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異世界の流離人~俺が死んでも世界がそれを許さない~  作者: えいりずみあ
第七章:唐突に始まる学園モノ? 魔導学院編
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263:問題児の教育

「やぁ、リチェルカーレ。調子はどうだい?」


 俺は軍隊のような生徒の様子を見た後、リチェルカーレに声をかけた。


「おや、リューイチじゃないか。母様の差し金ってところかな」

「筒抜けか……。まぁいいや、その上で同行させてもらうけど、いいか?」

「構わないよ。アタシの副担任役としてついてくるといい」


 副担任て。生徒達からは特に何のリアクションもないが、反対はされていないと見ていいのか?

 いや、よく見ると揃って能面のような面をしていて、そもそもこちらすら見ていない。


「おい、リチェルカーレ。一体生徒達にどんな教育を施したんだ……」

「別にたいした事はやっていないよ。冥王のゆりかごを使って抵抗する気が無くなるまで幾度となく殺したくらいさ」

「……俺にやった荒行よりえげつねぇ」


 俺の場合は、法力を駆使して痛覚を遮断できる。そして、修行と言う事であらかじめ何度も殺される覚悟が出来ていた。

 だが生徒達は何の覚悟もなかった状態で、痛覚を遮断される保護措置もなく殺され続けた訳だ。そりゃあ心も壊れるわな。


「仕方が無いだろう。ベテランの講師達ですら匙を投げたような悪童達だ。正攻法でどうにか出来なかったから、母様はアタシに任せたんだ」

「なんか人形みたいになっちゃってるが、ちゃんと生徒達は元に戻せるんだろうな……?」

「それに関しては大丈夫だと思うよ。あくまでも壊れているように見えるのは『アタシの前』だけだし」


 ばつが悪そうに後頭部をポリポリするリチェルカーレ。


「さぁ、とりあえず出発しようか。まずは都市を巡って冒険の準備をする所から始めるよ。一時間後に都市正門に集合だ」

「「「「「はい! 先生!」」」」」」



 ・・・・・



 威勢の良い返事と共に、各々組んだ仲間達と都市の各所へ散っていった。

 しかし、講師役であるリチェルカーレは誰かについていくでもなく、じっとしていた。


「いきなりみんな行ってしまったが、見守らなくていいのか……?」

「安心するといい。コレがあるからね」


 リチェルカーレがパチンと指を鳴らすと、目の前にいきなり何かが発生した。

 目を凝らすと、非常に小さいものが大量に飛び交っている。これはいわゆる『蚊柱』というやつか?


「追跡虫と呼ばれるものさ。一パーティにつき一匹が付いて行ってる。この虫が見た映像と音声はアタシの下へ送られてくるんだ。」

「移動式の監視カメラみたいだな……しかも極小の」

「そう、その『カメラ』のサンプルを研究して改良したものだ。仕組みさえわかれば、応用を利かせられるからね」


 そういやリチェルカーレにはいくつか俺の道具を渡してたっけ。仕組みを解明して、魔術的に再現するとかで。

 日々合間合間に研究してたんだろうな……。地球の文明がこの世界を浸食する日もそう遠くはなさそうだ。

 俺が召喚された際に告げられた、まるで変革を促すかのようなミネルヴァ様の言葉の意図も気になる所ではある。


「基本的にはアタシの意識内に送られてくるけど、外部に出力する事も出来るよ」


 再び指を鳴らすと、飛び交う虫達の中から四匹が飛び出し間隔を開けて綺麗に並ぶ。

 各々の虫を線で結ぶと四角形になるような形だ。なるほど、スクリーンを形成したのか。

 そこへもう一匹の虫が飛んできて、プロジェクターのように映像を映し出す。


「なるほど。各々のパーティで行動に差が出てるな……。しかも、さっきとは違って活き活きとしてる」


 まずは攻撃力だとばかりに、真っ先に武器屋を覗きに行った者達。逆に防御を重要と考え、防具を厳選する者達。

 魔術を軸に据え、補助となる魔術道具を買う者達。はたまた、旅の無事を願ってか教会で祈る者達も。

 余談だが、神官が教会で祈ると聖性が増す事もあるらしい。神官自身の資質や、教会自体のランクにも左右されるらしいが。


「こんな感じで、生徒達もアタシから離れれば素に戻るんだよ」


 そういやさっき言ってたな。壊れているように見えるのは、リチェルカーレの前だけだと。

 リチェルカーレから離れたら素に戻るのなら、リチェルカーレが居なくなればそれで問題解決じゃないのか?

 俺はてっきり完全に壊してしまったのかと思ってた。対外的には影響がないのなら放置でいいのでは。


「さて、集合まで少し時間あるけど、キミはどうする?」

「そうだな。せっかくだし、学院からの依頼をギルドに報告しておくか」




 俺は再び学院都市の冒険者ギルドへとやってきた。

 ダンジョンの受付やエメットさんから手渡された依頼完了書をギルドの受付に渡す。


「はい、確かに。これでリューイチさんはCランクへの昇格となります」

「Cランクの昇格って確か『Cランク依頼を含む、十回の依頼達成』じゃなかったか?」

「本来はそうです。しかし、この依頼の達成はそれに匹敵する実績があります」


 そういや『実績が大きくなる』って言われてたっけ。依頼の報酬に付いた『色』と言うのは、こういう部分も含むのか。

 俺はカードを渡してDランクからCランクへのカードへと変えてもらう。これでもっと良い依頼を受けられるぞ。

 ついでに何か依頼を受けていくか。実習に同伴しつつ、さらなる実績を積み重ねていこう。


「へぇ、母様から依頼を受けてたのか。ここに滞在している間にやれる事をやっておくってのは正解だ」


 リチェルカーレも、滞在する合間に冒険者としての実績を積み重ねていたらしく、Cランクのカードを見せてくれた。

 他の仲間達も同様に冒険者活動をしているらしく、合間合間で色々な事に挑戦しているとの事だ。

 俺はいくつかの討伐依頼と採取依頼を受け、軽く買い物をして生徒達と合流する事になっている正門へと向かう。



 ・・・・・



 正門前では、まるで遠足出発前のように生徒達がザワザワしていたが、俺達が現れると共にピタリと静止。

 すぐさま綺麗に整列し、気を付けの姿勢でリチェルカーレを出迎えるその流れは、まさに訓練された軍隊のそれだ。


「準備は出来ているようだね」

「「「「「はい! 先生!」」」」」」


 リチェルカーレが話し始めると、生徒達は言葉が区切られる度に大声で返事をする。

 決まり事のように『はい先生』を連呼。そのうち「レンジャー」とか言い出さないだろうな……。


「んー、さすがにちょっと鬱陶しくなってきたかな……それ」

「「「「「!?」」」」」


 唐突に威勢の良い返事を否定され、生徒達の顔が一様に青ざめる。

 今まで散々その方針でやってきたのに、突然の掌返し。ブラックな現場によくあるやつだ。


「人形じゃあるまいし、壊れたように返事を繰り返すのは止めにしよう。見方によっては適当に流しているようにも見える」

「「「「「・・・・・」」」」」


 返事が鬱陶しいと言われたためか、何も言葉を発する事が出来なくなってしまった生徒達。

 しかし、数秒沈黙が続いた所で突然生徒の一人が爆散する。正確には、頭部を残してそれ以外が……であるが。


「「「「「ヒィッ!?」」」」」


 当然の事ながら、他の生徒達は恐怖におののく事になる。下手したら、次は自分がこんな目に遭うと想像してしまう。

 みんなこんな感じで何度も殺されてきたんだろうな。だが、殺されて終わりならばまだマシだ。

 だが、リチェルカーレの『指導』は、殺されるような目に遭っても死ねない。例え身体が爆ぜても、だ。


 リチェルカーレは地面に落ちた生徒の頭部を、髪をつかみ上げて自身の顔の前まで持ち上げる。

 普通に考えれば頭部だけになって人間が生存できるはずが無い。だが、その頭部は恐怖と苦痛で泣きわめいている。

 俺はもう『冥王のゆりかご』効果による不死化に完全に慣れてしまっているが、冷静に考えると異様な光景だ。


「……返事はどうした?」

「は、はひっ!」

「大声での返事は鬱陶しいと言ったけど『返事するな』とは言ってないからね? 返事はしろ」


 ……理不尽だな、おい。

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