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異世界の流離人~俺が死んでも世界がそれを許さない~  作者: えいりずみあ
第八章:幾億光年の彼方、異世界の宇宙
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288:命の種

「うっそだろ、おい……」


 さすがに俺は驚きを隠せなかった。と言うのも、現時点で人類未踏の地に居るからだ。

 それこそ、未だに旅を続けているボイジャー二機ですらも到達していない場所だ。

 言わば外宇宙。太陽系を出たその先……どころじゃない。今、俺達が視界に収めているのは――


「これってまさか、銀河……?」

「だよなぁ」


 そう。良く図鑑などのイメージ図で見る『天の川銀河』そのものだ。実は、天の川銀河の全体像を捉えた『写真』は未だ存在しない。

 何せ天の川銀河の写真を撮影するためには、まず天の川銀河の外へ出なければならないのだ。人類史上、それを成しえた探査機は未だに存在していない。

 しかし、他の銀河を撮影する事は出来る。それに加え、地球から撮影した天の川――つまり銀河の内側からの写真や、膨大なデータが存在する。


 ようするに『天の川銀河』の全体像は、それらの情報を組み合わせて作り出された『イメージ』なのだ。

 イメージとは言え、他の銀河の写真を見る限りでは、限りなく正解に近いと思われるが。

 そんなイメージでしか知らなかったものを、俺達は今まさにこの目で目撃していると言う訳だ。


「月から一瞬でここまで飛ぶとか、ミネルヴァ様の力は桁違いだな……。ここまで一体何光年の距離があると」


 俺達は月から『地球の出』を見た後、再びシュヴィンの頭に乗って移動する事になった。

 その直後、気が付いたらここに飛んでいた。ミネルヴァ様が瞬間移動させたのだ。

 リチェルカーレのように空間の穴が開くとかの前触れなどは何もなく、本当に突然この場所へ移動した。


「まさか太陽系とかも飛び越してこんな所へ来るなんて、一体銀河の果てに何があるというのかしら」


 辺りを見回すと、相変わらずの星空が広がっている。当然だ。天の川銀河の外も果てしない宇宙が広がっているのだから。

 元の世界で知った様々な銀河や星座もほとんど変わらない状態で点在しているのだろうが、どれが何なのかは全く分からない。

 この無数の星々を研究している方々には頭が下がる思いだな。規模がとてつもなさすぎて考えるのも馬鹿らしくなる。


『驚かれましたか? ですが、目指す所はもっともっと先ですよ。彼らが居るのはこんな近場ではありませんから』


 彼ら……? まさか、以前に聞いた『宇宙生物』ってやつか? 見せたい真実と言うのは『それ』の事なのか?

 リチェルカーレやミネルヴァ様の意図が未だに読めない。そんなものを見せたとして、俺達にどうさせたいというのだろうか。

 と言うか、さっきから俺とハル以外全く何も喋っていないな……。みんな、一体どうしたんだ?


 周りを見回すと、現地人組は揃いも揃って口をポカーンと開いてフリーズしていた。

 あぁ、そうか。考えてみれば宇宙ですら初めての概念なのに、銀河の外側まで来てるんだもんな。付いて行ける訳がないか。

 俺自身もざっと十万光年はある天の川銀河を一望できるような場所へ来ている事が未だ信じられないくらいだ。


 周りを見回せば数多の星々が見えるし、明らかに銀河だと分かるものもいくつかある。アンドロメダ銀河もあるんだろうか。

 天の川の銀河は目の前にあるが、それを今どちら側から見ているのかわからない。当然ながら、どの辺りに太陽系があるのか全く分からない。


『大丈夫ですよ。私は宇宙の何処にでも行けますし、元も場所に帰る事も容易です。なので、どんどん行きましょう』


 ミネルヴァ様に掲げられた杖が光を放つと同時、俺達はさらなる彼方へと転移した……。



 ・・・・・



 今の俺は、既に天の川銀河すら認識できないくらいに途方もない程の宇宙の彼方に居るのだろう。

 だろうと疑問形なのは、もはや四方八方に見える星々や銀河の何もかもが全くもって何であるのか分からないからだ。

 だが、辺りを見回していてふと気付く。宇宙のとある一角が不自然に激しく明滅している。


『どうやらあの辺りにいるようですね。近付いてみましょう』


 ミネルヴァ様の指示を受けてシュヴィンがそちらへ向けて突き進む。途中で光に包まれたのだが、これはミネルヴァ様によってワープさせられた影響だ。

 光でも年単位かかるような距離を移動するには、ワープでも無ければ気が遠くなるような時間がかかってしまうからな……。

 一回のワープで天の川銀河の外へ出られるような距離を移動できるだけあってか、さすがに何度も何度もワープを挟むような事は無かった。


『……竜一さん、アレが見えますか?』


 指し示された場所には想像を絶する異様なものが居た。まるで古代生物を思わせる風貌の魚と虫が激しく戦っていた。

 双方共にどす黒い感じで、恒星の光が無ければ闇に紛れてしまうような暗い色だ。容姿も鑑賞向けとは言えないグロテスクな姿。

 何が異様かって、その存在の大きさだ。何せその二体は周りの星々を軽くぶっ壊しながら大喧嘩しているのだ。


 魚の尾びれによってはたかれた虫が吹っ飛ばされ、岩石惑星に衝突。己よりも大きな巨体が衝突した影響で瞬く間にヒビが入って砕け散る惑星。

 今度は惑星への激突から戻ってきた虫が魚の腹に噛みつき、そのまま巨大なガス惑星の雲海へと突っ込んで行った……。

 かと思いきや、その巨大なガス惑星が突然現れたさらなる巨大な生物によって丸々呑み込まれてしまう。俺は一体何を見せられてるんだ?


 まるでフクロウナギのような姿をした超巨大生物は、辺りをキョロキョロ見回したかと思うと、俺達の存在は完全に無視して何処かへと消え去った。

 あの生物と比べたら、俺達が今乗っているシュヴィンですらもイトミミズみたいなものじゃないか……。なんなんだよ、これ。


『アレは、かつて宇宙の彼方で我が同胞達によって撒かれた『命の種』の成れの果てです』

「命の種……? 同胞……?」

『えぇ、私達が誕生した時点で既に持たされていた『命』を産み出すための種子です。私はそれをル・マリオンで使い……今に至ります』

「つまり、こちらの世界の地球――ル・マリオンに生命が誕生したのは、その命の種を使ったからだと?」

『はい。大元の世界においては奇跡的に誕生したとされる命ですが、この世界においてゼロから生命を誕生させるには、それを用いるしかありません』


 さっきミネルヴァ様は『誕生した時点で既に持たされていた』と言った。つまり、ミネルヴァ様自身も何者かによって生み出された存在と言う事だ。

 私達という言い方からしても、複数人が存在する。以前ミネルヴァ様は『邪神』と呼ばれている存在と、もう一人別の同胞が居るような事を言っていたが……。


『ご明察です。しかし、三人というのは現時点での事……。我々が生まれた時は二十人存在していました』


 いや、想像以上に多いな同種の存在。


「その二十人が宇宙のあちこちで命の種を使ったとしたら、宇宙中に様々な命が溢れるのでは?」

『残念ながら、そうはなりませんでした。ル・マリオン以外で使われた命の種ですが、絶滅した種以外は皆あの生物群に変わり果ててしまいました』

「さっき見た規格外の超巨大生物の事ですね。改めて聞きますけど、あの生物群は一体何なんですか?」

『平たく言えば『管理されなかった命の種』ですね。本来、命の種が発芽したら長期に渡ってその使用者が様子を見守り、管理をしていく必要があります』


 つまり、ル・マリオンはミネルヴァ様がずっと見守っていたから地球と同じように進化してきたと言う訳か。

 ただ、魔界という存在の影響もあり、それと戦うための力を与えた事で独自の道を歩み始めたが……。

 それでも、人間が誕生して文明を築く所にまでは至っている。そこへ至るには、上位存在の管理が必須と言う事か。


『管理する者が居なくなれば生命の進化は暴走します。それの究極の形が、先程見た者達です』

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