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378:久々にやろうか

 ……くっ、何がどうなってるんだ?


 周りを見回すと、倒れ伏す仲間の姿や疲労困憊の仲間の姿が見える。

 正直言って俺やハルはまだいい。自分達でもまだ未熟だと分かり切ってるから、皆の中で真っ先に倒れてもおかしくない。

 だが、化け物じみたレミアやエレナまでもが息を切らして膝を付いてしまっているのは一体どういう事態なんだよ。


「王国護衛隊……これほどまでとは……」

「何を驚く必要がありますか。先代とは言え『女王』の護衛ですよ? その意味が解らないという事は無いでしょうに」


 それは言葉を口にしたレミアに対して投げかけられた言葉であったが、俺は相手の言っている事が解ってしまった。

 そもそもエルフの女王という存在は、ファーミンで見てただけでもとんでもない力の持ち主だ。特に当代は全エルフを完全に支配するレベルの力を持っている。

 先代の力が一体どれ程なのかは知らないが、少なくとも近しくはあるだろう。そんな者を護衛すると言う事は、つまり――。



 ・・・・・



「ワガママを聞いてくれて感謝してるわ、リチェルカーレ」

「いやいや、こちらこそワガママを言ってしまった感じで申し訳ないね」


 光り輝く深き森――彼方まで広がるこの森に存在するのは、レジーナとリチェルカーレただ二人のみ。

 ここはレジーナが展開した領域であり、リチェルカーレのみを対象として招き入れた形だ。

 領域は展開する者の心象が反映されるのだが、レジーナはエルフの故郷たる森の隆盛を常に考えているため、光り輝く森が形となった。


「そろそろ貴方に成長したわたくしを見て欲しかった気持ちもあるし、出向く理由が欲しかったところよ」

「同胞たるダークエルフ達を手に掛けた――という理由は都合が良かったかい?」

「えぇ。犠牲になった民のため、その敵を討つべく自ら出向く女王……構図としては悪くないわね」


 リチェルカーレがダークエルフに頼んでいた伝言とは、まさにこの流れに関わる。

 ヴァストークの代表者に、本国の女王に「侵略者により多数の同胞達が犠牲になった」という形で報告するように促していたのだ。

 その際に預けていた手紙も空間魔術で受け取ってもらった。その内容は『久々にやろうか』というシンプルなものだった。


「手紙を預かっていた者達も、まさか内容がたった一言……しかも喧嘩を売る内容だとは想像もしていない事でしょうね」

「クールぶっているけど結構血気盛んな所があるからね、キミは。あぁやって書けば絶対に乗ると思ってたよ」

「でも、同胞を手に掛けられた事に対して腹立たしく感じるのも事実よ。わたくしは民たる全てのエルフを等しく愛しているわ」

「ならその怒りも乗せてくるといい。それくらいでないと、アタシという壁はぶち抜けないと思え」


 レジーナの両目が発光すると同時、彼女の後方におびただしい数の光の渦が構築される。

 間髪入れず、その渦からリチェルカーレを射抜く光の奔流が撃ち出された。

 その一発一発が森の木々を貫き灰燼と帰す程の威力。それが絶え間なく一人に向けられている。


「皮肉なものね。森を愛し森で構成された世界を生み出したこのわたくしが、自らその森を破壊していくなんて」

「全くだ。キミ達は森を焼かれる側だろうに……」


 光の砲撃の中、障壁で身を守りながらリチェルカーレは対抗すべく魔術を構築する。

 地面に右手を付いて展開するのは炎の魔術。放射状に広がる炎がレジーナの光を呑み込み森を焼き尽していく。


「不思議ね。自分で手に掛ける時は何も思わなかったのに、他人にされると物凄く腹立たしいわ」


 レジーナは当然のように障壁で身を護る。同時に広がった炎を追いかけるようにして凍てつく冷気が広がっていく。

 さすがに『炎が凍る』と言った現象は起きないが、冷気が燃えた木々と焦げた大地を包み込み、瞬く間に凍らせてしまう。

 レジーナの領域は輝く森から燃える森、そして凍てついた森と次々にその様相を変えていく……。


「おっと、それを利用させてもらおうか」

「させないわ」


 二人の周りの氷が吹き荒ぶ暴風によって細かく破砕され、互いに向けた風によって勢い良く撃ち出される。

 横殴りの猛烈な風に乗って槍と化した数えきれない程の氷の塊が、まるでガトリングガンで乱射したかの如く飛び交う。

 それらを完全に防御しつつ攻撃を続ける両者。ある程度互いの攻撃が行き交った所で、二人は手を止めた。


「……うん、基本は出来てるみたいだね。全力で攻撃しつつ全力の防御を崩さない。これじゃ埒が明かないね」

「あら。だったらどうするつもりかしら? ちなみにわたくしは――」


 レジーナの背後で魔力が弾け、その勢いで飛び出したレジーナは風でさらに加速し、己が身に光を纏って一筋の閃となる。

 傍で誰かが見ていたとするならば、レジーナが爆発音と共に消えたように見えただろう。その刹那、ガキィンッと金属の打ち合う音が響く。

 一瞬にして迫ったレジーナが、いつの間にか顕現していた細身の剣でリチェルカーレの左頬を擦るかのように刺突を放っていた。


 しかし、その刺突はそっと添えられた刀によってわずかに外側へとずらされ、頬肉を切り裂くには至らなかった。

 リチェルカーレもまた、武器を顕現してレジーナの攻撃を見切っていた。そして、同時に――


「残念、ガラ空きだ」

「――!?」


 レジーナが気付くも時既に遅し、彼女の突撃に合わせるかのように右拳が腹部を打ち抜いていた。

 先程の光の如き突撃とは逆に、レジーナは物凄い勢いでリチェルカーレから離される事となってしまった。

 まともに息も出来なくなる程の痛打。そして、飛ばされる勢いの強さで彼女自身が弾となり、行く手を塞ぐ障害物を次々と薙ぎ倒していく。


 不幸中の幸いは、弾き飛ばされた瞬間に再度障壁を展開する事が出来た事だ。それにより、最初の痛打以降はダメージが薄い。

 しかし、飛ばされる勢いが強くてそこからなかなか抜け出せず、結局は勢いが死ぬまでレジーナは飛ばされる事になってしまった。

 純白のドレスは泥と血に汚れ、身体のあちこちには傷が生じている。それでもなお、彼女は美しさを失わない。


「……戦士だねぇ。そっちの方がキミらしいよ」

「誉め言葉として受け取っておくわ。でもわたくしはエルフの象徴でもあるの。だから」


 立ち上がったレジーナは一瞬にして己の身体を治療し、ドレスの汚れも取り去って元の状態へと戻る。


「例え傷付き倒れても、女王たる事を崩さない……それがわたくしの意地よ」

「見事。これは合格を出さざるを得ないね」

「貴方に一手も入れていないのが心残りではあるわね。疲れたわ」


 そう言ってレジーナは瞬く間にイスとお茶の用意された机を空間から取り出し、休憩を始めてしまった。

 リチェルカーレはそれを背後から見守りつつ、先程のレジーナの動きを頭の中で振り返る。


 レジーナが攻撃を受けてしまった要因としては至極単純。ヒットアンドアウェイが出来ていなかったからである。

 例え攻撃が当たろうが外れようが、その結果に対していちいち反応を見せる間もなく、一旦その場から退いておくべきだった。

 戦闘に長けた相手にとっては、自身へ接近してくると言う事はカウンターを叩き込むチャンスでしかない。


「おや……?」


 リチェルカーレに背を向けてしまっているが故にレジーナは気付かない。

 あの攻防から少し遅れて、リチェルカーレの左頬が裂けて血が滴り落ちてきた。

 レジーナの攻撃は逸らされていたが、同時に届いてもいたのだ。


「……なんだ、一手入れてるじゃないか。やるね」

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