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異世界の流離人~俺が死んでも世界がそれを許さない~  作者: えいりずみあ
第四章:魔の手に堕ちしダーテ王国
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127:見誤った王国軍

「はーっはっはっはっは! 待っていたぞレジスタンス共!」


 俺達が丘の上にたどり着くと、王城前の広場にズラリと騎士達が整列していた。ざっと数えても数千人は居るだろう。

 各地に散りながらも城にそれだけの人数が残っているとか、全軍の規模はコンクレンツにも負けていないかもしれないな。

 しかし、愚かな事だ。坂道を登る間、いくらでも奇襲のチャンスはあったのに、律義に上で待っているとは……。


「王子! そろそろ反抗期を卒業してお戻りになられては如何ですかな!? 父上も大層お困りですぞ?」


 騎士たちの背後から大声でまくし立ててくる人物がウザい。あいつがこの場を取り仕切る奴か?


「なぁ、ヴェッテよ。奴は何者なのだ……? 騎士団にあのような奴、おったか?」

「ワシにも心当たりがありませんな。大方、ワシらが抜けた後にでも据えられた奴であろう」

「で、どうすんの? 蹴散らすか?」


 どうやらジーク達にすら心当たりのない奴らしいな。知り合いでないのならば容赦しなくても良さそうだ。


「私がやりましょうか? 今の私でしたら、あれくらいの集団であれば一気にこう……」

「いや、ここは俺に任せてもらえないか?」


 レミアが前に出ようとしたのを遮る。確かに今のレミアは集団を一掃できるだけの力があるが、強すぎる。

 俺の脳裏に浮かぶのは、オーベン・アン・リュギオンの一件と、ギルドマスター達の前で見せた技の件だった。

 二度ある事は三度あると言うし、また大惨事にならないか不安が過ぎったのだ。 


「リューイチよ。そうは言うが、一体どうすると言うのだ?」


 そういやジーク達の前で俺は何もしていなかったな。まぁいいや。今からそれを見せる事にしよう。


「異邦人ならではのちょっとした能力ってのがあってな。俺はそれでコンクレンツの騎士団一つを潰してる。こいつらも何とかしてみせるさ」

「なんと。お主は異邦人だったのか……」

「言ってなかったか? まぁ、とにかく変わった事が出来ると思ってくれ」


 俺は一人、前に出て騎士団と相対する。


「なんだ貴様は! まずは貴様から殺されたいと言うのか! いいだろう、ならば望み通りにしてやろう!」


 何か吼えている奴は無視して、俺は右手で顔を隠すようにして、指の隙間から騎士団を睨みつける。

 俺は脳内でターゲットスコープをイメージし、視界に映し出された様々な部分に可能な限りの罠を仕掛ける。


「動くな!」


 まさに指揮官が突撃を指示しようとしたその瞬間に、俺は言葉を遮る。


「たった今、お前達の足元に罠を仕掛けた。死にたくなければ……動かない事をお勧めする」

「はぁ? 罠だと……。ほんの一瞬で何が出来るというのだ!? そんなハッタリで我らが退くとでも思ったか! 全軍、突げ――」


 号令を言い終わる前に一部の者が逸ったらしい。集団のあちこちで爆発が発生し、幾人もの騎士が弾けたポップコーンのように飛んでいく。

 その様子にパニックになってしまった者達が無駄に動く事によって、さらに各所の罠――地雷が発動する。

 地雷の爆発によってさらに近くの地雷も誘爆していき、瞬く間にスターマインの如く爆発が連鎖する地獄絵図と化す。


「だから言っただろうが。敵の能力もロクに知らないクセして無謀にも突撃命令出すとか、とんだ無能上司だな」

「おっ、おのれぇー! ならば動かなければ良いだけだろう! 魔導師団の砲撃で蜂の巣にしてくれる!」


 どうやら騎士団の後方には魔導師団も控えていたみたいだな。だが、この状況においては関係ない。 

 俺はコンクレンツでもお世話になったガトリングガンを召喚すると、容赦なく最前列の騎士達に向けて叩き込む。


「恨むなら、後ろでふんぞり返っている奴を恨むんだな。俺に対して突撃を指示したそいつをな……」


 弾を受けて倒れた事により、意図せずともその場から動く事になってしまった者達が地雷を踏み、さらなる爆発を引き起こす。

 その爆発で再びパニックになった者がさらに地雷を踏み、前列の者達は銃撃を浴びる事によって地雷が仕掛けられた地面へと倒れていく。

 また、倒れた者に押されるなどの形で無理矢理に立ち位置から動かされてしまった結果、地雷を踏まされる者達も居る。


「リューイチさん……。その、これは……?」


 恐る恐るエレナが尋ねてくる。今思えば、ジーク達はおろか仲間達の前でも見せた事が無かったか。

 コンクレンツの時はリチェルカーレを先に行かせていたし、王も消えていたしな……。


「これが俺の能力だ。謁見時にも見せたと思うが、俺は元々いた世界の私物を召喚する事が出来るんだよ」


 ちなみにその『私物』の範囲は結構アバウトで、厳密に俺が所持しているモノでなくても召喚対象となっている。

 例えば戦場カメラマン時代、現地の兵士に銃の発砲を体験させてもらった際に「HAHAHA! これでこの銃はキミのモノだ!」と言われただけの物ですら対象となる。

 どういう形であれ「俺のものだ」という認定があればいいらしい。そのため、戦場で活動し様々な兵器に触れていた俺は、そういったものを召喚する事ができた。


「リューイチさんの世界には、このように恐ろしいものが当たり前に溢れているのですか……?」

「いや、こんなものが溢れているのはごく一部だ。俺が戦場で活動していたから縁があったってだけで、世界の大半は正直ル・マリオンより平和だと思うぞ。モンスターは居ないし、魔術もない。日常において戦いとは無縁だ」

「そ、そうなんですね……。それなら安心です」


 俺の話に安堵するエレナ。恐らくは、今のような光景が全世界で展開していると想像してしまったのだろう。

 さすがに俺達の世界はそんな修羅の国じゃない。そんな世界だったら今頃とっくに人類は絶滅してるぞ。


「謁見の間で使っていモノとはずいぶん違いますね……。あの時これを使われていたら、今頃私は生きていなかったでしょうね」

「いやいやいや、あの時はあくまでも脅しのために銃を使っただけで、別に王城に居た人達を皆殺しにするつもりでは」


 呼び出されて間もなく王族を皆殺しとか、それは一体どんな殺戮者なんだよ……。


「リューイチ、お主……とんでもないな。正直、あの時お主との戦いを断って良かったとすら思えるぞ」

「俺からすると、軍隊を相手にするよりジークの相手をする方が怖いんだがな。俺の能力はどっちかと言うと集団殲滅向けだし、ジークには軽く避けられそうだ」

「そのさっきからずっと連射してるやつを避ける……だと……? 余に、出来るのか……?」

「おいおい、そんな弱気になるなよ。ヴェッテならその身一つで全部受けきるくらいはやってのけるんじゃないか?」

「それはかなりの無茶振りですな……。鎧諸共蜂の巣にし、人の肉体を爆散させるほどの威力を連発されて、果たしてワシは生きて帰れるのか」


 どうやら、俺の世界の近代兵器はジークやヴェッテらの実力者をも恐れさせるものであるらしい。

 だが、違う。そうじゃない。俺としては、せっかく剣と魔法の世界に来たのだから、そういうのを使いこなして戦いたいんだ。

 合間合間に訓練してはいるが、まだこういう場面では近代兵器を使った方が戦力になるという状況なのが悔しい。


『さて、では最後に我がダメ押しと行こうか』



 ◆



 王が手をかざし戦場を黒い魔力で包み込むと、間もなく倒れ伏していた騎士達がゆっくりと起き上がる。

 それらの顔に生気はなく、者によっては各部位が欠損していたり、内臓が露出していたりする。

 彼らは先程竜一によって殺された死者達である。死者の王にとって、死者を操り手勢に加える事など造作もない。


「うっ、うわあああああああ! な、何がどうなっているんだ!?」

「俺に聞くな! 俺も今この目で見ているものが信じられん!」

「夢だ……。これは夢に違いない……。あはははは」


 今もなお蹂躙され続けている生き残りたちからすれば、その追い打ちはもはやわずかばかりの希望すら摘み取る死神の鎌に等しかった。

 地面に仕掛けられた罠のせいで迂闊に動けない所を即死級の攻撃で――しかも、絶え間ない連射で最前列から順に薙ぎ払うように攻撃される。

 それによって次々と人が倒れる事で連鎖的に地面の罠が作動し、さらにそうやって死んだ者がゾンビとなって蘇り襲ってくる。


「なんだよ……これ……。こんなの、こんなのやってられるかっ!」


 帰りたい――そう思った者のが戦列を離れようとした。だが、その足が地雷を踏みつける。

 一瞬にして吹き飛ぶ下半身と舞い上げられる上半身。付近に居た者達も爆発に巻き込まれて少なからずの被害を受ける。

 地面に落ちて血の池を生み出した上半身は、眠る間もなく顔を上げて、手の力で這いずり仲間達の下へと進む……。


「そうか。死ねばいいんだ。死ねば……」


 やがて、騎士達も魔導師達も考えるのを止めた。死にたくないと思うからつらいのだ。

 さっさと死んでしまえば、もう何も考えなくてもよくなる。そう思い至った彼らは積極的に罠を踏み、射撃にその身を晒していった。

 激痛が身を貫く。だが、この痛みが自分達を解放してくれる。その後ゾンビ化しようともはや知った事ではない。


『(……? ワレハ、イッタイ……?)』


 だが、そんなに甘くは無かった。死者の王によるゾンビ化は、スピオンの例のように本人の意思を残す事が可能だ。

 倒れた者は意思を残された上で外から行動を操られ、気心知れた仲間を手にかけさせられる事になる。

 肉体の痛みから解放された代わり、今度は自身の手で仲間を裂き、その口で仲間の肉を味わい、喰らう感触を無理矢理体験させられる。


『(ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ーーーーー!)』


 考えるのを止めたはずの心が否応なく再起動させられ、抗えない程の絶望感を叩き込まれる。

 外から見える以上の圧倒的な地獄が、彼らを内側から破壊していく……。

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