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異世界の流離人~俺が死んでも世界がそれを許さない~  作者: えいりずみあ
第五章:砂漠の国ファーミンの大混戦
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156:巻き込まれたメイドさん

 早々に『用事』を済ませたメイド長とそのお付き二名は、国境沿いの町ジダールにやってきていた。

 メイド長は後からやってくるであろう竜一達と合流するべく先に町の中へと姿を消し、残る二人は合流に備えて買い物をしながら向かう事になった。


「先輩。これから合流される方々とは一体どのような方々なのですか?」

「リューイチ様は異邦人です。召喚された際に私が世話役を仰せつかったのですが、力不足で今まで旅に同伴する事もままならず……」

「先輩ほどの方が力不足と言われるとは……。リューイチ様とはどれほどにとんでもないお方だと言うのですか!」

「あ、あの頃の私はまだメイドを名乗るのもおこがましい未熟者でしたから……」


 先輩としてのセリンしか知らないスゥの中で、竜一という存在のハードルがとんでもなく高く設定されてしまった。


「他には王城にお勤めの魔導師リチェルカーレ様と、騎士団副団長のレミア様、神官長のエレナ様がご一緒だと聞いてます」

「魔導師に騎士に神官……旅をするにおいては無難で安定した組み合わせですね。にしても、副団長とか神官長とか、結構な要職の方が出てきているようですが」

「国を救う重大なお仕事なので、実力者を揃えたのだと思います。その辺、お話には聞いていませんか?」

「異世界から召喚された方が仲間達と共に周りの国々へ行って、ツェントラールへの侵略を止めさせようとしているという話でしたら」

「……それです。ファーミンに来たのも、そのためです」


 侵略者側であるファーミンに所属していたスゥとしては耳の痛い話であった。

 メイド長に遭遇して捕らえられるまでは、まさにツェントラールを侵略する任務を遂行していた。

 当然、それまでには幾人もの兵士や魔導師を斬り、地に伏せてきた……。


「確かにファーミンはツェントラールを狙っていました。当時は命令に疑問を持ちませんでしたが、今思えば――っ!?」


 突如、轟音と共に町の一角から立ち上る光の柱。そして、同時に吹き荒れた風が町中を駆け抜ける。


「……凄まじい程の法力が流れてきますね。これは一体?」

「恐ろしいほどの力ながらも、優しく温かいこの感じ……これは、エレナ様ですね」


 エレナの聖性を宿す法力は、正しき心を持つ者にとっては己を優しく包み込んでくれるような温かい光として感じられる。

 一方で悪しき心を持つ邪悪な者には、その身と心を焼き払う焦熱として感じられ、不倶戴天の天敵となる。

 幸か不幸か二人の周りに悪しき者は存在しなかったようで、多くの町人が脱力したかのようにその場に崩れ落ちていく。


「こんな広範囲に渡って影響を及ぼすとは……。ツェントラールの神官長とは一体何者なのですか?」

「わ、私も正直困惑しております。元々から規格外の方ではありましたが、旅立つ前にお会いした時はこれ程では……」

「せっかくですし、行ってみませんか? 物凄く気になります」

「目が輝いてますね、スゥさん。わかりました。メイド長より先に皆様と合流しておくのも一つの手ですね」


 二人は光の柱を目指し、巧みに人込みをすり抜けて近付いて行った。



 ◆



 果たして、これは何と形容したらよいのでしょうか……。

 私達が現場にたどり着いた時、そこに広がっていたのは実に異様極まりない光景でした。


「い、いきなりそんな事を言われましても……」


 一人困惑しているのは、私が予想していた通りの人物――エレナ様です。

 何故か周りにパンツ一丁の男達が跪いており、それらを囲むようにして幾人もの人々が座り込んで祈りをささげています。

 宗教の儀式か何かでしょうか。特に深い信徒でもない私からすれば、全く以て理解できない光景です。


「……見なかった事にしましょうか」


 黙って何度も頷くスゥさん。異様な光景に腰が引けてしまったようですね。

 とりあえず、関わるのを避けてメイド長の所へ戻るとしましょ――


「そ、そこのメイドさん達! 待ってください!」


 呼び止められてしまいました。困りましたね……。思いっきり巻き込まれそうです。

 エレナさんに跪いていた人達や祈りをささげていた人達が凄い目つきでこちらを睨んできてますよ。


「……殺りますか?」

「さすがにいきなり殺ってはダメです」


 とは言え、涙目でうるうるこちらに縋るような感じで見られては放置も出来ませんね。

 凛々しく美しい大人の女性と言った印象の姿しか見ていませんでしたが、何と言うかこうポンコツ臭が漂う姿は新鮮に感じます。


「お久しぶりです、エレナ様。如何なされましたか?」

「あ、貴方は……セリンさん? そう言えばメイド長がファーミン出身の子を連れて向かったとか」

「はい。この子がそうです。スゥさん、ご挨拶を」


 後ろで控えめにぺこりと一礼。メイド長が居たら拳骨ものでしょうね。

 私個人と致しましては、慣れない人に対しては控えめなこういう部分も可愛いと思うので見逃します。


「せっかくですので、先輩として私も同伴させて頂きました。そして、これを機に本来の職務へと戻らせて頂こうと思っています」

「本来の職務……ですか?」

「私は元々リューイチ様の世話役を仰せつかった身ですので、今後の旅に同行させて頂きます」

「世話役……。ですが、今の私達は非常に危険な旅の渦中にあります」

「存じています。故に、旅への同行は危険と判断され城に留まる事になりましたから。しかし、それから私はメイド長のもとで自分を磨き直しました」


 エレナさんの表情が何処か陰って見えます。これは、もしや……


「これで、これからはずっとリューイチ様のお傍に居られますね。あぁ、幸せです」


 と言ってみてから、さり気なくエレナさんの表情を伺うと、あからさまな不快感を見せています。

 やはり、リューイチ様に対して少なからず思う所があるようですね。分かりやすいです。


「……それより、この状況はどうなさるおつもりですか?」

「そ、そうでした! 何とかなりませんか……?」


 まだ信者達の目線は鋭いままです。我らが女神に何と馴れ馴れしい――的なオーラをひしひしと感じますよ。


「その前に、私達に対する彼らの扱いを変えて頂けないでしょうか。このままでは針のむしろです」

「扱い……? なるほど、そういう……わかりました」


 エレナさんは即座に私達が同胞である事を宣言してくれました。同時に、敵対する事は己に刃を向ける事と同義であるとの念押しも忘れません。

 負の感情で睨みつけられなくなったのは良いのですが、エレナさんと同じような雰囲気で見られるのも正直、怖気がします……。

 とは言え、この状況をどうにかしないとお話にならなさそうですね。とりあえずはこうなるに至った経緯を伺って、考えると致しましょうか。

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