158:合流、そして……
俺達がエレナのもとへ駆けつけると、周りから「同志の方々が合流されたぞ!」と歓喜の声が上がる。
敵視されるよりかはマシだが、俺達まで一緒に信仰対象にされているようで何だかむず痒い。
「リューイチさん、皆さん……来てくださったのですね!」
心なしかエレナも嬉しそうだ。瞳を潤ませて、まぁ……なんと美しい事。
こりゃあ周りの連中が彼女を「女神様! 女神様!」と囃し立てているのを否定できんな。
たぶん、ミネルヴァ様と並べても負けず劣らずなのではないかと思う……たぶん。
「お久しぶりです、リューイチ様。再会できて嬉しく思います」
声をかけてきたのは、右隣に居たメイドの少女だ。眩しい紅色のセミロング、この子は――
「セリンじゃないか、久しぶりだな。もしかして、メイド長の同伴か?」
「はい。この子――スゥの『姉』と再会するにあたって、私も同伴させて頂きました」
「……お初にお目にかかります」
スゥと呼ばれた子が控えめに一礼する。褐色肌に銀髪のショート――なるほど、確かにファーミン出身のマイテと似ているな。
だが、本当の姉妹ならば髪の色も同じハズだ。彼女は黒髪だったしな。おそらくは身寄りの無い子供などを集めて育てているのだろう。
俺が戦地での取材中に遭遇したゲリラ組織もそうだった。子供を兵力として育成するのは常套手段だからな……。
「刑部竜一だ。よろしく頼む」
「は、はい……!」
何処か緊張した面持ちのスゥ。人見知りそうな部分もあるのだろうが、どちらかというと恐れられているかのような。
事前に自分達の事を変な印象で伝えたりしたんじゃないだろうな。メイド長なら、そういう事もやりかねん。
「へぇ、随分と可愛らしい子を拾ったものだ。なぁ、フォル・エンデット?」
「……これでも、見る目はあるつもりですので」
何気ない二人のやり取りに、スゥの顔がパアァと明るくなる。上司に褒められたのが嬉しいようだ。
だが、その直後に俺を見た以上に緊張……明らかに恐れを感じる表情に変わり、メイド長達の方を見る。
「メ、メイド長と同じ匂いがする……」
あー……確かに、なんかあの二人『同類』って感じがするもんな。
「だってさ。やはり、分かる子には分かってしまうものなんだねぇ」
「失礼な。このような方と一緒にしないでください」
まんざらでもないリチェルカーレと、そういう扱いは御免と言うメイド長。答え自体は正反対にもかかわらず、その雰囲気はツーカーを感じさせるものだ。
何と言うか、長年の付き合いが下地にあるような物凄く気楽な関係に思える。遭遇した当初はギスっているのかと思ったが、違う。互いに全く遠慮がないだけだ。
「言うようになったじゃないか。久々に……やるかい?」
「望むところです」
「はいはいストップストップ」
いきなり構えを取り出したので、さすがにそこは自重してもらおう。
さすがにこんな所で「ファイッ!」でもしようものなら、ジダールが崩壊しかねない。
ただでさえエレナのアンティナートで少なからずの影響を出しているのに……。
「……今後どうするかを決めるんじゃなかったのか?」
「私とした事が不覚でした。危うく、メイドとしての本分を忘れそうになりました」
「とは言え、こんな大勢のギャラリーが居る状態で話し合いは勘弁願いたいね」
大勢のギャラリー……。そう、未だ自分達を囲むようにして、エレナに心酔している者達が沢山跪いているのだ。
俺達の話は大衆の前で堂々とするような話ではない。人の口に戸は立てられぬと言うし、第三者には聞かれたくないような事もある。
「エレナ、とりあえずこいつらを何とかしてくれ……。いつまでもこのままの状態だとやりづらい」
「えぇっ!? とは言われましても、一体どうすれば良いのやら……」
「それでしたら私に良い考えがございます。エレナ様、耳をお貸しくださいますか?」
セリンがエレナに何やら耳打ちする。度々「え?」「えぇ!」と、疑問や驚きが声に出てるが、一体何を言ってるんだ?
「ほ、本当にそれを言うのですか?」
「このままですと、この方々はいつまで経っても帰りませんよ。それに、私達についてくる事すらあり得ます。さすがにそれは迷惑極まります」
「そうですよね。わかりました。どうせ新たな宗教組織の立ち上げも宣言してしまいましたし、いずれは通る道ですしね」
何かを諦めたような顔となり、一息吸ってこの場に居る皆へと宣言する。
「皆様には是非とも神殿の建設をお願い致します! 我らの始まりの地となるこの地に、本殿となる神殿を……何処にも負けないような凄い神殿をお願い致します!」
一瞬、その場が静まり返った。だが、直後に信者達が一斉に立ち上がり、歓声が響き渡った。
「神殿! それは素晴らしい! 是非作りましょう!」
「ミネルヴァ聖教の本殿にも負けない凄まじいのを作ってやるぞ!」
「そうなると、エレナ様の像も作らないとな!」
各々、理想を語りながら波が引くかの如く一斉に退散していった。言っては悪いが、ちょろいな。
セリンの案とは、信者達を焚きつける事だったのか。確かに、この手の輩は大きな目標を与えてやると動かしやすい。
反面、定期的にこうやって餌を与え続けなければ手を噛む狂犬となり得る。上手く制御する必要があるな。
「……で、この後はどう動くんだ? プランはあるのか?」
すっかり過疎状態となった町の一角で、腰を下ろした俺達は今後の打ち合わせを開始。
言うまでもなくメイド長達が素早く準備をしてくれたため、優雅なティータイムを兼ねている。
「私としてはまず、代表者達と会談の席を設け、この国の環境改善についての話をしたいと思っています」
「その必要はございませんよ。代表者達……いえ、『長老会議』での結論は既に出ておりますので」
レミアの提案をメイド長が一蹴する。この国の代表者達の話し合いは、様々な部族の長老達が集う事から、まんま『長老会議』と呼ばれているらしい。
多種多様な部族の中でも一番歴史の長い部族の長老が国の代表『最長老』として扱われているが、実質的に他の長老と権力は変わらない。
今まで巡った国のように一人の強大な権力者を持たず、かつ俺達の世界によくあるような形で、国民に選ばれた政治家達が国を動かすわけでもない。
結局のところ、部族間で互いに最低限超えてはいけないラインを敷いて、後は各々が好き勝手に動いている。
砂漠の国という名を冠してはいるが、実際は全く国の体を成していない名前だけの国。それがファーミンという場所だった。
「結論が出ている……? それは、一体どう言う事ですか?」
「そうですね。それを説明するには、まず私達が長老会議に乗り込んだ所から話さねば――」
……なんかいきなり物騒な事を語りだしたぞ、このメイド長。




