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356:クラーケン討伐

「おぅ姉ちゃん、手伝ってくれんのか。そいつぁ助かるぜ。見た所、剣士のようだが……」

「えぇ、私は剣を振るう事しか出来ませんが、手伝える事がありましたら」

「ヤツの伸ばしてくる触手をぶった斬ってくれたら助かるんだが、ヤツは再生力が高いから一時しのぎにしかならねぇな」

「その再生力の高さと言うのは、如何ほどですか? 斬ったら即座に再生するレベルですか?」

「いや、さすがに斬ったら即座……って程じゃねぇかな。斬ったらウネウネし始めて一気にズルッて感じだ」


 それはそれでなかなか再生力が高いと思うんだが、タイムラグがわずかにでもあるだけで違うって事なんだろう。

 攻撃を止めるためにわざわざ触手を切り落としたのに、即座に再生なんてしようものならそのまま叩かれてしまうからな……。


「もう一つ聞いておきたいのですが、討伐において何かしらの縛りはありますか?」

「縛り……ってぇと?」

「モンスターは素材として用いる場合もあります。その場合、極力表面を傷付けないようにとか、特定部位を確保しろとか、色々条件が課されますので」

「おいおいおい、クラーケンを素材として使うってか? そんな話聞いた事無いぞ。俺達からすりゃ、追い返せさえすれば儲けものってくらいで」


 どうやら討伐は視野に入れていなかったようだ。普通に考えたら、あんな巨大な化け物どうしようもないもんな。

 一番大事なのは自分達の無事。無事であるのならば討伐と言う成果までは求めない。と言うか、求められる程の戦力が無かったのだろう。

 故に、船員達は幾度となく『追い払う』という形でクラーケン襲撃の危機を乗り越えてきた。だから船員達も慣れた感じなんだな。


「分かりました。それでは私なりに出来るだけの事をしましょう」


 そう言ってレミアは船のへりまで歩いていく。クラーケンとはまだ数十メートルは離れている。

 船としてはクラーケンを迂回して進みたいようで、クラーケンに向かって進むのではなく横から避けていくような軌道で進んでいる。

 しかし、クラーケンは次のターゲットとして船を見定めており、船の動きに合わせて身体の向きを変えて逃さない。


「こうやって避けていく事で『俺達には戦意が無い』って示しても、奴の方は逃す気が無いんだよ」

「……そういう事でしたら、終わらせましょう」


 レミアが抜剣し、その場で横に剣を一振り。本番前のウォーミングアップ――否、既にこの時点で『先制の一撃』を放っている。

 直後、海上に露出しているクラーケンの胴体に一筋の線が走ったかと思うと、そこから上下真っ二つに割れた。


『プギュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!!』


 辺り一帯に響き渡るような悲鳴と共に、切断された胴から内臓や血液がドボドボと零れ落ちていく。

 それらが落ちた海面は瞬く間にドス黒く濁っていき、煙を発生させる。明らかにモンスターの瘴気で汚染されてるな……。

 イルカっぽい魚達は既に避難を終えているのかその場には残っておらず、巻き添えを食らった者達は居なかった。


「ウッソだろ、おい……」

「クラーケンの身体は弾力が強くて、刃を通すのも難しいハズなんだがな」

「大砲の弾ですら効いているかどうかも分からんくらいなんだが」


 船員達からすると『クラーケンを斬った』事自体が驚きのようで、皆揃って唖然としている。

 襲い来る触手を迎撃しようとスタンバっていた冒険者達も、信じられないものを見るような目でレミアを見ていた。

 まさかこの場所からいきなり本体をぶった切るなど、想像すらしていなかったのだろう。


「……どうやら聞いた通りの再生力のようですね。ウネウネし始めました」


 体表の肉が切断面を包み込むように盛り上がって広がり、外気に晒されていた内臓を隠してしまう。

 ただ、即座ではないが『ウネウネし始めて一気にズルッ』と再生するらしいので、このままでは攻撃が無意味になってしまう。

 レミアもそれを察しているのか、再び剣を振るってクラーケンを両断してしまった……今度は『縦側』に。


「俺らは夢でも見てるのか? 海が真っ二つになってらぁ」

「もしかしてとんでもない冒険者様方と乗り合わせてしまったのかもしれねぇな」


 レミアの振るった一閃はクラーケンの肉体のみならず、その前後に広がっている海を諸共に切り裂いていた。

 さすがにモーセ程大々的に海を割っている訳ではないが、まるで地割れの如く彼方まで海に切れ目が生じている光景は異様だ。

 この軌道上に船とか集落とかがあったら大事件だぞ。海中の生物もいくらか巻き込んでるかもしれん。


「さすがに絶命しましたか」


 現時点でクラーケンは四等分されたに等しい状況だ。さすがに縦側に真っ二つされるのは致命的だったのか、悲鳴を上げる間もなく絶命したようだ。

 巨大な肉体は海面に叩きつけられるようにして崩れ落ち、溢れる臓物や血液が海へと広がり濁っていく。


「後始末はお任せください」


 すかさずエレナが法術を展開し、クラーケンの死骸が広がった範囲を光の輪で包み込み、瞬く間に浄化する。

 瘴気に汚染された海の色はすぐさま元に戻り、汚染の主要な原因となっていた臓物や血液は綺麗サッパリと消え失せている。

 しかし、クラーケンのガワの部分、つまり肉体はそのまま残されていた。白い巨大な塊がプカプカ浮いている。


「も、もう大丈夫なんだよな……?」

「はい。しっかりと浄化しましたので海は綺麗に元通りですよ」

「クラーケンも……倒した……んだよ、な……?」

「肉体も四分割しましたし、臓物や血も浄化して消え失せたので、さすがに終わったかと」


 エレナとレミアの返答を聞き、船員達は互いに顔を見合わせる。そして――


「「「「「イヤッホォォォォォォゥ!」」」」」


 歓喜の雄叫び。それは冒険者達にも伝播し、まるで甲板上がお祭り状態と化す。


「よぅし! あのクラーケンの死骸をマーリアン島への土産にしよう! あの島でもコイツに困ってただろうし、良い知らせになるぞ!」


 船が漂う肉塊に近寄って行き、船員達が漁業用の銛を発射する。捕鯨砲みたいなものか。

 いくつかの銛が肉を貫き固定されたのを確認すると、そのまま引っ張るようにして航海を再開させた。


「なぁレミア。いつの間にあんな早業……しかも凄まじい威力の技なんて習得してたんだ?」

「アレはシルヴァリアスの力を一瞬だけ解放したんです。今までは全開放していたが故に無駄にしていた力が多すぎましたので」


 そういやド○ゴンボールでもそんな戦法があったな。攻撃する一瞬だけ爆発的に戦闘力を高めるってやつ。

 ささやかな戦闘の度にいちいちシルヴァリアスを顕現させて銀色の武装形態になっていたら、確かに無駄が多いもんな。

 敵を一体倒すのに軍勢を滅ぼす程の力を使う必要は無い。丁度その敵を倒せるだけの力を発揮するだけで充分だ。


「私は、かつて『さすらいの風』で活動していた時はシルヴァリアスを使いこなせているようで全く使いこなせていませんでした。何せ声すら聞けなかったのですから」

『そーよそーよ! 私と同調しないと本当の力を引き出せないから上澄みの力しか使えていなかったのに、随分と調子に乗っちゃって!』

「……本当に申し訳ない。貴方の言う通り、過去の私は調子に乗ってました。だから、真の力を引き出せるようにこれからもしっかりと頑張りますので」

『よろしい。その調子で励む事ね』


 かなりキツいダメ出しをされているレミアだが、全く反論の余地がないくらい過去は調子に乗っていたらしい。

 伝説になるほどの功績を残していたのに、それでも『上澄みの力しか使えていなかった』とか、シルヴァリアスのポテンシャルどんだけだよ。

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