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異世界の流離人~俺が死んでも世界がそれを許さない~  作者: えいりずみあ
第五章:砂漠の国ファーミンの大混戦
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157:新たな拠り所

 俺はと言うと、メイド長が用意してくれたティーセットを堪能していた。

 空間魔術で瞬時に必要なものを取り出し、作業過程が目視出来ないほど手早く準備する様は、もはや一般的なメイドのそれではない。

 加えて、こんな外に堂々と展開しておきながら誰一人として自分達の存在に気付かずに通り過ぎていく……。


「癒しの空間を提供する魔術で御座います。今の我々は外から隔離された身、気兼ねなくおくつろぎくださいませ」

「あ、あぁ……。そう言えば、エレナとレミアはいつの間に何処へ行ってしまったんだ?」

「二人ならアタシ達を遠目に取り囲んでいた敵を引き付けるための囮になったよ。相手は八柱教だ。狙いは十中八九エレナさ」


 なるほど。だからエレナが離れる事でおびき寄せようとしたわけか……。


「って、人数分けてしまって大丈夫なのか?」

「今の二人なら単独でも全く問題なく制圧できるくらいに力量があるから平気さ。おそらく、エレナもそれを自覚して一人になってるハズだよ」


 確かに、レミアはシルヴァリアスの力を取り戻し、ダーテで見せたように単独で山を穿つほどの攻撃力を持っている。

 エレナもアンティナートを解放し、冥王のゆりかごを模した女神のゆりかごで、超絶な回復力と身体能力を獲得するに至っている。


「……うん。負ける要素無いな」

「そういう事だから、アタシらは安心して待っていればいいのさ」

「お二人とも。早速始まりそうですよ」


 メイド長に言われ、示された方向を見ると同時に天を突く光の柱が立ち上った。

 同時に、町全域を飲み込む暴風が吹き荒れ、出店が可哀想な事になってしまっているが、俺達の居る所には何も影響がない。

 これが空間魔術の効果か。器用に音と光だけを通して衝撃をカット、おそらく簡単そうに見えて難しいのだろうな。


「ふふっ」


 今、密かにメイド長が得意気に笑ったのを見逃さなかったぞ。パッと見では無表情だが、内心は……。


「町の人達が次々とその場に崩れ落ちていますね。これは、エレナ様の法力の余波でしょうか」

「今のあの子の法力はケタ違いだ。そんな力の奔流に飲まれたら、並の人間じゃ立っていられないさ」


 エレナの法力には、そんなに恐ろしい効果があったのか……。


「見てみなよ、あの顔を。モフモフの暖かい布団で包まれて一眠りしたかのような幸せな顔だ。癒しの力の影響だよ」


 あー、確かに巻き込まれた人達はみんな幸せそうな顔をしている。いっその事、俺も法力の奔流に飲まれたい。


「大体何を考えているのかは想像がつくけど、君ではあぁはならないよ。ダーテで身近にあの力を体感して何ともなかっただろう?」


 そうか。リチェルカーレや王の力同様に、近場に居て慣れ過ぎてしまったのか……残念だ。


「おや? どうやら弟子達がエレナ様と合流されたようですよ。となると、もう少しでこちらへやってくるでしょう」


 弟子――おそらくメイド長の連れの事だと思うが、居場所や行動まで把握してんのかよ。


「どうやら、その前に一人合流するようだよ?」


 スッと指で指し示す先には、無表情のままで全力疾走してくるレミアの姿。確実に何かあったな……。

 俺の経験上、あれは『何か見てはいけないものを見てしまった』顔だ。必死で深く考えないようにした結果、それが無表情として表れるのだ。

 かつて戦地を取材していた際、男同士で盛っているのを見てしまった俺もそんな顔をしてベースキャンプに戻ってきたらしいしな。


「……見つけましたよ。実は今、大変な事が起きています。どうか助けてください」


 開口一番、彼女が漏らしたのはそんな言葉だった。


「そういや俺達って空間魔術で隔離されてたんじゃなかったのか? あっさり見つかったぞ」

「レミア様ほどの力をお持ちであれば、この程度の認識阻害など意味がありませんよ。あくまでこれは有象無象を遠ざけるためのものですので」


 確かに、仲間にすら見つけられないような形で合流を待つなんて事をするハズがないか。


「今すぐ来てください。申し訳ないのですが、私ではどうすれば良いのかわからず……」

「レミアがそこまで言うとは余程の事態なんだな。だったら、さっさとこの場を片付けて向かうと――」

「既に片付けは終わっておりますので、いつでもどうぞ」


 早っ! レミアが「助けてください」と言ってきた時にはくつろぎスペースがしっかりと残ってたぞ。

 彼女の方を向いて言葉を返した一瞬でやったのか……。もはやメイド長が何者なのか考えるのも馬鹿らしくなってきたな。

 もうこの人は『こういう存在』だと認識しておこう。リチェルカーレと同じく、唯一無二の存在って事で。



 ・・・・・



「……どういうことなの」


 レミアに連れられてやってきた場所では、エレナに向かってひざまずき、祈りをささげる民衆達の姿があった。

 少し高い位置にいる彼女は、横に二人のメイドを伴い、身振り手振りを交えて何やら演説している。


『そう! 私達は今こそ立ち上がらなければならないのです! 宗教は権力者の道具ではない! お金儲けの手段ではない! 民に寄り添った、正しき在り方を取り戻しましょう!』


 内容を聞く限りだと、権力とお金に対する明確な批判。俺達が話に聞かされていたエレナの父の事だろう。


『ミネルヴァ聖教も八柱教も関係ありません! どちらも腐り果てているというのであれば、我らが新たな礎となって、皆を導きましょう!』


 そう言えばファーミンは八柱教の勢力内だったな。既に八柱教の人間すら取り込んでいたとは、恐るべしエレナ。

 だが『新たな礎』と言うのが不穏な響きだな。ミネルヴァ聖教も八柱教も関係ないと明言しておいてのそれとはつまり――


『――今ここに、私を中心とした新たなる宗教組織を立ち上げます!』


 ですよねー。彼女自身、ここへ来る前に言っていた事だ。


(もしそれで人々が拠り所を失うというのであれば、その時は私が新たな拠り所となりましょう)


 人は何かに縋る事を止められない生き物だ。絶対的な何かの意思の下で動いていると信じる事で己を保っている者は想像以上に多い。

 そう言ったものがなければ、極端な話『明日、自分が何をすれば良いのか』すら決められない程に依存している者も居るだろう。

 宗教とは、そういった部分に付け込んで大衆を思うがままに操り、時には歴史の陰から、あるいは堂々と表からその情勢をコントロールしてきた。


 想像以上に早い立ち上げとなってしまったが、彼女の目的を考えたら遅かれ早かれ、いずれはこうなっていただろうと思う。

 問題は、その過程に俺達も盛大に巻き込まれるだろう――いや、既に巻き込まれているか。個人的には、別に面白そうだからいいんだが……。

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