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346:異質な力

「グオォォォォォォ……!」


 邪悪なる力に飲み込まれた大司教が吠えると、倒れていた聖騎士や神官、シスターと言った聖職者達が起き上がってきた。

 彼らは一様に虚ろな目をしており、だらしなく腕を垂らし、呆けたような表情で囲われている者達を見ている。


「やはりそうでしたか。信者の皆さんや聖職者の方々が発していた邪悪なる気……。あれは、それを介して操るためのもの」


 エレナは聖体拝領の際に配られていたものを思い出す。信者達は、定期的にあれを食する事で少しずつ己の中に邪悪なる気を取り込んでいた。

 一気に取り込むと支障をきたす力だが、少しずつ取り込んでいけば徐々に体も慣れリスクも少ない。そのために『聖体』を利用した。

 全く邪気が無かった信者達は、今回が初参加で一度も聖体を食した事が無い者達だ。一方で邪気が多かった者は、幾度となく祭儀に参加していた熱心な信者となる。


 そして、聖職者達は言わずもがな日頃から祭儀に参加し続けており、大聖堂に常駐している者も多く、日常的にそこの食堂で食事を摂っている。

 聖体拝領の時は儀式によって聖体へと変化させられていたが、実は大聖堂内の食事は常時『変化させられたもの』となっていた。

 故に一般信者よりも遥かに高い濃度で邪悪な気に汚染されていた。にもかかわらず、表面的に体調不良が生じていないのには一つのカラクリがあった。


「あの邪悪なる気は邪神由来のものではありません。気の性質自体は、法力ですから」

「あれが法力ですって? 嘘でしょう? 法力と言えば聖なる力の代名詞よ。あんなおぞましい力であるはずが……」

「実は聖なる力を宿した法力でありながら、欲によって穢れた気を内包する異質な力が存在します。歴代教皇の中に多少存在する『道を踏み外した教皇』の持つ力がそれです」


 エレナはアンティナートで歴代教皇の力を開放する際、特に先代――父親の力を使う事に抵抗があった。

 それは父が欲にまみれた俗物であり、宿す力も穢れを内包していたからだ。エレナはこの穢れに対して忌避感があるが故に、使うと心身に負担がかかる。

 一方でその力を宿していたエレナの父である先代教皇は全く何ともなかった。それは彼自身が心身共に穢れていたからに他ならない。


 つまり、穢れた力に汚染されていながらも何ともない者達は、内心で邪な思いを抱えているような者達である。

 信仰心から聖職者を志したのではなく、何らかの利益やメリットを考えてその道へ進んだ。彼らの心にあるのは善意ではなく打算。

 そんな不純な気持ちで聖職者を続けていれば、聖なる力である法力にも付け入る隙が生まれてしまうのは当然の事だった。


「……とりあえず『聖魔力』とでも称しましょうか。今の教団上層部は、そう言った穢れた力に染まり切っていると言って良いでしょう」


 大司教から溢れる力が、聖職者達はもちろんの事、倒れ伏している一般参加者にも浸み込んでいく。

 それにより、彼らまでもが邪悪な気を発するようになり、起き上がって戦列に加わってくる。


「この力の異質な点は、同じ力の使い手の上位者による支配が可能という事。それによって皆さんが操られているのです」

「あー、俗に言うアレか。操られているだけだから殺しちゃいけないってシチュエーションだな」

「竜一さん、何だかワクワクしてませんか?」

「していないと言えば嘘になるな」

「と言うか、もう一度『浄化の光』を使えば良いのではないですか?」

「残念ですが、同じ事の繰り返しになります。根元……力の根源をどうにかしない限りは、また復活してしまいます」


 浄化の光は、あくまでも人々の中にある穢れを取り去るための力でしかない。

 そのため滾々と力が湧き出している大元が存在する限り、同じ事を繰り返すだけになってしまう。

 再度の浄化は大元を断ってから。暴走する大司教を倒して首飾りを破壊する必要がある。


「先生……大司教は、私に任せてください。皆さんは、周りをお願いします」

「了解した」


 竜一達に背を向けエレナが大司教に向けて歩を進め始めると、それを受けて大司教が咆哮する。

 咆哮は合図となって大聖堂に響き渡り、一斉に一般参加者達や聖職者達が竜一達に向けての進攻を開始した。


 ◆


 まるでゾンビのように迫ってきて掴みかかってくるだけの一般参加者達。

 まともな攻撃手段もない上に操られて単調な動きしか出来ないからか、全く戦力になっていない。

 申し訳ないが迫ってきた男達は殴り飛ばさせてもらう。念のため、闘気は込めるが許せ。


「オラァッ!」


 初撃で加減が分からないのもあってか、大きく吹っ飛ばして椅子とか柱とかに思いっきりぶつけてしまった。

 これはもしかして殺ってしまったかと思ったが、間もなく飛来した黒いモヤが男達の身体の中に入り込み、何事もなく起き上がってきた。

 ホントにゾンビだな。もしかして、物理的に損壊させても、命を奪ったとしても操り人形として使い続けてくるパターンか?


「申し訳ないけど、こちらも易々と殺されてやる訳にはいかないのよ」


 ハルは襲い掛かってきた女性のスネ辺りを目掛けてローキックを放つ。おいおい、バキッて音がしたぞ。

 しかし、完全に操られた状態の女性はそれでも止まらない。だが、片足を折られた影響で転倒し、床を這いずるような格好となった。

 思考回路も単純になっているのか、片足立ちで動くなどの器用な事は出来ないようだ。しかも骨折はすぐ治らないらしい。


 操られているだけの人達に対しては申し訳ないが、倒すのが目的ではない俺達にとって、動かなくするというのは有用な手段だな。

 エレナが力の根源を断つまでの時間稼ぎが出来ればいい。ならば、魔術的な力で戦うより近代的な兵器の方が良さそうだ。

 俺は銃を二丁取り出し、久方にガン=カタのスタイルで暴れまわる事にした。数も多いし、ちょっとやそっとでは死なないだろうしな。


「ごめんなさいごめんなさい! でも暴れられたら困るので、じっとしていてください!」

『邪悪なる気に付け込まれ操られる欲深き人間共よ、大人しくしているがいい』


 ルーはヴェルンカストと共に足元へ闇を広げ、そこへ一般参加者達の多くを膝下辺りまで呑み込んでいる。

 まるで鼠取りに捕まった鼠のように動けなくなっている。精霊の力ってのは便利だな……。

 俺も使いたい所だが、俺の契約精霊だと正直言ってオーバーキルになってしまう気がするんだよな。


 そもそも、ここ最近は精霊達を呼び出す機会が無かったんだよな。力を借りるべき状況が来なかったというか。

 契約しておいて放置状態になっているのは申し訳なく思う。とは言え、用もなく呼ぶのも失礼だろうしな。


(安心してください。精霊達は特に怒っていませんよ。それに、最近サボリがちだったあの子達には色々と仕事をお願いしてますし、ゴネる暇も無いでしょうが)


 うぉ、いきなりミネルヴァ様。そういや精霊姫という呼称で呼ばれてるし『全ての精霊達の母』でもあったな。

 精霊達は暇もない状態……って、本当に必要な状況が来てしまったら、その時はどうすればいいんだ。


(そういう時は遠慮なく呼んでください。さすがに必須となる召喚までは私も止めません。ただ、余程の窮地でもない限りは呼ばないくらいでいいと思います。機会を縛らないとあの子達は遊び過ぎますので……)


 直々に縛りが宣告された。確かに、あまり精霊達にばかり頼り過ぎるのも良くないからな。

 俺自身、まだまだ他の皆と釣り合いが取れる程の領域に至っていない。それもまた修行と捉えよう。

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