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異世界の流離人~俺が死んでも世界がそれを許さない~  作者: えいりずみあ
第四章:魔の手に堕ちしダーテ王国
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137:道化師面の娯楽

 俺は躊躇いなくガトリングガンの引き金に手をかけた。

 凄まじい振動と共に轟音が響き、大量の銃弾が一気に発射される。


『なるほど。これが異世界の兵器……』


 しかし、奴の身体に直撃した弾は次々と勢いを失って地面に落ちていく。

 まるで分厚いゴムの塊にでも衝突しているかのような鈍い音だ。

 角度を変えて小憎たらしい道化師面を狙ってみるが、音が固くなっただけでヒビ一つ入りゃしない。 


『素晴らしい。人間がこれを手にしたならば、モンスターなどによる脅威は格段に減るでしょう』

「あんたみたいな脅威に対して通じないと意味が無いんだがな、俺としては」

『残念ながら、単なる鉄の礫をいくらぶつけられたところで、私の纏う魔力の壁は突破できませんよ』

「そうだろうと思って、一応は闘気を纏わせて撃ってるんだがな……」

『私にとっては、この程度の気など無いのと同じです。貴方は武器に頼らず、もっと力を伸ばすために修行するべきです』


 なんか良く分からんが、俺……説教されてる? いや、図星ではあるんだが……。


『ならば、我の術が通じるかどうか試させてもらおうか!』


 王がエンデの町でも見せた、円柱状の光に相手を閉じ込める術を展開する。


『むむっ、さすがに強力ですね……。身体が焼けそうです』


 道化師面の身体からシュワーっと煙が噴き出ているが、口調は至って平然としている。


『そんな余裕を見せていて良いのかね?』


 王が挑発したのに合わせるかのように、俺の背後から銀色の奔流が迸り、道化師面を飲み込んだ。


「はぁ、はぁ……。危ない所でした」


 片膝を付いた状態で、苦し気に右手を突き出すレミア。何とか一撃放てる所まで回復したか……。

 彼女の背後では、膨大な法力を滾らせたエレナが腕を組み祈っている。緑色のオーラがまるで間欠泉のように噴き出しているぞ。

 あの凄まじい力がエレナ自身の傷を瞬時に癒し、近くに居たレミアまでもが立ち上がれる程に回復させた要因か。


「今なら、私にも出来そうな気がします。確か、こう……」


 噴き出す法力を抑えて球体状に形を変える。そして、株分けするかの如く球体状の法力をレミアにも纏わせる。


「冥王……いえ、『女神のゆりかご』とでも名付けましょうか」


 黒い魔力の塊を用いていた王とは異なり、淡く輝く緑色の球体……。エレナは冥王のゆりかごを自身のものとしたようだ。

 ただ、さすがに神官の身で正反対の属性を名に冠するのも気が引けるようで、即興で名前を作っている。

 エレナであれば女神という呼称に名前負けはしないだろう。最初に見た時にも感じたが、なんか女神感あるしな。


『湧水の如く溢れる法力、素晴らしい。どうやらまだ底を隠してはいるようですが、今の貴女では開放に耐えられないと見ました』


 レミアの攻撃を受けたにもかかわらず、何事もなく立っている道化師面。

 エレナの力に対して賛辞と拍手を送る余裕すら見せている。


「私はもう迷いません。今はまだこの程度ですが、いずれは『全て』を引き出してみせます……!」

『ふふ、それは楽しみですね。ですが、今を乗り越える事が出来なければ、その先はの『いずれ』はありませんよ?』


 道化師面が一足飛びでエレナの懐に飛び込み、容赦なく右手を突き出す。

 俺でも動きが追えたという事は、もしかして王とレミアの一撃が効いていて力が落ちていたりするんだろうか。

 だが、エレナは道化師面が右手を振りかぶった段階でもまだ反応出来ていない。これはヤバいか……?


「うぁっ!」

『ぬぅ!?』


 二人が同時に声をあげる。続いて、何か硬いものを思いっきり叩き砕いたような音が響く。

 エレナの胸部には道化師面の右手が深く突き立てられていた。その勢いは身体を貫通するほどのものだ。

 明らかに致命的な一撃。胸部から血が零れるのは当然、口からもむせると同時に血が零れ落ちる。


 通常ならば、まず間違いなく死んでいる一撃だ。だが、今はゆりかごを展開している状態。

 彼女にとっては今回が初の使用であり、正しく完成しているかも確証が得られていないハズだが、それでもなお捨て身を決行した。

 完成していれば助かるだろう。だが、完成していなければここで終わってしまう。エレナは己を信じたんだ。


 一方で、道化師面の顔にはエレナの右拳が思いっきり叩き込まれていた。まさかの殴り!

 メキョッと音を立ててヒビが入る仮面。ガトリングガンでも無傷だったものにヒビを入れるとか、エレナの拳は破城槌か何かか?

 しかし、それほどのものを打ち出した負担も尋常ではないようで、彼女の右腕が不自然な音を立てて歪み、血を噴き出した。


『おや、大変だ。女性がそんな野蛮な事をしてはいけませんよ』

「ご心配なく。すぐ元に戻りますから……」


 口元から血をこぼしながらも笑むエレナ。王が作り出したゆりかご同様、逆再生するかのようにして一瞬で腕が修復していく。

 そして、彼女の背から突き出した道化師面の右手が、まるで斬り落とされたかのように床へと落ちる。

 道化師面が驚き腕を引き抜くが、その腕は肘から先が消失していた。腕は……まさかエレナの身体に残されたままか?


『私の腕が刺さった状態でも強引に治療してしまうとは……。腕もどうやら法力で消失させたようですね』


 道化師面が言う通り、エレナの胸の穴はしっかり塞がっていた。修復する過程で敵の腕を切断し、かつ体内で消し去るとは恐ろしいな。

 さすがの回復力でも服までは修復できないようで、胸元がセクシーな事になっている。とりあえず今のうちにしっかり拝んでおこう。


『なんという回復力。そして、私の仮面を砕く、恐るべき破壊力……。貴方、神官でしょう?』

「法力は効率が悪いというだけで、決して身体強化が出来ない訳ではありません。ならば、沢山の法力を使えばいい話です」

『法力でそれほどの破壊力を生み出すには、一体どれほどの力が要ると思っているのですか、貴方は』


 呆れ口調の道化師面。中心がクレーターのように凹んでいた面のヒビが拡散し、やがて仮面全体に伝播した所で、ついに限界が来た。

 仮面が木っ端微塵に砕け散る。奴は一体何者なのか……。ついに、その素顔が明らかになる時が来たか。



 ◆



「顔が……無い……?」


 仮面の下から出てきたのは、マネキンの如く表情のない顔であった。

 代わりに、額に位置する部分に血の如く濃密な赤色の宝石が埋め込まれている。


『見られてしまいましたね。こうなるのは想定外でした』

「凄いだろう? アタシの周りに居る子達は」

『えぇ。これならば、この先も大丈夫そうですね』


 言葉を発する度に点滅する宝石。この様子を見て、エレナが気付く。


「貴方、まさか……人形ですか?」

『ご名答。この身体は、こちらで活動するために用意した人形です』



 人形――正確には魔導人形といい、動力源となる宝石に魔力を込める事で動かせる魔術道具の一種。

 遠隔操作も可能であり、宝石の質と人形の質、そして魔力を加える主の力量により、その強さには際限が無い。

 人形を通して魔術などの力も発現が可能であり、当人と全く変わらないレベルで戦う事が出来る。


 ダメージを受けても痛みが無く、多少の損壊程度では行動に全く支障が無いが、動力源の宝石を砕かれると機能を停止してしまう。

 主な用途は訳あってその場を離れられない者や、負傷や病気などにより動けない者が己の手足代わりとして使う事が多い。

 また、巧みに操る事でまるで双子のようにタッグを組んで戦う事も可能であり、こうした戦い方をする

者は『人形使い』とも呼ばれる。



「その言い方だと、アンタはその場から動けない理由があったりする訳か?」

『えぇ。私はそちらへ行く事が出来ないので、代わりにコレを派遣させて頂いております』

「回りくどい事言っていないで、素直に説明してあげたらどうだい?」

『それもそうですね……。楽しませて頂きましたし、お話させて頂くとしましょうか。ですが、その前に――』


 リチェルカーレの如く道化師面が指をパチンと鳴らすと、後方で呆然としていたダーテの面々がその場に崩れ落ちる。


『あくまでも私が認めたのはリチェルカーレと、その一行のみ。他の者に聞かせるつもりはありません』

「正確にはリューイチがパーティーリーダーなんだけどね。あと、いい加減その猫かぶりもやめたらどうだい? 素を知っているアタシからすると、正直気色悪い……」

『酷いですね。お初にお目にかかる面々だからと礼儀をわきまえていたのですが……そういう事なら、私も素でやらせてもらおう』

 

 リチェルカーレから指摘を受けた道化師面は、彼女と相対していた時のような砕けた口調に戻った。

 同時に何処からか別の道化師面を召喚して顔に装着する。人形である事が丸分かりの顔を隠すためだった。


『では改めて、私の事はレーゲンブルート……とでも呼んで頂こうか』

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最近読み始めたが結構面白い [気になる点] すでにエピソード143まで読んだが、主人公が変わらず強くならないのが少々ストレスに感じる。 主人公も近代兵器が通用しない敵が居て別の力を強化しな…
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