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異世界の流離人~俺が死んでも世界がそれを許さない~  作者: えいりずみあ
第四章:魔の手に堕ちしダーテ王国
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129:立ち塞がる王国騎士団長

 外であれだけドンパチやらかして門すらも破壊したのに、王城内は不気味なほど静まり返っていた。

 まさかとは思うが、城内の兵士も全部外に出してしまったんじゃないだろうな……。


「城内に誰もおらず驚いたか、賊共!」


 そう言って奥の階段から下りてきたのは、全身に黒い鎧を身に纏った男だった。

 意匠は先程の騎士団とよく似ているが、造りがより豪華で、明らかに立場が上の存在だという事が見て取れる。 

 フルフェイスの兜ではあったが、バイザーを上げているためか中の人の顔を伺い知る事が出来た。


「城内にはこの私が居るからな、有象無象など居ても邪魔なだけよ!」


 パッと見、三十代後半ほどに見えるこの男。彫りの深い顔立ちに鋭い目は、明らかにこちらへの敵意を感じさせるものだ。

 そりゃあ俺達はトップを倒して革命を起こそうとしている不届き者だから敵意はあって当然なのだが……。


「やはりお主が出てきたか、オスティナートよ」


 当然と言うか、元々この城で近衛騎士を務めていたヴェッテには心当たりがあるらしい。


「ヴェッテ・ラーン……。王を守る近衛騎士でありながら、よりにもよってその王を裏切った愚か者め。良くも顔を出せたものだな!」

「王を守るのみが近衛騎士ではない。信じた主君を守り抜くのが近衛騎士よ。ワシにとっては、それが王子じゃ」

「戯言を。王に忠誠を誓ってこその騎士。王以外に主君はあり得ぬ。例え王のご子息が相手あろうとも、我が忠誠は揺るがぬ」


 なるほどな。オスティナートという男はとにかく王至上主義者らしい。王以外は王族でも認めないってか。


「オスティナートよ。お主は、本当に今の父上が身命をとして尽くすべき主君だと思っておるのか!」

「当然であろう! ジーク王子、例え貴方であろうと我が主君への侮辱は許さぬ!」


 怒りの発露と共に、オスティナートの瞳が不気味に赤く輝く。


「っ!? あの騎士……どうやら既に瘴気によって狂わされているようですね」


 エレナの指摘も分かる気がする。普通の人間は瞳が輝いたりはしない。

 何より、奴の目が輝いた瞬間に黒い鎧から靄のようなもの――瘴気が立ち込め始めた。

 鎧の黒さはそういう事かよ。不覚にも少しかっこいいと思ってしまったぞ。俺のワクワクを返せ。


「瘴気は負の面を肥大化させる効果もあります。行き過ぎた忠誠心が妄信となり、彼を堕としてしまったのでしょう」


 騎士でもあったレミアが重々しく語る。当たり前だが、主君への忠誠と言うのはただイエスマンでは成り立たない。

 主君とて揺れ動く心を持つ存在。間違った道を進みそうな時には諫め、正しき道へ戻してやるのも、傍仕えの大切な役目の一つだ。

 様々な創作物において、頭のおかしい主君の側近が割とまともな人間というパターンが良くあるのはそういう事に違いない。


「よし、じゃあここは俺っちが引き受けようかな。騎士団長と戦えるなんて貴重なチャンスだ」


 ステレットが前に出る。オスティナートは騎士団長だったのか……。


「なんだ貴様は。まさか貴様がこの私と戦おうと言うのか?」

「これでも一応あんたの部下だったんだけど、一介の騎士なんて眼中に無かったってか」

「当然だろう。何人の騎士が居ると思っているのだ。つまり、貴様は私に覚えられない程度の活躍しかしていなかったという訳だ」

「じゃあしっかりと名を刻み込んでやるよ。ステレット・コラヴォラトーレ、それがあんたをぶっ倒す者の名だ」

「大きく出たな。いいだろう、私の部下から裏切り者が出たというのならばそれは汚点だ。私自ら引導を渡してやろう!」

「そうかい。それじゃ遠慮なく行かせてもらいますか――」


 その瞬間だった。俺は爆発音と共にステレットが光となってオスティナートへ向かって飛んでいくのを見た。

 間髪入れずに連続して響く爆発音。それはオスティナートが守っていた上への階段が崩壊する音だった。



 ◆



「――っと!」


 俺っちが先手を撃たせてもらったが、どうやら派手にやっちまったみたいだ。

 師匠に勝つために必死こいて編み出した俺っちの必殺技、その名も『ルミーネ』! けど、未だ制御し切れていないんだよな……。

 自身を雷に変えて飛ぶ――までは良かったんだが、短剣などでマーキングしておかないと方向と距離が定まらねぇ。


 今もまさにそうだ。何のマーキングも無しにただ全力で飛んだから、止まりきれずに盛大に階段を破壊してしまった。

 可愛い子ちゃん相手にした時みたいに、いくつもマーキングを用意しておいて、その間を飛び交うように使うのがやっぱ無難か。

 これで方向もズレていて騎士団長が全くの無傷とかだったら笑うぜ。俺のあまりのコントロールの無さに。


「か……あぁ……」


 と思って身を起こして粉塵を振り払うと、そこに見えたのは立ったまま黒焦げとなった騎士団長だった。

 良かった。どうやら当たっていたみたいだな。全力で行ったから、これで大したダメージなかったら凹んでたぜ。

 けど、ほぼ一撃で決まりってのも物足りないもんだな。偉そうな事言ってたくせに、この程度かよ。



 ◆



「な、なんと! あのオスティナートを一撃とは……」

「ヴェッテ殿は驚かれているようですが、あの騎士団長だという男は強いのですか?」

「うむ。奴は「王のためにも自分はより強くあらねばならぬ」と、ワシの訓練にも耐え抜くほどの男だった」

「確か貴方の訓練について来れた者は数人……でしたか。ならば相当な手練れだったはずでは」

「しかし、ステレットもまたワシが訓練した一人。勝敗を分けたのは、おそらくは志の強さであろうな」


 黒焦げのオスティナートが仰向けに倒れ、鎧が激しい音を立てて床を打つ。

 瘴気の影響で黒ずんでいた鎧は、今や焦げによって完全に真っ黒になってしまっていた。

 同時に兜も床に転がるが、本来ならそこに存在するハズの男の顔が見当たらない。


「うげ、もしかして、首取れちまったのか……?」


 炭化する程の一撃を受けた影響で脆くなっていたせいで、落下の衝撃によって身体が崩れたのだ。 

 ステレットは思わず兜から目線を反らしてしまう。炭化しているとはいえ、生首の詰まった兜を手に取りたくはなかった。


「オスティナートよ、何とも哀れな姿となったものだ。王に対して盲目である姿勢が、己を曇らせたか」

「そこで止まってしまったお主と、師匠すらも超えてさらにその先を目指そうとするステレットでは、そもそも見ている場所が違ったのだ」


 ヴェッテがその場に跪き、祈りを捧げる。彼にとっては、自身が手塩にかけて育てた者の一人でもあった。

 例え進む道を間違え、弟子同士の戦いに敗れ去ったとしても、教え子であった事に違いはない。

 ジークもヴェッテの横に跪き、盲目ではあったものの父に対する揺るぎない忠誠を最後まで貫いた騎士を労った。


「……ヴェッテさん、ジークさん。ここは私に弔わせてください」


 エレナが杖を掲げ文言を唱えると、オスティナートの亡骸が淡い光に包まれて塵と化していく。

 これにより彼は自然へと還る事となった。後には空洞となった黒焦げの鎧と、振るう主の居なくなった剣だけが残された。


「せめて、この装備一式を……いや、剣を主の墓標にしてやろう」


 さすがのヴェッテも、これからの決戦に向けてかさばる鎧を持っていくのは邪魔だったようである。




「これがほんとの『騎士団長殺し』ってか……ははっ」


 密かにつぶやいた竜一の一言は、幸か不幸か誰の耳にも届いていなかった。

 届いていた所で、意味を察する事が出来る者はこの場に居ないのだが。

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