表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
239/494

231:統一宣言

『この度はお集まり頂きまして誠にありがとうございます。ツェントラール王女、シャルロッテで御座います』


 洗練されたカーテシーと共に開始の言葉を告げ、拡声魔術で改めて今回の趣旨を話し始める。


『既にお聞きの事とは思いますが、この度アンゴロ地方の五国は統一し、新たな一つの国として歩み始める事となりました。それにあたり、先程の代表会議にて、わたくしが統一国の盟主を務めさせて頂く事になりました』


 その宣言に、集まった人々がざわつき始める。喜びの声よりも戸惑いの声の方が大きい。


「おい、まじかよ。あのヘタレ王の娘が統一国の支配者になるってのか……?」

「俺はてっきりコンクレンツのヘーゲ皇帝が地方統一を成し遂げたものだと思っていたんだが」

「まだ二十代にもなっていないような若い娘が、何で統一国の盟主に選ばれたんだ?」


 元々ツェントラールの王であったティミッドは小心者で消極的。国民からもヘタレ王と呼ばれるほどに情けない有様だった。

 娘のシャルロッテ王女は基本的に城に篭っており、あまり公の場には出ていなかったためその資質が知られていない。

 父親の影響と認知の無さがそのまま国民の反応を表していた。外部の国の者も、自国の支配者が代表でない事に不満げな声が多かった。


『ワシはコンクレンツ帝国皇帝改め、コンクレンツ領主ヘーゲである! 国民よ、良く考えてみるがいい』


 その反応を察してか、コンクレンツ領主ヘーゲが拡声魔術で割って入る。


『ワシのような味気も無いオヤジがこの国の代表でお主等は満足か? 若く美しい女帝が代表の方が話題性は抜群だと思わないかね?』


 ストレートに狙いを言い放つ。あくまでもシャルロッテ王女を盟主に据えたのは、看板効果を狙っての事であると。

 見た目的にも全く映えない中年オヤジより、可愛い女の子を推した方がインパクトがあるんじゃないか。

 ヘーゲが言っているのはようするにそういう事である。何と言っても、五つの国が合併して一つの大きな国になるのだ。


『こんな大イベントなど滅多にあるまい。色々と奇をてらい、世界の注目を集めねばな! がっはっは!』


 元々近隣諸国を武力で制圧して統一しようとしていた皇帝とは思えない軽い発言に、国民達は唖然としてしまった。

 特にコンクレンツ民は信じられないような顔で見ている。自分達が知る皇帝ならば、この場で他の四人を殺してでもその地位を奪い取るタイプだ。

 自国民すら怯えさせられる程に鋭い皇帝の牙。一体どのような事があれば、それを綺麗サッパリと失う事が出来るというのか。


『不安は分かる。だが、シャルロッテ王女は我ら各領の代表達で支えていく。一人だけに丸投げするような真似は決してせぬ』


 すかさずジークがフォローに入る。代表が本当に看板だけの存在になってしまわないよう、支援を約束する。

 そこは本来の取り決め通り『五人の代表』によって色々話し合い、決定していくという流れである。

 ファーミンの長老会議と同様、実際の上下はあってないようなものだ。その辺もしっかりと説明に添える。


『特に我らエリーティと、ダーテ……いや、リザーレはツェントラールに救われた。全身全霊を以って国の発展に力を尽くすと約束する!』


 観客のざわめきは止まらない。ジーク王子は、多くのダーテ国民にとっては廃嫡され既に表舞台に居ないものと思われていた。

 むしろ『死んでいる』とすら思っていた者の方が多いだろう。革命後に存命をアピールしたが、未だにそれを知らない、あるいは信用していない者も多い。

 故にジークは行動でそれを証明して行こうと考えている。今まで散々虐げられてきた平民階級が安心して暮らせる領地作りを目指す。


 エリーティに至っては魔族による支配により閉鎖的となっており、外部の者は対外的に作られた町しか見ていないので実情を知る者が少ない。

 それどころか国の指導者と呼ばれる存在をこの場で初めて見たという者も多い。支配から解放された後は積極的に対外アピールをしてきたがまだまだ足りない。

 国土の大半を滅ぼされていたため、土地ならば腐るほどある。統一国となった後に、自身の領に多くの人が流れ込みたくなるような改革をしていく予定だ。


『ファーミンに住まう者達も安心せよ。統一国は各種族及び各民族の生活には介入しない! 今までと変わらぬ生活を続けられる。有事の際は君達の手を借りるだろうが、我が領が危機に陥った時は国全体で力を貸す事が出来る』


 前々からファーミンの最長老が言っていた事は実現する。自分達の生活を変えなくていい。それでいて五国分の巨大な国となった統一国に、危機の際は助けてもらえる。

 それを思えば『有事の際に力を貸す事』くらいは全く問題ではなかった。故に、他領民達とは異なり、ファーミン勢からは大きな歓声が上がった。

 その勢いに押されてか、今まで疑問符を浮かべていた他領民達も、統一国に対して希望を見出すようになり、喜びの声をあげると共に領主達を信じる事にした。


『皆様、ありがとうございます! わたくし達は必ずや統一国を良きものとして見せますわ! その証拠に――』

「ぐわあぁぁぁぁぁっ!?」


 シャルロッテが再び口を開くと同時、観衆の中で一人の男が場に合わぬ悲鳴を上げた。

 マントとフードで全身を隠していたが、右手の甲には短剣が突き刺さっており、痛みで動いた際に顔が露出していた。

 痩せぎすの男だ。彼は間もなく駆けつけてきた兵士達に捕らえられ、何処かへと連行させていく。


『――このように、不届き者の存在は決して許しません。この会場内は既に把握しております。何か動きがあれば、途端に彼と同じ道を辿る事になりますわ』



 ・・・・・ 



「やれやれ、こんな所で毒魔術を放とうとするとはな……大胆な奴も居たもんだ」


 広場を見渡せる位置。とある建物の屋根の上で、短剣を片手に呆れ顔の男がぼやいていた。

 彼はステレット・コラヴォラトーレ。ジークの友人であり、会場の警備を任されている一人である。

 たった今、テロを起こそうとした不届き者を短剣の遠投により妨害した所だった。


 会場内で不審な行動をする者達を見張っている者達が各所に散っており、念話の魔術で情報は共有されている。

 ステレットはその情報をもとに、指定されたターゲットに攻撃を仕掛けるのが主な仕事となっている。

 その仕事に参加しているのは当然の事ながらステレット一人ではなく、たった今もう一人の同胞が彼の元へと合流した。


「さすがはステレット殿、見事でござるな。ニンニン」

「おー、シャフタ。相変わらずなりきってるなー」

「なりきってるのではなく、既になってるのでござるよ」


 ダーテ王国においてレジスタンス組織ヴィーダーに所属していたなんちゃって忍者、シャフタ。

 和国に存在する忍者に憧れる少女で、普段は少女らしい語り口調なのだが、戦闘時には口調も含めて完全になりきる。

 ただ、本人が自称するように、ニンジャとしての腕は既になりきってるレベルを超えており、ほぼそのものの域。


「む、念話連絡でござるな。目標は……それっ!」


 シャフタの投じた苦無が、観客の中に紛れていたテロリストの首へと突き刺さる。

 外見こそありふれた神官であるが、ボソボソと自爆魔術を唱えているのが察知されたため、素早く息の根を止めた。

 痛みを与えた程度で止められないようならば、容赦なく命を奪う。それほどに会場の警備は徹底されていた。


「なんて精度だよ。俺よりも長い距離を確実に仕留めやがった」

「精度の件でしたら拙者などまだまだでござりまする。あちらをご覧あれ」


 シャフタの指し示す方向を見ると、何処かから飛んできたナイフに、背後から更なる速度で飛んできたナイフが衝突。

 当たった勢いでそれぞれのナイフが向きを変え、各ナイフが別の場所に居る者達にヒットする。


「うへぇ、一体どういう原理だよ……。ナイフの軌道を変えて死角に居る奴に当てたってか? どんな超人がやってんだよ」


 まっすぐ投げて当たらない位置に居るのであれば、途中で曲げればいい。言うのは簡単だが、行うのは非常に難しい。

 魔力を込めた武器で遠隔操作できるようにすれば自在に曲げる事が出来るが、操作するのに少なくない力を使う。

 しかし、直接ぶつけるのであれば魔力を消費しない。魔力を感知するタイプの相手にも気づかれにくいと、メリットは多い。


 だが一番の問題点は難易度だ。そもそも先に投げたナイフに後から投げたナイフを当てる事自体が至難。

 当てた所で、各々のナイフを思い通りの所へ飛ばすなど、もはや神業の領域に足を突っ込んでいる。

 一体どんな凄腕の人物が警備役に招かれているのかと思い、ステレットはナイフの軌道から投擲者を探るが……。


「……おい、マジかよ」


 彼の視線先――教会の屋根の鐘のある所に、もはや常人では点にしか見えないような形ではあるが人が立っていた。

 その人物はこの距離からでもステレットの視線を把握したようで、にこやかな笑みと共に一礼を返してきた。


「ツェントラールのメイド長にいろはを叩き込まれた弟子らしいでござるな。いやはや、何とも恐ろしい人材を育てておられる」

「いや、確かに恐ろしい人材だが、あんな人材を育てるメイド長ってのは一体何者なんだよ……」


 噂をすれば影。


「メイド長はこういう者で御座いますが」

「おわっ!?」「ひぁっ!?」


 唐突に出現したメイド長に驚いた二人は、不安定な屋根の上ですっ転び、危うく転落しそうになるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ