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404:出回ったある映像

『映像をご覧の皆様、私は現在ウナ・ヴォルタ王国跡に来ております。この景色をご覧ください。紫の霧に覆われてほとんど周りも見えない状態。如何に濃密な瘴気に冒されているかが伝わると思います』


 近年になって各地で出回ったというある映像は、そんな報告からスタートした。


『ウナ・ヴォルタは終焉の魔女と称される者によって滅ぼされた――おそらく世間ではそのように噂されていると思いますが、真実は異なります』


 瘴気汚染の酷い空間とは裏腹に、綺麗な白い神官服を身に纏う絶世の金髪美女。

 そのビジュアルもあって、動画を目にした者は瞬く間に彼女の語る話に引き込まれていった。


『かつてウナ・ヴォルタ王国を統治していた王は大層な野心家でした。その王は近隣諸国に飽き足らず魔族すらも攻め落とそうとしていました。しかし、その過ぎた野望を知った魔族が激怒し、人間を介して『魔族を滅ぼせる兵器』と称して禁呪を込めた魔導具を送り付け、王国内で炸裂させました。それが、ウナ・ヴォルタ壊滅の真相です』


 淡々と語られる女性の話に、各地で映像を目にしている者達がざわめき始める。

 何せ世間においてウナ・ヴォルタは『終焉の魔女に滅ぼされた』というのが定説だった。

 それを覆す内容ともなれば、興味を惹かれる者も多くなるというもの。


『いわば人間は魔族から制裁を受けた訳です。この事実は国際司法機関ディカステリオンの調査の結果、確定しているものとなります』


 国際司法機関ディカステリオンとは、ル・マリオンにおける最高の司法機関である。

 ここでの決定は絶対的なる力を持っており、本来であれば国ですら従いざるを得ない程の影響力を有している。

 故に、ディカステリオンの出した結果ともなれば、それは『絶対的な真実』である事を意味していた。


『しかし、ウナ・ヴォルタの周りの国々はその真実を伏せました。王による失態ともなれば、王族への不信を招く。また、魔族の仕業だと公表すれば魔族からのさらなる制裁が予想される。それらを恐れるが余り、魔女と言う存在に責任をかぶせてしまった……』


 それに関しては人々も頷ける話であった。王がやらかしたという話を聞けば、他の国々の王は大丈夫かと疑ってしまう。

 また魔族と言う存在は人々に広く知られた恐怖の対象であり、少しでも魔族の怒りを買うような真似はしたくないと思う者が大半。

 故に、得体の知れない魔女と言う存在に責任をかぶせたくなる気持ちも分かる――と、人々は思ってしまった。


『……ですが、真に恐れるべきこそはその『魔女』であったと、後に思い知る事になるでしょう』


 映像の中の神官は背を向けて奥の方へ歩き出す。


『私がここへやってきたのは、長年見放され放置され続けてきたこのウナ・ヴォルタを救うためです。これより、我が力で汚染された地を完全に浄化して見せましょう!』


 杖を高く掲げ、先端から眩いばかりの法力を解き放つ。


『アンチィナート。アプリーレ! 門扉多重開放……』


 彼女の頭上に法力がどんどん集まっていき数十メートルはあろうかという巨大な薄緑色の球体が出来上がる。

 うっすらと透けた法力を凝縮させた塊。それでもまだまだ足りないとばかりに、どんどん力が集まって肥大化していく。

 紫の濃い瘴気に覆われていた一帯が、癒しの法力の色に染められていくかのようだ。


『浄化!』


 巨大な球体が弾ける。爆発によって辺り一面を覆っていた瘴気が完全に消え失せ、青空に照らし出された荒野が映し出された。


『本番はここからです。偉大なる精霊の皆様方、どうか力をお貸しください』


 彼女が目を閉じつつ手を組んで祈ると、周りにポワポワと様々な色の光が点灯し、エレナの周りをぐるぐると回り始めた。

 一部の適正ある者達が契約を結ぶ事が出来るという上位存在・精霊だ。この場に出現したのは八つ。いずれも色が異なるため属性も別々である。

 発光が強いためか各々の姿は明確に確認できないが、このような存在は精霊以外に考えられない――と、視聴者は勝手に納得していく。


 茶色の精霊が地面スレスレを這うように飛ぶと、荒れた荒野の象徴とも言える黒味の無い灰色じみた土が、瞬く間にフワフワの黒ずんだ褐色の土へと変貌する。

 続けて緑色の精霊がその上を忙しく飛び回り、入れ替わるように青色の精霊が同じように動き、最後は白色の精霊が強い輝きを放つ。

 それだけの流れで、瞬く間に地面から幾本もの木々や草花が生えてくる。土壌を改良し、種を蒔いて水を与えて光で強く照らす事で一気に成長を促した。


『このように、精霊の方々のお力をお借りすれば浄化の後の再生も可能です。この地は我々が救います!』


 そう宣言すると共に、召喚された精霊達は散り散りに飛んで行った。




『――我が名はエレファルーナ・フォン・アザマンディアス。ミネルヴァ聖教の教皇ヴェーゼルの娘です』


 そして、唐突に始まる自己紹介。そこで口に出された名は、聞いている者達からすればとんでもない名前であった。

 ミネルヴァ聖教と言えば世界最大の宗教。その教皇の娘を名乗った。普通に考えれば、そのような事をすれば間違いなく処刑される。

 だが、エレファルーナを名乗った女性はその堂々たる態度を崩す事無く、さらに特大の爆弾となるであろう話を続けていく。


『現在、ヴェーゼルの下で我が名を名乗る者は偽者です。その証拠に、私は歴代教皇が受け継ぐ秘術『アンティナート』を有しています。これは先代から受け継いだ者にしか使えない一子相伝。視覚的に説明するのは難しいですが、先程見せた圧倒的な浄化の力はその一端です』


 彼女を包み込む法力が目に見えて濃い緑色のオーラとなって輝く。その力強さに風が巻き起こり、美しく長い金髪も逆立つ。


『私はこの力を以って、欲に溺れ道を踏み外した父を討ちます。そして、そのために利用され、今や父と同じく欲に溺れて道を踏み外した『偽の聖女』も討ちます。皆様も心当たりがあるでしょう。金払いの良い者ばかりを優遇する腐敗し切った教会、集会や治療をする度に過剰な料金を要求する教会関係者、そしてこのウナ・ヴォルタのように、浄化できるだけの力を持つ者がいるにもかかわらず全く動こうとしなかった現状……』


 見ている人に伝わりやすいように、身振り手振りを交えて現在におけるミネルヴァ聖教の問題点を洗い出していく。

 実際、この映像を見ている者達も「確かに……」と頷くような心当たりがいくつもあった。特に貧民への冷遇が酷いと感じていた。


『故に、私は本当の意味で人々の救済となる組織を作るため、第三勢力として『ミネルヴァ聖教』と戦います! このような言葉はあまり用いたくはありませんが、父様も偽者も首を洗って待っていなさい。私が直々に成敗しに行きますから』


 ビシィと画面に向かって指差しで決め、最後にもう一つ各地を騒がせる事になる爆弾を投下していく。


『そして、我が名の下にウナ・ヴォルタ王国跡を頂戴致します。今まで誰一人この地をどうにかしようとしてなかったのですから、人が再び住める地に戻した功労者である私が頂いても構いませんよね?』


 周りで結界を展開していた国々はあくまでも『自国を守るため』にそれを行っており、ウナ・ヴォルタをどうにかしようと動いた者はいない。

 ならばどうにかした自分が頂いても文句は無いハズだ――と、少々挑発的に土地の所有を宣言して見せた。



 ・・・・・



「あ、改めて映像を見ると、私かなり調子付いてるように見えませんか……? 」


 動画の主演だったエレナが両手で顔を覆いながら、収録された映像を改めて見返している。

 ちなみに撮影は元々戦場カメラマンだった竜一が当時の経験を活かしながら同行して撮影していた。

 そして、エレナに協力していた精霊達は、本来は竜一が契約している精霊達であった。


(エレナが使役してるように動いてくれとお願いしたんだよな……。精霊達からは「後でお返しを要求する」って言われたが、何を求められるんだろうか)


 この映像の筋書きはリチェルカーレによるもので、ウナ・ヴォルタを浄化しつつミネルヴァ聖教に喧嘩を売ろうというものだった。

 エレナも旅程でミネルヴァ聖教の本拠地であるレリジオーネを通る事は分かっていたし、その時に備えて戦う事を決めてはいたが宣戦布告は予想外。

 時には『挑発』も戦略の一つとなる。こうして煽っておく事で、後々における戦いをある程度コントロールしようという腹積もりである。


 撮影された映像は魔導具に収録され、エレナを信奉する信者達が全国へと拡散。

 届いたのが数か月後になった地域もあったが、高速な手段を用意された事もあって大体一週間くらいでかなりの広範囲に広まっていた。

 内容が内容なだけに、場所によっては映像の視聴を禁止し、見た者を処罰するような地区もあったという。

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