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異世界の流離人~俺が死んでも世界がそれを許さない~  作者: えいりずみあ
第五章:砂漠の国ファーミンの大混戦
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181:邪悪なる誘い

「……で、理不尽な使命にブチ切れて国を飛び出したって訳か」

「あの場でそれをやったら一気に私の立場が悪くなるし、さすがにこっそり逃げたわよ」


 曰く、現場へ行くまでの間に魔術を色々と練習し、水と炎を組み合わせる事で霧を生み出す魔術を体得。

 現場で一気に解き放って視界を奪った後、霧に紛れるようにしてタシュエヴ王国を脱出したらしい。

 手際がいいな。こっそり消えれば、それだけで向こうに状況を把握するまでの大なり小なりの時間を与えられる。


 それはつまり、こちらへの対処が遅れるという事だ。何故消えたのか。何処へ行ったのか。何を考えていたのか……。

 国の者達は色々と考えさせられるに違いない。ハルはその間に充分なところまで逃げる事が出来るだろう。

 もし使命を伝えられた時点で反抗していたならば、すぐさま叛意を悟られ、逃げられたとしてもすぐに追手が放たれていた。


「正直、そこまで考えてなかったわ。でも、結果として良い方向に作用したみたいね」



 ・・・・・



 現場から逃亡した後、ハルは風の魔術で城壁を飛び越えて脱出。近くの森を抜けている際に行商人と遭遇。

 異世界の地理が全く分からないため、行商人が目指す町までお供させてもらう事にし、代わりに護衛を無料で買って出た。

 他にも金で雇われていた護衛が居たが、実力を示した上で営業妨害にならない程度に仕事をこなした。


 訓練も修行もなしで放り出されたため実戦経験皆無であったが、遠距離からの魔術行使による補助で乗り切った。

 使命を与えられた際に簡易的な鎧と一振りの剣を授かってはいたものの、武器は上手く使える気がしないので封印したまま。

 他の者達から疑問を投げかけられたが、あくまでも護身用であり魔術の方が得意だからと誤魔化していた。


 たどり着いた町では行商人達と別れ、冒険者ギルドへ行って実力を披露し冒険者登録を済ませた。

 行商人たちから「食い扶持を得たいのならば冒険者になるのが良い」と勧められた彼女は、その言葉に従った形だ。

 軽い依頼をこなしつつ実戦経験を積んでいき、魔術はもちろんの事、剣の使い方なども徐々に覚えていった。


 勇者としての地力もあってか、数か月も経つ頃には町における最上位クラスの冒険者にまで登り詰めていた。

 そうなると当然の事ながら噂は広まっていき、伝聞がタシュエヴ王国へ到達するまでにそう時間はかからなかった。

 動向を察していたハルは、冒険者ギルドに遠征する旨を告げて、先んじて町からの逃亡を図った。


 町を出てしばらくの時が経ち、森で野営をしようとしていたある時……噂を聞き付けた『彼ら』がやってきた。


 ◆


「やぁやぁ、君かな? この辺りで召喚された異邦人の女の子って」


 こんな場所で声を掛けてきたのは、金髪碧眼の男性だった。如何にも陽キャって感じね……。

 一昔前で言えばシティーボーイというやつかしら。この世界には似合わぬ、何とも都会的でラフな格好。

 私に対して「異邦人か」と声掛けしてきた事を考えると、この人はまさか――


「……貴方も、異邦人ね?」

「ご名答。僕も君と同じく地球から召喚されてきたんだ。情熱の国から来た快男児って奴さ」


 快男児と言うより、不快男子ね……一番嫌いなタイプだわ。


「おっと。そんな刺すような目で見ないでくれるかい? 一応僕は『イイ話』を持ってきたんだ」

「イイ話……ですって?」

「そう。僕は異邦人達による互助組織に参加していてね、各地で迷える異邦人達に声を掛けて回ってるんだ。君のように、召喚されたはいいけど酷い扱いを受けたり、志半ばで倒れてしまった同郷の者達同士で集まって、協力し合い異世界で生き抜くためにね」

「異邦人達による組織ですって? この世界には、そんな組織が出来る程に異邦人が召喚されていると言うの……」

「もしかして君、自分が特別な存在だと思ってた? よく思い出してごらんよ。君は『何』を救ってほしいって言われたかな?」


 何って……国よね。国を救う……って、まさか。


「……察したようだね。僕達はある意味では『被害者』なんだ。君はこの先、異世界でたった一人で生き抜くつもりかい?」

「元々の世界でも独りぼっちだったし、全てを捨てるつもりでこっちへ来たから、別にかまわないわ」

「そうは言うけど、死にたい訳じゃないだろう? この世界は向こうとは違う。凶悪なモンスターに殺されたり、野盗達に襲われたりもする。君の場合、裏切り者として狙われ続けたりもするだろう」

「返り討ちにするわ。これでも私、冒険者としては最上位クラスの――」


 がっ――!?


 突然頭に走る衝撃。一体、何が……?


「はぁ? 何言っちゃってんの。その程度で調子に乗ってるとか、君……この世界ナメてんの?」


 前が、見えない……。


「決めた。君にはリーダーの『工作員』になってもらうよ。出来れば対等の同志として歓迎したかったけど……」



 ・・・・・



「……次に気が付いた時、私は組織のボスの目の前に連れてこられていたわ」

「それはもはや、勧誘と言うか拉致だな。ボスは確か、シンという男だったと聞いたが」

「えぇ、シンと名乗っていたから間違いないわ。残念ながら、接触してきた男の名前は聞いていないけど」


 話を聞く限りでは、勧誘対象の返事は別にイエスでもノーでも構わないみたいだな。

 イエスならそのまま誘い込み、ノーならぶっ倒してでも強引に連れて行く。ハルの場合は言わずもがな後者だろう。

 そうやって発見した異邦人達を次々と自陣へと取り込んでいく。まさに『邪悪なる勇者達』に相応しい所業。


「ハルを拉致った男は『工作員になってもらう』と言っていたらしいが、それはどういう事だ?」

「それなんだけど、そこから自分でも良く分からない事になってるのよね……」

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