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異世界の流離人~俺が死んでも世界がそれを許さない~  作者: えいりずみあ
第五章:砂漠の国ファーミンの大混戦
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153:異世界の懐かしき景色

 買い物していた二人と合流、そのままファーミンに入国し、国境沿いの町ジダールにたどり着いた俺達。

 俺は不思議と初めて来たハズの異世界の町で『懐かしい』という気持ちになっていた……。


(そうか、何処か似てるんだな……。シリアへ行った時に取材をした町のひとつ、確かマアルーラといったか)


 マアルーラは山の中に築かれた隠れ里のような雰囲気の町であり、シリアのキリスト教宗派であるメルキト派が多く住んでいた。

 石造りの建物が密集し、岩山に沿うように高低差のある立地が特徴的だった。高台から見下ろすと砂漠が良く見え、乾いた風が吹きつけてきたな……。


「どうしたんだい、リューイチ。急に足を止めて」

「あぁすまない。ちょっと、以前居た世界を思い出す風景だったんでな」


 ジダールもマアルーラと同じく、岩山……と言うか、小高い丘に沿うようにして建物が並んでおり、密度も近しいものがある。

 暑さを感じる風が緩く吹いているが、乾いているためか日本の夏場のような不愉快さは無い。俺からすれば、良く慣れた気候と言える。

 明確な差異はと言えば、それは当然『亜人』達が我が物顔で街を闊歩している事だろう。元の世界ではあり得ない光景だ。


「様々な民族や種族が共存しているだけあって、行きかう人々も実に様々ですね~」

「亜人種の方々はもちろん、この地に住まう民族の方々も多種多様ですから、見ていて飽きないです」

「この地方はあまり他所から人が来ないですからね……。この国以外で、亜人の方々はほとんど見た事がありません」

「来づらいと言うのもあるのでしょうが、そこまでして来たいと思える何かが無いのもつらいところです」


 先程まで買い物に夢中だった二人が、ジダールの光景に目を輝かせている。

 二人とも元々は他所の土地出身であり、それぞれの事情で旅の果てにこの地へたどり着いた経緯がある。

 そんな二人であったが、意外にもファーミンに入ったのは今回が初めてであるらしい。


「私もレミアもコンクレンツ帝国の港から来て、そのままツェントラールへ入りましたから……」

「騎士団は任務で城の外へ出る事はあっても、さすがに他所の国まで乗り込んでいくような事は無いですからね」


 そういや騎士団はエレナのサポートを受けて活動していたな。国外まで侵攻するとなるとその身が持たないんだったか。 

 本当に狭い世界で生きていたんだな。当時の彼女達からすれば、それが望みだったのかもしれないが……。


「しっかし、ホントに色々な人が居るな……コーヤオ族とかムルシ族とかを思い出す多様さだ」


 コーヤオ族は首に真鍮の輪を連ねて装着して首を伸ばす事が特徴的な民族で、ムルシ族は唇に丸いお皿を装着している民族だ。

 さすがにそれらと同一の存在は居ないが、全身に紋様を描いた人間や、全身にピアスのようなアクセサリーを身に付けた者達を見かけた。

 肌の色や体格も実に様々。二メートル半はありそうな大柄な集団や、一メートル程度の小人の集団も見受けられる。


「……で、この国では何をするんだ? 他の国みたいにトップを倒せばいいという話でもないだろう?」


 コンクレンツ帝国は皇帝が戦争の仕掛人で、エリーティ共和国やダーテ王国は陰の支配者が存在した。

 今のところこの国において積極的に戦争を仕掛けてくる気配や、トップの者が腐っているとかの話は聞いていない。

 ただ、水面下で少数精鋭の暗殺者を送り込んだり、工作員を潜入させて情報工作とかはしているらしいが……。


「この国の問題点は『環境』だ。そこを主題として、こちらに降ればメリットがある事を示せばいい」

「なるほど。他国に対しての援助はしにくいが、自国の一領土であれば全力で援助ができる――などと言った事だな」

「加えて、今や周りの三国もツェントラールの一部だ。実質四カ国分の援助を見返り無しに受けられるね」


 だが、問題はこの国が一人のトップによって動いている訳ではなく、多数の民族や部族のトップが共同で動かしている点だ。

 通常の国ならば力関係に上下があるため、トップが下位の身分の者達の反対を抑え込む事が出来るが、この国はトップが横一列に並んでいる。

 権力による抑え込みが効かない。となると、意地でも反対を貫き通そうとする者が最終手段として戦争に踏み切ってしまう可能性もある。


「けど、アタシはそんなに反対は多くないと踏んでいる。いくら多数の民族が存在するとて、所詮は少数民族だ。そのコミュニティは極めて狭い」

「……その狭い領域が侵されない限り、領土が何処の国に組み込まれようが、支配者が誰になろうが関係ないという訳だな」

「どういう事なんだ? と聞き返してこない辺り優秀で助かるよ。まさにその通り。彼らにとっては自分達の民族こそが全てなのさ」

「余計な介入さえしなければ良いって事だな。だが、この手の問題事においては絶対に馬鹿をやらかす奴が現れる」

「そういう奴らの排除も取引材料に使うさ。無能な味方に足を引っ張られるのは不愉快極まりない。引っ張る前に切り捨てるよ」

「同感だな。内部から崩されて行く事ほど恐ろしいものは無い。表面はピカピカでも内部がドロドロに腐っているというのは最悪の構図だ」


 意見の一致に、二人して不敵な笑みを浮かべる。傍から見たら変な奴らだろうな……俺達。




 それから一旦落ち着ける場所を探していたら、そこそこ広い工事現場に行き当たった。

 大きな敷地を用意し、その半分くらいを使って建物を建てている。なかなかに規模が大きそうな感じだ。


「……これは一体何を建てているんだ?」


 通りかかった作業員に声をかけてみると、思わぬ言葉が返ってきた。


「学校だよ。長老会から直々のお達しでね。今、急ピッチで作り上げている所だよ」


 元々の世界においては、発展途上国の中には学校すらなく、学ぶ事すらままならない子供達も居た。

 おそらくはこの町も同様の状況だったのだろう。それを憂いた上層部が、ようやく重い腰を上げたと言った所か。


「何でも『これからはメイドの時代』だそうで、急いでメイドを養成する学校を作れと」


 前言撤回。なんだメイドの学校って。この強引なメイド推し、まさか……。俺はリチェルカーレの方をちらっと見る。


「はぁ。十中八九、あの子の仕業だろうね。先行したと思ったら、一体何をやっているんだ……」


 珍しく彼女が額に手を当てて呆れている。おそらく、俺と同じ人物が頭の中に浮かんでいるハズだ。

 ファーミンで早速何をやらかしてくれたんだ、メイド長……。

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