォルタを結界で隔離していた国々の連合は、どうやらエレナの領土所有宣言が気に入らないようだ」

「その連合からしたら、いきなり何処の馬の骨とも知れない奴がやってきてこの土地を自分の物とするって言ってるようなものだからな」

「連合も連合で別にウナ・ヴォルタを所有している訳では無いんだけどね。連合に参加している国の中に、いずれ自分の国の領土にしようと目論む者が居たんだろうさ。その者達からすれば、横取りされたようなものだからゴネてるんだろう」

「自分の国の領土にしようと企てていたんなら、土地の一部でもさっさと浄化するなりして所有権を主張すれば良かったんじゃないか?」

「それすら出来なかったんだよ、彼らの保有する力では。多少浄化した所で汚染の方が範囲が広ければ、すぐに汚染が埋め尽くしてしまってキリが無いからね。エレナのように規格外の浄化能力で一気にやるしかなかったんだ」


 実際にやってみせたエレナ曰く、教皇や偽者ならば自分と同じくらいの事が出来たのではないかという推察だ。

 ならば何故やらなかったのかと言われれば、それは『彼らに何もメリットが無いから』だろうな。

 今のミネルヴァ聖教は完全に利で動く。ウナ・ヴォルタを救済した所で、得られるものが無ければ動く意味は無い。


「ミネルヴァ聖教に大金を積めばやってくれただろうね。けど、連合はそこまでして浄化する事にメリットを感じていなかった」

「でも、いざ浄化されたらその土地を他人に取られる事が嫌とは、何とも都合の良い話だ。メリットを感じていないなら手放せばいいのにな」

「そんな単純には事が運ばないから世の中から争いは無くならないんだよ。言葉で納得できないから叩き潰すしかないのさ」


 結局の所、最後に物を言うのは『力』と言う事だ。向こうが攻めてくるなら、撃退するしかない。


「ただ撃退するだけじゃダメだ。圧倒的な力を見せて思い知らせよう。一人ずつ八方に散って敵軍を相手取るくらいの事はやっても良いね」


 コクリと頷く一同。俺もだが、もはや一対多数は手慣れたものだ。女性陣はともかく、俺だって力を付けてきているんだ。それくらいはやらないとな。


「そ、そんな滅茶苦茶な……。他のみんなはともかく、私には荷が重いような気が……」


 一方で、一人だけ自信なさげなのはハルだ。彼女はここ最近、自分が周りと比べて大きく劣っていると思い込んでいる。

 実際、周りの面子を見ると俺も自信を失いそうなくらいにとんでもないのばかりが揃ってるからな……。


「ハル。キミはいつも自信なさげだけど、それはキミの感覚がマヒしてるだけさ。世間一般の基準からすれば、キミも充分におかしいレベルに達しているよ」

「……はぁ」


 誉め言葉か馬鹿にしているか良く分からないような物言いでリチェルカーレが諭す。

 聞いていたハルは渋い顔をしているが、少なくともハルにも出来ると思われている事は察したようで、最終的には案に同意した。


「連合はエレナの排除に結構力を入れているみたいで、各々の国が全軍を出すらしいから、みんなも遠慮なくやっちゃっていいからね」

「それは……敵軍を皆殺しにしてしまっても構わないと言う事か?」

「戦争とはそういう物だからね。もちろん不殺を貫いても構わないが、戦意だけは奪っておいてくれよ。何度も来られると面倒だし」



 ・・・・・



 俺は北側を担当する事になった。大岩の上で胡坐をかいて待っていると、向こうの方から沢山の兵士達が行軍してくるのが見えた。

 地理的に兵士達がこの先に行くには必ず俺の居る場所を通らなければならないが、岩の上に居る俺の存在に気が付いて足を止めてくれるだろうか。


「む、そこの者。岩の上に腰を下ろして何をしておるのだ?」

「そう言えば、ウナ・ヴォルタの地には避難する事無く残り続けている人達が居ると聞いた事ありますが……」


 お、気付いてくれたか。スルーされたら悲しいからな。


「我らはこの地の奥へ向かう所だ。間もなく戦場と化すから、何処かへ去るがいい」

「残念ながらそうはいかない。俺はあの方の下へアンタらを行かせないようにするためにここに居るんだからな」

「何っ!? ならば我らの敵か! だが、たった一人で何が出来る……」

「こういう事が出来るぜ」


 パチンッと指を鳴らしてカッコ付けさせてもらう。もはやお馴染みとなった、地雷の設置だ。

 魔力許容量の増えた俺なら、視界の範囲を埋め尽くすくらいにはまとめて召喚できるが、あくまで今回は脅すのみ。


「今、アンタらの足元に爆弾を設置させてもらった。迂闊に動かない方がいいぞ」


 まずは一つを設置し、あえて宣言した上で様子を窺う。だが、大抵の場合は――


「貴様、何をふざけた事を言って――ぐあっ!」


 こんな感じで、人の言う事を信用しようとせずに動いてしまい、手痛い一撃を受ける事になる。

 俺が今回設置したやつはせいぜい片足を持っていかれるくらいの威力だろうが、この世界の場合は鎧や魔術による防御もあるからな……。

 さすがに足が吹っ飛ぶまではいかなかったが、少なくともまともに歩けなくなるくらいは効いてくれたようだ。


「だから教えてやったのに。ちなみに、同じようなのが無数に埋まってるからじっとしていた方がいいぞ」


 実例を見せたからか、今度は皆が大人しく従ってくれる。実際に地雷をセットするのはこのタイミングだったりする。

 間を詰めて埋めてしまうと誘爆で大変な事になるから、ある程度の隙間を開けて散発的に爆発するようにした。

 とは言え、このまま相手がじっとし続けているはずもないだろう。何らかの対策を撃たれてしまう前に、俺も次の手を撃つ。


「しっかり耐えろよ。動いてしまったら足元がドカンだ」


 連射の利くガトリングガンだ。元々の世界であれば到底人一人で持ち上がるような物ではないが、この世界ならば身体能力強化が出来る。

 両手でしっかりと構えながら最前列に居る兵士達に向けて弾を連射する。さすがに頑強な金属鎧に弾は通りにくいが、全ての部位が鎧で覆われている訳では無い。

 そう言った部分に当たってしまった兵士は痛みでよろめき、その拍子に足元の地雷を踏み、周りの者達を巻き込みながら爆発する。


「こ、この卑劣漢が! 相手を動けなくしておいて、そこを武器で狙い撃ちにするとは何という姑息な……」

「誉め言葉どうも。戦場においては少ない効率で大きな成果を出すのが理想だからな。残念ながら俺は手段を選ばないタイプでね」


 この世界には魔力などと言う概念があるから近代兵器は通じない場合もあるが、どうやら今相手取っている兵士達はそういう力の練度は低いようだ。

 特に何かに遮られるような事もなく、普通にガンガン喰らっている。ただ、鎧はガトリングガンの乱射を耐えられるくらい頑丈なようで、何回か当たっても撃ち貫けない。

 なのでダメージを受けるのは鎧に覆われていない部分や装甲の薄い部分などに当たった際だ。それでも、耐えて踏ん張る根性ある兵士も居るみたいだな。


 リチェルカーレは皆殺しでも構わないと言っていたが、俺としては最小限の犠牲で追い返してやりたい所だ。

 悪い意味で有名になってしまったら世界を巡りにくくなってしまうからな……。この先、旅がしづらくなるのは困る。

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