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381:姉弟子と妹弟子

 そこは『湖畔の別荘』とでも言うべき空間だった。

 大きな湖の近くに木造の家屋が建っており、周りには草原と森林が広がっている。


「ここは、まさか……」


 アルヴィース・グリームニルにとって、そこは良く見覚えのある風景だった。

 と言うのも、彼女が賢者ローゼステリアの弟子として日々修行をしつつ共同生活していたのがこの家だった。

 共同生活であるため、当然師匠であるローゼステリアは勿論、他の弟子達もその家で暮らしていた。


「懐かしいわね。まだ、皆が共に暮らしていたあの頃――」

「――素晴らしき日々でした。叶うなら、またあの日々のように皆で過ごしたいものです」


 アルヴィの背後から闇が染み出すようにして出現するのはフォル・エンデット。

 彼女もまた賢者ローゼステリアの弟子の一人であるが、アルヴィが序列の三であるのに対してフォルは序列の二である。

 序列が必ずしも強さの順ではないが、少なくとも序列一と序列二は不動とも言える程にその強さを維持している。


「姉さん……」


 郷愁を感じさせるフォルの寂しげな表情に、思わずしんみりしてしまうアルヴィ。

 アルヴィもまた、弟子達と共に過ごした日々を素晴らしき思っており、叶うならばまたあの日々を……と思っていた。

 しかし、時の流れは人を変える。各々巣立ち、それぞれの道を行き始める。当然、道の交わらぬ者も居る。


「アルヴィ。貴方に姉様に挑む資格があるのかを試して差し上げましょう」


 フォルの言う『姉様』とは、彼女にとって唯一自身より上の序列であるリチェルカーレの事を示している。

 それ以外の者達は一番上の姉となるリチェルカーレの事は『大姐(ダージェ)』と呼び、それ以外の姉や兄に関しては各々好きなように呼んでいる。


「あの、私そもそも大姐に挑むつもりは――!!」


 言葉を否定しようとした瞬間、背後に殺気。自信の背中を貫こうとする貫手を、まさにその貫手の部分だけ障壁を展開して防ぐ。

 アルヴィの正面にはフォル・エンデットがじっと立ったままでいる。にもかかわらず、背後から攻撃が来た。

 と思いきや、アルヴィの足元から伸びあがるようにして喉元を狙った突きが放たれる。身を逸らしてそれをかわすと同時、突いてきた腕をつかみそのまま背後に向けて振り回す。


 振り回された人物と、背後から新たに奇襲を仕掛けようとしていた人物が衝突し、霧散するようにしてその姿を消す。

 その直後、さらなる人影が中空に複数人出現し、下に居るアルヴィに向けて魔力砲撃が放たれる。

 直撃するかと思われたその瞬間、砲撃を受け止めるかのように黒い穴が開き、その中へと砲撃を吸い込んでいく。


 吸い込まれた砲撃は、中で転回でもしてきたかの如く放たれ、砲撃を放ってきた当人達に返っていく。

 それでもさらなる別の者達がアルヴィを仕留めようと襲い掛かってくる。絶え間ない襲撃を、アルヴィは順次処理する。

 実は一手一手がまともに受ければ絶命を免れない必殺の一撃であるが、アルヴィに動揺は無い。


「……相変わらず話を聞かない姉ですね。茶番はこのくらいにしましょう」


 今度は先程の比にならない程の人数が空中に姿を現す。その姿はいずれもフォル・エンデットそのもの。

 彼女は空間内に自身の分身とも言える分体を無数に出現させる事が出来る。つまり、今までアルヴィに攻撃を仕掛けていた者達は全てフォルだった。

 アルヴィの方も当然フォルの能力を把握している。だからこそ『この程度の事』など、自分が舐められているようにしか感じなかった。


 自身を包むように濃密な魔力を発現させると、そこから四方八方に向けて魔力の矢を無数に生み出す。

 取り囲むように浮遊しているフォル・エンデット達に次々と命中し、その数を減らしていく。

 アルヴィが茶番と言った通り、放たれた攻撃を避けもせず素直に受け、攻撃を受けた個体の姿を消していくフォル。


 まるでゲーム感覚。フォルの実力ならば、本気を出せば初手でいきなりアルヴィを殺してしまう事も出来る。

 だが、あくまでもこれは妹弟子との戯れに過ぎない。攻防の過程でダメージくらいは与えるつもりだが、殺す気は微塵もない。


「良いのですか? 終わりにしてしまっても」


 再びアルヴィの前に姿を現すと、小さな闇の玉をその場に残してまたも姿を消す。

 アルヴィは瞬時に察する。見た目とは裏腹に、これはヤバい――


「これはかつて、姉様にも使ったものです。妹よ、貴方も闇に呑まれなさい」


 一気に闇が広がり全てを呑み込もうとする。広がる闇に対して障壁を展開して抗おうとするが、闇の勢いの方が強い。

 闇は瞬く間に障壁にヒビを入れ、そのまま内側のアルヴィ諸共に飲み込んでいく……。



 ◆



 はぁ、はぁ。あ、危なかったー……。


 私はすんでの所で開いた別空間の中へ逃げ込む事に成功した。もちろん、闇の侵入を防ぐために出入り口は閉じた。

 とは言え、ここからどうすればいいのか。領域内に私が居ない事に気付けば、姉さんは別空間であろうと間違いなく追ってくる。

 どうにか付け入る隙は無いかと思い、閉じた出入り口を再び開き――


 ピシュン!


 その瞬間、穴の外から私を狙い打った魔力砲撃が飛んできた。あっぶな……。

 とっさに回避したけど右頬にかすってしまったからヒリヒリするわ。

 今度は少し離れた場所、かつ私の方向を向いていない形で空間の出入り口を開いてみる。


 すると、同じように砲撃が飛んできた。今度は複数個の穴を開けてみる。

 分かっているとばかり、全ての穴から砲撃が飛んでくる。何処からも私を出すつもりはないみたいね。

 穴を開く個数をいくつに増やしても結果は変わらない。姉さんは穴一つ逃さず全てを撃ってくる。


 あれ? これって、もしかしてやらかしてしまったのでは……?

 こんな風にずっと出口を見張られてたら、私は永遠に出られないじゃない。

 もし出るのならば、蜂の巣になる覚悟をしなければならない。


 ……さすがにそれは嫌すぎるわ。でも、姉さんの事だから私が動かない限りいつまでも待ち続けそうだからなぁ。


 そうだ。元の場所へと戻ろうとするから姉さんに狙撃される訳だし、いっその事違う場所へ行けば良いのよ。

 ここからさらなる別の空間を開いて、そこを経由して何とか姉さんに迫る道筋を見つける――それで行くしかない。

 そうと決まれば、早速この空間を斬り裂いて別の空間へと繋がる入り口を……


 ジジッ、ジジジジジ――


 あれ? なんか変な音がする。なんか斬った箇所が細かく振動――違う! 空間全体がブレ始めてる!

 もしかして斬ってはいけない所を斬ってしまった感じ? あぁ、そう言えば空間の中で空間を斬るのってぶっつけ本番だった。

 事件に試しておくんだったな。これ、もう私にもどうなるか全く予想が付かないわ。


『アルヴィ! 貴方、一体何をやらかしたのです……? 私の領域が変に歪んで――あぁっ! そんな、私自身にまで影響が……』


 空間の向こうから姉さんの焦った声が聞こえてきた。『私自身にまで影響が』って事は、もしかして私が初めて姉さんにまともなダメージを与えた?

 とは言え、なんか姉さんの領域までとんでもない事になってるっぽいし、私がやらかしたのは間違いなさそう。これは後でお仕置きされる事間違いなしだわ。

 あー、戻りたくないな……。でも、この状況もどうしようもないし……ええい、ままよ! もうどうにでもなれ!

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