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異世界の流離人~俺が死んでも世界がそれを許さない~  作者: えいりずみあ
第四章:魔の手に堕ちしダーテ王国
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136:去る者、現れる者

 俺は今、死者の王に抱きかかえられた状態となっていた……乙女か!

 とっさに腕を引かれ、直後に発生した凄まじい衝撃から守ってくれたのは分かるが、何て姿勢だ。

 そそくさと離れた俺は、状況が収まった現場の惨状を見てさすがに固まってしまった。


 そこには壮絶な破壊跡が残っていた。直接の砲撃を受けていない反対側も衝撃波で完全に吹き飛んでいる。

 コンクレンツ帝国に続いてダーテ王国までも城の階上を吹き飛ばしてしまったか……。


 礼儀を重んじ、正々堂々をモットーとするのが騎士だ。しかし、レミアは冒険者でもあったためか若干その意識が薄い。

 シルヴァリアスの力を取り戻してからは、ますますそれが顕著になってきているような気がする。


「レミア、さすがにアレはいきなり過ぎじゃ――」


 当のレミアはというと、技を撃った構えのまま息を荒くして前方を眺めている。

 彼女の目線の先を追うが、そこにはただ開けた空間があるのみだ。


「……レミア?」

「え? あ、あぁすいません」


 ようやく反応した。


「どうしたんだ、いきなり。警告もなしで不意打ち気味に撃つなんて、らしくない」

「予感です。シルヴァリアスの方がより強く感じたようですが、あの男の力……アレは存在してはいけないものです」

「存在してはいけないもの?」

『私も良く分かんない! でも感じるの。本能的に忌避すると言うか、アレは存在してはいけない力よ!』


 ……結論。アレは存在してはいけない。


 もう少し詳しく聞くと、その力とやらはまだ先程の時点では目に見えて現出していなかった。

 しかし、敏感に察知したシルヴァリアスがレミアに警告。レミアもそれを受けて警告の意味を理解、即座に攻撃。

 それくらい即応しないとマズい『何か』だったようだ。だが俺には彼女達の感覚は良く分からない。


「で、奴はどうなったんだ?」

『攻撃に呑み込まれて間もなく唐突に反応が消えた。おそらくは転移で逃げたのだろう』


 まぁ、何と言うかこの程度で終わるような奴じゃないわな。予感だが、奴とはこの先長くなりそうな気がする。




「よ、よく分からぬが……今度こそ、終わったという事で良いのだろうか」

「……正直、状況についていけておりませぬが」


 すっかり蚊帳の外になってしまっていたベテラン騎士達が溜息と共に言葉を漏らしている。

 考えてみれば、奴とのやり取りは完全に俺達の世界だった。話に入ってこれる者など居ようハズもないか。


『いや、どうやらまだのようだぞ……』


 王が上空を指し示すと同時、空に亀裂が走り――割れた!

 結界が割れる時のガラスのような音とは違い、まるで身近で雷が炸裂したかのような轟音と地響き。

 空間が割れるなどと言う非常識が世界そのものにダメージを与えているかのようだ……。


 そして、割れた空間の中から流れ星の如く墜落してきた何かが、崩れた王城にトドメを刺すかのように激突した。

 


 ◆




「やれやれだ。やっとアイツをぶっ飛ばしてやる事が出来たよ……」


 割れた空間の中から何かが墜落した直後、ひょっこりと顔を出したのはリチェルカーレ。

 眼下に広がるのは盛大に崩壊したダーテ王城と、衝撃で根こそぎ倒された森の木々、抉り取られた山。

 そして、辺り一面に満ちる法力。彼女はそれらの要素から察した――


「……どうやら、既に終わっていたみたいだね」


 眼下に竜一達の姿を見つけた彼女は、素早く彼らのもとに降り立つ。

 後ろの方に居たダーテ王国の面々は立ち尽くしたまま状況を見守っていたが、ツェントラールの者達は素早く彼女のもとへと駆け寄った。


「おいおい、えらい重役出勤だな」

「言葉の意味は良く分からないが、とにかくネガティブな意味である事は察したよ」


 竜一は特に驚く事もなく、いつもの調子で遅れてきた仲間を出迎える。

 彼女は知らぬ異界の言葉から伝わるニュアンスに呆れたような顔をしつつも、何処か嬉しそうに言葉を返す。


『おぉ、主。珍しいですな、思念でも会話すらも完全に遮断しての行動とは。一体何があったのです?』

「アレさ」


 先程何かが激突し、瓦礫の山と化している部分を指で指し示す。すると――


『やれやれですね。まさか、こんな形で叩き出されるとは思いませんでしたよ』


 全身を黒いタイツのようなもので覆い、道化師の面を付けた存在がゆっくりと立ち上がった。

 あれだけの衝撃で叩き付けられたにもかかわらず、特に大きな損傷もなく、手で軽くホコリを払う程度の汚れしかない。

 普通なら身体のラインがハッキリ現れるような服装であるが、何とも中性的な体型に見え、見た目からは男女の判別がつかない。


『……ですが、せっかくなので他の皆様方とも遊ばせて頂きましょうか』


 道化師面越しの声が加工された感じに響く。性別は分からないが、感情だけは伝わってくる。

 呆れたような口調ながらも何処か楽しそうな感じ。まるで遊びに来たかのような……。

 竜一がそう感じた瞬間の事だった。道化師面の姿がかき消えたかと思うと、一帯を震わす激しい激突音が響く。


「何が……起きた?」


 発生した衝撃に思わず身を屈めて踏ん張る竜一の問いに答えたのは、死者の王。


『簡単に言うと、奴がレミアを蹴り飛ばしたのだ』

「蹴り飛ばした……? それだけ……?」


 竜一からは、死者の王が言うような内容は全く見えていなかった。道化師面は、全くその場から動いていないとしか思えなかった。


「もっと言うなら、レミアはインパクトの瞬間にかつてない程の力を防御に注ぎ込んでいたよ」

『その吹き飛ばされたレミアに巻き込まれそうになったエレナも、先程の結界を張る時以上の力を注いでレミアを受け止める結界を展開したが、止められなかった』

「あの一瞬の間にそんな攻防が……。だとしたら、二人は彼方にまで飛んでいってしまったという事か?」

「いや、二人ならここさ」


 中空に開いた空間の穴からドサドサと二人が落ちてくる。

 エレナは完全に気を失っており、レミアも全身にダメージを負ったのか苦痛に顔を歪めている。


『な、なんなのよアイツ! キック一発でこの私をここまで砕くなんて……』


 ガードに使ったであろう両腕はグシャグシャ。衝撃が伝わったのか、鎧の全体にわたって割れや歪みが見える。

 誰が見ても即座の前線復帰は無理だと分かる状態に、神が作りしアイテムですら驚きを隠せていない。


「油断するんじゃないよ、王」


 リチェルカーレの忠告と重なるように、今度は道化師面が王の眼前に現れる。


『心得た! ぬぅ……』


 道化師面は右手を前に突き出し、王を黒みがかった球体の中へと閉じ込めてしまう。

 透けているため中の様子を窺う事が出来るが、そこに見えた光景は一瞬で王が塵と化す凄惨なものだった。


「なんだこいつは!? さすがにヤバ――」


 驚く間もなく、竜一に向けて放たれた裏拳が頭を容赦なく粉砕する……。

 さらに突き出された左手から黒い光線が放たれ、後方で呆然としているダーテ王国の面々を撃つ。


「っと。彼らはウチのメンバーじゃないんだ。勘弁してくれるかい?」


 しかし、素早く割り込んだリチェルカーレが障壁を展開し、攻撃を散らす。


『それは失礼した。ですが、遊ぶ前に終わってしまっては少々ばかり物足りませんね』

「いや、まだ終わってないさ。王、リューイチ……いつまで寝てるんだい?」


 その叱責に慌てるかのように、辺りに散っていた白い粉末が一か所に集まっていく。

 瞬く間に人骨の姿を形成していき、それを包み隠すようにして、豪奢な衣装が現れ骨の身を隠す。


『すまぬ、油断した。まさかこれ程の手合いだとは……』

「ま、アレが相手じゃ仕方がないさ」


 先程までいかにも闇と言った感じの薄汚れた風貌が、光を思わせる法王の如き美しい姿に変わっている。


『魔の者の気配を感じる。どうやら、光の力を強めた方が良さそうだな』

『驚きました。完膚なきまでに粉砕したはずですが、まさかそこから蘇るとは思いませんでしたよ』


 道化師面が拍手する――が、そのリアクションが止まる出来事が起きる。


「……くそ、全く見えなかった。何者なんだこいつは」

『馬鹿な。そちらの人間も起き上がってきた……。これは一体、どういう……?』


 王の復活に対しては口だけの驚きだったが、竜一の復活に対しては本当の驚きの感情が混じる。 


「異邦人特典ってやつだ。ってか、復活に驚いているって事は、それを前提にした試しとかじゃなくマジで殺りに来てたって事かよ」


 竜一は素早くガトリングガンを召喚し、構える。


「効くか効かないかは別にして、殺られた分は返させてもらう……」

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