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異世界の流離人~俺が死んでも世界がそれを許さない~  作者: えいりずみあ
第七章:唐突に始まる学園モノ? 魔導学院編
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247:お嬢様と上位精霊

 俺の目線は生徒達の座席の中程に座っている、ある一組へと向けられていた。

 金髪縦ロールの目立つ、制服を着用するいかにもお嬢様と言った雰囲気の生徒と、その横に居る銀髪をポニーテールに纏めたお姉様的存在。

 まるでビキニのように布面積の少ない衣装を身に纏うグラマラスな女性だ。おそらくは、お嬢様の契約精霊だろう。


『あら? もしかしてこのワタクシに見惚れてまして?』


 俺の視線に気づいたのか、精霊が身体をくねらせて俺を挑発してくる。

 やめろ、その挑発は……俺には効く。


『そうですわよねぇ。殿方であれば、そんなチンチクリンよりワタクシのような美しき者にこそ惹かれるというもの』

「ユピテルさん、お下品ですわよ。高貴なる者として、立ち居振る舞いには気を付けませんと」

『あらあら、ワタクシったら何とはしたない事を。これも、ワタクシが美し過ぎるが故に生じた罪と言う事ですわね。オーッホッホッホッ!』


 こんなテンプレートじみたオホホ笑いなんて初めて聞いたぞ。なんだ? これも精霊のキャラ作りなのか……。


「リューイチさんと仰いましたかしら? 下位の精霊とは言え精霊契約を成し遂げた事は褒めて差し上げますわ。ですが、その程度の身でユピテルに懸想するなど、分を弁えなさいませ」


 お嬢様然とした見た目通り、どうにも序列に対するこだわりが強いらしく、相手を見下すのが基本のようだ。

 近くで「そうだそうだ!」と同調している女子達が何人か居るが、いわゆるお嬢様の取り巻きというやつだろうか。

 よくよく教室内を見回すと、お嬢様と同様にこちらを敵視している者達がちらほらと見受けられる。


 どうやらその者達は教室内でも高位の精霊と契約をしている生徒らしく、隣には大柄な獣や幻獣、ユピテルのような人型の精霊が鎮座している。

 それ故だろうか。自分やハルのように小さな精霊と契約した相手の事を早々のうちに『格下』だとランク付けしたに違いない。


『ユピテルユピテル……。あー、もしかして、ゆっぴ~?』

『ア゛ァ゛ン!?』


 不穏な空気が流れ始める中、ボソッとワイティがつぶやく。

 その『ゆっぴ~』という呼称が自分を指したものだと気づいたのか、唐突にユピテルがキレる。

 己を高貴だと思っている者をあだ名呼ばわりするのは、一種の地雷なのだろう。


『下級のチビ風情がこのワタクシを愚弄するとは何と恐れ知らずな! その身に同じ雷の精霊として次元の違いを教えてやろう!』


 オホホなお嬢様キャラを早くも捨てたのか、荒い口調でユピテルが己が身に雷を纏わせる。

 そして指先からレーザービームのように凝縮された電撃が放たれ、ワイティの小さな身体を貫く。

 突き抜けた電撃が教室の前方に直撃して大爆発を起こし、校舎全体に大きな衝撃が走る。


「おいおい、こんな場所でそんな凄まじい魔術を放ったら……」

「だ、大丈夫です。魔導学院では魔術事故も想定し、各教室単位で強固な結界が張られていますので」


 教室の隅に身を伏せ、巻き添え防止の結界を展開しながら、レーレン教授が説明してくれる。

 教授の言う通り、教室正面の壁こそボロボロになっているものの、魔術自体は壁の中に仕込まれていた結界の所で消失していた。

 どうやら教室の中自体は修理しなければならないようだな。黒板などが既に跡形もなく消し飛んでいる。


『オーッホッホッホッ! 跡形もなく消し飛んで裏界へお帰りなさいな』

『ん~。さすがにリューイチと契約したばかりだし~、すぐ帰るのは嫌かな~』

『なっ!?』


 早くも勝ち誇るユピテルだが、土煙の中から現れたワイティは傷一つなくケロッとしていた。

 そりゃそうだろう。雷の精霊に雷を撃った所で効くハズが無い。ユピテルは怒りでそれすら失念していたのか?


『そ、そんな……同じ属性でも序列が上なら一方的に潰せるハズですのに……』


 いや、どうやら序列によっては効くらしい。詳しく知らずに適当言ったらダメだな、俺。

 つまり、力量の差があれば『炎をより強力な炎で燃やす』なども出来る訳か。


『行儀の悪い子は~、おしおきだよ~』


 ワイティがその場から姿を消すと、一瞬にしてユピテルの前に出現し、その小さな手でユピテルの頬を張った。

 軽い一発かと思いきや、弾丸ライナーの如き勢いで弾き飛ばされ、教室の背後の壁に突き刺さった。


「は……?」


 お嬢様が口をあんぐりしているが、俺も正直驚いている。

 小柄な見た目に反して凄まじいパワーだ。しかも瞬間移動までしたし。


『キイィィィィィ! 生意気ィィィィィィ!』


 身を起こし、両手に先程以上の電撃を発生させて吠えるユピテル。

 土埃にまみれ汚れた彼女は、もはや見栄も外聞も捨ててワイティを潰す事にのみに執心。

 付近に居た生徒達や精霊達が、巻き添えはご免だとばかりにその場を離れる。


『ん~、これ以上は雷使っちゃダメ~』


 しかし、ワイティの一言でユピテルの構築した雷が霧散する。 


『!? ど、どうなってる……? か、雷が作れない……』


 両手を掲げて『ウーン』と唸ったり、両手を前方に突き出して『ハァー』と声を出してみたりするが、何も起きない。

 ほんとどうなってるんだよ。置かれた状況に混乱するユピテルに対し、ワイティがゆっくり近づいていく。


『リューイチ、ごめんね~。これからちょっとこの子お仕置きしてくる~』


 そう言って、足元へ作り出した空間の穴へユピテルを引きずるようにして消えていった……。



 ◆



 数分後、穴からユピテルが弾き出されたが、その有様は酷いものだった。

 全身がボロボロになっており、表情も絶望一色に染まっており、ガタガタ震えている。

 続けてワイティがゆっくりと穴の中から出てくるが、それを見たユピテルは――


『ひぃっ! あぁ……やめ、やめて……! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい――』


 団子のように丸まり、両手で頭を抱えてひたすらに謝罪の言葉を繰り返している。

 一体何をどうすればあのキャラ付けされた精霊がここまで歪むんだ……?


「ちょっと貴方! わたくしの契約精霊に一体何をしてくださいましたの……? 事と次第によってはただでは済まさ――むぐ!?」

『ジニー! それだけはやめて!! あの精霊は、あの精霊は……――』


 ユピテルが羽交い絞めしてまでも主のお嬢様――どうやら名前はジニーと言うらしい――を止める。

 ごめんなさいを連呼する程酷い目に遭わされた相手に対して喧嘩を売るなど、今のユピテルからすれば自殺行為としか映らないだろう。

 同行者が軽はずみに相手へ文句を言った挙句、報復として己までも巻き込んでボコられたらたまったものではないからな。


『ねぇ、ユピテル。わかってるよね……?』


 ワイティの髪の奥に隠された瞳がギラリと光った瞬間、教室内に魔力の暴風が広がる。

 一瞬ではあったが凄まじい圧だ。リチェルカーレやローゼステリアさんのを経験してなきゃ卒倒するレベルだ。

 実際、生徒達が次々とその場に倒れ、精霊達も怯えて固まってしまう。一瞬で場を支配してしまった。


 何かを言おうとしていたユピテルも強制的に黙らされ、主であるジニーも倒れこそしなかったものの、恐怖で震えている。

 レーレン教授も教室の隅に座り込んだまま何の反応も返してくれない。もしかしてさっきので気を失ったか……?

 ハルはと言うと、彼女の前に陣取ったキオンが障壁を展開しており、ワイティの魔力をまともには浴びていないようだ。


 もしかして俺が召喚して契約した精霊は、可愛らしい見た目に反して、実はとんでもない奴だったのか……?

 ワイティがこんなんだとすると、シャフタやヴァルナ、そしてまだ自己紹介してもらっていない精霊達も同様なのか?

 俺、相当にヤバイ橋を渡る事になってしまったんじゃないだろうか。期待に勝る不安が生じてきたぞ。

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