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異世界の流離人~俺が死んでも世界がそれを許さない~  作者: えいりずみあ
第五章:砂漠の国ファーミンの大混戦
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187:緊急依頼の掲示

――その日、アンゴロ地方全域の冒険者ギルド各所へ『緊急依頼』が掲示される事となった。



 とある冒険者ギルドでは、ギルドマスターによりその宣告がなされ、同時に掲示板への掲載が始まった。

 当然の事ながらその発表は滞在している冒険者達の興味を大きく惹きつけ、一時的に混乱を引き起こす事となった。


「緊急依頼だって!?」

「まさかこの地方で出される事があるとは……」

「と、とにかく内容を見て見ようぜ!」




【緊急依頼】


 依頼者:ツェントラール、コンクレンツ、エリーティ、リザーレ(元・ダーテ)、ファーミン代表一同


 この度、ファーミン領において大規模なモンスター討伐が行われる事となった。

 本件は背後に魔族が絡むものであり、非常に危険であるため高ランク冒険者の参加を優遇する。

 ただし、低ランク冒険者も低級モンスターの駆除で需要があるため参加を歓迎する。


 各地方の騎士団及び魔導師団も出撃要請が来ており、本件に参加する事となっている。

 その上で冒険者達に参加を要請する以上、今回の討伐の規模は推して知るべし。

 詳しい事情は現地にてファーミンの最長老より語られる。最終意思決定はそこで行うものとする。

 討伐参加希望者は、今週末までにファーミン領ヒワールまで来られたし。



 報酬:ランクアップ(ただし、自分のランクを上回る強敵を一体でも討伐出来た者のみ)


 他、討伐したモンスターの数に応じて金銭報酬を上乗せする。ドロップ品は討伐した者の私物としても良い。



 罰則:同胞への攻撃は厳禁。最低でも冒険者資格剥奪、場合によっては処刑もあり得る。


 仮に一体もモンスター討伐が出来ずとも、上記以外に罰則は無いため、低ランク冒険者は功を焦らない事。




「お、おい……なんかすげぇ依頼だぞ。なんだ、これ……」

「この地方の国々が連名で依頼とか、一体何が起きてるって言うんだ?」


 依頼を実際に見た冒険者達はさらなる混乱に包まれる。

 皆が揃って口にするのは「意味が分からない」というものだった。


「そういや先日、皇帝陛下が演説してたよな。帝国をツェントラールに併合するって」

「あぁ。それから続くようにしてエリーティの指導者が表に顔を出し、ダーテも王子が父である王を討って革命を成功させたっていうぜ」

「いずれもツェントラールへの併合を主張している。この短い期間にツェントラールは一体何をやらかしたんだ……?」


 ――問題解決後、それぞれの国において国民に向けた演説が行われていた。


 コンクレンツ帝国では侵略行為の停止と、自国を一領土としてツェントラールに併合する事。自身は皇帝ではなく領主となる事。

 エリーティ共和国では今まで表に顔を出さなかった事と、裏で起きていた事情。そして自国のツェントラールへの併合。

 ダーテ王国では父王を討ち革命を成功させた事。その背後に魔族の影があった事。自国をツェントラールへ併合すると共に領地名を改める事。


 いずれの国においても、演説を聞いた国民達は少なからず仰天した。何せ、歴史が動いたとも言える程の大変革だ。


「もしかして、世界が大きく動こうとしている前ぶりなのかもしれないな。この緊急依頼は歴史に残る一戦になるかもしれない」

「よし! 俺は乗るぜ、このビッグウェーブに……」


 張り出された緊急依頼を見た冒険者達は、そのほとんどが乗り気だった。

 この手の依頼は通常の依頼よりも遥かに危険なのだが、依頼の特別性がその目を曇らせていた。



 ・・・・・



「……お二方は、どう思います? この緊急依頼」

「少なくともただの大討伐ではないでしょうね。私個人としては、気になる点がいくつかあります」

「同じく。あの国はそんな大規模討伐が必要なほどモンスターは居なかったハズだが……」


 ギルドの隅。飲食スペースに陣取っている三人の冒険者達は、冷静に事を見ていた。

 かつて『紅蓮』というパーティを率いていたベテラン冒険者のロート、アンデッド討伐に長けた神官のヴァーン、そして新人冒険者のノイリー。

 冒険者としての経験や知識、職種や生まれも全く異なる者達が、同じ『冒険』を夢見て集ったパーティ『新紅蓮』の面々だ。


「ファーミンと言えば、かつて魔族との一大決戦地になったという話はご存じですか?」


 各地域に関する知識も豊富なロートは首を縦に振るが、あまり外の地域へ出た事が無いノイリーは首を横に振る。


「その際、決戦の地は瘴気によって汚染されてしまったそうです。このままでは全世界に汚染が広がると考えた当時の方々は、苦肉の策で封印を施しました」

「封印……って、わざわざそんな事をしなくても法力や聖属性の魔術で浄化できるんじゃ……」

「私も最初はそう考えました。何故浄化をしなかったのか。興味を抱いた私は、現地で歴史の描かれた書物を拝見しました。その結果、驚くべきことが判明したのです。何と、決戦の地は汚染されたのではなく、魔界へ通じる穴が開けられていたのです」

「魔界に通じる穴だって? どうして、そのようなものが……」

「残念ながら事の経緯までは分かりませんでした。しかし、その穴により魔界から瘴気が流れ込み続ける状態になってしまいました。当然、穴を塞ぐのが一番の解決策ですが、空間に開けられた穴を閉じる事は容易ではない」


 空間を操作する魔術は、魔導師の界隈においても『三大難題』と呼ばれるほどに難しい魔術の一つだ。

 そのうちの重力魔術に関しては人間でもたどり着ける者がちらほら居るが、空間魔術ともなると人間の使い手は皆無。

 エルフのような長寿命の種族が、人生を賭してようやく習得できるかという程に難解なものとされていた。


「……なるほど、それで封印ですか。しかし、その話が今回の緊急依頼と何の関係が?」

「私の推測ですが、おそらく封印に限界が来ているのでしょう。ここ最近、ファーミンの地で瘴気の汚染が広がっていると聞きます。瘴気が漏れ出しているのかもしれません」

「そうか。それによるモンスターの狂暴化が考えられるか。しかし、それが大規模なモンスター討伐に繋がるほどの事態を引き起こすのか?」

「モンスターの中には非常に繁殖力の高い者もいます。瘴気による汚染で活性化して爆発的に増殖したり、生態系が大きく変化している可能性も否定はできませんね」

「少なくとも、軽く考えるのは危険か……。さて、どうする……」


 ヴァーンの推測を聞き、考えるロート。しかし、ノイリーの返事は早かった。


「行きましょう。こんな形で戦力を求める以上、相当にヤバい依頼なのは間違いないと思います。ですが、そういうヤバい事に挑むのが、僕達ですよね?」

「ははは、ロート殿。Dランクの彼に先を越されてしまいましたね。確かに、我々はそういう『冒険』を求めて集ったパーティです。挑まない選択肢はないでしょう」

「その通りだな。今の我々は命を懸けた冒険を求め、夢とロマンを追うのが目標。機会が向こうから飛び込んできたのであれば、食いつくしかあるまい」


 冒険者パーティ『新紅蓮』一同は、自分達の求めるものを得るべく緊急依頼の参加を決め、受付へと申し出るのだった。


「だが、ノイリー。くれぐれも勇気と無謀をはき違えるなよ。あのリッチとの戦いを、常に心の片隅へと置いておけ」

「……わかりました」

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