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021:依頼達成報告

「さぁ、腹ぁ決めたぜ! 煮るなり焼くなり好きにしろ!」

「わ、私もだ……!」


 お頭がその場で胡坐をかき、腕組みした状態で目を閉じる。観念したという意だろう。

 アニスもその場に座り、お頭と運命を共にするつもりで居るようだ。


「さて、この二人を護送する手配をしておいてくれるかい、村長」

「……え? あ、あぁ、はい。わかりました」


 呆然としていた村長が我に返り、準備をするべく村へと戻っていった。


「わ、私達を全滅させるんじゃなかったのか?」

「そうか。全滅したいのなら今すぐにでも全滅させてあげようじゃないか」


 リチェルカーレが右手に魔力を集めアニス達に向けるが、それを見た瞬間、当の二人は全力で首を横に振った。

 うん、それが正解だと思う。あの集められた魔力……間違いなく人を殺すだけの威力を秘めている。


「せっかくリチェルカーレの気が変わったんだ。大人しく国で裁きを受けなって」


 まぁ、その結果生きていられるかどうかはわからないんだけどな……。

 今まで相当な悪行を重ねてきたみたいだし、存命する形での刑罰は望みが薄いだろう。




 それから二人は若い衆に縛り上げられ、連れて行かれた。

 村長も戻ってきたが、戻ってくるなりリチェルカーレの方へ詰め寄っている。


「野盗を退治して頂いた事はありがたい……ですが、アジトを潰してしまっては困りますぞ! あそこにはまだ、村の者が生きて捕らわれておったかもしれんのに……」


 そりゃあクレーム受けるわな。俺達の目的は野盗を退治する事。だが、村人達からすれば捕らわれた同胞の救出や、盗品の奪還もあったハズだ。

 こればっかりは『その辺含めて依頼しなかった方が悪い』とバッサリ切り捨ててしまう事も出来るが……そこはリチェルカーレ。そんなに詰めが甘い訳が無い。


「焦らない焦らない。アレはフェイントだから実際は潰してなんかいないよ。アジトは無事だから安心するといい」


 そう言ってリチェルカーレが巨石を浮かび上がらせると、底面に巨大な光の円盤がくっついているのが見えた。

 あの時は死角に展開したバリアを隠しておいて、そこへ勢いよく衝突させる事で演出をしていたって事か。

 考えてみれば轟音と地響きしか無かったな。本当に落下していたら、火山が噴火したかのように土砂や粉塵が舞っていた気がする。


「いつまでも放置しておくのは邪魔だし、片付けておこうか」


 指を鳴らすと、巨石の下にそれを丸々包み込むほどの巨大な穴が開き、瞬く間に巨石を飲み込んでいった。


「アジトは無事……ほ、本当かね……。お、おい! 今すぐ野盗共のアジトに兵を派遣してくれい!」


 一緒に付いて来ていた村人達に指示を出し、その場にどっかりと腰を下ろす村長。


「はぁ……寿命が縮むと思ったわ。本当にアジトは何とも無いんじゃろうな」

「そればかりは彼らの報告を待つといい。まぁ、良い報告ばかりとは限らないだろうけどね」

「それはどういう意味だ?」

「わざわざ言わせるつもりかい? 野盗に拉致された人間がどういう扱いを受けるか……想像くらい付くだろう?」

「そ、それはまさか……」

「覚悟はしておいた方がいい。もし生還した者が居たとしても、五体満足ではないかもしれないと」


 指摘を受けて渋面となる村長。正直、そこまでは頭が回っていなかったらしい。

 残念ながら殺されてしまった者が居るかもとは思っていたが、生かされたまま嬲られる者が居るとは思って居なかった。

 どうやら村長はそこまで残酷な想像が出来る人間ではなかったようだ。悪意を想像出来ない、良い人なのだろう。


「それはともかく、だ。クエストは達成という事で良いだろうか」


 リチェルカーレが依頼書とペンを差し出す。村長は戸惑いながらも依頼書に完了のサインを記す。

 目の前で野盗が討伐される所を見ていたのだから当然だわな。これで達成でなかったら何なんだという話になる。


「この村にギルドの支部はあるかい? 早速依頼達成を報告したいと思うんだけど」

「ご案内致します。その後はどうされますか? もしご滞在なされるのであれば宿を手配させて頂きますが」

「よろしくお願いします。宿で休んだ翌日は村を観光させて頂いても大丈夫でしょうか?」

「えぇ、こんな村でよろしければご存分に。各方面の手配はさせて頂きますゆえ」



 俺達は村長に案内され、村内のギルド支部へと顔を出していた。

 ぱっと見はほとんど民家で、中も小さな寄り合い所みたいな感じだった。

 さすがに首都の支部と比べるのはアレだとは思うが……。


「に、しても冒険者が全く居ない……」


 そう。いくら小さな支部とは言え冒険者の一人や二人くらいは滞在していても良いと思うんだ。


「この村を囲うように野盗達が居ましたからね。外部から訪れること自体が難しくなってしまっていたんですよ」


 と、受付してくれた女性がぼやく。


 野盗のせいで、旅人や商人、冒険者の流れが今まで極端に減っていたらしい。

 それなりに規模が大きい野盗だったため討伐難度も高かったのだが、残念ながら村はそれに見合う報酬を出せなかった。

 もし相場通りの報酬を出せていたのであれば、即日にでも高ランク冒険者が来て解決してくれただろう。

 だが現実はそうもいかず、低ランクの依頼として見合わない報酬で出すしかなかった。


「しかし、幸か不幸か貴方達が依頼を受けて解決してくれました。ランクも報酬も低いですが、私個人としては大きく評価させて頂きます。何せ勤め先の村を救って頂いたのですしね」


 首都でアイリさんが言っていた通りだ。やはり人の役に立つ依頼は評価されるんだな……。

 金銭にはあまり困っていない旅路だから、修行がてらこういう依頼をこなしていくのも良いかもしれない。


「せっかくだし他の依頼についても報告させてもらうよ。まずはこれらだね」


 リチェルカーレがカウンターの上に穴を開き、討伐証明部位の数々と薬草の数々を取り出して並べていく。


「く、空間収納……。は、初めて見ましたよ私!」


 驚きつつもさすがは受付嬢、ちゃんと手を動かして魔犬の討伐部位を数えている。

 続いて薬草類も種類ごとに並び替えて数を確認している。手際がいいな。

 同時に渡された依頼書を確認しつつ、依頼内容が達成できているかをチェックする。


「えっと、常時依頼の魔犬の牙は……三十六個。薬草収集の依頼は、該当の品の数に問題はありません。野盗討伐は依頼者のサインがありますのでオッケーです。あとは、このオークですが……」

「あぁ、それなら空間収納にしまってあるよ。外に運搬車を用意してくれればそこへ下ろすよ」

「わかりました。では準備させて頂きますので、後ほどそちらへお願いしますね」



 俺はその準備が終わるまでの間、併設された飲食スペースでキンキンに冷えた水を飲んだ。


「くぅ~っ! たまらんね!」

「こういう場で酒とかを口にしないのは意外だね。まさか水で良いとは」

「水だから良いんだよ。クソ暑い時に飲むキンキンに冷えた水は想像以上に美味いんだぞ……」


 そう言ってリチェルカーレに飲ませてやると、想定以上に冷たかったのか顔をしかめた。


「冷たっ。……だが、リューイチの言う事もわかる気がする」


 先程まで飲んでいた自分のジュースを一気飲みすると、追加でキンキンに冷えた水を頼んでいた。

 あんまり水分採り過ぎるとお腹が冷えるぞ……と思ったが、リチェルカーレにそんな心配は不要か。




 そうして二人で水分補給した後、準備が出来たと呼び出されたので外に出てみる。

 するとそこにはオークを運ぶために用意された運搬車……と言うか、大八車みたいなものが。

 前後それぞれに一人ずつマッチョなおじさんがスタンバイしているが、まさか二人で押していくんだろうか。

 と言うか、こんな吹きっ晒しの荷台で数日かけて首都まで行くとなると、途中でオーク腐らないか?


「大体何を考えているかは想像付きますが、ちゃんと冷気を閉じ込めた魔導石を付けますので大丈夫ですよ」


 受付嬢が懐から取り出したのは、淡い水色の宝石。首都のバザーの肉屋で見たのと同じやつだ。


「あぁ、ちゃんと保冷していくんだな……良かった。そのまま運ぶのかと思ったよ」

「安心してくれ兄ちゃん! 俺達は運び屋十年以上のプロだからよ!」

「依頼者が捕獲した状態のまま、一切状態を損なう事なく完璧に届けてみせるぜい!」


 安心を保証してくれるのはいいんだが、同時に筋肉アピールでポージングするのはやめてくれ……せっかく涼んだのに暑苦しい。


「それじゃあオークを出すよ。ほいっ」


 ズシンッと運搬車を揺らす巨体が乗せられる。直立不動の姿勢で固まったまま横たえられている感じだ。


「ヒューッ! コイツぁスゲェ。全く損壊のないオークたぁやるねぇお二人さん」

「運び甲斐がありそうだ! これを一切傷つけず痛めず首都まで持って行く事が出来りゃあ俺達の評価もうなぎのぼりだ!」

「それではお願い致しますね。期待していますよ、運び屋マッスルパワーズさん」

「「おぅよ!」」


 受付嬢が運搬車の隅にある窪みに魔導石をはめ込むと同時、マッスルパワーズと呼ばれた二人は怒涛の勢いで駆け出した。

 なんてストレートなネーミングなんだ。と言うか、運搬車ガッタガッタ揺れてるけど本当に大丈夫なのか……?


「薬草とオークの依頼に関しては、依頼主に届けられてからの返答待ちになります。これが無事に達成となりましたら、お二人はDランク昇格です」

「おぉ、もうランクアップできるのか……」

「EランクからDランク昇格への条件は『依頼を三つこなす』ですからね。ただし、常時依頼は除いてですが」

「ちなみにDランクからCランクは?」

「その場合は『依頼達成回数十回。ただし下位ランクの依頼は除外で、うち一つはCランクのものを達成』ですね」

「確か一つ上のランクの依頼を受けられるんだったっけ。俺達もEランクながらDランク受けてたし」

「はい。その仕組みを活かして、DランクにしてCランクに挑む事の出来る度胸と実力があるかどうかを見極めさせて頂いております」


 お二人ならば全く問題ないでしょうけど――と、受付嬢からお墨付きを頂いた。

 だが、正直言って俺の方はまだまだ鍛え上げないと厳しいだろうけどな。

 リチェルカーレだけなら即日Aランク、あるいは強引にSランクにすらなってしまいそうだが。




 とりあえずギルドでの用事は済んだので、村長が手配してくれた宿で休む事にしよう。

 小さな村の宿だから二組くらいしか泊まれないような小ぢんまりしたのを想定していたけど、意外にも十組は泊まれそうな宿だった。

 田舎だからこそ、逆に大きな土地が確保できるのかもしれないな。首都なんかはもう土地に余裕は無さそうだったし。


 用意された部屋に入った俺は、早速ノートパソコンを召喚して今日までにあった出来事やデータをまとめていく。

 既に対象品を出した状態でもう一つ出せば複製品が召喚されるが、ちゃんと片付けてから召喚すれば片付けた当時の物を再召喚できる。

 そのため、今回召喚したノートパソコンにはちゃんと王城で入力したデータが反映されていた。

 いちいち持ち運びしなければならないのだったら大変だった。その状態で戦闘したら絶対に破損していたぞ……。

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