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異世界の流離人~俺が死んでも世界がそれを許さない~  作者: えいりずみあ
第七章:唐突に始まる学園モノ? 魔導学院編
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277:果てしなき裏界

 激しい地震と共に、今度は地平線の彼方から超巨大な山がニョキニョキと生えてきた。

 その山からは滝のように水がこぼれ、こちらに向けて勢いよく流れてくるが、途中に障壁でもあるのか透明な壁にぶつかって止まり、左右に分かれて流れていった。

 これはつまり、その超巨大な山は水中から地上に出現したという事になる。まさかとは思うが、アレも『生きている何か』だって言うのか?


 その威容たるや、高さ数万メートルはあるであろうクサントスよりも遥かに高く、俺の視界の空の大半が覆われてしまう始末。

 もし地球であったならば、成層圏を突き抜けて熱圏にまで届くんじゃないだろうか……。デタラメ過ぎる大きさだ。

 と言うか、アレは一体何なんだ。アレも精霊の一種なのか? だとしたら、その非常識な見た目もわからんでもないが。


『んー、ここからじゃ分からないよね。少し離れた場所から見てみよっか』


 アウラが俺達を透明な球体で包み込むと、あっと言う間に上昇して空の彼方にまで飛んで行ってしまう。

 すげぇ。一瞬であのクサントスが小さな虫みたいになってしまったぞ。他の精霊達に至ってはもう姿形すら確認できない。

 上昇するにつれて徐々に見える島の全景。どうやら楕円形をしているようだが……おいおいおい、ちょっと待て。


「何だよこれ! 島じゃなくて、亀……?」

「えっと、私は夢でも見ているのでしょうか……」


 俺はもちろんの事、エレナもこの光景に唖然としている。リチェルカーレは一人ニヤニヤしているが、元々知っていたんだろうな。

 楕円形の島の四方から、海の中に影として浮かび上がる手足が見える。尻尾らしきものが見えるのが後方か。

 さっきまで俺達が居たのは、どうやらとてつもなく巨大な亀の甲羅の上だったようだ。という事は、さっき見えた巨大な山は……。


『うん、あの子の頭って事だね。ちょうど居眠りから覚めて動き始める所みたい』


 あぁ、確かに亀の頭部が見える。離れているからこそ普通の亀に見えているが、甲羅の上に降り立つとあんな感じに見えるのか。

 クサントスのウン倍もありそうな程の大きな頭部を持つ超巨大な亀の全体をしっかり見る事が出来るって事は……今どれくらいの高さに居るんだ?

 裏界には宇宙という概念が存在しないのか? これだけ上昇してもまだ青空が広がっている。地球ならばとっくに宇宙に出ているだろうに。


 だが、信じられない事はまだまだ続く。アウラの力でさらに上昇を続けると、やがてその亀すらも子亀のような大きさとなり、海の全景が見えてきたが、そこでやっと知る事になるこの海の事実。

 そもそも亀が漂っていたのは海などではなかったのだ。何せ、海の『端』が見えるのだ。つまり、ここはほぼ円形状の『湖』だったと言う事になる。しかも、その湖には他にも十匹近い亀が泳いでいる……。

 もちろん、それらの亀もただの亀じゃない。体長にして数万メートルはあろうクサントスが余裕で駆け回れるほどのデカい甲羅を有する亀とほぼ同じくらいの大きさの亀だ。


『さっきまでご主人が乗っていた子はエン。あっちに居る子がトゥー。で、そっちの子がトレーで……』


 アウラが順に亀を紹介していってくれるが、正直どの亀も同じような姿にしか見えな――いや、甲羅の上の様子が違うのか。

 俺達が居たエンという亀の上は夏といった感じだったが、他の亀は桜のように桃色が見えて春っぽかったり、秋のように紅葉してたり、冬の如く雪に覆われていたりする。

 なるほど、そうやって棲み分けている訳だな。ちなみにこの湖全体もまだ『風の領域』の区画らしい。と言う事は、湖の外にも世界が広がっているという事なのか。


『じゃあさらに外に行ってみよっか』


 アウラはさらに湖から離れていく。やがて何やらガラスのように透明な壁を抜けると、湖が透明なドームに覆われているのが見えた。

 そこで景色は一変した。空は何やら淡いピンク色に染まっており、無数のキラキラ輝くものが見える。まるで宇宙の色をそのまま染めたかのような光景だ。

 一方で湖のドームの周りは黒いような青いような、濃い色の地面に建てられているようだ。左を見ると、その地面が果ての方まで続いている。


「……おい。まさか『湖』も一つじゃないって事か?」


 右側を見ると、同じようなドームが奥の方に四つ並んでいるのが見える。おそらく、大きさは同じくらいだろう。

 そんな大きさの湖を五つ並べてなお、大きくスペースに余りのある広い地面。風の領域の『大陸』は想像以上に広かった……。


『湖はそっちだけじゃないよ。反対側にもあるし』


 アウラの言葉に振り返ると、確かに俺達の背面側にも五個のドームが並んでいるのが見えた。

 合計十個か……。五個ずつ二列に並んでるんだな。しかし、それ以外の構造物は何も存在しない地面なんだな。

 ふと横をチラッと見てみると、エレナは小さく口を開けた表情のまま完全に固まってしまっていた。


 信じられないって感じだな。俺も正直この状況をどう表現して良いのか分からないくらいに混乱しているぞ。

 数万メートルの馬。その馬が余裕で駆けまわれる程に巨大な甲羅を持つ亀。その亀が十匹くらいスイスイと泳げる湖。

 そして、そんな湖が十個存在……規模がデカ過ぎてもうわけわからん。もう宇宙とかのレベルになってないか?


「残念ながら、驚くにはちょっと早いかな……。アウラ、リューイチに『アレ』を見せてやってくれないか?」

『あいあいさー。元からそのつもりだったし、さらに外へ行ってみよっか』


 一瞬、世界がブレる。気付いた時には、俺達は完全にピンク色の空間の中に放り出されていた。

 遠方にキラキラしているものが見えるものの、近くに目立ったものは……いや、一つだけ存在した。

 ピンク色の空間を泳ぐ『魚』だ。俺が知る魚で例えるならば、サンマのような姿をしている。


「あの魚の背の部分をよく見てみるといい。面白いものが見えるよ」


 リチェルカーレに言われて目を凝らすと、背の部分にちょこんと飛び出たイボのようなものが見える。

 数は五つ……五つ? 横から見てのその数……おい、まさかそれって――


『気付いた? さっきのドームはあの子の背中にあるんだよ。風の領域とは、つまりあの子そのものの事を言うんだ』


 風の領域とはあの子そのもの……は? つまり、裏界における各種領域とは、超巨大な生物の上に作られたものだったという事か?

 言い換えれば、裏界自体はこの『ピンク色の宇宙みたいな空間』そのものでしかなく、俺が良く知る現実の宇宙のように大半は何も存在しないって事か。

 宇宙空間に存在する惑星の代わりが、このサンマみたいな超巨大生物に置き換えられていると言った解釈でいいのか……?


『ちなみにあの子はコロラビスって言うんだよ。あたしはコロちゃんって呼んでる』

「コロちゃんて……」


 あのとてつもなくデカかった湖を背に十も乗せた上で、なお前後に有り余る体長。遠景だから分かりづらいが、実際アレはどれくらいの大きさ何だろうか。

 最初は数万メートルにも及ぶ体長のクサントスにビビったものだが、あのコロラビスを前にしたらクサントスですらチリみたいなものなんだろうな。

 と言うか、こういう状況で『背中に何かを乗せてる超巨大な生物』って言えば、普通はクジラとかじゃないのか? なんでサンマみたいな形状の魚がチョイスされてんだ。


『ちなみに、コロちゃんのような存在は厳密には精霊とは違うからね。裏界における世界の構成要素みたいなもので、契約したり召喚したりは出来ないんだよ』


 もしコロラビスを現世に召喚出来たら、それだけでル・マリオンが消し飛びそうだよな……質量的に。

 計算してみた所、あの湖ですら俺達が住んでいた地球がスッポリ収まってしまうくらいだろう。

 間近で見てクサントスの大きさは把握出来てるから、それを元にして計算すれば大体の大きさは推測できるしな。


 俺の推測だと亀たちは大体千キロメートルくらい。その亀が悠々と泳げる湖は二万キロメートルくらい。

 その湖が背に並ぶコロラビスは……ざっと百万キロメートルくらいはあるだろう。確か月までの距離が約三十八万キロメートルだったか。

 往復してなお有り余るな。目だけで並の惑星よりもデカいぞ。間近で見たら、それは凄い恐ろしい光景なんだろうな……。


 ル・マリオンという異世界だけでも広大なのに、さらにこんな広大な世界があるとか、全てを見て回るにはいくら時間があっても足りないな。

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