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異世界の流離人~俺が死んでも世界がそれを許さない~  作者: えいりずみあ
第八章:幾億光年の彼方、異世界の宇宙
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281:北端を目指す

 俺達は魔導学院を出てから、ゆっくり北上しつつの小旅行を計画していた。

 ヴィルシーナ魔導国は俺達の世界で言うならイギリスにあたる島で、魔導学院はロンドンの辺りだ。

 目指すは北端。空間転移で一気に行く事も出来るが、俺は正直言って旅そのものも楽しみたい。


 他の皆もそれには同意なようで、街中は徒歩で、それ以外は馬車で行くことになった。

 馬車……馬車かぁ。すぐに用意できる馬車と言えば死者の王の馬車だが、アレはデザイン的にどうもなぁ。

 かと言って何処かで借りたりするのも返す手間があるし、買ってしまったりするのはもったいない。


(ほっほっほ! そういう時こそわらわの出番じゃな)


 俺の脳内に声が響く。初めて聞く声だが、こんな真似が出来るのは人外の存在しかいない。

 となると、契約したはいいが未だに挨拶すら出来ていない残りの精霊って事か……。


(ご明察じゃ。わらわは木の精霊ククノ。わらわならば、即座に立派な馬車を作る事が出来るのじゃが)


 そうか。ならば早速お願いするとしよう。――おいでませ、木の精霊ククノ!

 俺は心の中で念じる事で召喚を成す。正直、周りに人が居るような状況でそういうのはやりたくないしな。


『呼ばれて飛び出てククノ様じゃ! こうして直接言葉を交わすのは初めてじゃのぅ、御主人よ』


 出てきたのは、今までに出てきた精霊達と同じく、小さな少女型の精霊だ。

 何処か俺達の世界の和装……しかもかなり大昔のタイプによく似た衣装を身に纏っている。

 例えるなら――そう、卑弥呼だ。やっぱこの世界、和風の文化存在してるだろ……。


「あぁ。改めてよろしくな、ククノ」

『早速じゃがわらわの力を見せてやろう! 精霊樹よ、わらわのために力を貸すのじゃ!』


 右手に派手な装飾の扇を召喚して手に取ると、それを勢い良く振り下ろした。

 直後、地面に空間の穴が開き、そこから幹が太くしっかりした大きな木が一本生えてきた。

 物凄く瑞々しく美しい新緑の木だ。植物に詳しくない俺でも、そう感じる程に綺麗だ。


 精霊樹って言ってたから、おそらくは裏界に生息している特殊な木って事なんだろうな。

 だが、木がその姿を見せた直後、全体が光に包まれていき、瞬く間にその姿を変えて行く――。

 どういう原理か、光が収まった後には一台の立派な馬車が用意されていた。


 これはつまり、精霊樹を変形させて馬車に替えたって事なのか?

 しかも、ファンタジーでよく見る幌馬車ではなく、昔の日本で見た儀装馬車のようなデザインだ。

 儀装馬車と言えば、かつて皇族の儀式で使ってたやつだ。テレビで見た事あるぞ。


『かっかっか! 遠慮なく使うがいい、ご主人』

「助かる。にしても、このデザインはククノが考えたのか?」

『うむ。ふぃーりんぐ、というやつじゃな!』


 外見からして和風っぽさを感じさせたが、作るものまでそれっぽいとは、実に分かりやすい。


『人間界ではめったに見られんじゃろ、精霊樹で出来た馬車は』

「すまんが、俺は異邦人だしこっちの世界の常識をあまり知らないんだ。その精霊樹とやらがどれくらい貴重なのかが良く分からないんだが」

「精霊樹は基本的には裏界にしか存在しない。力ある木の精霊が召喚するくらいしか、こちらの世界で拝む機会は無いね」


 リチェルカーレが解説を挟んでくれる。他には、精霊に頼んで裏界から取ってきてもらう方法があるらしい。

 ただ、今回のククノのように木を丸ごと召喚するのとは違い、それだとせいぜい端材や枝を入手するのが精一杯との事だ。

 であるが故に、人間界で流通する事になる精霊樹には毎回とてつもない金額が付けられるという……。


「凄まじいんだな……」

「強度もル・マリオンの木々とは比にならないからね。下手したら並の剣より精霊樹の枝の方が強いくらいだよ」


 リアルに『木の枝で剣を叩き折る』が出来るって事か。テクニックとかじゃなく、ゴリ押しで。


「馬車はいいとして、馬はどうするんだ……? あ、王の馬は却下で」

『……ぬぅ』


 空間の穴を開こうとしていた死者の王を先んじて止める。あの骸骨馬はビジュアルが怖すぎる。

 エンデのような場所へ行くのならともかく、普通に町に入るのは止めておきたい。


(馬……なら、私の出番……。私だけ……まだ呼ばれてない。出番、欲しい……)


 再び脳内に響く声。私だけまだ――と言う事は、契約した精霊の内七人は呼び出した事になるのか。

 雷の精霊ワイティ、水の精霊ヴァルナ、炎の精霊ウェスタ、闇の精霊タルタ、光の精霊ミスラ、風の精霊アウラ。

 そして今回初めて呼び出した木の精霊ククノ。となると、残るのは地の精霊という事か。


『そう……。そして、私がその……地の精霊、パチャマ……』


 今度は念じても居ないのに出てきた。何やらミノムシみたく茶色い袋に入ってるな。


『こやつは基本的に怠惰なのじゃ。こうして出てくる時すら布団から出ようともせん……』


 袋じゃなくて布団だったのか。布団と同じ茶色い髪はまるで寝ぐせの如く大きく広がってしまっている。

 トロ~ンとした眠そうな目付きで、口調も寝ぼけたような感じだ。ホントに大丈夫なのか?


『大丈夫。馬車を引かせるなら大地の眷属が一番』


 うわ、急にシャキッとしたよ。


『ご主人の前でみっともない姿は見せられない。ちゃんと役に立つ』

『あ、あのぐうたらが……まともに動いているじゃと!?』


 布団がマント状になり、ボディコンドレスのような衣装を纏った体が現れる。

 髪もサラリとした性質に変化し、表情も凛としたものになっていた。変わり過ぎだろ……。


『おいで、ユニコーン』


 パチャマが呼び出したのは、ずばりユニコーンそのものだった。

 額に鋭い一本の角を持つ大きな白馬だ。確か、俺達の世界の伝承だと『処女を好む』とかいう伝説があったっけ。

 ユニコーンは出現早々に鼻をクンクンさせると、パチャマに向かってニヤリと微笑みかける。


『安心して、ご主人。この子によると、この場に居る女の子達はみんな大丈夫みたい』

『良かったのぅ、ご主人。まだ誰も手籠めにはされておらぬようじゃぞ』


 パチャマの報告とククノの煽りを耳にして、女性陣達が思わず股間を手で押さえて一斉に俺の方を凝視してくる。

 リチェルカーレですらも例外じゃなく、皆と同じようなリアクションだ。やっぱこっち方面はとことんに初心なんだな。

 ってか、なんでそこで俺に振るんだ……。まるで俺がみんなの何々を狙っているような感じになるじゃないか。


「いや、そういうのはいいから馬車を引いてくれないか……って、ユニコーンは男の言う事を聞かないんだったか?」

『確かにユニコーンは『処女』を好むけど、この子の場合は『男の処女』もイケる口だから』


 ユニコーンと俺の目線が合う。その瞬間、奴がニヤリと笑みやがった……。やめてくれ!

 俺は確かに『そっち』の経験はないが、あんな大きな馬のモノ――とても耐えられる気がしない。


『ちなみに死霊でも精霊でも問題ないって』


 うわ、さっきまで姿を見せていた王が一瞬で空間の中に姿を消したぞ。

 ルーの肩にちょこんと乗っかっていたヴェルンカストも裏界に帰りやがった。

 男連中が俺だけ残して消えた……。くそっ、人外共め。


 ……もう一度言うが、ホントに大丈夫なのか? この馬で。

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