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389:鳥型モンスターの襲撃

 俺達に向かって突撃した鳥のモンスターの大軍――。

 最初、森から出てくるのを目撃した時はよくある一般的なモンスターだと思っていた。いたのだが……


「ちょっと! 何よこれ! さすがにデカ過ぎるんじゃないの!?」


 そう、デカいのだ。ハルが驚愕しているが、俺達を護るバリアに突き刺さっている鳥一体のサイズがとてつもない。

 クチバシだけで何十メートル、全長に至っては何百メートルもありそうだ。ってか、よくこんな巨大な質量を止められたもんだ。

 おそらくコイツと同じ鳥と思われる個体が後方にある岩山に突き刺さっている事からしても、その威力はとてつもない。


 当の鳥達は、岩山を抉る勢いで突き刺さったのに何事も無かったかのように首を引っこ抜いて一斉にこちらを見据えてくる。

 この時点でようやく鳥の姿の全容を把握できた。目の前に突き刺さっている個体はドアップ過ぎて姿を把握しづらかったからな……。

 造形としては隼を思わせるフォルムだが、ところどころが禍々しく異形化しており、本来の隼と比べ攻撃特化のためかクチバシが肥大化している。


 おいおいおい、ちょっと待てよ……。鳥の大きさがコレって事は、あの森は……。

 俺はある事に気付いてしまった。さっき、森から大量の鳥が飛び出してきたが、その鳥とはこの巨大鳥達だった。

 しかし、遠目で見ていた際は森の木々と比べてこの鳥の群れは非常に小さく見えた。それはつまり――


「もしかして、あの遠くに見えてる森ってとてつもなくデカい?」

「えぇ、少なくとも数千メートルから万に達するくらいの巨木で形成された規格外の森よ」

「じゃあ、その森の背後にそびえる山脈は……」

「お察しと言う事ね。未開地域には今までの常識は通じないと思いなさい」


 恐るべし、未開地域。ル・マリオンにおける山脈は火星並か。木々の大きさでそれなら、山脈は間違いなくオリンポス山クラスはあるぞ。

 そもそも木々が山と比較して化け物過ぎる。宇宙クラスの山と比べて数分の一から半分くらいの高さってとてつもない。


「あくまでもここは未開地域の外縁部に過ぎないよ。本当の未開地域は『あの先』だ。さすがに今回はそこまで行かないけどね」


 本当の未開地域とやらへ行くまでの外縁部が『コレ』とは、ハードルの高さを感じさせるな……。


「そ、それよりどうすんのよ! あのデカい鳥達、こっちを睨んでるけど……」

「倒すしかないだろう。どう見ても和解できるような相手じゃない」

「これくらいサクッと倒せなきゃ未開地域の攻略は不可能だ。だから、ここで倒せるようになれ」


 リチェルカーレよ、無茶振りしてくれるなぁ。けど、やるしかないか。


「せっかくだし、この突き刺さっている奴に挑んでみるか」

「あぁ、そいつなら既に死んでるよ」


 リチェルカーレがコンッとバリアを小突くと、巨大な鳥がバリアから抜け落ちてそのまま眼下へと墜落していく。

 いつの間に……と思ったが、バリアに突き刺さってきた時点でフレースヴェルグがカウンターで魔力を叩き込んでいたらしい。

 さすが神獣。アレが相手にならないか。如何に巨体であろうと、体内を魔力でズタズタにされるのは耐えられなかったか。


『『『『『ギョエェェェェェェ~~~~~ッ!!!!!』』』』』


 一羽の墜落を合図とするかのように、身構えていた鳥達が一斉に鳴き声をあげて動き出した。

 やはりモンスターらしい悍ましい声だな。声だけでバリアを震わせている事から察するに、声自体に破壊力がありそうだ。


「みなさん、すいません。ちょっと、先程無様に敗北した鬱憤を晴らさせてもらってもよろしいでしょうか」


 レミアは既にシルヴァリアスを着装しており、全身から目に見える程の力を解き放っていた。

 両手で剣を高く掲げると、先端から銀色の輝きが立ち昇る。そして、それをそのまま背面へと降ろし、一気に振りかぶった。

 カッと視界を焼き尽くすかのような眩い光と共に、空中に居る俺達を激しく揺らす程の爆風が巻き起こる。


 戦地で経験した爆撃にも勝る激しい轟音が山脈に響き渡る。眩い光の中で如何ほどの破壊を巻き起こしているかを容易に想像させる。

 俺が目を開いた時には静寂が訪れており、眼下の山脈はその様相を大きく変化させていた。山脈を割るようにして、巨大な谷が遥か向こうにまで形成されている。

 もしかして、さっきの一振りでコレをやったのか? 四方八方が山脈ばかりの地帯だったから良かったが、人里に近い場所だったらヤバ過ぎるな。


 ――なお、この一撃で生まれた爪痕が後の世に『シルヴァリア峡谷』と呼ばれるようになるのだが、それはまた別の話。



「これは負けていられませんね。私も屈辱の敗北を喫しておりますので、憂さ晴らしに便乗させて頂きましょうか」


 アンティナートを開放したエレナが、右手に濃密な法力を纏わせる。本来は透けるような薄い緑の力なのだが、彼女の手に纏われた法力はもはや深緑。

 如何に凄まじい力が凝縮されているかが見ただけでも分かる。それを左から右へ無造作に振るうと、法力がビームの如く横薙ぎに放たれ、こちらに向けて飛んでくる鳥の群れを次々と撃ち落としていく。

 あの巨大な鳥を当たっただけで爆散させる程の濃密な力とか恐ろしいにも程がある。レミアとエレナの二人だけで鳥の群れがごっそり削られたぞ。


 しかし、まだまだ残っている鳥が戦意を失う事無く突撃してくる……が、その動きが途中で止まる。


「おっと。そうはさせないよ。たまにはアタシもやる事やらないとね」


 リチェルカーレが巨大なクチバシの先端を片手で押さえて突進を止めていた。同時にベキッと何かが壊れるような音が響く。

 魔力で強化した握力で指をクチバシに喰い込ませたのか。その後、彼女は力任せに鳥を振り回し、鳥の質量そのものを武器にして他の鳥を次々に薙ぎ払う。

 そして最後は空の彼方へと放る……その様はまるでジャイアントスイングだ。しかし、山を越えて飛んでいくと思われた鳥は、なぜか見えない壁にぶつかって落ちていく。


「高くした山だけでは障壁として心許ないわ。だから、山からさらに上は魔力で障壁を張ってあるのよ」


 そりゃあそうか。いくら山が高かろうと、空をガラ空きにしてたら普通に飛び越えられてしまってもおかしくないからな。

 あんな未開地域の怪物、一匹でも入ってきたら大騒ぎだろうしな。さすがにそれくらい対策はしてあるか。

 レジーナさんは俺が言葉にしなくても、その時の表情や視線などから何を考えているか察して先んじて答えてくれる。


「貴方達も一羽くらい落としてみせなさい。おんぶにだっこではこの先厳しいわよ」


 痛い所を突いてくれる。なら次に迫ってきている個体を討ち取って――と思いきや、その個体の頭部が爆散した。


「いくら巨大であろうとも、頭部を砕かれれば厳しいでしょう」


 セリンの仕業か。彼女は大規模な破壊よりも暗殺や奇襲と言った戦い方の方が得意だ。最小限の力で最大限の成果を得る。

 おそらくだが魔力を込めた武器をあの鳥に投擲したのだろう。とは言え、あの巨大な鳥の質量を考えたら、頭部を砕くにも相当量の力を込めなきゃいけないんだろうな。

 俺にあんな事が出来るのか? 現時点で持てる力を駆使して、出来る事を考えないとな……。


「ごめんキオン、力を貸して。私達は二人で一人、一緒にあの大きいのを落とすわよ!」

『キョー!』


 あっちのペアもやる気だ。シャリテさんとの戦いでパワーアップしたみたいだし、ノリにノってそうだな。

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