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234:勇者召喚見学

『こんばんは、竜一さん』


 それは、俺が自室へ戻った直後の事だった。

 唐突にミネルヴァ様の声が脳内に響いたかと思うと、眼前に彼女の姿が浮かび上がった。


『お久しぶりですね。無事に召喚時の願いを果たされたようで何よりです。お疲れさまでした』

「あ、ありがとうございます……」


 いきなりの事だったため、俺は挨拶も忘れて立ち尽くしてしまった。 


『今までの行程はずっと見ておりました。短い期間の間に色々ありましたね』

「ずっと、見て……?」

『はい。貴方の行動は映像として私の元へと届けられていました。先日貴方に差し上げたチョーカー、覚えていますか?』


 チョーカーと言えば、ミネルヴァ様が直々に俺の首へと装着してくれたアイテムだ。

 後に首から外そうと思っても外せなかったから、女神の加護と思って仕方なく受け入れていたんだが…….


『ふふ、私は貴方の活躍を見たかったのです。だから、外されては困ってしまいますね』


 まさか、監視カメラ的なものだったとはなぁ。と言う事は、俺の恥ずかしい姿までもずっと見られてたという事か?

 風呂の時もトイレの時も、こっそり一人で致す時も、全て……。もはや俺のプライベートは存在しないのか。

 にこやかに言ってはいるが、この女神様なかなかにエゲつないぞ。もしかして『邪悪なる勇者達』の言う邪神って――


『私が邪神とは失礼ですね。確かにアレは私の『同族』ではありますが、一緒にはしないで欲しいものです』

「そうか、ミネルヴァ様は心が読めるんでしたね。ところで、邪神について何かご存じなんですか?」

『それを語るには、まず世界創世の段階からお話をしなければならない程にややこしいのですが、今それを聞きたいですか?』

「……やめておきます。翌朝出発ですし」


 邪悪なる勇者達の背後に居ると言う邪神についてはいずれ知らなければならないが、それは今ではない。

 それは置いておくとしても、このタイミングで接触してきたのは、単にお疲れ様を言いに来ただけとは思えないが。


『そうでした。竜一さん、せっかくですし『勇者召喚』に立ち会ってみませんか?』

「勇者召喚って、異世界の人間を呼び出すという、あの……?」

『はい、それです。今まさに世界のある所で勇者召喚の儀式が行われています。私は儀式の完遂と共にそれに応じる事になります』

「そう言えば、勇者召喚は召喚者の願いに応じてミネルヴァ様が異世界から対象を呼ぶんでしたね」


 既に召喚される側としての立場は経験しているが、召喚する側の立場は未経験だ。

 この先で経験出来るかどうかも分からないし、貴重な機会だ。是非とも立ち会ってみたい。


「お願いします」

『はい。ではもう一人好奇心の強い人を呼んで、勇者召喚を始めましょうか』



 ・・・・・



「やぁ、君も呼ばれたのかい。このイベントに」

「もう一人の好奇心の強い人ってのは、案の定お前だったか」


 ミネルヴァ様に連れてこられた異空間で、さっきぶりにリチェルカーレと再会。

 俺が召喚された時の真っ白な状態とは異なり、今回は空間全体がほのかに桃色に染まって見える。

 まるでスケベな夢とかで背景に展開される空間のようだ。どことなくアダルティな雰囲気。


『二人はそこでくつろいでいてください。そろそろ儀式が完遂すると思いますよ』


 ミネルヴァ様は何処からか机と椅子を召喚し、俺達はそこへ腰を下ろして様子を見守る事になった。

 ご丁寧な事に、召喚した時点で既にお茶とお菓子も用意されている。気配りが効く女神様だ。




『神よ。神よ! どうか我が願いをお聞き届けくださいませ!』


 少し待つと、俺達の居る空間に何処からか声が響いてきた。

 声の主は見えないが、声色からして老女だろうか。必死さの伝わってくる叫びだ。


『我が国は魔族達の侵略により窮地に立たされております! どうか、この状況を打破できる勇者様を……!』

『その願い、聞き届けましょう』

『!? ま、まさか……神様、なのですか!?』


 ミネルヴァ様が返事をすると、窮状を訴えていた老女が驚きに声を止める。

 神の実在が知られている世界観とは言え、いざその神から声がかかるとなると異常事態だ。


『貴方の必死な願いは私に届きました。必ずや、貴方達を救える勇者を送ると約束しましょう』

『あ、ありがとうございます! ありがとうございます!』


 甘いパンケーキを口に含みながら俺は様子を見守る。美味いなぁ、これ。

 神に願いを届ける儀式は、下手したら命を落としかねない程のものだと聞いている。

 あの老女は、それ程までに追い詰められていたという事なのだろう。


『では、竜一さんと同じ世界から『魔族達の侵略から国を救える』だけの器を持つ者を探し出しましょうか』


 ミネルヴァ様が目を閉じ、集中を始める。後で聞いた事だが、これで他世界における勇者の適合者を探しているらしい。

 条件に関しては色々複雑な要因があるようだが、少なくとも目に見えて悪党だと分かる者は避けるという。

 しかし、『邪悪なる勇者達』のように後から悪意を植え付けられて悪党に変わってしまうようなケースは防げない。


 さらに言うならば、全く悪意無く悪行を行えてしまうような人間は見抜くのが難しいとされる。

 根底から倫理観が狂っている者や、独自の価値観により世間一般では悪行とされる行為を心の底からの善意で行う者。

 そう言った存在は、うっかり過去に何度か通してしまっているとの事。おいおい、大丈夫なのかよそれは……。


『良さそうな子を見つけました。あとはこちらの世界へ誘いかけて……』


 俺がこの世界へ招待された時のように、まずは念話で相手に呼びかける事から始まるようだ。

 ここで拒否されたら無理には呼び込まないらしい。嫌がる相手を無理矢理に引き込んでもロクな事にならないからな。


『どうやら承諾してくれたようです。では、呼びましょう』


 ミネルヴァ様の眼前、頭くらいの高さに穴が開き、そこから下に向けて一人の少年が下りてきた。

 地面があるか無いかわからない不思議な感覚の空間に呼び出されたからか、あちらこちらを見回したり、足元を踏みしめたりして落ち着かない様子だ。

 金髪という容姿からして、少なくとも日本以外の国から召喚された感じだろうか。そりゃ外国人が呼ばれる事もあるだろうな。


「コ、ココハ一体何処デスカ!?」


 狼狽える少年に、ミネルヴァ様が説明する。大方俺が受けた説明と同じだったが、それに加えて勇者召喚の説明が行われた。


『貴方は魔族達の侵略から国を守るための勇者として召喚されました。貴方に『勇者の力』を与えますので、勇者として活躍して頂きたく思います』

「ユーシャ? オォ、モシカシテコレハ俗ニ言ウ『イセカイモノ』とか言ウヤツデショーカ?」


 どうやら召喚された外国人の少年は日本の娯楽にも通じているらしい。あえてそういう人を選んだんだろうか。

 ノリが良く理解の早いその少年は、ミネルヴァの言う事一つ一つにしっかりと頷き、最終的には条件を飲み勇者になる事を承諾した。

 言葉も日本語を話しているように聞こえるが、彼が日本語を習得しているのか、自動で翻訳されているのかは分からないな。


『ただし、あくまでも勇者の力は『成長するもの』です。最初はじっくり鍛錬を積んで、地道に力を付けてください』

「ワカリマシタ! 変ニイキッタリシテ、イキナリ死ナナイヨウニ気を付ケマス! トコロデ、ソコニ居ル二人ハドナタデスカ?」


 チャラそうな見た目に反して意外に謙虚だな。調子付いて早々に死にそうなイメージだったんだが。

 ちゃんと背後で様子を見ていた俺達の事にも意識を向けていたりと、なかなか真面目な奴なのかもしれない。


「俺は君と同じ世界から先に召喚された日本人だ。刑部竜一という」

「オー、ジャパニーズピーポー! 僕ハアメリカ人デ名前ハ『ジェームズ・スミス』ト言イマス! ヨロシクオ願イシマス!」

「もし向こうの世界で会う事があれば、その時はよろしく頼む。死ぬんじゃないぞ」


 ジェームズよ、どうか『邪悪な勇者達』に堕ちる事無く、健全な勇者道を歩んでほしい。


「アタシはリチェルカーレ。ちょっと意地悪な現地人……いわゆる魔女さ」

「マジョ! イワユル『ウィッチ』ッテヤツデスナ! コレハ面白クナリソウデスネ!」

「悪に堕ちたりしない事を願うよ。もし敵としてあった時は、決して容赦しないよ」


 本当に堕ちるなよ? コイツと敵対するってのは最大級の悪手だぞ……。


『では、貴方を必要としている国へと送りましょう。願わくば、救いを求める召喚者にとっての光でありますよう』


 ジェームズは「グッバイ!」とキザったらしく挨拶しつつ、召喚の光の中へと消えていった。

 ちなみに召喚先は秘密との事。彼に会うのを目的としてストレートにそこ行かれてはつまらない――という事らしい。

 仮に聞いたとしても行かないけどな。捜索もしない。今後会うのは、あくまでも偶然の方が面白いだろう。


 …それに、俺達が行く次の目的地はリチェルカーレが考えてあるらしいからな。

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