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315:昇格試験を終えて

「とりあえず、こうなってしまった中庭を元に戻さないとな。パチャマ、すまないが中庭の修復をお願いするよ」

『……了解。ちょっと待つ』


 初めて出てきた時と同じように、半分寝ているかのような状態だ。まるでミノムシのように衣に包まっている。

 俺と契約している精霊達は基本的に余程の状況でもない限り呼べば応えてくれるんだが、パチャマに関してはこれがデフォなんだろうか。

 崩壊した中庭を直すにあたっては、まず消し飛んでしまった地盤をどうにかする所から始めないといけないから呼んだんだが。


『おーけー、状況は把握した。じゃあ、元に戻す』


 しかし、すぐに衣をマントの状態へと変化させて意識が覚醒する。しゃら~んとステッキを振りかざすと、地の底から土が盛り上がってきた。

 足元に張られていたバリアに衝突した所でバリアの方が消失。平たい土の地面が形成される。そして、そこからが本格的な中庭の修復の始まりだった。

 元に戻すといった言葉の通り、地面の状態が場所によって凹んだり盛り上がったり、完全な平の状態から凸凹がきちんと作られていく。


『私が出来るのはここまで。後はククノ、よろしく。私は帰って寝る』

『木々や草花の再生はこのククノにお任せじゃ! って、オイ! 戻ったらちゃんと仕事せんか!』


 交代するように現れたククノが、言葉通りに木々や草花を再生させていく。さすがにそこは役割を交代する必要があるようだ。

 あくまでもパチャマは大地を司る精霊だからな。その大地に根付く植物に関しては、それらを司るククノでないとな。


「リューイチ……だったか。これは一体、どういう事だ?」

「派手に破壊してしまったから修復を頼んだんだ。人の手でやるより早いだろ?」

「いや、そういう事じゃなく……。お前、精霊術師だったのか」

「そういやその事を言い忘れてたな。俺だけの力で戦いたかったから、つい」


 ハルやルーのように、ちゃんと精霊と契約している事を伝えた方が良かったのか?

 だが、俺の場合は八体の精霊と契約している。さすがにそれは精霊術師でもズルいんじゃないだろうか。


「今となっては言い忘れていて幸いだと思ってるよ。崩壊した中庭をこのように再構築出来る程の精霊を二体も相手にしろとか、もはや拷問だ」


 俺とフォレスさんが言葉を交わす間にも、ククノがあちこちに飛んでは変な踊りと共に植物を再生している。

 精霊でもここまで対象属性を自在に操るのはレベルが高い存在と認識されているらしく、フォレスさんはそれを感じ取っているようだ。

 精霊二体でウンザリしているようだから、実際は八体と契約している云々は言わない方が良さそうだな。


 ◆


「で、だ。端的に言えば冒険者パーティ『流離人』の昇格試験は合格だ。トロルの討伐は言うまでも無く、模擬戦も文句なし。むしろAランク……いや、Sランクにまで昇格させてやりたいくらいだ」


 フォレスの評価は絶賛だった。トロル討伐に関しては直に目撃していないが、そこに関してはイチエからの報告を信用している。

 お調子者で軽いノリのイチエではあるが、ギルド職員としての仕事は信用されており、一見すると荒唐無稽な報告内容であっても全て事実であると受け止めていた。

 何せフォレス自身が流離人一行の荒唐無稽な戦いぶりを体感し、かつての仲間が精神崩壊する程の状態に追い込まれた事も判断材料となった。


「随分と高く買ってくれるんですね。私なんて、貴方を倒すところまで行かなかったのに……」

「いやいやいや、自分で言うのも何だがAランクの『俺を倒す』って相当だからな? お前がおかしいんじゃない。周りがおかしいんだ」

「……それは否定できない所ね。分かってはいるんだけど、悔しいわ」


 ハルだけが試験官を倒すところまではいかず、良い所で実力を認められて終わる形となっていた。

 それ以外の皆は、前任のガンプを含めて『殺す』所まで行っている。どうしても自分の未熟を感じてしまうのだった。

 周りがおかしいと言われても、おかしい中で自分だけが普通の領域である事は、ハルの心をざわつかせた。


「世界各地を巡る旅をしているらしいが、出来れば各所でどんどん依頼を受けてくれよ。依頼を沢山こなしてもらって、さっさと上にあがって欲しいからな」


 フォレス基準ではSランクに昇格させてやりたいくらいの実力はあるが、どうしても強さだけではさらなる昇格をさせられない。

 やはり冒険者としての実績や功績がどうしても必要となる。冒険者なのだから、冒険者としての積み重ねが必要なのは当然の事である。

 竜一は『異邦人としての使命』を優先したが故に、冒険者として出遅れた。しかし、その過程は非常に濃密なものだった。


 そのため、強さと実績が釣り合わないという状況になっている。実績が乏しいが故に、察しの悪い者からは舐めてかかられてしまう事もある。

 そういう煩わしい事を減らす意味でも、今後はちゃんと冒険者としてもやるべき事はやっていこうと竜一は思うのだった。


「せっかくだ。世界を巡る旅を続ける者達にも冒険者の依頼を受けられやすいようにしてやろう。イチエ、アレを頼む」

「いいんですか? アレは基本的に世界各地に散るAランク以上の冒険者に連絡を取るための手段ですけど……」

「こいつらの実力はついさっき知っただろう。依頼の数さえこなしていけば、早々にランクアップの条件を満たしてくれるさ」

「なるほど。未来への投資と言う事ですね。後々に「我がギルドが流離人を一番サポートした」ってドヤれるように」


 欲望丸出しのイチエがニヤニヤしているが、これには冒険者ギルドの抱える事情もあった。

 各ギルドがどのような冒険者達を抱えているか、冒険者達をどれだけしっかりサポートしたかが評価対象になっているのだ。

 優秀な冒険者を輩出する、優秀な冒険者をサポートする。冒険者の優秀さが、抱えるギルドの優秀さと同義となる。


「残念ながら貴方達が登録されたギルドは別の場所なので発掘ボーナスはありません。が、それでもサポートボーナスは頂きますよ!」


 そう言ってイチエが竜一に手渡したのは小さな板状のアイテムだった。

 見た目としてはギルドの紋章が刻まれたカード。質感としては金属のようで、薄さに反した硬さがある。


「これは?」

「特定冒険者用の連絡カードです。ちょっと待っててくださいね」


 イチエが同じようなカードを手にし、指先で何やらカードをなぞるような動きをしてみせる。

 すると、竜一の手渡されたカードが淡く光り、イチエにカードを触るように促されて触れてみると、光が飛び出した。

 よく見ると光が文字や図面を描いており、その様はホログラム技術を思わせるものだった。


「それは高ランク冒険者向けの依頼書です。そのカードはギルドから冒険者の皆様へ直接依頼を紹介するためのものなんです。これなら、依頼の近場に居る方々にもお勧めできます」


 通常であれば冒険者ギルドへ赴いて依頼を受けなければならない。そのため、わざわざ遠くから戻ってまた遠くへ行くという場合もしばしばある。

 しかしこのカードがあれば、遠征先でその場に近い場所で発生している依頼を受ける事が出来るため、ギルドへ戻る手間を省く事が出来る。

 もちろん遠征先の依頼で疲労困憊と言う場合は依頼を断る事も可能であり、そういう場合は別にこの依頼を目にした冒険者達が受注する事になる。


「なるほど。世界各地を旅したいという俺達にはうってつけだな。滞在している場所で近い依頼を受けていけば、実績を積み重ねられる訳だ」

「そういう事です。先程も言いましたが、本来ならコレは高ランク冒険者向けの便利アイテムなんですよ。提供する以上は期待に応えてくださいね」

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