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異世界の流離人~俺が死んでも世界がそれを許さない~  作者: えいりずみあ
第五章:砂漠の国ファーミンの大混戦
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170:王族のエルフたる証

「これより、この場はわたくしが取り仕切らせて頂くわ」


 エルフの少女――もとい、女王レジーナがそのヴェールを脱いだ。

 しかし、里で暮らすエルフ達は本国を知らないため、当然ながら女王の顔も知らない。


「何者だ!? まさか、本国側に付いた裏切り者……?」

「まさか、自己保身のために取り入ったのか! この卑怯者め!」


 故に、このような罵倒がギャラリーから飛んでくる。


「なるほど。腐敗していたとは聞いていたけど、これは想像以上ね」


 あちこちから罵声を飛ばす醜き姿に、事前にある程度聞いていたレジーナも呆れ顔。

 まともに言葉を交わし合う事すらできない野蛮な同族の姿に、心底残念そうに首を横に振った。


「腐敗だと……? 我らを愚弄するか、小娘ぇ!」

「我らは真なるエルフの自由のため、本国との関係を断つ!」

「そうだそうだ! 例え同胞だろうと、邪魔者となるならば倒してでも」


 ついには実力行使まで口にし始める一同。だが、レジーナは涼しい顔のまま。


「……やってみなさい。出来るものならね」

「言われずとも! ぐっ、ぐぐぐ……」


 言葉だけは威勢が良いが、どのエルフ達も全く行動に移さない。

 その場に立ち屈したままただただ罵声を浴びせるのみ。


「どうしたのかしら? わたくしの首はここよ?」


 大人の手であれば握りつぶせてしまいそうな、細くて小さな首を晒す。

 大手寿司チェーンの如く両手を広げて無防備をアピールするが、誰も狙ってこない。


「ぐぐぐ……っ、な、何かの術か!?」

「ならば、炎よ敵を穿て!」


 身体が動かなくても呪文なら唱えられるのではと発想し、早速己の出来る魔術を行使するエルフ。

 しかし、火の玉が出たのは手のひら。動けない状態で手が下を向いていたため、そのまま地面に向けて放出されて終わった。


「何をしても無駄よ。さすがに可哀想だから、秘密を教えてあげるわ。答えはこれよ」


 女王が指し示したのは自身の額。赤く輝く宝石だった。


「これこそがエルフの王族たる証。そして、王族は他の全てのエルフに対する絶対的な支配権を持っているわ」

「お、王族だって……!?」

「そんな。こんな小さな少女が、本国の女王だというのか……」


 王族だとカミングアウトし、広がる動揺。しかし、見た目が小さな少女だからと、すぐには信じられない様子。


「先程『止めなさい』と言ったのを覚えているかしら? その時に力を使ったのよ。貴方達は、わたくしの言葉には逆らえない」

「な、なんと恐ろしい……。そ、それでは我々は女王に意見一つ言う事が出来ないではないか!」

「あら? 民の意見はちゃんと聞いているわ。それに、わたくしに対する否定であっても別に咎めたりはしないわ」

「そんな言葉が信じられるか! どうせその力で本国のエルフ達を思うがままに操っているんだろう!」


 否定を咎めないと言ったはずのレジーナが、鋭い目でヤジを飛ばした男を見据える。


「それはもはや否定ではなく誹謗中傷ね。わたくしを何だと思っているのかしら。貴方のような同族が存在する事が恥ずかしいわ、『停止なさい』」


 額の宝石が輝くと共に、ヤジを飛ばした男がその場に崩れ落ちる。


「残念ながら、思うがままに操る程度の力ではないわ。わたくしは生殺与奪の権利を握っているのよ」


 ピクリとも動かなくなった同胞の姿を見て、あれだけイキリ散らしていたエルフ達が震え上がる。

 ここまで来てようやく、エルフ達はどんな存在に対して牙を剥いてしまったのかを痛感する事となった。


「あと、そこの衣服を着崩した態度の悪そうな貴方」

「お、俺かよ! 今度は俺を殺――」

「貴方、一見問題児のように見えるけど早朝四時には起床して、密かに森の奥で戦闘訓練を積んでるわね」

「なっ……!」


 思わず言葉を失い、顔を真っ赤にする青年エルフ。


「お前、そんな事してたのか……」

「訓練サボってばっかのくせに強かったのはそういう訳か」

「ち、違ェよ!」


 必死に否定をするが、周りからはすっかり事実として認識されてしまっている。


「そちらの眼鏡をかけた貴方。エッチな本に魔導書のカバーをかけて読むのは子供のする事よ? 大人ならば、堂々と読みなさい」

「……ぐぅっ!?」


 冷静に反論の言葉を返す事が出来ない時点で、彼らは相手の言葉を認めてしまった事になる。


「気持ちは分からないでもないわ。正常な男性であれば、そういう事に興味を持つのはごく普通の事ですもの」

「や、やめてくれ……。そう淡々と語らないでくれ……いや、語らないでください」

「珍しい光景だな。いつもは理詰めで相手を追い詰める程に口の長けた奴が、手も足も出ない程に追い詰められてら」


 恥ずかしい秘密を暴露されてしまった二人を笑う他のエルフ達。

 だが、彼らは自覚していない。そのターゲットに、他ならぬ自分達が含まれている事を。


「そちらの女性は訓練所の更衣室に忍び込んで兵士達のシャツの匂いを嗅いでいるわね。誰のでもいいのかしら」

「ごめんなさい! 私、誰がとかではなく男性の汗の匂いが大好きなんですぅー!」

「そ、そう。匂いフェチ……というやつかしら? でも、こっそりやるのは良くないわ。堂々となさい」


「そちらの男性は兵舎の食堂でいつもつまみ食いをしているわね。料理長が犯人は誰だと怒っているわ」

「うわ、バラされたー!」

「犯人はお前だったのか、この野郎! 分量合わなくて帳尻合わせが大変なんだぞ!」


「そちらの女性は好きな異性へ差し入れする料理に自分の唾液などを混ぜたりしているわね。黒魔術ならダークエルフに習いなさい」

「……こんな所で暴かれるなんて、最悪」

「と言うか、料理に唾液を混ぜるような黒魔術なんてあるのか?」


「あと、そちらの貴方は……まぁいいわ。そもそもわたくしは若者の悪戯を暴露しに来た訳ではないのだから」


 幸か不幸か、最後のエルフ女性は助かった。さすがに女王も主目的から外れている事に気が付いた。

 だが、次々と女王によって隠された秘密をばらされてしまったエルフの若者達は、恥ずかしさで悶絶している。

 ここまではまだ、若さゆえにある意味では微笑ましくもある隠し事であった。


「さすがに察しがついたでしょう? わたくしの前では、貴方達の思考や記憶は全て筒抜けなのよ」


 しかし、本当にエルフの里における『闇の部分』を抱えているのは大人達である。

 明かされたら都合が悪いような事を秘めている者達が、明らかにガクガクと震えていた。


「……さて、一体何が出てくるのかしらね」

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