323:秘密主義の組織
「で、ベルバラ愛好者さんよ。組織の事、話してくれるんだろうな」
「なんか名前を呼ぶニュアンスが違うような気もするが、約束は約束だ。今更見苦しく足掻くような真似はしないさ」
顔がボコボコだった時、めっちゃ見苦しく足掻いてなかったか……?
「結果として、アンタもあいつらと同じく組織を裏切る事になってしまうが、いいのか?」
「こんな事を言っても信じてもらえないかもしれないが、私はあの組織やボスに対して深い忠誠は誓っていない」
ヴェルヴァラ……いや、参謀でいいか。参謀は驚くほどあっさりと裏切りを口にした。
ボコボコにされた顔を治してくれるなら何でも話すと言った通り、彼にとっては己の顔が一番大事だったのだろう。
「私は転生先としてアイコーシャ家に生まれたが、色々あって追放される目に遭った。その後は独自に成り上がるための道を模索していた、その過程で勧誘を受けた」
「そこは『邪悪なる勇者達』の方針とよく似てるんだな。失敗した所を誘いに来るのは同じと言った所か」
「おそらくはそこの四人も同じであろう。この世界では、創作物のように都合良く転移者や転生者が成功するとは限らなかったんだ」
参謀の話を聞いて、同意するように頷く四人。失敗した者達が所属する組織と言うくらいだからな。
彼らは自身の事を語るのは良しとしていなかったが、あの組織に属していた以上は転生者としての第二の人生を失敗したのだろう。
「私個人としては『都合の良い仕事場』くらいの認識だった。そもそもボスや他の幹部の顔すら知らないしな」
どうも『堕落した転生者達』は徹底した秘密主義らしく、幹部同士が顔を合わせての集会とかも特にやっていないらしい。
「私が勧誘されて連れていかれた時も、懺悔室のような場所で壁越しにボス……と思われる人物と話しただけだ。本当にボスかどうかも分からない」
「そもそも俺達はその『ボス』とやらとの対談すら無かったぞ。勧誘後はその地域の『担当』を名乗る奴と話したくらいだ」
イーの話にコクコクと頷いている事からも、他の三人も同様の扱いだったようだ。
「聞いている限りだと、かつて私が所属していた『邪悪なる勇者達』とは方針が正反対のようね」
そこで話に加わってきたのがハルだ。彼女が言うように、実際に『邪悪なる勇者達』を知るからこそ比較ができる。
「『邪悪なる勇者達』では、ボス自らが率先して大規模集会を開いていたわ。それで士気を上げたり、幹部の十勇者への挑戦を受けていたりしたのよ」
「ボスはシンって名乗る存在で、皆の前にもハッキリと姿も現していたんだったな。堕落した転生者達のボスは不明なのか?」
「壁越しに対話した際は「組織を作った最初の存在だし、ファーストとでも呼んでもらえれば」と言っていたな。少なくとも声色は男だった」
参謀が言っている通り、あくまでも壁越しに話しただけなので本当に話した相手がボスだったのかは分からない。
しかし、偽者がボスを代弁しているのだとすればかなりヤバい奴だし、自身をファーストと名乗る厨二臭さは代弁で出すには恥ずかしいセリフな気がする。
「そんなファーストだが、さすがに『邪悪なる勇者達』のボスと合流する際は直接対面して話したそうだ」
「まぁ、さすがに相手組織のトップと会談するにあたっては、組織のトップである本人が出向くのは最低限の礼儀だからな」
二つの組織の合流に関しては、話が決まった後に各幹部達へ伝えられ、幹部から末端へと話が広められたらしい。
とは言え、やる事自体は今までと全く変わっておらず、有事の際に二つの組織で協調して事に当たるくらいの関係性との事。
「どうやら参謀でもあまり組織について分かっている事は少なさそうだな。では、今回この王都を狙った理由については?」
「既に察しているのだろう? 彼らを派遣した目的は、この王都を支配していたという転生者の勧誘だよ」
やはりアイグル・アトソンの勧誘が目的だったか。
「それはつまり、世界各地に居る転生者……組織に属していない奴らの情報を把握しているって事で良いのか?」
「一人でも多くの同志が欲しかったからな。少しでも常人を超えた何かを感じる者が居たら報告が上がるようになっている」
彼らの狙いはあくまでも『転生者』であるため、あからさまに異邦人だと分かる『転移者』の存在は除外していたという。
そこは『邪悪なる勇者達』の領分だからな。だから、彼らは現地人を自称しながらも現地人ではありえないような実力者を視野に入れていたらしい。
アイグルも『自分に都合良く物事を進ませる』という、ある意味では破格のチート持ちだったからな。下手したら主人公やれるレベルだ。
チート能力自体はバレてはいなかったとはいえ、その影響による活躍で名が上がり、実際に外部にまで王都の凄い存在としてアイグルの噂が流れていたしな。
ただ、そんな能力ゆえに外部の者が御せるかどうかは未知数だ。下手したら『堕落した転生者達』がアイグルの都合良く動く存在になってしまう。
「ちなみに、アンタらが狙っていた転生者……アイグルって言うんだが、おそらくは勧誘しても無駄だったと思うぞ」
「ん? まさか、王都に居る転生者の事を知っているのか?」
「知っているも何も、ちょっとしたトラブルに巻き込まれてガッツリ関わり合いになった」
アイグルの影響力のせいで、外部から来た冒険者パーティが仲間内で喧嘩する羽目になってたりしたんだよな。
特に女性はアイグルに対して無条件で行為を抱くようになってたから、元々組んでいた男仲間と関係がこじれたりな。
「奴の能力は無意識発動型で、一定領域内を奴の都合が良いように事が進むように変える能力だ」
「なんだと!? それは何と反則的な力なんだ……。言うなれば『主人公補正』とでも称する凄まじいものじゃないか」
「唯一の欠点は、奴の力量を超える奴を支配下に置く事が出来ないって点だな。そこが突破口となった」
「その言い方からするに、お前達がそのアイグルとやらを倒したという訳か。その者にその欠点があって良かったな」
「全くだ。奴の領域に取り込まれたら、奴のために何でもするようになってしまうからな……」
特に女性の仲間は、最終的にアイグルのためならば身を売って金を稼ぐような事をしてしまう程だった。
洗脳が解けて我に返った時の絶望はとてつもないものだっただろう。その時の記憶がはっきりと残っている訳だしな。
「その者を組織に取り込まなくて正解だったかもしれんな。下手したら組織がその者の手足となり果てる。さすがにボスまでもが支配下に置かれるとは思えんが」
「どちらにしろ、もう奴の能力は消し去ったから無用な心配なんだがな」
「能力を消し去っただと……? お前達はそんな事すらも可能としているのか……」
正確には俺達ではなくミネルヴァ様の力だがな。転生させた本人ともなれば、その辺をいじるのはお手の物だ。
だが、さすがに詳細は伏せさせてもらおう。これはある意味ジョーカーのようなものだしな。
「安心しろ。別にアンタらの能力を消し去ろうって訳じゃない。色々話を聞いた後は解放するさ」
「……解放か。それはつまり、組織を裏切った状態で野に放たれるという訳だな。刺客との闘いの日々が始まるという訳か」
最初に襲ってきた五人はともかく、幹部の一人たる参謀が突然失踪したとなれば、当然気付かれるわな。
ついでに参謀が連絡を取ろうとしていた人物までもさらってきてしまったしな。どうするつもりなんだよ、ソイツの事は……




