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異世界の流離人~俺が死んでも世界がそれを許さない~  作者: えいりずみあ
第七章:唐突に始まる学園モノ? 魔導学院編
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264:問題児達、平原を往く

 放り投げられ、ゴロゴロと転がされる生徒の頭部。

 動きが止まった所で、一瞬にして失われた肉体が再生されて元に戻る。


「お、俺……生きてる!」


 復活した生徒は、両手を開いたり閉じたりして、己の身体が確かに『在る』事を確認する。


「他のみんなも理解したかい?」

「はい」「はーい」「わかりました」「うっす」「了解です」


 さっきとは打って変わって、声こそ震えているが個人個人が全くバラバラの返事を返す。

 良い態度とは言えない生徒もいるが、個性が現れたこの状況を良しとしたのか、リチェルカーレは満足げに頷いている。

 あろう事か、恐怖によって心が壊れてしまった生徒達を、同じく恐怖で強引に戻しやがった……。


「よし、それじゃ郊外のダンジョンに向けて出発だ。各々好きなルートを選んで行くといい」


 俺は資料として実習の行程表を手渡されていた。それを見てみると、近隣の地図が描かれている。

 平原を抜けると森があり、森の先は峡谷となっていた。その深部に目的としているダンジョンがあるようだ。

 目の前に広がる平原や森はともかく、峡谷は真っ直ぐ突き抜けるのが難しいため、ルート選択が重要。


 地図を見る限りではいくつもの道があるようだが、俺にはどの道がどういう感じなのかが全く分からない。

 生徒達もその辺に関しては初見のようで、各々のグループが何処へ行くのかを相談している。

 峡谷のルートの入り口が何処にあるかによって、自動的に平原や森をどう進んでいくのかも決まってくる。


 ちなみに俺とリチェルカーレは強引に直線距離で突き抜ける事になっているらしい。

 生徒達を変に緊張させないよう、都市内と同じく追跡虫による監視で様子を見る方針だ。




 ・・・・・



 どうにもクラス内のパーティ同士が互いをライバル視しているようで、いずれも別のルートを進み始めた。

 このクラスで分けられたパーティは四班存在し、それぞれ攻撃力、防御力、魔術、法術と、重視するものが全く異なる編成だった。

 とは言え、それぞれのパーティ内に前衛と後衛はバランスよく存在し、魔術師も神官も揃っていて安定性という意味では無難。


 ……ただ、それぞれの考え方が異なるだけだ。実際にその様子を見てみるか。




 攻撃力重視のパーティはとにかく攻めて攻めて攻めまくる構成だ。モンスターが出現したら率先して攻撃を仕掛けている。

 相手が何かする前に倒してしまえば防御力も小細工も何も必要が無い。攻撃は最大の防御とは良く言ったものだ。

 だが、それが通じているのは相手モンスターが弱いからであって、最初の奇襲で倒せなかった強敵が現れた時は困るだろうな。


 防御力重視のパーティはまず相手の出方を伺い、確実に受け止められる攻撃は受け止める事で隙を作り出している。

 攻撃を止められた瞬間は防御力がおろそかになってしまうから、そこを狙えば多少ばかり攻撃力が弱くても確実に痛手を与えられる。

 だが、軽く受け止められないような攻撃を繰り出してくるモンスターが相手では、その防御で固めて下がった素早さが仇になる。


 魔術重視のパーティは軽い魔術でモンスターの牽制をしながら、前衛を務められる者が立ち塞がって足止めを行っている。

 一人が後方で大きな魔術を練り、最終的なトドメを決めるパターンのようだ。これは前衛と後衛が互いに信じ合っていないと出来ない戦術だな。

 ただ、魔術に耐性のある相手が現れた場合、前衛を主体にして戦わなければいけなくなるが、魔術傾倒だと苦戦を強いられるだろう。


 法術を重視するパーティはとにかく自陣の強化と敵の弱体化を行い、双方の戦力差を広げて苦戦する要素を減らしてから戦うように動いている。

 堅実な戦い方だな。勝てる要素は可能な限り増やした方が良い。おかげで攻撃も通りやすく、防御も強化されていて安定感が凄い。 

 ただ、弱体化が通じない敵だったり、こちら側の強化を無効化してくるような敵に出会ってしまったら、途端に脆くなってしまうだろうが。


「へぇー、良く見てるじゃないか。ちゃんと戦術の勉強もしてるみたいだね」

「当たり前だろう。お前らに比べたら俺なんてまだまだ雑魚だ。出来る事はちゃんとやってるさ」


 俺達は直線距離で突き抜けるため、生徒達の動きに合わせて絨毯でゆっくり上空を飛んでいる。

 これならば、もし生徒達が危機に陥ったとしても、この位置からフォローが出来る。

 リチェルカーレの魔術はもちろん、俺も重火器での狙撃くらいならば援護する事は出来そうだ。


「お、早速苦戦する敵に遭遇したパーティが居るみたいだな」


 目をやると、森付近で攻撃型のパーティが大きな亀のようなモンスターに苦戦している。

 露出している手足も硬い鱗に覆われており、攻撃力にものを言わせて戦う者達には相性が悪かった。

 さらに、その亀自身が魔力による防護膜を張り、ただでさえ硬い守備を鉄壁にしていた。


 圧倒的な相性の悪さに、パーティは離脱を選択。結果としてそれは正解だった。

 亀は防護膜を張った直後に酸を吐いたのだ。もしこれを受けていれば武器防具はボロボロだ。

 自分の防御力をさらに高めた上に相手の攻撃力を下げる。法術パーティみたいな奴だ。


「……あの子達は無事に逃げたようだね。じゃあ、害獣駆除はアタシがやるか」


 リチェルカーレが小さな魔力球をデコピンのように弾く。

 まるで弾丸のように高速で飛来したそれは、上空から的確に亀の脳天を撃ち貫いた。

 ズズンとその場に倒れる亀。当然、逃げ出した生徒達はこの事に気付いていない。


「スゲ……。あんな硬そうな亀が一発かよ」

「世の中は広い。あのくらいの硬さじゃベスト十にも入れないよ。リューイチはそっちを頼むよ」

「そっち……? ん、あいつは……」


 防御力重視パーティが襲撃を受けている。相手は初心者用の学生ダンジョンのボスだったオーガだ。 

 さすがにオーガの一撃は重く、攻撃を受け止めようと前に出た生徒が一発で弾き飛ばされ地面を転がされている。

 魔術師が隙を突いて攻撃魔術を放つも、オーガの強靭な肉体はビクともしなかった。


 森付近だった事もあり、生徒達は木を倒して障害物とする事でオーガから逃げる時間を稼いだ。

 生徒達が離れたのを確認し、俺は狙撃銃を召喚して構えると、弾丸に可能な限りの闘気を込めてから撃った。

 もちろん狙うはヘッドショット。重力による加速も加わってか、オーガのその頭は綺麗に吹っ飛んだ。


「戦っている最中に干渉したら『教師による支援』になってしまうけど、戦いが終わった後なら問題ないな」

「そういう事さ。アタシらはただ、うろつかれては危険なレベルのモンスターを処理しているだけだ」


 あくまでもこの行程は課外実習だ。リチェルカーレの指導のように、理不尽を与えるのが目的ではない。

 だからと言ってあれこれ干渉してぬるま湯にしてしまっては意味がない。死なない程度に過酷なラインは維持する必要がある。

 他のパーティも理不尽な強敵に遭遇して逃げ出したが、それらのモンスターは先程と同じく俺達で密かに排除しておく。


 森に近いとはいえ草原にまで出てきたのだ。そのまま獲物を求めて街道にまで行ってしまっては交通に支障が生じる。

 原因を作ったのが俺達ともなれば、その責は学院にまで行ってしまう。さすがにそこまでは迷惑は掛けられん。


「さて、みんな森に突入したみたいだね。ここからは追跡虫の映像の方が見やすいかな?」

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