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異世界の流離人~俺が死んでも世界がそれを許さない~  作者: えいりずみあ
第四章:魔の手に堕ちしダーテ王国
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133:いろいろやろうぜ

『フン、援軍か。だが、何人助っ人が来た所で無駄だt――』


 再び散らされるフィーラー。今度はフェデルが武器を投擲したようだ。


「無駄かどうかを決めるのは私達でございます故……」

「ほれ、王子もステレットもボサッとしておらんでとっとと攻撃せぬか!」


 ヴェッテがフィーラーの言葉に呆けていたジークの背を思いっきり引っ叩き、美女達の損失にショックを受けていたステレットの頭に拳を落とす。

 

「レミア殿も、何か思いついたら試してみてくだされ。ワシも色々やってみますのでな」


 俺も含め、みんなが武器を構えてフィーラーと相対する。

 フィーラーの側はこうして向かい合っている間にも瘴気を吸収し続け、今では黒いモヤの人型状態となっていた。

 もしかして、奴に時間を許せば許す程どんどんパワーアップしていくってパターンか……?


「王子、俺っちもちょっと準備するから仕掛けてみてくれるか?」


 ステレットはそう告げると、収納していた短剣を次々と投げ始め、あちらこちらの壁や天井に突き刺していく。

 その間にジークが風の魔術にフィーラーを巻き込みこれでもかというくらいにかき混ぜるが、奴は風と共に舞うだけでダメージは皆無だ。

 俺も炎を放ってみるが、炎の勢いで散ってしまって燃やせない。こういう手合いには何が有効なのか、考えないとな……。


「よし、準備できた! だったらこれはどうだッ!?」


 ステレットが稲妻と化し、フィーラーを撃ち貫く。通り抜けたかと思いきや、短剣を切り替えポイントとするかのように方向転換し、再び奴を撃つ。

 移動中に彼から聞いた話だと、今はまだ短剣を避雷針の如く使って中継ポイントにしないと上手い事制御できないらしく、縦横無尽に動くには準備が必要という。

 そこら中に刺した短剣はそのためのものという訳だ。昔アニメで見た、レーザービームを無数の鏡で反射させて全方位攻撃するやつを思い出す。


 光の軌道が十重二十重と重なり、やがて単なる光の塊のように見えた頃……中心に居たフィーラーは塵一つその姿を残してはいなかった。 


「おぉ、さすがはステレットだ! やったか!?」


 ……ジーク、禁句を言いやがったな。




『まだ分からんか。我は瘴気生命体。ここに漂っている瘴気だけが我とでも思ったか』


 案の定、フィーラーは健在。再び黒い靄――瘴気が集まり、先程と同じように人型を形成していく。

 おそらく屋内の分は消し飛んだのだろう。しかし、屋外の瘴気はまだまだ多量に存在する。それが集まって再び形を成したらしい。


「……わずらわしいですね。もういっその事、辺り一帯をまとめて吹き飛ばしてしまいましょう」


 ちょ。ついにレミアが動き出してしまったぞ。既に右手に銀色の光が集まり始めている……やばい。


「おい、ジーク。一番人里が少なくて被害が少ないのはどの方角だ……?」

「被害……? んー、王都は北西端にあるから、人里が広がっているのは南から東にかけてだな」

「つまり、その逆……北から西は人が少ないって事だな?」

「少ないというより、もはや山脈しかないから人が住んでいるのかどうかも分からんが」

「良し分かった。レミア! 北か西だ! 間違えるなよ!? 取り返しのつかない事になるぞ!」

「ちょっ、聞かれたから答えたが……一体何をするつもりだ!?」


 ジークが俺に問うてきた時には、もう既にレミアは発射体制に入っていた。

 右手をググッと後ろの方に引きつつさらに力を溜め、バネ仕掛けの如く勢い良く突き出して気を放つ。


「邪悪なるものを消し飛ばせッ! アルギュロス・キューマアァァァァァァァァァァァッ!!!」


 ドッ、と力が解き放たれた瞬間、世界が真っ白になった……。


 その凄まじい衝撃波が俺達にも及び、踏ん張りきれずに後方の壁に激突してしまう。

 気休め程度に気の力で障壁を展開するが、障壁越しにビリビリと力の奔流が叩き付けられるのを感じる。

 オーベン・アン・リュギオンを吹き飛ばした時の、シルヴァリアスによって強化されただけのレミアの黄色いオーラではない。

 そこへさらにシルヴァリアスそのものの力を上乗せして銀色のオーラへと変化した、とんでもなく大きな一発だ。


「マ、マジでやりやがった……」


 悲鳴をあげる間もなく焼失したフィーラー、そして……大きく開けた景色。

 城はレミアの居る場所から先が綺麗に消し飛び、彼方に見える山が匙ですくったかのようにえぐり取られている。

 大地に根ざしていたであろう木々も、衝撃波の影響かドミノ倒しのようになぎ倒されてしまっていた。

 もしこの城が小高い丘の上に建っていなかったら、攻撃の軌道に沿って地面も激しく抉られていたに違いない。


「「「「「……」」」」」


 一同、揃って声を失っている。考えてみれば、ここに居る面子でエリーティでのレミアを見ていたのは俺だけか。




『きっ、貴様は馬鹿なのか!? 我でなかったら今ので終わっていた所だったぞ……』


 しつこく復活するフィーラー。さすがに今の一発は効いたようで、崩壊した身体と同様にキャラまで崩壊している。

 またも一か所に瘴気が集まっていき、顔のような形が現れる。今度は人型の身体を形成しないのか……?


『だが、無駄だ! 我はいわばダーテ王国を覆う瘴気そのもの。例えこの辺り一帯を吹き飛ばそうとも、王国は広い……まだまだ我は余力を残しているぞ?』

「でしたら、根こそぎ吹き飛ばすまでです……」

「おい馬鹿やめろ。ダーテ王国を更地にするつもりか。それだと国を救いに来た意味が無くなる」


 レミアが再び力を行使しようとするが、全力で止める。フィーラーの撃破と引き換えに国が無くなっては無意味だ。

 ジークも俺の背後でホッとしている。もし他の方向に向けてレミアがあの攻撃を放てば、決して少なくない国民の命が消える。

 普段は真面目で礼儀正しい文字通りの騎士と言った感じなのに、戦闘で熱が入ると脳筋になるのがほんとに厄介だな。


『ふはははは! 出来まい! 今の攻撃をもし他の方向へ放ちでもすれば、ダーテ国民達もタダでは済ま――ぬっ!?』


 自分を脅かした攻撃がもう来ないであろうと確信してか、ドヤり始めた直後……奴はキューブ状の結界に閉じ込められた。 


「では、こういう方法ならば如何でしょうか」


 エレナだった。法力によって作り出された、透けた緑色の壁が奴を捕らえた。だが、奴は――


『ふん、無駄な事を。先程も言っただろう。今この場に居る我を滅した所で、まだまだ我を形成する瘴気は他に沢山残っているのだ』

「安心するのは早いですよ。法力の光は邪悪なるものを滅するのに特化しています。浄化されるのは……凄く、痛いですよ」

『我は肉体を持たぬ故、先程の攻撃で大きく身体を削られはしたものの痛みは全く感じなかったぞ。我に対してそう言った脅しは通用しなギャアアアアアァァァァァッァアァァァ!』


 結界の中に輝きが生まれフィーラーを包み込むと同時、奴の顔……と言うか、瘴気が煙を吹いて少しずつ小さくなっていく。


『やっ、やめろおぉぉぉぉぉ! な、なんだこれは!? 瘴気である我が、焼ける……? そんな馬鹿なあぁぁぁぁ!』

「瘴気でその身を構成する生命体でありながら、瘴気の天敵を知らなかったとは世間知らずにも程がありますね」


 エレナが徐々に光の勢いを強めていくが、ふとある事に気が付いた俺はエレナに待ったをかける。


「……竜一さん?」

「すまん。確認したい事が出来た。これが確定すれば、奴を滅する決め手になる」


 小さい声でそう伝えると、俺は結界に閉じ込められてかなり小さい状態にまで削られたフィーラーへ近付いていく。


「おそらくだが、今のお前は他所に散っている自身の身体……瘴気を集める事が出来ないんだろう?」

『ぬぅ!?』


 結界に隔離した事で、フィーラーは外に散っている瘴気をコントロール出来なくなったのではないか。俺がそう考えたのには理由がある。

 もしコントロールが可能なら、外から多量の瘴気でも呼び寄せてエレナを攻撃するなりして結界を解かせれば良かった。だが、奴はそれをしなかった。

 この状況下において、自身の窮地を脱するための策を弄しないとは考えづらい。故にこそ『出来なかった』と結論付けるに至ったのだ。

 

「それと、身体をそれだけ広範囲に拡散は出来ても意識は一つしかないようだな」

『!!』


 やはりか。もしそれが出来るのなら、すぐにでも『もう一人の自分』を呼びだすなりして対処できるだろうしな。

 つまり、今のフィーラーは本体とも呼べる部分を捕らえられた状態にある。あと、念押しで確認しておきたいのは――


「今ここでお前を消したとしても、身体が残っている限り別の場所で意識は復活する……。そうだな?」

『……』


 言葉を発さなくても、不自然な揺らめきでもう察する事が出来た。駆け引きがヘタクソだな……こいつ。

 つまり、結界内のフィーラーを消した所で、結界外に漂う瘴気の中に再びフィーラーの意識が復活してしまう。それは奴が結界から脱出する事を意味する。

 そうなると、先程までと同じように周りに散っている瘴気を自由に操る事が可能になり、また面倒くさい事になってしまう。


 結論として、こいつを倒すには身体となり得る瘴気を全て消し飛ばす必要がある。

 ただ、それが出来そうな面子がこの場に居ないんだよな……。リチェルカーレでも王でもいい、戻って来てくれ。


『……呼んだかね?』


 そう頭の中で思った瞬間、当の王が目の前に現れた。何故か、一人の少女を抱えた状態で……。

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