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異世界の流離人~俺が死んでも世界がそれを許さない~  作者: えいりずみあ
第四章:魔の手に堕ちしダーテ王国
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132:ダーテの支配者、その名は

 ダンッダンッダンッダンッダンッ!


 響く銃声と共に、崩れ落ちていく女性達……。


「お、おい……リューイチ。お前、容赦なさすぎだろ。せっかくの美女揃いなのにえげつねぇ事を……」


 いきなり発砲した竜一にステレットが苦い顔をするが、竜一は女性達から目線を反らさない。


「美女……か。なぁ、ステレット。あんたはどの娘が好みなんだい?」


 確実に頭を撃ち抜かれているハズの女性達がゆっくりと起き上がり、表皮を突き破るようにして内側から違う色の肉が盛り上がってくる。

 倍以上の大きさに膨れ上がった二足歩行の爬虫類みたいな姿をした者や、巨大な芋虫のような姿の者、臓物を固めて練り上げて人型に成型したような者……紛う事なき異形の存在達が姿を現していた。


「え? い、いや……俺っちはどっちかろ言うとレミアの方がまだマシかなーと」

「……まだマシ?」

「ひいっ! 断然いいです、断然!」


 ステレットは美女だった者達から目線を反らしてレミアの方を見るが、ドスの効いた声と共に睨み返された。


「最後の護衛だからまともな者達ではないだろうと思っていましたが、やはり異形の存在でしたか……うぅっ、それにしてもおぞましい」


 既にシルヴァリアスを纏って準備万端だった彼女は、決して油断をしていない。

 しかし、見た目の気持ち悪さと漂う悪臭がレミアの顔を歪ませる。脳筋でも女性、その辺は敏感である。


「大臣め。往生際の悪い……」

「ほーっほっほっほっ! 王と大臣を守る護衛が並な者であるハズが無いでしょう! 魔族の力、思い知るがいい!」


 ジークが舌打ちするが、大臣は全く空気が読めないのか、この期に及んでまだ余裕の態度を見せる。


「……思い知るのはそちらだ!」


 ジークの合図と共に皆が一斉に飛び出す!


 竜一は踏み込むと共に、剣で迫ってきた者達の首を刎ね、さらに炎弾を飛ばして焼き尽くす。

 ステレットはオスティナートに対して仕掛けた時と比べて少し抑えたルミーネで、まとめて数体を電撃で沈めた。

 ジークは相対した相手を完膚なきまでに切り刻み、万が一の事すらないよう念入りに仕留めていく。

 レミアは言わずもがな。銀色の気を前に、彼女をターゲットとして定めた者はその時点で死が確定した。


 十数人は居たであろう女性――いや、魔族化した者達は分ともたずに全滅させられた。

 魔族戦は初だというジークもステレットも、相手がどういう存在かを分かってしまえば問題はない。

 特にステレットは相手が見目麗しい女性から異形の存在へ変わり果てた事で、より一層戦闘意欲が増していた。


「ひぃっ!? な、何なのですか……貴様達はああぁぁぁ!」


 完全に侮っていた大臣は、虎の子である者達を軽く蹴散らされた事に激しく狼狽する。

 激しく地団駄を踏むが、そんな無駄な動作をしている間にもステレットが素早く接近して首を刎ね飛ばす。


「……クソが。美女達を返しやがれ。なんて勿体ねぇ」


 驚愕の表情のまま床に転がる大臣の首に向けて投げられたのは、ステレットのそんな言葉だった。 


「ひっ、ひぃっ……! はぁ、はぁ……」


 残されたゲシュルクト王は、眼前で起きた惨劇に完全に怯えきっているが、肉団子と化しているためか満足に動けなかった。

 椅子から転げ落ちて床を這うものの、その歩みはまさに牛歩。侮蔑の目を隠さないジークが回り込み、堕ちた父を冷たく見下ろす。


「む、息子よ! 余と一緒に天下を取らぬか! お主の力と、仲間達の力があればそれも夢では――」


 この期に及んで世迷い言を抜かす父に対し、ジークの刃は全く容赦が無かった……。



 ◆



 あっさり過ぎる程に転がる大臣と王の首……。まさか、この二人のどちらもボスではなかったと言うのか?

 ファウルネス大公の話では、少なくとも王はあり得ないとの事だったが、確かにあの無様な姿を見たら納得も出来ようもの。

 あんまり思い込みで判断するのも危険だが、人間に扮した魔族があのような醜態を演じようなどと思うだろうか……。


 それを考えれば残るは大臣だ。確かに大臣ならば、都合よく王を操るには適したポジションと言える。

 ここへ入ってきた時も過剰なまでに王を持ち上げていたし、王が吠えていた時も全力で擁護するに徹していた。

 言動を見るに、完全に大臣が王を操作している。ならば、実質国を動かしていたのは大臣だろう。


(だが、大臣の方も何事も起きない……。本当にただの腐りきった人間だったと?)




『フフフフフ……。まさか、この我が出る事になろうとはな』


 突然、第三者の声が響いてきたのは俺達の正面だった。だが、そこには誰の姿も存在しない。


「リューイチさん、あれを」


 レミアが示した先、中空に黒いモヤモヤが渦巻いているのが見えた。この不快な感じは……瘴気か。


『元々、こんな所で表に出るつもりは無かったのだが、どうにも我自らが排除せねばならぬ障害があるようだ』


 瘴気が一か所に集まっていき、やがて顔のような形を形成していく。コンクレンツ帝国で見た闇の精霊を思い出すな。

 霧のような生命体が存在するとは、さすが異世界だ。どうやって生きているのか仕組みを知りたいぞ。


『我が名はフィーラー。この人間界を魔界へと変えるべく遣わされた瘴気生命体なり!』


 フィーラーと名乗った生命体が宣言すると同時、建物の内外から奴に向けて黒く淀んだものが集まっていく。

 それらは辺りに倒れていた女性達や大臣、そして国王からも抜け出し、奴の口へと吸い込まれるように飛んでいった。


「大気中の瘴気だけでなく、こいつらを侵食していた瘴気までも吸収している……」

『違うな。我はただ貸していたものを取り戻しているに過ぎぬ。こ奴らが力として宿していた瘴気は、いずれも我が分け身よ』

「なに!? では、この国の貴族達がおかしくなったのは……!」


 ジークが憤る。何せ、奴の話が事実ならば、貴族達を狂わせた要因は奴という事になる訳だからな。


『勘違いするな。我はこの国を支配するにあたり、配下を強化するために『力』を与えただけに過ぎぬ。力に呑み込まれてしまう程に心の歪んだ人間達が愚かなのだ』

「人の心を狂わせるものを与えておきながら、与えられた側が悪いと言うのか……?」

『そうだろう? 現に貴様らは我が力を受け入れるどころか、跳ね除けて我が前に立っている。それはつまり、心の在り様次第ではどうとでもなるという事だ』

「ぐっ。そ、それは……」


 今まで裏からこの国を支配していただけあってか、フィーラーはなかなかに口が達者なようだ。

 現にジークやヴェッテなどは当時この王城に居ながらにして奴の影響を全く受けず、出奔する事に成功している。 

 それは奴の言う通り、瘴気による影響は心の在り様次第でどうにでもなるという証明に他ならない。

 王侯貴族達の皆が等しくジーク達のようにしっかりとした存在であったのならば、奴の企みは初手で崩れていたに違いない。


『悪いのは、瘴気によって肥大させられるような負の心を持つ者達だ。そのような愚か者共を野放しにした貴様にも罪があるのではないか?』

「いや、残念ながら悪いのはあんたの方だ」


 こういう交渉ごとに不慣れなのか、黙ってしまったジークに代わって俺が前に立つ。


「あんた、最初から確実に瘴気の影響を受けるであろう人間達……つまり王侯貴族に範囲を絞って力を与えただろう?」

『ほぅ。貴様、何が言いたい?』

「つまり故意犯って事だ。そういう場合、仕掛けた側が確実に悪となるんだぜ」


 極端な話をするなら、卵料理を無作為に選んだ百人に食わせるか、卵アレルギーだと判明している百人に食わせるか、そんな感じだ。

 前者の場合、百人の中に自覚無き卵アレルギーの者が紛れていたとしても、食わせた者はそれを知らなかったのだから仕方がない。

 だが、後者の場合は違う。選んだ全ての者が確実に何かしらの害を受けると分かっていて食わせたのだから、確実な悪意があると言える。


 ――と、そんな感じの事を語ってみた。


『ちっ、この状況で冷静に切り返してくる奴が居るとはな』

「立場的には第三者だからな。当事者と比べればまだ冷静に考えられるさ」

『そうか。王子達が革命を決行したのは、貴様達がやってきたからか』

「ダーテ王国のためだけじゃない。ツェントラールのためにも状況を変えなきゃならないんだ。だから、貴様を倒す!」

『ふん、出来るものならやってみろ!』


 試しに銃を数発撃ってみるが、相手は気体。当然すり抜けるわな……。剣で切り付けても変わらない。

 これはあれか。日本で何億部も売れている漫画で書かれていた、気を纏わないと当てる事が出来ないとかいう……。


「波ぁーーーーーっ!」


 右手を前に突き出し、ダイレクトに闘気を放出してみるが、奴を霧散させただけで壁に穴を開けてしまった。

 放出の勢いで散らしてしまったか……。考えてみれば、フィーラーのあの姿は無数の微小な粒が群体を形成している状態と言える。

 蚊柱を横薙ぎに叩こうとすると、手を振る風圧で飛んでいってしまって結局叩けなかったという状況に似ているな。


「猫だまし!」


 ならばと両手で挟み込むようにしてみるが、無駄に終わる。叩き付けた手の隙間からするすると黒い靄が抜け出していくのが分かる。

 やっぱこうなるよな……。相手は気体なんだから、押し付けた手と手の隙間からだって余裕で抜け出せるわな。


『フッフッフッフッ。我は傷一つ付いておらぬぞ! 満足いくまで好きなだけやるがいい!! どうせ何をしようとも無駄だg――』


 フィーラーの言葉を遮るようにして俺の後方から何かが飛来し、再び奴を霧散させる。

 それはそのまま壁に激突し、俺の放った闘気以上に壁を大きく崩壊させていく……。


「良かろう! ならば言葉通り、満足いくまでやってやろうではないか!」


 頼もしい言葉と共に現れたのは、完全に回復したらしきヴェッテとフェデル、そしてエレナだった。

 ヴェッテはムキッと右腕の筋肉をアピールしつつ白い歯を輝かせている。さっき何か投げたのはあんただったのか……。

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