表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
324/494

313:闇の精霊の力

「正直言って、ガンプも決して弱くは無いんだ。いくら昔からの仲間とは言え、適当にAランク認定はしない。そんなアイツがあそこまで壊れるとは、お前ら一体何をしたんだ?」

「……詳しくは聞かない方が身のためだと思いますよ。イチエからある程度は聞いていませんか?」

「イチエの説明はいまいち要領を得ないんだよ。嘘は言っていないと思うんだが、何が起こってるのかサッパリだ」

「マスター、何気に酷くないですかそれ! 私は抗議します!」


 腕をブンブン振り回して怒るイチエを手で制しながら、フォレスさんが詳細を尋ねてくる。

 リチェルカーレやエレナのやった事は単純に魔術の暴力と拳の暴力なのでまだ説明しやすいだろうが、セリンのやった事は説明しづらい。

 言葉で言うのは簡単だが、アレばかりは自分自身で実際に体験してみないと何とも分からない典型的な例だろうな。


「とりあえず次はこの子と対戦してみてくれないかい? ガンプが味わった理不尽の一端を体験できると思うよ」


 リチェルカーレがそっとルーの背中を押し、次の対戦相手として推薦する。


「えぇっ、私ですか!?」

「この子も先程戦ったハルと同じ精霊術師だ。二対一で構わないかい?」

「あぁ、パートナーと共に戦ってこその精霊使いだからな」

『良い度胸だ、人間よ。我が主と共に地獄の底へと叩き落としてやろうではないか』


 ルーの右肩に小さな状態のヴェルンカストが出現する。見た目こそマスコットだが、こう見えてとても強大な闇の精霊だ。

 膨大な魔力を制御できず過剰に供給してしまい、並の精霊であれば死に至らせてしまうほどの『精霊殺し』と称されたルーの魔力を余す事無く受け止められる存在。

 闇の精霊のタルタが言っていたが、ヴェルンカストは闇の精霊の中でも最上位クラス。通常の人間ならば、まず契約すら敵わぬ規格外の精霊だ。


「わ、わかりました。ハルさん達が苦戦する程ですから、私達も頑張りましょう!」

『現在この領域はリチェルカーレ殿によって護られている。我らが力を発揮しても問題なかろう』


 うわー、二人とも張り切っちゃってるよ。フォレスさん、南無。

 

『では、行くぞ』

 

 ルーの肩に乗っかっているヴェルンカストが、物は試しとばかりにその力を開放する。

 その瞬間、領域内に闇の暴風が溢れ出す。もはや風などではなく衝撃波だ。

 俺達はリチェルカーレによって展開された障壁で守られたが、フォレスは一瞬で消し飛んでしまった。


 あーあ、言わんこっちゃない。


「ちょっとヴェルちゃん、出力が強すぎるよ!」

『ぬ? この程度でもダメなのか……』


 荒れ狂う闇を徐々に縮小させていくヴェルンカスト。当人が言うように、フォレスさんを消し飛ばす程の力でも彼にとっては『この程度』に過ぎない。

 一応はガンプと同じA級冒険者であり、実力的にはガンプよりも上だと思うんだが、そんな相手すらも話にならないレベルの力。それがまだ全然本気じゃない。

 ヴィルシーナ魔導国ではうっかり本来の姿のままで現出し大騒ぎになったからな。彼がこのル・マリオンで本気を出す時は来るのだろうか。

  

 それほどの力を持つヴェルンカストを使役できるのは、ルーがヴェルンカストをしても吸い尽くせない程の魔力量を持っているからに他ならない。

 ヴェルンカストはその強大な力故に、契約を望んだ人間の力を吸い尽くしてしまう『契約者殺し』と称され、彼が人間界に現出した時代では邪神扱いされてきた。

 並の精霊では受け止めきれない力を持つルーと、並の人間では耐えきれない程の力を吸うヴェルンカスト。二人は奇跡的に噛み合ったパートナーだった。


「はっ!? い、一体何が起こったというのだ……」


 あまりに一瞬の事で自覚が無いようだ。ガンプの時のように痛めつけられた訳でもないからな。

 改めて構えるフォレスさんに対し、ルーはヴェルンカストの力を取り込み、右手だけを闇の力で覆って構える。

 たったそれだけなのに怖気を感じる程の圧力を感じる。対峙しているフォレスさんはそれ以上だろう。


 ◆



(な、何という力だ……。これ程の力を持つ精霊を使役する少女、一体何者なんだ?)


 今までに何人もの精霊術師と対峙し、そのパートナーたる精霊とも闘ってきた過去のあるフォレスが、戦う前から怖気を感じている。

 こういった事態も気のせいなどではなく現実のものとしてしっかり受け止め、冷静に考える事が出来ているからこそ、彼は今までを生き抜いてこれた。

 しかし、そんな彼が初めて選択を誤った――いや、正確には選択の余地など無いに等しい状況であったのだが。


(待ち呆けていてもやられる。ならば――)


 右拳に込められるだけの闘気を込めての速攻。何か力を行使する前にどうにかする。その考えすらも、時既に遅し。

 既にルーはヴェルンカストの力を己の身に取り込んでしまっている。この時点で、もはや行使するしないの問題ではなくなっていた。

 ルーは軽く右手を伸ばし、力の籠ったフォレスの右拳をあっさりと受け止めてしまう。そこで、フォレスは気が付いた。

 

(受け止められた! いや、それはいい……。放った力は何処へ消えた!?)


 フォレスがキオンの突進を受け止めた時のように、力というのは必ず他のものへと伝わっていく。

 突進の勢いでフォレスが後方へと押されていったように、パンチを受け止めたルーにも何かしらの影響が無いとおかしい。

 にもかかわらず、まるで柔らかいものに受け止められたかのように止められ、完全に衝撃を殺されてしまった。


 驚きはそれだけでは終わらなかった。ルーが何気なく手を握り込むと、まるでそこにフォレスの拳などないかのように拳を握り込まれてしまう。

 ルーの手が小さかったからこそフォレスの拳が丸々潰される事は無かったのもの、ベキベキと音を立てて指は無残な事になっている。


「ぐあぁぁぁぁっ!」

「あぁっ、ごめんなさい。上手く加減が……」


 このままつかまれ続けているのはマズイと判断したフォレスは、右手を犠牲にして腕を無理矢理に引き抜く。

 それがトドメとなって右拳はズタズタになるが、彼はそれでも『死を避ける』ために重傷を負う事をためらいなく選んだ。


「加減……。俺が、加減される扱いだというのか? ならば!」


 残った左手に闘気を集め赤色の大きな力の球を作り上げていく。闘気をそのまま練り上げて解き放つ基本にして実力に大きく左右される技だ。

 闘気量が多ければ大技になるが、少なければ小技となる。使用者によって最弱の特技としている者も居れば、逆に最大の特技としてステイタスにしている者も居る。

 フォレスは言わずもがな後者だろう。冷静に考えれば、こんな王都ギルドの中庭で解き放って良いような技ではないが、現在は冷静さを失っている。


「ならばこれを止めてみろ、精霊よ!」


 まるで野球のピッチャーの如く巨大な闘気の球を放り投げるフォレス。ルーは先程と同じように右手を伸ばして球を受け止める。

 その瞬間、右手へ吸い込まれるようにして闘気の球が消失。それから間を置かずして、ルーが右腕を横薙ぎに一閃する。

 右腕の動きに合わせるようにして、胴体部分から真っ二つに斬り裂かれるフォレス。先程とは異なり一瞬で死ななかったため、今度は己が身に起きた事を自覚する。


「そ、そんな馬鹿な。この俺が、何も出来ずに斬り裂かれるなど……」


 フォレス自身は気が付いていなかったが、この時ルーは空間ごと横薙ぎに斬り裂いており、攻撃を知覚した所で防ぎようが無かった。

 如何に鍛えた肉体であろうと無意味。枠に収まった技術や魔術を駆使しようと防げない、それらの防御手段ごと斬り裂く絶対的な致命の一撃。

 空間に干渉する攻撃は空間に干渉する事でしか防げない。魔術における三大難題の一つを使いこなす知識と技量が要求される。


『ふん、慢心したな人間よ。自信は結構だが、それで目が曇っていてはな』

「すいませんすいません! 私、まだまだ力のコントロールが上手く出来ていないみたいです」


 ヴェルンカストがルーから分離する。フォレスは逆再生されるように地面に落ちた上半身が元の位置へ戻り、下半身とくっついて再生していく。

 再生完了と共に蘇るが、同時に先程の出来事がフラッシュバックし、そのショックで地面に膝をつき、そのままくずおれてしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ