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380:精霊との融合

「(……一体何者なの、あの子って)」


 シルファリアはルーが杖を構えた瞬間に嫌な予感がして、砲撃の範囲から逃れる事が出来ていた。

 しかし、砲撃によって削られた自身の領域の有様を見てさすがに驚愕せざるを得なかった。

 自身も瞬間的に高火力を叩き出す事が出来るが、ヴェルンカストと融合したルーはそれ以上だった。


「(殺されるのを覚悟しなければならないのは、私の方かもしれないわね)」


 ヴェルンカストと融合したルーは、その視界に魔力が渦巻くのを捉えていた。

 自身を取り囲むように、いくつもの魔力溜まりが凝縮して力を高めていくのが分かる。


「(な、なにこれ……?)」

『(これは奴の攻撃だ。先程、いきなり目の前で爆発した攻撃を受けたであろう。その予兆だ)』


 現在のルーは魔力の動きを目で捉える事が出来るようになっており、さらには一瞬のうちに様々な思考を巡らせる事も出来た。

 故に、通常では間を置かずに炸裂するシルファリアの攻撃も、スローモーションの如く動いているように感じられる。


「(どうすればいいの!?)」

『(発動した後に障壁で防ぐのも良いが、そうだな……。ここは奴を驚かせてやろう)』


 ルーの周りで魔力が弾けようとした瞬間、それを覆うようにして闇が現れ、全ての魔力を喰いつくしてしまった。


(嘘でしょう? 発動前に対処されるなんて……)


 シルファリアからすれば、それはあまりにも想定外の出来事だった。

 ヴェルンカストの時のようにギリギリ障壁で防がれるかもしれないとは想定していたが、発動そのものを潰されたのは脅威だ。

 それはつまり、魔術を発動する事自体を封じられたに等しい。以降、同じように対処されてしまう――ハズだった。


「だったら、こういうのはどうかしら?」


 シルファリアは再びルーの周りにいくつもの魔力溜まりを作るが、ルーはそれらを先程と同じように処理する。

 しかし、足元に違和感。彼女が気付かぬ間に氷の魔術が構築されており、スネ辺りまでが凍り付いた状態になっていた。

 その事に気を取られてしまい、続くシルファリアの魔術の発動を許してしまう事になった。


(いくら大きな力とは言え、あの子はまだ手にしたばかりで使い慣れていない……。その差を経験で埋めるわ)


 彼女の策とは、相手の思考が追い付かないレベルでの高速かつ連続での魔術発動だった。

 ルーが魔力溜まりを認識して対処する頃には、既に足元を伝っていく氷の魔術を発動させている。

 相手がそれに気付いた頃には、もう次の魔術を用意……と、策自体は実に単純である。


 ルーが自身の足元が凍った事に驚いている頃、シルファリアの背後に無数の光の弾が出現し、その弾を起点にして光のビームが放たれる。

 さすがにこの状況から魔術を闇で包み込んで消すという芸当は不可能なため、止む無く障壁を展開して防ごうとするが――


「ぐっ、うぅっ……。防いでいるはずなのに、焼けるような熱さが……」

『光と闇は互いに弱点だからな。闇の権化たる我々にとっては、照射されるだけで害だ』

「だったら、シルファリアさんも闇が苦手という事なのかな?」

『いや、奴はあくまでも様々な属性を使いこなせる術者でしかない。特定の属性に偏っている訳では無いのだ』

「足元の氷も広がってきているし、このままじゃやられちゃうよ」


 光のビームが豪雨のように叩き付けられる中、ルーは障壁を張る事に精一杯で他の事にまで意識が回らなかった。

 シルファリアの方もコレで相手を固めて消耗を強いる事を考えており、障壁を張り続けるならいつまでも撃ち続けるつもりでいた。

 この状況から氷を何とかして砲撃を何とかして反撃に出る――そんな方策が、ルーには思い付かなかった。


『(賭けになるが、一つだけ手段がある……)』

「(この状況をどうにか出来るなら、どんな事でもするよ)」

『(それでこそ主だ。では、試してみるとしよう)』


 砲撃を続けていたシルファリアだったが、突然相手の障壁が消えて攻撃が通った事に驚く。


「(まさか、もう障壁を維持できなく……いえ、これは!)」


 ルーの居た場所から闇が噴出する。その闇は瞬く間に広がっていき、シルファリアは逃げる間もなく闇に飲み込まれてしまう。

 障壁を展開していたため存在そのものを喰われる事は無かったが、果てしなく続く闇に捕らわれた状態となる。

 前後左右、そして上下方向にどれだけ移動してもこの闇の中からは逃れられない。一体どれほどの範囲に広がったというのか。


 やがてビシッビシッと何かがヒビ割れるような音が響き、そこでようやくシルファリアは察する。

 空間の中を闇で埋め尽くす事によって許容量オーバーを狙い、この空間そのものを破壊しようとしているのだと。

 溢れる闇は空間そのものに加えて、障壁を展開しているシルファリアにも少なからずの負荷を与えている。


「(一体どれだけの闇を放出できるというの……? ヴェルンカストでもこんな芸当は……)」


 このままではシルファリアの領域が崩壊する。それだけではない、この闇が実在の世界にも溢れ出してしまう。

 領域を崩壊させる程の闇が溢れれば、世界は瞬く間に闇に呑まれてしまうだろう。もちろん、その影響は空が暗くなる程度では済まない。

 視界を確保するのも難しい程の深闇に包まれ、世界に生きる命たちも闇に呑まれて消えてしまう。


「(どうやらやり過ぎてしまったみたいね。変に追い込んだ結果、後先考えない暴走を招いてしまった)」


 シルファリアは、追い詰められたルーが極限状況下でその力を暴走させたと推測した。

 これ以上苦しめられるくらいならもうどうなってもいい。とにかく解放されたいという想いが故にこうなった。

 完全に制御を失っている。ならばこそ、自身が命を賭けてでも闇が空間を砕くのを止めなければならない。

 

 そう決意すると同時、闇の中心に居たハズのルーの気配が解けるようにして消失してしまう。

 闇の力を取り込み制御していた術者が消失した事で、解き放たれた闇の力は一層力を増して激しく荒れ狂う。


「(あぁ、もう手遅れのようね……。これほどの闇を一気に放出なんてしたら人間の身体が耐えられるはずがない!)」


 この現象は精霊術師においてたまに起きている事で、過剰に精霊の力を使おうとする事で人間の肉体が耐えられなくなってしまう。

 常識的な範囲で言えば身体から血が噴き出したりする程度で済むが、行使する力量によっては部位消失、最悪は自身の存在そのものが消滅してしまう。

 ルーから解き放たれるこのとてつもない力を考えれば、存在そのものの消失に関しては納得がいくものだった。


「(ごめんなさい、ルーちゃん。でも、ル・マリオンは全力で護らせてもらうわ!)」


 元々ルーを殺すつもりなど無かったシルファリアにとっては、追い込み過ぎて自爆まで追いやってしまった事は後悔の極みだった。

 しかし、その自爆による影響をル・マリオンにまで及ぼす訳にはいかない。障壁を何とか維持出来るだけの力を残し、後は己の領域を補強するために力を注ぐ。

 領域は展開さえしてしまえば維持するのに魔力は必要ないが、領域の破損を修復するには多量の魔力消費を強いられる。


「(ぐ、ぐうぅぅぅぅぅぅぅぅ……)」


 空間に生じた亀裂が少しずつ掻き消えていったかと思うと、すぐさま闇が押し返してヒビ割れを拡大させていく。

 そんな修繕と破壊を何度も何度も繰り返したが、術師を失ってなお広がり続ける闇は留まる所を知らない。

 やがてはシルファリアの魔力も底をつき、空間のヒビ割れは空間そのものを覆い尽くす程に広がり、まさに一気に砕け散る寸前――


「(あぁ、もう駄目。ごめんなさい、私は世界を護れない……)」


 シルファリアが地面に倒れ伏して意識を失うと同時、広がり続けていたハズの闇が逆再生されるかの如く一点に収束していく。

 やがてそれは数メートルほどの球体を形成し、その球体が卵の如く割れ、中から消失したハズのルーが姿を現した。


『ふむ、賭けは成功だな。主程の精霊術師であれば、己の身体を属性そのものに変える事も、そこから元に戻る事も自由自在だろうと予想はしていたが』

「私自身が闇になる……って、なんか不思議な感覚だったね……」


 ルーは軽く言っているが、本来人間が属性そのもの――いわば自然現象に変化してしまうなど、例え精霊の力を借りた所であり得ない話であった。

 その上、自然現象に変化した状態からまた人間を構築して元に戻るなど、同じ精霊術師の価値観からしても非常識にも程がある話だった。

 そんな御業を容易くこなし、シルファリアを下したルー。領域を作り出した術者が気を失ったため、砕け散る寸前だった空間は一気に砕け散る――


「シルファリアさん、ごめんなさい。こんな方法じゃないと、どうしようもなくて……」

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