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013:依頼の選択

「一体何がどうなっているんですか!? 今や首都は大混乱に陥ってますよ……」


 ギルドの屋内に移動した俺達は、併設する居酒屋に腰を下ろしてレミアと話をしていた。

 敷地内に倒れているギルド職員や冒険者達は騎士団が運び出し、慌ただしくなっている外にも兵を出して民衆を落ち着かせている。

 窓から外を覗くと、慌てて何処かへ逃げようとする人や、その場で跪いて何やらお祈りしている人を見かけた。


「聞けば、何やら竜を召喚して砲撃を行い、天空のアレを呼び寄せたらしいですが」

「仕方がないじゃないか。冒険者として登録するにあたって実力を見せてくれと言われたのだから」


 アイリさんがその場に居たら「そこまでやれとは言ってません」とか反論してる所だぞ。

 中庭に居た人達はみんな倒れたから、現在は別室へ運ばれていて不在だが……。


「にしても、何故こんな大騒ぎになるようなものを召喚したんですか……。もっとこう、お手軽な感じで出来なかったのですか?」

「キミは実力を見せてくれと言われてお遊戯でもするのかい? そういう部分で手を抜いては相手にも失礼だろう」

「ぐっ、それはそうですが……」


 騎士であるレミアには返す言葉が浮かばないだろう。正々堂々を重んじる騎士道を体現する身であるならば、全力で答えるのが礼儀だろうしな。

 リチェルカーレの言う通り「手抜きは失礼」というやつだ。実力を知りたがっているのに、それを隠すというのも後ろめたいだろう。


「そもそも、貴方が竜などという凄まじい存在を召喚できる事自体知らなかったのですが」

「言ってないからね。その必要もなかったし」

「それほどの力があると知っていれば、この国は今のような状況に陥っていなかったかもしれないですよ」

「かもね。で、もし知っていたとしたら何をさせるつもりだったんだい? 敵対する四国を完膚なきまでに焼き払うとか?」

「そんな事はしません! あくまでも平和的に、抑止力として使うとか――」

「まぁ、何であれ過ぎ去った事だ。既にこんな状況になってしまった今、当時の事を言っても仕方がない」


 次こそ本当に返す言葉を失ってしまったレミアを尻目に、リチェルカーレは「知ったこっちゃない」と言わんばかりの顔だ。

 彼女はあくまでも自分のやりたいようにやるだけ。それでいて決して無意味な行動は無い。接してまだ短い時間だが、それくらいは分かってきた。


 結局の所、今回の件は『あくまでもリチェルカーレの実力披露の一環として行われたもの』としてまとめられた。

 国内の人々にも『王宮勤めの魔導師による高度な魔術の実践であり害は無い』と周知される事になり、早急に事態の収拾が図られた。

 恐怖を感じる程にリアルで大規模な幻術――と言った感じで、兵士達が驚かせてしまった事をお詫びして回る事にしたらしい。




 それから俺達はギルドマスターの部屋へと呼び出され、アイリさんとマスターを交えて話をする事になった。

 二人共浮遊竜の魔力に当てられて倒れただけで、怪我や体調の悪化などは無かったらしく、既に仕事を再開していた。


「あの時は挨拶する間もなかったからな。俺がこのギルドのマスター、アルコ・ホールだ。かつてはゾイファーというパーティに所属していた元Aランク冒険者でもある。よろしく」

「改めまして、アイリ・フローラルです。いつもは一階で受付を担当しております。パーティは無所属、元Bランク冒険者です」


 アルコと名乗ったマスター。隣にいるアイリさんよりもさらに上の、Aランク冒険者か……。

 確かに、こうして座ったマスターと向かい合っているだけでも威圧感が凄い。浮遊竜の時はリチェルカーレに守られていて何も感じなかったが、今はその保護が無い。

 ダイレクトにマスターの気を感じているのだ。マスターの気でさえこうなのだから、そのマスターを倒れさせたキントの気って一体どれほどだったんだ?


「おや、ゾイファーと言えば名の知れた冒険者集団じゃないか。そこの元所属者とはなかなかだねぇ」


 曰く、パーティとしてのランクもAであり、在籍する冒険者達の多くがAランクという一流のパーティだったそうだ。

 後進の育成にも力を入れており、ゾイファーに所属した駆け出し冒険者が最終的にはレギュラー達と同じAランクにまで達した事があるという。

 そのパーティ自体は今も存続しており、現在はその元駆け出し冒険者がリーダーを務めているらしい。


「お褒め頂き光栄だ。が、そんな身でもアレはどうしようもなかったな……。君は一体何者なんだ?」

「王城で対面した時にはそんな凄まじい魔導師である事は全く感じさせなかったのに……」

「アタシはただのリチェルカーレという存在でしかないよ。それ以上でもそれ以下でもないさ」


 通常の場合、こういう言い方は誤魔化したりはぐらかしたりする時に用いるものだ。

 だが、リチェルカーレは自身を作り替え唯一無二の存在となっている。確かにそれ以上でもそれ以下でもない。


「何かを召喚するにあたっては絶対的な条件が一つある。それは召喚する対象を倒し、屈服させているという事だ。つまり、君はあの竜よりも……」

「ふふ、そこは想像に任せるよ。で、結局の所……要件は何だい?」


 リチェルカーレは浮遊竜よりも強い――想像に任せるとは言いつつも、それはほぼ認めていると同義だ。

 何せ実際に召喚して見せたのだ。もしかして、あの天空に居た親の方すらも屈服させているんじゃないだろうか。

 でなければ、神獣がわざわざ呼びかけに応えて姿を表すなんて事は無いはずだ……。


「強さの証明としては充分過ぎる。ぶっちゃけ好きなランクから始めてもらって構わない」

「ですが、Sランクだけは個人の裁量ではどうにも出来ません。実力と功績の他、全国のギルドマスターが集う会議において承認が必要なのです」

「Sランクはまぁ別としても、随分とサービスしてくれるじゃないか。ちなみに、隣にいるリューイチに関してはどうだい?」

「リューイチか。今までに例のなかった『原初の力』と思われるものを発現したんだったな……だが、申し訳ない。力を発現したばかりの者は等しく初心者扱いをするのが決まりでな」

「いえ、かまいません。確かに俺はまだロクに力の扱い方すら良く分からない初心者である事には変わりませんので」

「そういう事ならアタシも冒険者としては初心者だ。Eランクからのスタートでかまわないよ」

「な……本気で言っているのか。君ほどの力の持ち主、今すぐにでもAランク冒険者の補填に当てたいくらいなのだが」

「高ランクの方々は実力者達である反面、依頼の難易度も高く、ただでさえ少ない人数がさらに減っているという状況なのです」


 人数は減れども脅威は減らない。それが積もり積もれば世界は……。ル・マリオンは思ったよりも深刻な状況なのかもしれないな。


「アタシはリューイチと共に行くと決めてるからね。始まりも同じ位置からでいいさ」


 だが断るとばかりに即答。リチェルカーレにとって相手の事情など知った事ではないのだ。


「俺に合わせていいのか? Aランクから始めれば色々と得する事の方が多いと思うが」

「冒険者になるのは世界を周るのに都合がいいからで、別に高ランクを目指している訳じゃないよ」


 確かに、俺達は冒険者として成り上がるのが主の目的ではないが……。


「それって、ギルド側としては良いんですか? 聞いた限り状況は良くないんでしょう?」

「本人がそう言うのなら仕方がない。強制ではないんだ。それに、君程の者なら放っておいてもすぐ上がってくるだろうし、少しくらいなら待つさ」


 寛容だ。まぁ、ここでリチェルカーレの機嫌を損ねたらどうなるか分かったもんじゃないからな。

 特に先程のアレを目にしている以上、また同じような事でもされやしないかと内心でヒヤヒヤしているに違いない。


「そこでお勧めなのがパーティだ。気心知れた者同士や利害の一致でもいい、複数人が一つとなって任務に挑む事が可能な制度がある」

「そういえばマスターもパーティに所属してたと言ってましたね。やはりパーティだと利点が?」

「今言ったように、本来個人で受ける依頼を皆で共有できる所だな。報酬は山分けになるが成功率はグッとあがる。特にリューイチの場合、彼女の助けは大きいだろう」


 言われてみればそうか。俺個人だったら一番緩そうなモンスターの討伐でもおっかなびっくりやる事になりそうだ。

 しかし、リチェルカーレが居てくれるなら、戦闘や力の使い方を指導してもらいながらこなせるだろう。

 さすがに何から何までおんぶにだっこというのは俺としては嫌だ。あくまでも俺自身で出来るようになりたい。


「アタシとしては賛成だね。けど、パーティを結成するとして名前の案はあるのかい?」

「……そうだな。少し考えてみるよ」

「了解した。じゃあ先に冒険者の証であるギルドカードの発行手続きに移らせてもらうとしようか。アイリ、頼む」

「わかりました。では先に戻って準備していますね」


 アイリさんはマスターと俺達に一礼すると、部屋を後にした。


「発行が完了するまで、依頼書の確認やパーティの名前を考案しながら待っていてくれ。ちなみに、Eランクなら一つ上のDランクの依頼まで受けてかまわないぞ」


 続けて、俺達もマスターの部屋を後にする。




 二階にあったマスターの部屋から戻ってきた俺達は、一階のロビーで依頼書を眺めていた。

 依頼書は『要件』『依頼場所(目的のものがある場所)』『ランク』と言った感じで情報が記されている。


【迷子の仔猫探してます 首都スイフル Eランク】

【森での薬草採取 首都スイフル~イスナ村間の森 Eランク】

【瘴気に冒された犬『魔犬』の駆除(常時依頼) どこでも Eランク】


「ふーむ、Eランクの依頼はこんな感じか……」

「一見すると猫探しなどは簡単に見えるが、依頼としては地雷の類だから受けたりしてはダメだからね」


 曰く、広い街の中から猫一匹を探し出すのは非常に困難であり、かつその労力に対して報酬が見合わないのだという。

 こう言った依頼は、以前聞いた『戦わない冒険者』が主に受けるものらしい。確かにこういう依頼なら命の危険は無さそうだしな。


【畑を荒らすモンスターの群れの駆除 アシャラ村 Dランク】

【近隣に現れる盗賊団の排除 イスナ村 Dランク】

【素材回収用 オーク一体の確保(死体の損壊が少ないほど報酬アップ) 首都スイフル近辺 Dランク】


「モンスターの群れと盗賊団か。人殺しに慣れていないと、盗賊団は厳しいかもね」

「排除ってのは、イコール殺す事なのか……?」

「君の世界ではどうか知らないけど、こちらの世界では犯罪者に人権なんて無いんだ。指定なく排除とだけ書かれている場合、殺してしまってもお咎めは無しさ」


 ある意味、こちらの世界の基準がうらやましいな。俺の世界は犯罪者が守られてるからなぁ。

 正直言って更生の可能性など微塵もないような奴はさっさと始末した方が税金の無駄にならないと思うんだがな。


「いちいち捕らえるのも面倒だし、役人に引き渡すのも面倒だ。ならば殺して首とかを持って行った方が早い。遺体はモンスターが処理してくれる」


 サラリと恐ろしい事を言ってのけるリチェルカーレ。もしかして俺もそれをやらなければならないんだろうか。

 戦場カメラマンとして首を斬るようなテロ組織を糾弾してきた立場の人間が、逆に首を斬る側に回るとか愉快な話だ。

 モンスター退治の際もそうだが、ちゃんと倒したという『証拠』が必要だもんな……仕方がないか。


「慣れてもらう意味でも盗賊団の排除の依頼を受ける事にしようか。どうせコンクレンツ帝国へ向かう際にイスナ村は通るんだ」


 やっぱり受けるんだな。まぁ、国王に向かって躊躇いなく銃の引き金を引いた身でアレコレ言うのも今更か。

 首だろうが何だろうがやってやろうじゃないか。この世界で生きる以上、この世界のやり方に適応するしか無いんだ。


「ついでに薬草採取とオーク確保、常時依頼も受けておこう。通り道でこなせそうな依頼だからね」

「選択は任せるよ。俺はまだまだ学ぶ立場だし、知らない事の方が多い」

「そうだね。パーティのリーダーとして全てを任せるには、さすがにまだ早いだろうからね」

「……パーティのリーダー?」

「アタシはあくまでもキミのお供だからね。この旅はあくまでもキミの旅なんだ。キミが中心であるべきだろう」

「確かに、この旅に関しては俺が言い出した事だしな……わかったよ」

「じゃあ窓口へ依頼書を持っていくとしようか。パーティの名前については考え終わったかい?」


 俺は頷いた。依頼書を見ている間、密かに思いついた名称があったのだ。

 依頼を受ける申請をするため窓口へ向かおうとすると、その前を一人の冒険者が通り過ぎた。


「アイリさーん、ここに居ましたかぁ。見てくださいよ、俺オーガ倒してツノ取って来たんすよー」


 見た目からして前衛の剣士か、手には三十センチはあろうかという白いツノを持っている。

 それがオーガのツノなのだろう。おそらくは討伐と素材獲得の依頼に違いない。

 軽いノリの男性だ。声の浮つき具合からして、これは明らかにアイリさんに対して気を持っているな。


「はい、おめでとうございますー。報告をお願いしますねー」

「ちぇー。つれないなぁー。オーガのツノだぞ、あのオーガの……」


 しかし、そのアイリさんにそっけなく対応されると、しょんぼりして立ち去ってしまった。

 後で聞いた所、オーガの角の獲得依頼はBランクらしい。あぁ見えて彼はBランクの冒険者だという。

 パッと見ただけだが、実力があるのに性格や雰囲気で損をしてるって感じだな……。


 その冒険者と入れ替わるようにしてアイリさんのもとへやってきた俺達だったが、唐突に質問を投げかけられた。


「リューイチさん、冒険者の評価を高めるのは何だと思いますか?」

「……今のアイリさんの態度からすると、あぁいうのはダメなんでしょうね」


 チラリと先程の冒険者の方へと目線をやると、アイリさんは小さく頷いた。


「ですね。確かにオーガは強敵ですし、それを倒せるだけの実力があるのは凄いです。しかし、それと世間への貢献度は違います」



 強敵モンスターの討伐と素材獲得を兼ねたクエストを依頼するのは、大抵は富豪の好事家である。

 各種素材は市場に出回るが、好事家達はそう言ったものではなく『特別な物』を欲しがる。

 そう言った物は、大抵は討伐が困難なモンスターの特定部位であり、非常に獲得が困難なため市場にも出回らない。

 素材獲得だけなら本来モンスターを殺す必要は無いのだが、素材を得るという事は少なからず危害を加えるという事であり、そうなれば手を出した者は手痛い反撃にあう。

 そんな状況でモンスターを生かし続ける事は自殺行為でしかなく、自分の身を守るためにも、他を巻き込まないためにも最終的には始末しなければならない。


 依頼者側からすれば、そのモンスターを始末してもらう事で特殊素材の産出を絶ち、自身の持つ素材のレア度合いを高める事にも繋がる。

 冒険者側からすれば、強敵を討伐する事で実力の誇示に繋がる。故にウィンウィンとされ、この手の依頼は素材確保と討伐がセットとなる事が多い。

 しかし、これは個人の趣味趣向で一方的に罪無きモンスターを害する行為であり、世間一般から見ればそう褒められた行為ではない。

 一般庶民は『自分には害を及ぼさない』あるいは『縁遠い』野生生物には優しく、守りたがるものだ。


 一方、畑を荒らすモンスターの駆除などは、困りに困った末に冒険者を頼ってギルドへ依頼されるものだ。

 報酬として支払うだけのものを用意するのさえ困難な貧困レベルの地域もあるため、村中のお金をかき集めて何とか依頼を出す例もある。

 それでも、冒険者側からすればはした金である場合が多く、それに見合わぬ依頼の面倒さもあってか避けられがちだ。

 中にはせっかくの依頼が割に合わぬと放置され過ぎてしまい、悲惨な末路を辿った村もあるという。


 報酬こそ少ないが、真に救いを求めている依頼であり、達成した暁には対象の村はもちろん世間一般からも絶賛されるであろう。

 一般庶民は『自身に害を及ぼす』あるいは『身近な』野生生物には厳しく、排除したがるものだ。



「あー、つまりレア素材を獲得してきても依頼者一人がニヤニヤするだけで、世間的に見れば何も役立っていないと?」

「そういう事ですね。本当に困っている人達からすれば、何もしていないのと同じですから」


 アイリがそう言うと同時、後ろの方でガシャンと何かが落ちる物音が響き、同時に誰かが猛烈な勢いでギルドを飛び出していった。 


「……焚き付けましたね?」

「さぁ、なんのことでしょう」


 後に『農村の守護者』と呼ばれる一人の凄腕剣士が誕生する事になるのだが、それはまた別の話――。

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