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異世界の流離人~俺が死んでも世界がそれを許さない~  作者: えいりずみあ
第七章:唐突に始まる学園モノ? 魔導学院編
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274:クーの力

「治療とは言っても、マーナはあの精霊のオーラの中ですよ? 一体どうやって……」

「こうやって、です」


 エレナは無言でアンティナートを開き、力を解放。

 法力で濃密な障壁を形成し、強引にクーの発する力の中へと入っていく。

 風の刃と稲妻が障壁を激しく撃つが、かろうじて耐えている。


(こ、これは想像以上の力ですね……。本当にこの精霊がクラスで最弱なのでしょうか?)


 徐々に障壁が削られるのを感じ、エレナはさらに力を解放して障壁を強める。

 この時点で既に並の神官であれば数百人は必要であろう程の凄まじい法力を使用している。

 今のクーの発する力は、それこそ上級精霊にも迫るほどの苛烈なものだったのだ。


 何とか少しずつ歩を進め、中で倒れているマーナの下へとたどり着く。

 クーは暴走しながらも無意識にマーナを守っていたのか、彼の周りだけ荒れた力に晒されていなかった。

 エレナは彼を抱えると、駆け出すと同時に足元の法力を爆発させ素早く脱出した。


「大丈夫です。これなら何とか出来そうです」


 エレナはマーナを素早く診察し、この状態から自分であれば何とか回復させる事が出来ると確信。

 安全な場所まで離れた後、障壁を解いてその分の法力を治癒の方へと集中し始めた。

 マーナは腹部を深く損傷していたが、エレナであれば極端な話、部位欠損すらも回復させる事が出来る。


 傷の治療自体は即済ませる事が出来たが、マーナは精魂尽き果てた状態のためか、すぐには目覚めなかった。

 エレナは傷のみならず疲労を回復する事も出来たが、精神的な摩耗までは本人の意識に賭けるしかない。


「良かった。後は彼ですが、一体どうすれば良いのでしょうね……」


 レーレン教授が口にするのは、言わずもがな現在暴走中のクーの事である。

 エレナのような例外でもなければとても近付く事さえできない状況。

 安全を第一に考えるのであれば、今すぐにでもクーを倒してしまうのが手っ取り早い。


 しかし、暴走する力は攻撃の役割と同時に強靭な防御も兼ね備えている。

 騒動を聞きつけてやってきた教授達がクーに向けて攻撃魔術を放つも、全てが弾かれてしまう。

 暴走を収められるかもしれないマーナは、まだ気を失ったままの状態となっている。


「いっその事、このまま待つのはどうでしょう? 疲れて、暴走が収まったりしませんか?」


 治療班の職員が案を口にする。しかし、レーレン教授は首を横に振る。


「いえ、精霊の暴走とは力の開放です。強まる事はあれど、弱まる事はありません。そして、最後は力を使い果たして、完全に消失してしまいます」


 精霊はいわば『力』が形を成した存在。その形の根源である力を使い切ってしまえば、当然消えてしまう。

 これが死亡などによるアクシデントであれば、その精霊だった力の残滓が一旦裏界に戻されてしまうだけで済む。

 そのため、しばらくすればまた現世に戻ってこられるのだが、消えてしまえばそうもいかない。


「精霊術師学科の教授として、精霊を本当の意味で死なせてしまう事は出来ません。何とか救う方法を考えないと……」


 レーレンが首を捻って悩み始めたその時、頭上から何かが割れるような音が響いてきた。


「あ、あれは空間の亀裂! まさか、あの精霊の力に反応してるのでしょうか?」

「タイミングからしてそうとしか思えませんね。割れて穴が開いてしまったら大変な事になりますよ」

「まさか、あの精霊の力がそれほどまでに至るとは……」


 空間の穴と言えば基本的に『別の次元に繋がる入口』とされ、最も多いケースは隣接する魔界に繋がる穴が開くというもの。

 魔界に住む存在は総じて好戦的であり、特に『魔物』と呼ばれる知性の乏しい怪物達はこちらの生命を喰うべき獲物と認識している。

 そのため、人間達も己の命を守るために立ち上がり、結果として規模の大小はあれど必ず戦いが起きる事になる。


 空間の穴は自然発生する事もあれば、特殊な術で開く事も可能。そして、力によって強引にこじ開けてしまう事も可能だった。

 特にここは学園の真上。こんな所にそのような恐ろしい者達が出てくる穴が開いてしまったら間違いなく大惨事だ。

 暴走するクーを止める方法も思い浮かばず、上空に生じた空間の亀裂もどうする事も出来ず絶望したその時の事だった。



『あ、あのー。リューイチさんに言われてきたのですが、私に何かできる事は……』


 突然小さな白い精霊が治癒中のエレナの眼前に出現する。その精霊は銀色の髪をなびかせた小柄な少女の姿をしていた。

 彼女こそ、竜一が派遣した光の精霊ミスラであった。しかし、この場において彼女が一体何者かであるかを知る者は一人も居なかった。

 エレナも竜一が精霊と契約した事くらいは聞いていたが、具体的にどんな精霊と契約したかでまでは聞いていなかったのだ。


「竜一さんが契約している精霊さんですね。実は――」


 とは言え、精霊が竜一の名を出したため、エレナは彼女が竜一の契約精霊なのだと判断し、信用する事にした。

 また、可愛らしい見た目とは裏腹に強い力を宿している事も感じ取ったため、この窮地を打開する救世主にも思えたのだ。

 マーナの治療に手を割いているため、エレナはまだ動けない。ここはミスラに頼るしか無いため、事情を説明する。


『そ、それは大変です! あの子は風の眷属のようですが、私でも何とか出来るかもしれません』


 そう言ってミスラは両掌の間に小さな光球を生み出し、それをクーに向けて発射する。

 激しく渦巻く力の本流を突き抜けてクーの本体に接触すると、クーを中心にして渦巻く力ごと光球が包み込んでしまった。

 光球は非常に強い力で作られており、クーの力では傷一つ付ける事が出来ず、それどころか抑え込んでしまう程だ。


(嘘、あの激しい力の奔流を容易く抜けた……?)


 実際にアンティナートを用いてまで突撃したエレナからすれば、ミスラがやってのけた事が信じられなかった。

 並の神官であれば数百人分にも匹敵する凄まじい法力を使ってやっと突破したものを、軽く作ってみせた光球であっさりと。

 エレナがミスラに対して戦慄する間にも、光球は徐々に縮小して、中に居るクー諸共『力』を強引に封印してしまった。


 光球はやがて手のひらサイズにまで小さくなってしまい、フワフワと飛んでミスラの元へと戻ってくる。

 手のひらサイズとは言っても人間基準なので、ミスラからすれば両手で抱えなければいけない程の大きさの球ではあるのだが。

 しんどそうに光球を抱え込む彼女の様子からは、とてもクーを封じ込めたほど大きな力を持っているようには見えない。


「暴走していた精霊は……?」

『だ、大丈夫です。今はこの中に封印してあります』


 エレナはミスラから光球を受け取る。光球の中には、ぼんやりと淡い緑色に光るモヤのようなものが渦巻いている。

 既にクーという個体の形は失われており、知らぬ人から見ればただ力を宿した宝玉のように見えるだろう。


『さ、さっきの子は『力の塊』に戻させて頂きました。そうしないと、消滅してしまいそうでしたので』

「それは元に戻す事が出来るんですか?」

『は、はい。力の塊になってしまった子は、一旦――』


 ミスラが手段を説明しようとした所で、彼女達の眼前に空間の穴が開く。


「やぁ、今はどんな状況かな?」

「よぉエレナ。なんか久しぶりな気がするな」

「リューイチさん! それにリチェルカーレさん……」


 思わずエレナの目が潤む。正直、彼女では手に余る状況だったのだ。この状況での助っ人はまさに天の配剤。

 特にリチェルカーレはどんな状況でも何とかしてくれる心強さがある。しかし、エレナにとっては――

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