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異世界の流離人~俺が死んでも世界がそれを許さない~  作者: えいりずみあ
第四章:魔の手に堕ちしダーテ王国
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145:ダーテ王国、解体

『ダーテ王国、全ての民に告ぐ! 余は、ダーテ王国王子ジーク・ギーレンである!』




 ――とある辺境の村。


 突然上空に映し出された映像と、そこから発せられる声に人々はただ戸惑うばかりだった。

 と言うのも、そもそも王侯貴族の顔などほとんど知らないのだ。王子だと言われても認識できず、それが本当なのかどうかも分からない。

 地方の領主に苦しめられ続けていた彼らは、その宣言に対しても『また厄介事か』くらいにしか感じなかった。


『余は、たった今……父である王・ゲシュルクトと、大臣であるテュランを討った!』


 だが、その言葉に人々は映像の方を注目せざるを得なくなった。内容が只事ではない。

 王子を名乗る者が、父と大臣を討った。さすがに、地方の平民でもそれがどういう意味かは分かる。

 さらにダメ押しとばかりに、王子の横に立つ二人の老騎士が、あるものを手にしていた。


『分かる者には分かるであろう。これは紛れもなく我が父と大臣の首だ。私腹を肥やす貴族共よ、既に貴様らの後ろ盾は存在せぬ!』



 ・・・・・



 大罪人として処刑された支配者二人の首。それを、王子の横に控える老騎士達が手にし、映像に映し出している。

 この光景に何より衝撃を受けたのは、王や大臣の顔など知らない平民達ではなく、貴族達だった。


「お、王! それに、大臣まで……」

「こんな馬鹿な事があるか! 王子は、確か幼き頃に放逐されたはず!」

「そ、その程度の甘い処置ではダメだったのだ。例え王の子と言えど、確実に殺しておくべきだった」


 地方の屋敷で呑気に話し合いをしていた者達が、窓の外に見えた王子の映像に驚愕する。

 しかも、彼らが頭を垂れていた上司や主までもが無残な姿となって、近衛騎士の手に握られている。

 演説で言われている通り、既に彼らには後ろ盾となってくれる者達は存在しないのだ。


「ど、どうするのだ……? このままでは、このままでは我々が……」

「失礼します!」


 ノックすらせずに押し入ってきたのは、貴族にとって見覚えのある軽装鎧。この屋敷の警備だ。


「いきなり何事か!? 無礼であるぞ!」

「申し訳ございません! そのような事を言っている場合ではないのです!」

「今は無礼云々はどうでも良かろう。只事ではなさそうだな?」

「はっ。実は先程の王子の演説でレジスタンスが勢い付いてしまいまして、屋敷へ攻めてきております!」

「くそっ、想像以上に早い! な、なんとかしなければ……」


 その場に居た三人の貴族が慌てふためくが、警備兵は隠し通路から逃げるようにと彼らを促す。

 万が一の事が起きた時のため、隠し通路を備えておくのは貴族の屋敷においては常識だ。


「……残念ながら、手遅れだがな」


 逃げるために警備兵へ背を向け、部屋を抜け出そうとした所で、唐突に貴族達へ向けて刃が振り下ろされた。

 言葉にならない程の痛みと共に背後を振り返ると、先程の警備兵が、血の滴る剣を手に氷のような表情で立ち尽くしている。


「既に警備は片付けてある。俺はレジスタンスが成り代わった偽者だ」

「な、なんだと……? いつの間に入れ替わって……」

「ふん、使用人の事を一人一人認識しておらぬ事が仇となったな。下々の者達の顔など、どうでも良かったか?」


 レジスタンスの男が言う通り、この貴族達は使用人の顔などいちいち覚えてすらいなかった。

 さすがに最も近くに居た側近くらいは存在を明確に認識していたが、その他の者は彼らにとってモブに過ぎない。

 故に気付けなかった。一人一人に気を配ってさえいれば、一瞬でバレる低いレベルの間違いにさえも……。


「領主達の首を獲ったぞ!」


 男がテラスに出て領主と呼ばれた男の首を掲げると、既に庭にまで攻め入ってきたレジスタンス達から歓声が上がる。

 その盛り上がりはやがて屋敷を飛び出し、町中に噂が広まっていき、最終的にはお祭りの様相となっていった。

 国のトップが討たれた勢いに乗って決行された辺境の革命は、この場所のみならず、他の地域でも同様に次々と成功していった。


 当人達は全く自覚が無いが、エレナの法力が全域に広がった結果、瘴気は浄化され悪しき心を持つ者は弱体化されている。

 一方で清き心を持つ者達は強化されているため、今まで押しきれなかったレジスタンス達が勝利をつかむ事となった。

 憎悪を煽っていた瘴気が消え去った事もあってか暴徒化するまでには至らず、王都のように過剰な行為に走る者は現れなかった。



 ・・・・・



『今やこの国全体が革命の流れに乗っている。後ろ暗い事がある者達は諦めるがいい!』


 王子の言葉に後押しされ、各地で平民達を支配していた貴族達が次々と誅殺されていく。

 今までの行いが行いなだけに、詫びた所で到底許されるようなものではなく、一人の例外もなく全ての者が命を断たれた。

 腐った貴族達に加担していた兵士達や騎士達も同様だ。日頃の横暴が、言葉の謝罪程度で許される訳が無い。


『膿は徹底的に出し尽くす! 例え残虐非道と言われようが、前時代を生み出した原因となった者達は余が決して許さぬ!』


 それは一つの覚悟だった。理想の時代を作るため、その時代に必要のない者達を排除する。

 自身の意に添わぬものを排除するというのは、ある意味では独裁の所業と言える。

 だが、そうしなければならないほどに、更生の余地など全くないレベルでこの国の貴族達は腐りきっていた。


 故に貴族達は恐怖した。自分達はもうどう足掻いても助からぬのだと。ごく少数の同胞を除き、全てが敵となった。

 魔族化する力を手に入れていた者達も、エレナの浄化により完全にその力を失っており、どうする事も出来なくなっていた。

 一人、また一人と国の何処かで同胞が狩られて行く報告を耳にし、次は自分ではないかと待つ日々に絶望する。


 その一方で民は歓喜した。今まで虐げられるばかりだった自分達が、ようやく解放される時が来たのだと。

 王子の演説は、自分達にとっての敵を根こそぎ排除してくれると宣言してくれたに等しかった。

 だが、民はまだ自覚していない。この状況に驕り心が歪むような事があれば、次はその刃が自分達に向くのだと。


 ……幸か不幸か、それを考える間もなくジークから爆弾発言が投下される。


『最後に、この革命を以ってダーテ王国を解体する!』


 この言葉に、民はもちろん、レジスタンス達、そして貴族達も揃って驚きの声をあげた。


『もはやダーテ王国の名は忌々しき時代の象徴。新たな名と共に、出発しようと思う。そして、我が国はツェントラールを中心とした新たなる大国の一員となる。実は既にコンクレンツ帝国とエリーティ共和国もその大国の一員となっている』


 それはつまり、一つの領土としての出発だ。革命で国の頂点に立った王子も、扱いは地方の一領主となってしまう。

 しかし、それを置いて民の心を躍らせるものがあった。東に並ぶ国と、さらにその下にある国が賛同し、そしてダーテ王国も賛同した新たなる大国――。

 王子の言葉は地方の統一を夢想させた。後は、この国の南にある砂漠の国ファーミンが乗っかってくれれば完全な地方統一が成る……。


『今、この地方は大きく変わろうとしているのだ。余の決断を信じて欲しい! 必ず、良き未来にしてみせる!』


 王子の演説の中で、一番大きな歓声が上がった瞬間だった。

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