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異世界の流離人~俺が死んでも世界がそれを許さない~  作者: えいりずみあ
第四章:魔の手に堕ちしダーテ王国
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130:ベテラン近衛騎士、激突

 ――王座の間。


 そこに居るハズの王がおらず、代わりに立っていたのは一人の騎士だった。

 王座という場所に居るにしては質素な鎧をまとった痩身の男。しわが深いその顔は長くも険しい人生経験を感じさせる。

 手に持っているのは、彼自身を思わせるような細身の剣。竜一達と相対した時点で既に隙無く構えていた。


「……あの方、相当に出来ますね」

「だな。オスティナートが小物に見えてくる」


 王座の間の扉を開き、彼と相対した時点で一同が足を止めてしまった理由もそこにあった。

 この面子をしても迂闊に飛び込むのはまずい。そう思わせるほどのものが、痩身の老騎士にはあった。


「やはり、最後に待つのはお主か。久しいな、フェデルよ」


 一歩前に出たヴェッテが、男の名前を呼ぶ。


「ほっほっほっ。壮健のようですな、ヴェッテ殿」


 フェデルと呼ばれた老騎士は、笑みすら浮かべ、穏やかで温かみのある口調で言葉を返す。

 そこには敵意など微塵も感じられない。だが、態度とは裏腹に放たれる闘気はますます大きくなっていく。


「近衛騎士の使命は王族を守る事にこそある。今、我らが守るべきは王と王子のみ。ワシは王子の方を守ると決めた――」

「――私めは王の方を守ると決めております。互いに守るべき者が敵対している今、我らもまた敵となりますな」

「はっはっは! では、久しぶりに全力でやるか! フェデル、城に籠ってばかりで衰えたりはしておらぬだろうな!?」

「それは闘ってみれば分かる事です。こう言っては何なのですが、実は再戦を楽しみにしていたのですよ」

「楽しみにしておったのはワシも同様じゃ! ではそろそろ行くぞ、友よ!」


 ヴェッテは宝玉を鉄球へと変え、鎖を持って勢い良く振り回してフェデルへと叩きつける。

 しかし、フェデルは迫る鉄球を避ける事無く、軽く剣を添える事でその軌道を反らしてしまった。

 そして鉄球を手元へ引き戻す際に生じる隙を狙って懐へ飛び込もうとするが、ヴェッテの手元を見て驚きに目を見開く。


 直後、フェデルの背後から響く轟音。投擲された鉄球が飛んでいき、壁を打ち砕いた音だ。

 ヴェッテは鉄球を引き戻すつもりなど微塵もなかった。ハンマー投げのように、鎖は既に手放していたのだ。

 肩を並べて近衛騎士を務めていた友を相手に、隙が大きな鉄球など継続して使用できるものではないと分かっていた。


「……全く、ヒヤッとさせてくれますね。力に全振りしたような人間でありながら、こういう部分に関しては頭が回る」

「そういう部分を知られておるから、お主とはやりづらいのだ。並の者ならば、これで終わりだった所だ」


 いつの間にかヴェッテの手元に召喚されていた斧。もしフェデルが懐へ飛び込んでいたら、これで一刀両断であっただろう。

 しかし、それを察したフェデルは絶妙な間合いで踏み込むのを止め、再び少し後ろへ下がって剣を構えた。



 ◆



「嘘でしょう? あの鉄球の凄まじい勢いを殺す事無く反らした……?」


 レミアが驚くのも無理は無かった。普通に考えて、あの鉄球と剣で打ち合えば剣の方が砕ける。

 それどころか、勢いが止まる事も無くフェデルを巻き込んで、一撃で決着が付いていたかもしれない。

 威力の程は、崩壊した壁を見ればお察しだ。少なくとも、俺だったら確実に死んでいる。


「ヴェッテは見てくれの通り『剛』の男。それに対し、フェデルは『柔』の男。その戦い方は、まさに対極と言えるものだ」


 ジークの説明が示すように、ヴェッテは巨大な斧をまるで重さを感じさせない程の凄まじい速さで振り回している。

 一方のフェデルは、その斧を細身の剣で軽くいなしつつ、苛烈な攻撃の中を一歩一歩間合いを詰めていく。

 レミアの時と同じような攻防に見えるが、彼女の場合は攻撃を受け止めるのが精一杯で、間合いを詰めるなんて出来ていなかったな。


「不思議ですね。あれほど激しい攻防なのに、打ち合う音がほとんど聞こえてきません」

「……それはそうでしょう。何せ、フェデル殿は打ち合ってなどいないのですから」


 レミアの場合、斧に対して剣をしっかりとぶつけていたからこそ、攻防の際にガキンなどという大きな音が響いたのだ。

 一方でフェデルは、先程の鉄球の時と同じように軽く剣を当てて巧みに反らしているが故に、接触時の音も小さい。

 言うのは簡単だが尋常じゃなく難易度が高い。それを嵐のような猛攻の中、全てに対してやってのけているのだから恐ろしい。


 悔しそうに歯噛みするレミアの横顔が見える。いくらシルヴァリアスを使えるとて、戦いの場数と経験に関しては老齢の騎士達には及ばない。

 彼女では出来なかった事を易々とこなしてみせるフェデルへの嫉妬か、あるいは羨望か。その胸中は複雑であろう……。



 ◆



「くぅっ、重く打ち合う手応えが無いというのはスッキリせんのう……」

「貴方とまともに打ち合うなど愚か者のする事ですよ。身体がいくつあっても足りないでしょう」


 二人の攻防を他所に、少し離れた位置で観戦していたレミアがその場でへたり込む。


「はっはっは! 言ってやるな。レミア殿が落ち込んでしまったではないか」

「レミア殿? ふむ、あの少女ですかな……?」


 攻防を続けながらも会話する余裕のある二人。当然、レミアの様子もしっかりと把握している。


「あの子は凄いぞ。なんとこのワシと正面から打ち合い、最終的にはコレを砕きおったのだ!」

「ほほぉ。それはそれは、何ともパワフルな娘さんですな……。将来的には良き剛の者になれそうです」

「あの子以外にも、良き若者たちが育っておる。ワシらもそうそうカッコ悪い所は見せられん。そうは思わぬか?」

「えぇ。老齢たる我らもまだまだ現役。若者には無い、粋というものをお見せしなければなりませんね」


 二人は互いに笑い合うと、攻防を打ち切って再び間合いを離した。



 ◆



「離れた。おそらくは次で決着を付けるつもりなんだろうな」

「愚か者……。私は、愚か者なのですか……」

「互角のようでしたからね。あのままだと体力の削り合いになってしまいます」

「剛の者って……私は一応女性なんですけどね……」


 フェデルの言葉に落ち込んでいるレミアは放置して、俺達は近衛騎士同士の対決を見守る。

 レミアが愚か者で剛の者ってのは、エリーティでの暴走っぷりやヴェッテとの戦いぶりを見る限りでは決して間違っていないと思うぞ。


「それよりマジかよ。あの師匠と正面から打ち合ったって」

「あぁ、余がその戦いを見ていた。お主も戦ったなら、レミアの恐ろしい闘気が分かるであろう」

「痛い程にな……。確かに、あそこまで猛烈な闘気なら師匠とも打ち合えるか」


 チラリと横目でレミアの様子を窺うステレット。


「まぁ、そんな気にする事は無いって。俺っちはパワー系女子ってのもありだとおも――ぶべっ!?」

「余計なお世話です!」


 若いな……。声をかけなくても良い場面で声をかけてしまう、それも軟派な性質な男の性か。

 今のレミアにとっては、例えそれが否定であろうが肯定であろうが、言葉によるフォローは逆効果だろう。


「……落ち着け。そろそろ二人とも動き出すぞ」


 先程以上に激しい闘気を漲らせる二人。先に飛び出したのはフェデルの方だ。見た目にも身軽なだけあって初動が早い。

 その踏み込みたるや電光石火。一瞬にしてヴェッテに迫るが、迫られたヴェッテもフェデルと並び立つ実力者だ。

 フェデルの動きに合わせて、既に斧は横薙ぎに振るわれていた。剣を構えて斧を対処しようとするが、先程とは異なり激しい接触音が響く。


「受け流しそこなった!?」

「いえ、違います。あれは――」



 ◆



 フェデルは叩きつけられた斧の勢いをそのまま自分の勢いに乗せ、その場で激しく回転。逆に剣をヴェッテに叩きつける!

 さすがに自身の力が上乗せされた一閃の威力は桁が違ったのか、鎧共々ヴェッテの強靭な肉体を横薙ぎに裂いていく。


「さらばだ。友よ……ぬ!?」


 しかし、胴を横薙ぎにするはずの一閃は半ばでその動きを止めてしまった。


「残念だが、まだお別れを言うのは早いようだぞ……?」


 腹部の横半分を斬り裂かれながらも、ヴェッテは漲らせた闘気を散らす事無く腕を振りかぶる。

 平常時であれば冷静に対応できたであろうフェデルも、必殺だと思って放った一撃が止められた事によりわずかな動揺が生じていた。

 当然その隙を逃すはずもなく、ヴェッテの大きな手が兜ごとフェデルの顔を鷲掴みにして、そのまま倒れ込むようにして思いっきり地面に叩きつけた!


 城全体が揺れる程の衝撃と共に轟音が響き、土煙が舞い上がったかと思うと大きく床が崩れて二人が階下へと落下していく……。

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