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033:宣戦布告

 言わずもがな、武術大会に攻め入った『死者の王と眷属』は俺達の事だ。リチェルカーレは王を主犯とし、自分達はあくまでもその眷属として動くという計画を立てた。

 何処の馬の骨とも知れぬ冒険者が行動を起こすよりも、世界的に知られる上位ランクのモンスターが攻めてきた方がインパクトも強いと判断しての事だった。

 事実、王が会場に姿を現した瞬間、一瞬にしてその場の空気を変える事に成功している。登場の仕方も、わざわざ凝ったものにしたしな……。


 神官の攻撃を受けた時はヒヤッとしたが、ダメージを負うどころかツヤツヤになっていて驚いた。

 リチェルカーレによると、王は少々特殊な経緯を経てリッチと化した存在であり、光に関して耐性があるどころか、むしろ扱いが得意ですらあるらしい。

 王が綺麗になったのも、王にとって光とは回復魔法をかけられているに等しく、その影響で長き時を経てくすんだ骨も綺麗になったとの事。


『まずは一人。次は誰がかかってくるのかね? それとも、我が相手では恐ろしいか? ならば――』


 そうこうしている間に俺達の出番が来たようなので、王に召喚された体を装ってリチェルカーレの魔術で転移する。

 もちろん、王の眷族っぽさを出すため表情を『操られて意思が感じられない』ように見せる事も忘れない。ちょっとした幻術で顔の部分に細工を施した。


『――我が眷属がお相手する事としよう。少年少女ならば、君達もやりやすいだろう』


 俺達の出現と同時、まるで大手寿司チェーンの社長みたく両手を広げ、低めの通る声で恐怖を煽るように言葉を紡ぐ王……それにしてもこのリッチ、ノリノリである。

 リチェルカーレからこの計画を提案された時も一つ返事で承諾していたし、綿密な打ち合わせもしていないのに堂に入った演技っぷりを披露している。

 もしかしてこういうノリが好きなのだろうか。あるいは、王と呼ばれるだけあって尊大な振る舞いに慣れているのだろうか。敵役としての存在感は充分だ。



 ・・・・・



 荒行の成果もあり、俺はわざと敵に斬られて死ぬ事でインパクトを出し、眷属の恐ろしさを演出する事に成功した。

 見た目は恐ろしい大男のハズなのに、ドタドタと大剣を持って走ってくる姿が滑稽に思えてしまったのだ。なんとわかりやすい事か。

 自分はこれからアレで真っ二つにされて死ぬんだなぁとのんびり考える余裕すらあった。いやぁ、壊れてるわ……自分。


 続けてリチェルカーレが格の違いを思い知らせるべく攻撃を仕掛けた……が、威力が半端ない。あんな小さな火の弾一発でここまでの破壊を巻き起こすとは。

 この攻撃で多数の死傷者が出ただろうが、こんな腐った街だ。俺からすれば、別に誰が何人どうなろうが知った事ではない。

 特に、リッチという強大なモンスターが出現したのにもかかわらず、娯楽の延長線上とでも思ってか人ごとのように楽しんでいる観客達に至っては自業自得とすら言える。

 この状況に至ってから状況に気付き、ようやく逃げ出すとか腰が重いにも程がある。俺達が普通に侵略者だったらどうするんだよ……。


『さて、アロガントとやら、次はどうするかね?』


 俺達はガラ空きとなった観客席を登り、遠目からこちらの様子を伺っていたアロガントのもとにまでたどり着く。

 目の前で見ると本当に大男だ。二メートル半はあるんじゃないだろうか。さっき襲い掛かってきたカーエンよりさらにデカい。

 わざわざ説明をされなくても、外見で圧倒的なパワー系である事が伝わってくる。まともな剣術とか使えるんだろうか。


「貴様ら、よくも俺の楽しみを邪魔してくれたな……。しかも町まで巻き込みやがって!」


 拡声魔術を介さない直の声が響く。どうやら相当頭にきているようだ。


『ほぅ、強ければ好き放題出来て、弱き事はそれだけで罪とされる、あんな腐りきった町でも大切か?』

「……腐りきった町だと? どういう事だ」


 おや、それに対するアロガントの反応がおかしいぞ。横でへたり込んでいたスタッフらしき女性に目を向けるが、彼女も知らないと首を横に振る。


「オ前ハ町ノ代表者ナノニ、町ノ事ヲ何モ知ラナイノカ?」


 俺は抑揚のない声で、あくまでも王に喋らせられている体を装って質問する。


「ア、アロガント様は確かに町の代表者ですが、そういった職務は肌に合わないと言って一切関わっていません……」


 答えたのは横の女性だった。彼女はモディ・ラーターと言って、アロガントの秘書をしているらしい。

 また、このイベントにおける司会進行も彼女であったようで、どうやら空気を読んで実況は控えていてくれたようだ。


「同じ質問の繰り返しになってしまうが、腐りきった町とはどういう事だ? モンスターにこんな事を尋ねるのも癪だが、知っているのならば教えてくれ」


 王は自分達が見てきた現状を語って聞かせた。また、この町が蟲毒そのものと化している事も伝える。

 話を聞いていくうちに、アロガントがワナワナと震えだし、しまいには目の前のデスクを叩き壊してしまった。

 デスクの上の『解説』と書かれていたプレートがどっかへ飛んでいく。このおっさん、武術大会では解説役だったのか……。


「なんなんだその惨状は! 無法地帯ではないか! 確かに俺は強い者の台頭を望んではいたが、そんなやり方は聞いていない……」

『全ては自ら統治を行わなかった怠慢が招いた結果だ。で、それを知ったお主はどうする?』

「動くしかねぇだろう。あぁくそっ、自己鍛錬と武術大会をする事ばかり意識していた結果がこの様とはな」


 どうやら、アロガントは完全に蚊帳の外だったようだ。トップが武術大会にしか目を向けていないのをいい事に、陰で高官達が好き放題やっていたに違いない。

 トップが現状を知った事でエンデは良い方向に変わるのだろうか。街を破壊して多数の死傷者を出しておいてこんな事を言うのも何だが、またいつか訪れた時には健全な街になっている事を期待しよう。


「……だが、街を破壊され、多数の死傷者を出された事は、代表者として水に流せる事ではないな」


 そう言ってアロガントが剣を構える。ですよねー。さすがにこのまま終わりという訳にはいかないわな。

 今まで投げっぱなしにしていたとは言え、町とそこに住まう民は自分が護るべき存在だった事には違いない。

 けじめというやつなんだろうな。とりあえずはぶつけてスッキリしたいのだろう。


『うむ、受けて立とう。かかってくるがいい、未来ある若人よ』

「うおぉぉぉぉ!」


 アロガントは大声で気合を入れつつ剣を両手で構え、王に向けて飛び込み、上段から勢い良く振り下ろす。

 しかし、振り下ろされた剣は半ばで硬質な音と共に止められてしまう。と言うのも、王が眼前に剣を召喚してアロガントを迎え撃ったからだ。


「リッチが……剣、だと……?」


 俺も驚いた。リッチと言えば、イメージとして『杖』が思い浮かぶからだ。邪悪なる魔導師のなれの果て――みたいな。

 王が手にしている剣は、一見すると煌びやかな聖具にも見える美しき剣に禍々しくも邪悪な怨霊が絡みついているかのような異様さだ。

 魔の力に浸食されつつある聖剣とでも言えばいいのだろうか。異形の剣からは、寒々しい程の恐ろしさが伝わってくる……。


『剣を使ってはいかんのか?』


 両手による渾身の振り下ろしを片手で軽く受け止めている王は、そのまま強引に剣を振り回し、アロガントを弾き飛ばす。

 それに素早く追いすがり、倒れているアロガントに向けて剣を振り下ろすが、当のアロガントはギリギリで転がるようにして回避する。

 動きに反応した王は、剣を地面に叩き付ける前にピタリと止める。勢い付けた振り下ろしをあんな綺麗に止められるとは凄いな。

 普通だったら勢いを殺しきれずにそのまま地面を叩いてしまう所だぞ。そういう無駄すらも省いて、わずかな隙すらも生じさせないか。


「くっ、戯れに剣を出したとか言うレベルではないな……。明らかに剣闘に慣れている動きだ」


 王は、人差し指をクイクイと動かし、アロガントに『来い』と挑発をかける。それに乗ったアロガントは、不敵な笑みを浮かべて再び王に迫る。

 今度は両手で剣を持ち、アロガントの攻撃を受け止める。様々な角度から剣が振られるが、そのことごとくを読んで確実に防御していく。

 そして、時には上手い事攻撃を反らし、隙が生まれた所に何故かチョップを叩き込んでいる。もしかして王は対決ついでに剣術指導でもしてるのか?


「貴様、どういうつもりだ!? 今までに何度も俺を殺せるだけの隙があったハズだ! 何故、手を下さない……?」

『お主にはまだ利用価値があるのでな。我が主からも、殺してはならぬと厳命されておるのだ』

「我が主……だと? まさか、貴様に命令を出せる上の存在が居ると……?」

『然り。我はただ主の指示を実行しているに過ぎぬ。そして、今から告げる事もその一環だ』


 王に命令を出せる上の存在……すぐ横に居るんだけどな。今は演出の一環として無言を貫いてるが、内心では笑っているに違いない。


『これより我はコンクレンツ帝国を攻め落とす。まっすぐに皇帝の許へ向かうので、阻めるのであれば阻んでみるが良い』

「な……!? き、貴様、本気で言っているのか!?」

『もちろん本気だとも。動かせるのであれば全軍を総動員しても構わぬ。ただし、向かってくる者は容赦なく消す』


 そう、俺達がわざわざこんな事をやったのは、最終的にコンクレンツ帝国への宣戦布告をするためだ。

 エンデのトップを打倒するついで、そのトップをメッセンジャーとして皇帝の許へ飛ばして開戦の合図とする流れである。


『一つ、サービスをしてやろう。お主を今から皇帝の許へ送る。そこで、我が話した事を伝えるのだ。すぐにでも国が動けば、まだ何とかできるかもしれぬぞ?』

「お、おい! 正直話についていけてな――」


 アロガントが何かを言い終える前に、リチェルカーレが指を鳴らす。当然、アロガントはいきなり足下に発生した穴になすすべもなく落ちてしまう。

 後はもう奴がどう立ち回るかだな。上手い事話を伝えて国を動かせれば良し、妄言を吐いたと解釈されて処罰を受けるとかであれば残念としか言いようが無い。

 とりあえず武術大会の会場でやるべき事は終わったという事で、俺達はリチェルカーレの魔術でこの場から姿を消した……。

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