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異世界の流離人~俺が死んでも世界がそれを許さない~  作者: えいりずみあ
第五章:砂漠の国ファーミンの大混戦
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172:かつての決戦を垣間見る

「わたくしが偽者かどうかなんて、今はどうでも良い事ではないかしら? どちらにしろ、今の貴方達には何も出来ないわ」


 最初に女王が発した命令は未だ解除されていないため、ここに集まっているエルフ達は身体を動かせない。

 仮に女王が偽者であったとしても、こうして動きを封じられている以上はどうする事も出来ない。

 だからこそ、女王もわざわざ本人であると証明する事をしない。正体が何であろうが、状況は変わらないからな。


「さて、わたくしの余興はこれくらいにして……アルヴィ」

「やっと出番のようですね」


 女王の横に立った人物がフードを取る。どうやって内側に収納されていたのか、ボリューミーな金の髪が大きく広がった。

 スラリと伸びてサラサラなのが女王の髪だとしたら、アルヴィさんの髪はふわふわでもこもこと言った感じだ。

 そのスタイルの良さといい、大人びた雰囲気といい『実はこちらが本物の女王でした』と言われても信じてしまいそうになる。


「では、手っ取り早くいきましょうか」


 アルヴィさんが手元に杖を召喚し、床を石突部分で軽く二回叩くと同時、エルフ達の足元から透けた青色の板が生えてくる。

 それらは彼ら一人一人を個別に囲むようにして四方同時に出現し、続けて天井も現れ、瞬く間に彼らを包み込んでしまう。

 まるでショーケースに展示されたフィギュアのような状態だ。それらがいくつも並ぶ様は、まさにエルフの博物館と言えよう。


「世界を危機に陥れようとした貴方達の存在は大きな罪に値します」


 続いて杖の先端に装着された青い宝石が光を放つと、エルフ達の足元から水が湧き始める。

 このまま水位が上昇して行けば、動く事が出来ない彼らは確実に溺れ死ぬだろう。

 エルフ達が必死の形相で何かを叫んでいるが全く聞こえない。もしかして中からは音が通らないのか?


「罪とは一体何の事だか分からない――だそうよ、アルヴィ」


 読心能力を持つ女王が、本人に代わって言葉を伝えてやる。


「そういう事でしたら、皆様に当時の記憶をお見せしましょうか。女王、お願いしますね」


 アルヴィさんが女王に手を差し出し、その手を取った女王が額の宝石を輝かせる。


「今回は特別に貴方達にも見せてあげるわ。この機会に、かつてこの地で何が起きたかを垣間見なさい」


 皆が宝石の赤き光に包まれたかと思うと、突然頭の中に俺の知らない光景が思い浮かんできた。



 ・・・・・



 ――その視点は上空から始まっていた。


『何とか、間に合ったようですね……』


 声の主はアルヴィさんか。アルヴィさんの記憶なんだから、視点の主もそうなのだろう。

 彼女の目線が見据える地上では、数多の化け物達と人間達が激しく競り合っていた。

 まるでズーム機能のように地上の光景が鮮明に見えるのは、アルヴィさんの力によるものか。


 地上では人間、エルフ、ドワーフ、獣人……他にも見た事のない特徴の者達が肩を並べて戦っている。

 エルフの魔導師をドワーフの戦士が守りながら戦い、人間の剣士の攻めを起点として獣人の格闘家達が大きな一発を撃つ。

 そこには種族の壁など存在せず、一丸となってル・マリオンの敵性存在と戦う姿があった。


 しかし、一帯には瘴気が立ち込めており、敵である魔物達が活性化する一方で人間達は徐々に体を蝕まれて行く。

 神官達がフォローをするものの、傷付き倒れる者も多く、治療に時間を割く必要があり、瘴気の浄化にまで手が回らない。

 それに対し、瘴気で活性化した魔物は、敵であろうが味方であろうが倒れた者達を食らってさらに力を上げる。


 倒れた味方が足手まといにならない分、乱戦時における魔物達は時と共に優勢となっていく。

 数は減れども個として強くなる。今まで優勢ですらあった戦力が多対一を強いられる程に逆転する。

 その状況にアルヴィさんも歯噛みし、戦況を変えるべく渦中へ降り立とうとするが――


『残念だが、そうはさせん……!』


 空中で立ち塞がる存在。タキシードのような黒い衣服をまとい、銀髪に赤い目を光らせる若い男。

 もしかしてヴァンパイアか……と思ったが、この世界でそういう種族は居るのだろうか?


『その姿……。まさか、本物の魔族!?』

『ほぅ、魔族の真実を知っていたか。腹立たしい事に、こちらの世界では魔物共が魔族だと認識されているからな。俺を見て魔族だと思い至る者は少ない』

『そんなに刺すような凶悪な魔力を放っておいて何を言うのですか。下に居る魔物達とは比にならないじゃないですか。嫌でも思い至りますよ』

『すまんな。先に来た魔物共が勝手に魔族を名乗ったせいで、俺達本来の魔族の存在感が薄いんだよ。ちょっとばかりアピールさせてもらわないとな』


 なるほど、こいつが以前リチェルカーレが話していた本物の魔族ってやつか。記憶を通して見ている俺にまで怖気が伝わってくるぞ。

 奴がアルヴィさんではなく、その中に居る俺の事を直接見据えているのではないかと思うくらいに凄まじい圧を感じる……。


『と、言う訳で容赦なく行かせてもらうぞ!』


 魔族が一瞬にして数百個もの炎の玉を出現させて放つが、アルヴィさんは右手を横薙ぎにして放った風の魔術で一瞬にして全てを爆発させる。


『……通ります!』(でないと、皆が……)

『おっと、通す訳にはいかんな』


 爆風に紛れてアルヴィさんが降下しようとするが、魔族が先に回り込んでいた。


『お前は一人で戦局を変え得る存在だ。足止めさせてもらう』

『せっかく到着が間に合ったというのに……邪魔をしないでください!』


 アルヴィさんが拳に強大な魔力を練り込む。相手の魔族もそれを真似るようにして魔力を練り込む。

 お互いにその拳をぶつけると、衝撃が地上にまで波及し、激しく争っていた両陣営が止まった。


『貴様、面白いな……。俺はディスターヴ・ストールン。そちらも名乗るがいい』

『アルヴィース・グリームニル。しがないエルフの魔導師ですよ』

『そうか。つまらん任務だと思っていたが、アルヴィース……貴様に出会えた事を嬉しく思うぞ!』

『こっちは余計な障害が増えて困りものですけどね。ディスターヴ、退いてもらいます!』


 早々に魔術同士の打ち合いをやめ、魔力を纏った格闘――魔闘術に切り替えた二人。

 高速で空を飛び回りながら一撃一撃が必殺級の拳や蹴りの応酬をする様は、まさにリアルド○ゴンボール。

 個人的な贅沢を言うなら、アルヴィさん視点ではなく第三者の視点からこの応酬を見たかった。


(想像以上に手強い……。これじゃすぐに片付けられない……)

『いいぞいいぞ! まさかこちらの世界で拮抗する者と出会えるとはな!』


 ディスターヴが突き出した右の拳を外側へ払い、すかさず近付いてきた相手の顔面に拳を叩き込む。

 しかし、吹き飛ぶ直前につま先がアルヴィさんの腹を抉る。鼻が潰れながらも、ニヤリと笑むディスターヴ。

 そこへ突き刺さる稲妻。アルヴィさんが腕の一振りで発動した魔術が、気を抜いた奴の身に直撃した。


『『『『『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!』』』』』


 ル・マリオン陣営から歓声が上がる。ここで初めてアルヴィさんが眼下の状況に気が付いた。

 自身とディスターヴの戦いに注目して動きが止まっている。彼女はここでこの状況を利用しようと思い至る。

 ディスターヴの方は眼下の状況に興味がないのか、身を焼かれながらもこちらを鋭く睨みつけていた。


 そこからのアルヴィさんは巧みだった。時にはわざと攻撃を受けてでも自分が事を成すのに都合が良い位置へとその身を移動させる。

 それでいてわざとらしさを相手に悟らせない。ディスターヴからすれば、アルヴィさんがただ必死に戦っているようにしか見えないだろう。

 だから意図に気付かない。アルヴィさんの蹴りを受けて少し間合いを離された時、彼女がその一瞬で全力を振り絞った一撃を放つ。


『一気に片付けます!』

『やれるものならやってみろ!』


 ディスターヴは自身に向けて放たれた魔力の奔流を打ち消すべく、同じようにアルヴィさんに向けて攻撃を仕掛ける。

 だが、その二つの力はぶつかり合う事なく、ディスターヴの攻撃はそのままストレートにアルヴィさんを直撃。

 一方のアルヴィさんの攻撃は、上空に気が向いてボサッとしている者達を敵味方関係なくまとめて薙ぎ払っていた。


『貴様! 俺と戦いながら他事を企てていたとは……何たる侮辱!』

『ふふ、侮辱も何も……最初から私の目的は貴方などではありませんよ……』


 無防備の状態で敵の攻撃を受けたためか、アルヴィさんが浮遊を維持できなくなり地面へと落下する。


『くそがっ! せっかくの楽しい戦いの機会をくだらん事で台無しにしやがって!』


 ディスターヴが落下するアルヴィさん目掛けて体当たりし、そのまま頭をつかんで地面へと叩きつけた。

 地響きと共に舞い上がる土煙。視界に映るのは、怒りとも悲しみともつかぬ、複雑な表情のディスターヴだった。

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