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異世界の流離人~俺が死んでも世界がそれを許さない~  作者: えいりずみあ
第五章:砂漠の国ファーミンの大混戦
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180:出来るかそんな事!

「……と、そんな感じで召喚されたのよ。タシュエヴ王国って所に」


 どうせ腰を据えて話すなら――と、竜一の誘いに応じる形でお茶会に混じった影宮晴秘。 

 召喚されるまでの経緯を話し終えると、一服とばかりにハーブティーを口に含む。


「タシュエヴ王国か……。話を聞く限りだと、ジンバブエのハイパーインフレに似てるな」

「ジンバブエ?」

「ボツワナとモザンビークの間にある国だ」

「ごめんなさい。ボツワナとモザンビークがわからないわ」

「……アフリカ大陸の南の方にある国だ」

「アフリカの国なのね。さすがに世界の国の名前を全部覚えている訳じゃないから……」


 竜一が軽くジンバブエの辿った状況を説明してやると、晴秘はその通りだと頷く。


「お前……いや、晴秘? ハルと呼んだ方がいいか?」

「……出来ればハルがいいわ。私、あっちの世界に未練はないもの」

「わかった。で、ハルが来た時代があのライトノベルの発刊時期だとすると、ジンバブエ・ドルの破綻はそこから数年後だな」

「その言い方だと、貴方は私にとって未来にあたる時間から召喚されてきた事になるわね」

「あぁ。ちなみに浜那珂蓮弥は俺よりさらに未来から来ていたらしい。召喚される時間軸はバラバラのようだ」

「様々な時代の人物が一堂に会する……。本来ならばあり得ない出会いも存在するかもしれないわね」


 それを聞いて竜一が浮かべたのは、やはり和国の者だという『オダ・ノブナガ』なる存在。

 その者がもし本物であるならば、まさに歴史上の人物と対面する本来ならばあり得ない出会いとなる。


「ちなみにリチェルカーレは知ってるか? タシュエヴ王国……だったか」

「もちろん知ってるさ。あの国は独自通貨を使ってたんだけど、経済が破綻してとんでもない事になってたんだ」


 数百億の額を積み重ねても、世界基準の通貨であるゲルトの一ゲルト分にも満たなかったらしい。

 ジンバブエ・ドルも最終的には百兆ジンバブエ・ドルとかになったり、何回も桁を切り捨てていたからな。

 同じ道を辿っていた国で、救いが訪れなかったのならば、最終的な末路も同じとなるだろう。


「今では近隣の強国に併合されて、タシュエヴ領になってしまっているけどね」

「そりゃあそうだろうな。もはや国として成り立っていないのであれば、攻め込むには絶好の場所だ」

「……ざまぁないわね。あんな国、無くなって当然よ」


 皿の上のケーキが無くなった晴秘は、軽く息を吐くと共に続きを話し始める――



 ・・・・・



 大臣の長ったらしい説明を聞かされた後、申し訳程度に名乗る機会が与えられた。

 私は今までを捨てるつもり出来ていたので、元々の名を名乗らず『ハル』と名乗る事にした。

 名乗ったら早々、適性を見るとかで連れて行かれたのは中庭と思われる場所だった。


 そこには騎士団長と呼ばれた男性が待っており、私の『勇者の力』を見るとかで色々やらされる事になった。

 サンドバッグのようなものを叩かされたり、短距離走をさせられたり、簡単な計算問題をやらされたり。

 驚く事に、私は本当に『勇者の力』を授けられていたらしく、いずれのテストでも皆の想定を上回る結果を出した。


 私のパンチ一発で、サンドバッグがソフトボールを遠投したかの如く飛んでいく。

 全力で走れば一瞬で五十メートルほどを走破し、止まるのに苦労した。 

 計算問題は元々が単なる四則計算の域だったので、これは勇者云々は関係ないと思う。


「まさしく勇者の力ですな。召喚されたばかりだというのに、並の冒険者以上の力を有しておる。後は――」

「ワシが魔術の適性を見ましょう。おそらく魔術はハル殿の世界には存在せぬ概念のはず。まずは簡単な説明からさせて頂きます」


 黒いローブを纏い、大きな木の杖を手にしたご老人が中庭へと現れた。

 魔術という単語からするに、魔術師なのだろう。本格的にファンタジーっぽくなってきたわね。

 こういう現実離れしたものこそ、異世界の醍醐味よね。私にもその魔術が使えるのかしら。


 私はしばらくご老人の話を聞き、未知の『魔術』なるものを勉強した。

 方法は意外にも簡単で、言われた通りにイメージを膨らませて身体の中で魔力を操作する。

 そして、手の先から燃え上がる炎が飛び出して、用意された的を――


「えぇぇぇぇ!?」


 なんか物凄い炎出た! まるで地を這う炎の波……これはそう、ベギ○ゴンね!

 的に向かって一直線に突き進んだ炎は、的を破壊するどころかその先にある壁をも破壊。

 これもまた皆の想定を上回る結果だったらしく、大口を開けてポカンとしていた。



 ――翌日。


 客室で休まされた私は、早速国王に呼び出されて勇者としての使命を授かった。

 基礎訓練とか修行期間とか一切なしで、いきなりなのね。で、その使命というのは……


「我が王室に仇なす反乱軍を滅せよ! この国を傾けている悪逆なる者達を皆殺しとするのだ!」



 ・・・・・



「……出来るかそんな事!」


 話に熱が入るあまり、ハルは立ち上がってテーブルをバンッと叩いてしまう。

 息を荒くしていた彼女は、やらかしたとばかりに我に返って顔を真っ赤にして大人しく座り直した。


「普通、そういうのってモンスター退治が相場じゃないの……?」


 俺もそう思う。まずは弱いモンスターを相手に実戦経験を積み重ねていく所から始まる。

 ましてやハルは異邦人。そもそも戦った経験すらない。そんな者に対して、いきなり人殺しを申し付ける。

 控えめに言ってタシュエヴの国王はクズだな。勇者を都合のいい小間使い程度にしか思っていない。


「残念ながらこの世界における勇者召喚とは、君達が知る英雄物語のように都合の良いものじゃないのさ」


 リチェルカーレの説明は、以前ダーテ王国で聞かされたものと同じだった。

 しかしハルにとっては新鮮だったようで、願い事に比例した力や成長システムに驚いていた。


「それじゃあ私は『仇なす民衆を皆殺しにするため』に呼ばれたから、民衆を皆殺しに出来る程度の力しか与えられていなかったって事?」

「そうなるね。しかし、キミは『邪悪なる勇者達』の上から勇者召喚システムについての話は何も聞かされていなかったのかい?」

「そんな殊勝な説明は何もなかったわね。今思えば、どうして私はあの組織に加入したんだろう……。今の私だったら、絶対に誘いに乗らないわ」


 こりゃあハルが『邪悪なる勇者達』と接触した際の話も聞いてみる必要がありそうだな。

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