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異世界の流離人~俺が死んでも世界がそれを許さない~  作者: えいりずみあ
第五章:砂漠の国ファーミンの大混戦
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227:さらばファーミン

「皆様、突然驚かせてしまって誠に申し訳ございません――」


 リチェルカーレが砂漠に『ゴッドフェニックスの羽根』を落としてから間もなく、祝勝会の会場一帯にアナウンスが響き渡った。

 説得力の関係から、この場で知名度と影響力が最も高いアルヴィさんが表向きの仕掛人として立ち、拡声魔術で説明がなされる事となった。

 彼女が言ったのはリチェルカーレが言っていた事とほぼ同一。しかし、神獣の部分に関しては少々説明をぼかした。


「その名も『聖炎塔』――。神獣フェニックスの力を宿したオブジェです。これにより、この地は不死鳥の加護を得たに等しい状態となりました」


 規格外の巨大さを誇る物体が神獣の一部、しかも羽根のたった一枚などと素直に発表すれば、皆が神獣の規格外ぶりに驚き大混乱に陥ってしまうだろう。 

 そう考えて『聖炎塔』と呼ばれる魔術的な建造物を構築したという事にした。この説明でも混乱は避けられないかと思ったが、アルヴィさん作と言われたら皆が納得していた。

 さすがは伝説の魔導師。アルヴィさんならばそれくらいの物を造り上げてもおかしくないという信頼があるんだな。実際、作れてしまうんだろうか?


「皆様のおかげでこの地は平和へと向かう事でしょう。皆様が力を合わせて戦った此度の事を決して忘れないでください!」


 最後にそう締めて、冒険者達や各国軍の大歓声に包まれて祝勝会は幕を閉じる事となった。 



 ・・・・・



 翌朝。既に各国の軍隊は早朝の内にこの地を発っており、冒険者達も朝が早いパーティが何組も旅立っていた。

 竜一達は借りている屋敷でしっかりと睡眠をとり、完全に疲れを癒してからとなったため、割と遅めの出立となっていた。

 とは言え、帰りはリチェルカーレの空間転移で戻る予定になっているため、そう時間を気にする必要はなかった。


「君達のおかげでこの国は危機を脱した。改めて感謝する。まさか、伝説の英雄まで招致して頂いて解決にあたってくださるとは……」


 アルヴィース・グリームニルはこの時点で既にエルフの国イースラントへ帰還している。

 世間的に『伝説の英雄』であると同時に、イースラント国内においても重要な立ち位置に居るが故に本来は忙しい。

 リチェルカーレが強引にパワハラ的な形で連れてこなければ、通常はまず呼ぶ事すらも出来ない存在なのだ。


「地方統一に関しては、会議でも申しました通り、条件を遵守して頂けさえすれば異論はありません」


 最長老――とは言ってもまだ壮年期の男性――が、ファーミンを併合しての地方統一に置いて唯一挙げた条件。

 それは『民族』や『種族』を重視する事。この国は多種多様な者達が一つの国内に暮らしている共同体。

 しかし、ルールや風習はその民族や種族によってバラバラ。その差異は大きく、一つの形に統一するのはまず不可能。


 地方統一によって、統一された国のルールや風習を押し付けて、元々あった文化と暮らしを破壊される。

 ファーミンに住まう者達はそれを最も嫌う。故に、統一後もそれらに関しては一切の干渉をしない。

 いわば、名目上ファーミンという『国』が『領地』に変わるだけ。それ以外は、何も変えるなという事である。


「リューイチさん、皆さん、本当にありがとうございました。貴方達の介入が無ければ、種族間戦争に突入してしまう所でした」


 かつては種族間戦争を煽る過激派の操り人形と化していたラウェンも、今では瞳に輝きを取り戻している。

 邪神の力によって意思を悪側へ捻じ曲げられていたとはいえ、その黒幕だったハルは竜一に隠れるようにして所在なさげにしていた。

 今後の人生を償いに充てる事で既に許されてはいるのだが、改めて己のやろうとしていた事の重さを痛感させられた。


「……堂々としていろとは言わないが、そんな隠れる事はないだろう」

「でも、そう簡単に割り切れる事じゃないわ」

「気にしないでください。過激派に対して毅然と対応出来なかった私の未熟のせいでもありますし」


 既にラウェンは完全に割り切っていた。そもそも、悪に付け入られる隙を作った自分が悪いとすら思っている。

 そのため、過激派を扇動していたハルに対する恨みはない。むしろ、ハルすらも弱みに付け込まれた被害者と考えていた。

 討伐するならば、世界に混乱を引き起こしている『邪悪なる勇者達』という組織そのものでなくてはならない。


「私は引き続き里に留まります。守護すべき結界は無くなったので、これからは『聖炎塔』の守護をしていきます」


 結界の消失により本来の里の役割は無くなったが、今やほとんどの住人がこの里で生まれ育ち愛着を持つ者達だ。

 そう言った層を考慮し、引き続き里は存続する事にした。ラウェンは改めて長の役割を務める事となる。

 既に『結界を維持する力』は必要ないため、彼女が里長でなくても良いのだが、住人達の方がそれを望んだ形だった。


「もちろん、統一国の危機には私達も力を貸します。それ以外にも、竜一さん達であればいつでも頼ってください」

「あぁ、助かるよ。出来ればそれ程の危機は起きて欲しくはないんだが、ラウェンとまた会えるなら起きてくれてもいいかもな」

「……っ! それって――」


 グッと握手した竜一とラウェンだったが、ラウェンは思わず放たれた竜一の恥ずかしい台詞に顔を赤くする。

 また会いたいから危機が起きて欲しい――それはもはや告白ではないか? 色恋を知らぬ純情なラウェンにとっては刺激の強い言葉だった。


「色々世話になった。じゃあまた会う時まで……だな」


 実は竜一の方も、ラウェンの反応を見て自分が恥ずかしい事を言ってしまったと自覚するに至った。

 皆から顔を背けたが、実は赤みが増しており、あまりその顔を見られたくなかったが故に片手を上げるだけの緩い挨拶で済ませた。


「さて、リューイチもあぁして恥ずかしがっている事だし、アタシ達はそろそろ行くよ」

「お世話になりました。にしてもリューイチさん、時々かなり大人びた言動をする事もあるかと思えば、年相応の少年らしい部分も見せてくださるのですね」

「次は同じ国の同志としてお会いしましょう。リューイチさんが恥ずかしがっているのは、実は貴重な場面ではないでしょうか」

「専属メイドとして主の新たな一面を見る事が出来て嬉しく思います。ファーミンの皆様方、大変お世話になりました」


 ……ただ、リチェルカーレを始め、女性陣には全て筒抜けではあったのだが。


「私が言うのもなんだけど、この先きっと何か良い事があると思うわ。前向きに行きましょう」

「元気を出してください。飴を差し上げます」


 何も言えなくなっていた竜一に、優しく声を掛けたのはハルとスゥの二人だった。


「その気遣いが身に沁みるよ……」


 先に空間の穴の中へと消えていった女性陣達に続き、竜一もトボトボと穴の中へと消えるのだった。



 ◆



「……行ってしまいましたね」

「えぇ。ですが、我々はこれから忙しくなります。統一に向けてやらねばならない事は山積みです」


 長老会議による意思決定とは言え、国内における全ての意思を統一出来たわけではない。

 必ず地方統一に反対する勢力は現れる。いくら説明をしようとも、そもそも説明を聞いていない馬鹿も一定数は存在する。

 各国を一つにする前に、各々の国の中でバラバラになった者達をどうにかしなければならなかった。


 そしてそれは、多種多様な者達が共存するファーミンに限らず、他の国でも同様であった。

 コンクレンツでは未だ覇道を貫いていた頃の威光に縋る勢力が存在し、リザーレもダーテ時代の旧貴族のシンパが残っている。

 エリーティも人々が自由に考えて行動できるようになった結果、様々な意見が生まれて対立構造も造られてきている。


 まだ正式な発表は行われていないとはいえ、既に各々の国では代表者が後々の併合を宣言している。

 そのため情報自体は広く知られるようになっており、情報はこの地方を飛び越えて海の向こうまでも伝わっている。

 新たなる大国誕生を前に、別の地方にある様々な国から様子見のために偵察が送られてくる事は間違いない。


(間違いなく、この先は新たな統一国を巡って世界が荒れるでしょうね……)


 最長老はそれが不安であり、同時に楽しみでもあった。

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