表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/494

037:戦場の友人に感謝を

 リチェルカーレの追撃を諦めた騎士団の視線が、この場に残された俺に集中する。

 俺は彼女についていかなかった。と言うのも、ここに残ってこいつらを倒すという目的があるからだ。

 正確には、リチェルカーレに与えられた『課題』とでも言うべきか――。



 俺は『召喚の可能性』に挑戦する。ここへ来るまでの時点で色々と分かっている事はあるが、まだ確認しなければならない事はある。

 実は詠唱の必要なんてなかった。実は同一の物を何回でも召喚出来る。実は何らかの形で俺の物だと宣言されていれば、所有していない物でも対象となる。

 それ以外にも、荒行の中で試みて分かった事がある。俺は、この機会をそれを試すための場としたのだ。相手は集団の方が都合がいいからな。


 俺はまず、空に向けて一発発砲する。銃口が上を向いていたためか、騎士団達の大半がつられて上空を見上げる。

 その合間に俺は前方に広がる騎士団を視界に収め、その集団の中にいくつものマーキングを点灯させるイメージを脳内で描く。

 そこへ、以前俺自身が自爆に用いた地雷を次々と召喚していく。果たして、何個くらい召喚出来るんだろうか。

 しばらく意識内で召喚を続けていると頭がぼーっとしてきた。おそらく、これくらいでやめておいた方が良いって事だろうな。


 そう、俺が試していたのは『複数個同時召喚』だ。同じ物を何回も召喚できるのみならず、それらを同時に召喚出来る事にも気が付いたのだ。

 これが成功すれば、俺は個人で対集団もこなせるという事になるし、多数の人達に強力な武器を用意する事だってできる。


「動くな! 今お前らが上を向いた瞬間に罠を仕掛けた! 命が惜しければじっとしていろ!」


 と、宣言した直後、集団の中からいくつもの爆発が巻き起こる。俺の発言を信用せず、無視して行軍を始めた結果だ。

 実際に罠が炸裂した事でようやく俺の発言を信用するに値すると感じたのか、騎士団の動きが止まる。

 だが、そうなれば奴らはただの的だ。俺は続けて集団掃討用の武器を召喚する。両手で抱えるずっしりとした重さ――ガトリングガンだ。

 これもまた戦地で実際に触れさせてもらい、発砲を体験した事で兵士達に「HAHAHA! もうコレはキミのものだな!」などと『俺の物』宣言されたものだった。


 身体強化の影響もあり、向こうで使っていた時よりも軽く感じる。操作方法は習っているので、幸い使用は問題ない。

 まさかこれを人に向けて撃つ時がくるとは思わなかったな。戦争の悲惨さがどうのこうの言っていた俺が率先して大量虐殺を行うとは皮肉な話だ。

 だが、それは向こうの世界における戦場カメラマンとしての俺の信条。こちらの世界で敵と相対する際に持ち出すものじゃないと割り切る。

 

 例え鎧を纏っていようが関係ない。元々からそれくらいの物は貫通してしまう威力があるし、今はさらに俺の闘気を上乗せしている。

 撃てば撃っただけ、最前列に居る兵士達や騎士達から順に崩れ落ちていく。それに恐れをなして下がる者達も居るが、動いた事でまだ地面に残っている地雷が作動する。

 逃げなければガトリングガンで蜂の巣にされ、逃げれば地雷の爆発に巻き込まれる。そんな状況を作り出している俺が言うのも何だが、もはや地獄絵図だな。


 しばらく撃ち続けていると、当然の事ながら弾切れとなってしまう。攻撃が止んだ事に安堵したのか、俺に向けて一斉に助けと許しを乞う声が響き始める。

 さすがに戦意が折れたか。幸い、任務に忠実な戦闘マシンとは化しておらず、人間としての恐怖心が残っていたようだ。むしろ、これでもまだ向かって来たら逆に怖いな。

 もう一度同じ物を召喚すれば再び攻撃を再開できるが、別に殲滅を命じられた訳でもないし、敵対しなくなればそれで戦闘終了にしてもいいだろう。

 俺はリチェルカーレと同じように軽く手を二回叩くのを合図とし、近隣一帯に召喚された地雷を回収する。


「罠は除去した。逃げるなら今のうちだぞ。だが、許しを乞うた振りをして罠を解除させ、そこを襲おうとか考えていたら……わかるな?」


 皆が凄い勢いで首をコクコクと振り始める。どうやら生き残った者達は本当に戦意を喪失しているようだ。

 蜘蛛の子を散らすようにして逃げ出す騎士団を見送った俺は、その場にどっかりと腰を下ろす。

 肉体的な疲労よりも精神的な疲労が凄い感じだ。何だか意識が朦朧とする。これが俗に言う『魔力を消費した状態』というやつなんだろうか。

 死んでも蘇る身体を与えられているとは言え、さすがに力が無限に使えるとかそんな都合の良い事にはなっていないな……。


 こんな集団を相手にして退ける事が出来たのは、間違いなく『戦場の友人達』のおかげだな。

 彼らがその場の軽いノリとは言え、体験させてくれた兵器の数々を「お前のものだ」と言ってくれたおかげで、俺は武器を召喚できている。

 召喚条件を緩いものにしてくれたミネルヴァ様にも感謝しないとだな。おかげで召喚が反則レベルの能力になった。

 だが、考えてみればリチェルカーレの魔術みたいなトンデモなものもあるし、高位の魔術の方がよっぽど反則レベルな気もする。

 

 ……少し休んだらリチェルカーレを追いかけるか。間違いなく、面白い事になってるハズだしな。



 ・・・・・



 首都シャイテルに至るまで、リチェルカーレを阻む者は誰も居なかった。

 後方から派手な音が響いてくるのを耳にした彼女は、早速竜一が暴れているのだろうと察し、その光景を想像して自然と笑みが浮かんできた。

 そろそろ自分も暴れたいなと思いつつ巨大な門に向けて歩を進める彼女だったが、あと百メートルも無いくらいまで近づいた所で制止の声がかかる。


「リッチの眷族だな! 首都は我ら魔導師団が護る! 精鋭の結界術師達による防壁が決して貴様を通さない!」


 外壁の上にずらりと並ぶローブ姿、ザッと百人くらいは居るだろうか。そんなにも大人数を乗せられる規模の外壁は、さすがに首都ならではだった。

 ツェントラールの首都と比べても規模が違う。さすがに覇道を行き、軍備に力を入れている国だけはあるなとリチェルカーレは感心した。


(むしろ周りの四国から狙われているスイフルこそ、これを上回る規模の外壁を構築して、いざという時の防衛に備えなければならないんだけどね。ティミッドは呑気なものだよ)


 首都シャイテルの外壁の前に、赤く透き通る魔力の壁が構築される。

 百人の魔導師達が協力する事で生み出した、国難レベルの敵からも首都を守り抜くための強固な防壁だ。

 リチェルカーレの見立てでは、おそらく上級魔族の攻撃も何度かは防げるレベル。しかし――


「やれやれ。こんなものが首都を守る防壁とは……なんて頼りないんだろうね」


 リチェルカーレは防壁の表面に軽く手を当てると、その部分をギュッと握り込むようにして手を閉じる。

 その直後、まるで何かに叩き割られたかのようにして、一瞬で防壁が砕け散った。

 ガラスが割れるような音と共に、砕け散った破片が降り注ぎ辺り一面が幻想的な光景となる。

 同時に、防壁の構築に関わっていた魔導師達が一斉に崩れ落ちる。


「な!? 何が、起きた……?」

「何ってちょっと力を入れただけじゃないか。まさかこんなに脆いとは思わなかったよ」


 リチェルカーレが結界に力を込めた事で、受け止められる許容量をオーバーして砕け散った。ただそれだけの事だ。

 だが、その力はあまりにも大きく、結界を構築していた魔導師達にまで受け止められなかった分の反動が来てしまったのだ。

 重厚な扉も、彼女が両手で「よっ」と押すだけで勢い良く開く。もちろん、それは身体強化しているが故の事。

 凄まじい勢いで扉が壁に叩きつけられた直後、鈍い音と共に幾人かの悲鳴が響き、扉の裏側から床を伝って赤い液体が流れてくる。

 どうやら扉の内側に控えていた兵士を巻き込んでしまったらしい。扉を閉じた時に広がるであろう凄惨な光景を想像したのか、近場に居た兵士達が口元を手で押さえている。

 普通は数人がかりで引っ張ってゆっくりと開けるためか、こんな形で勢い良く開いて扉に挟まれる事を全く考慮していなかったのだろう。


 そんな事にも一切目をくれず堂々と歩いて首都内へと立ち入ったリチェルカーレだが、周りの兵士達は委縮してしまって動けない。

 目の前の扉がどれ程の重さであり、どれだけの力を用いなければ動かせないのかを知っているため、そんな扉を勢い良く開けられるだけの身体強化を施された相手の恐ろしさが解るのだ。

 兵士達は一様に眼前の少女の力量を悟り、触らぬ神に祟りなしと言わんばかりにスルーを決め込むのだった。正直言って、彼らの判断は正しい。


「その姿……貴様がリッチの眷族の女だな! ここまで入り込んでくるとは、騎士団も魔導師団も何をやっている!?」


 しかし、そこでリチェルカーレの行く手を遮る者が現れた。城を出て、首都の出口にまでやってきていた総騎士団長ランガートだった。

 既に大剣を抜いており臨戦態勢だった彼は、アロガントから聞いていた特徴をもとにリチェルカーレを件の賊だと判断。

 例え見た目が少女であろうと、皇座に現れた少年のように人外の能力を持っていると判断し、最初から全力で仕掛ける事にした。

 大柄な体格からは想像できないスピードで飛び出し、瞬時にリチェルカーレの前までやってくると、上段から大剣を力任せに振り下ろす。


「その偉そうな態度、もしかして君が指揮官かい?」


 しかし、リチェルカーレは渾身の振り下ろしを片手で受け止める。


「何だと!? 俺の剣を、片手で……」


 ランガートには、先手を打って全力でかかりさえすればどうにか出来るという慢心や油断があった。

 手のひらと親指で挟み込まれた刃は、まるで万力に挟まれたかのようにびくともしない。

 ランガートは必死に全体重をかけて押し込んだり、逆に上へと持ち上げてみるが、全く効果が無い。

 リチェルカーレが魔術防壁を破った時と同じように拳を握り込むと、いとも容易く大剣の刃が抉り取られてしまった。


「ば、馬鹿な……。陛下より賜った剣が、こんな……」

「やれやれ。質問をしているというのに聞く耳持たずか。馬鹿なのかキミは」


 指を鳴らすと黒い円盤状のものが四つ出現し、それぞれランガートの両手両足首を飲み込んでしまう。

 中空に出現させた空間の穴だ。丁度手首足首を拘束するように収縮し、さらにそれを動かしてランガートを大の字状に磔にする。

 閉じられた空間はどんな強固な物質よりも揺るぎない。手首足首を締め付ける空間の穴より広い手足の先端部はもはや取り出せないと言ってもいいだろう。


「そぉい!」


 拳にそこそこの闘気を込めて、磔となり無防備となったランガートの腹部へと撃ち込んだ。傍から見れば渾身のボディストレートが撃ち込まれたように見えた事だろう。

 その一撃は強固な鎧をいとも容易く破壊し、衝撃も余す事無く身体へと伝わり、まるでサッカーボールを叩き込まれたゴールネットの如くたわむ。

 しかし、それでも勢いを殺し切る事は出来ず、ついには四肢の拘束を振り切って遥か彼方にまで飛んでいき、しばし後に遠方から豪快な破砕音が響いてきた。


「……おや、力加減を間違えたかな?」


 本人としては、軽く叩いてその後に色々と尋問でもするつもりだったが、最初からその計画は頓挫してしまった。

 竜一に対してさえ容赦なく手を下すリチェルカーレだ。敵である相手に対してならば、そこへさらに悪辣さが加わる事だろう。

 ランガートにとっては、この一発で終わった事が救いになった……のかもしれない。


「ふふ、どうやら手厚く歓迎してもらえるようだね」


 オモチャを失って少しがっかりしたものの、見据える先に幾人もの人影が立ちはだかるのを見て、リチェルカーレは笑みを浮かべた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ