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異世界の流離人~俺が死んでも世界がそれを許さない~  作者: えいりずみあ
第四章:魔の手に堕ちしダーテ王国
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117:電撃的侵攻作戦

 ――時は少しさかのぼり、ヴィーダー本部。


 待機していた竜一が王に呼び出されて、空間転移していったのを見送った直後、リチェルカーレが宣言する。


「よし、これからみんなして王都に襲撃をかけようじゃないか」

「王都に襲撃……いきなりですかな?」


 思わず聞き返してしまうヴェッテ。彼としては、何が何だかサッパリわからないのである。

 全てはリチェルカーレの掌中。彼女は自身のプランをこの場の誰にも話していない。

 あまりにも荒唐無稽過ぎる作戦であるがゆえに、単純に「説明が面倒だから」というのが理由だ。


 竜一を食材として献上し、解体した上で王都に輸送。その後、相手の本拠地で復活して派手に暴れまわる……。

 言葉にすると至極単純だが、聞いた者達が一様にクエスチョンを浮かべる事は受け合いだろう。


「リューイチがあっちへ行ってしばらくしたら、王都が大混乱に陥る手筈になっているんだ。その前に、王都付近にまで近付いておきたい」

「王都が大混乱に……? まぁ、細かくは聞きませんが、それが突入の合図になるという訳ですな?」

「あぁ。それを合図にして王都へ飛び込み、貴族達を手当たり次第に狩りつつ家捜しをしながら王城を目指す」

「ちょっと待て。それではまるで盗賊団ではないか……。余は別に貴族を殺し尽くしたい訳では」

「今、王都に残っている貴族の中に慈悲を与えたい者が居るのかい? まぁ、現実は実際に行って確かめてみればいいさ。きっと屋敷の中から面白いものが見つかるよ」


 リチェルカーレが語る言葉の意味を、ジークは後に王都で知る事となる……。



 ・・・・・



 本部ロビーに現時点で留まっている隊員達が全て集められ、リーダーから作戦の説明が行われた。

 だが、リチェルカーレの案を中心に構築された作戦であるためか、ジークは非常に説明しづらそうだった。

 しどろもどろになりながらも説明を終えるも、隊員達は「?」といった感じで呆ける者が多数……。


 この後の作戦を単純に説明すると、王都少し手前にある丘の辺りに空間転移で飛んで陣取り、『合図』と共に王都へ突撃をかけるというものだった。

 まず『空間転移』という時点で大半の者達がついていけて無かったので、この場でリチェルカーレが実演をしてみせる。

 最初はジーク達や流離人の面々が、後に隊員達も実際に短距離を移動して空間転移の感覚を体験する。向き不向きがあるのか、空間転移後に気持ち悪さを訴える者も居たりした。


「で、後はコレを貸し出そう。魔術道具工房フェアダムニス謹製の空飛ぶじゅうたんだ。突撃にはコレを使ってもらうよ」


 当然の事ながら一般的に普及していないものなので、隊員達は先程と同じく「?」といった顔だ。


「使い方は簡単。乗る、力を込める、念じる、それだけさ。シャフタ、試しに君がやってみるといい」

「え、私が……ですか?」


 皆を代表して前に出てきて、じゅうたんの上にちょこんと座るシャフタ。


「まずは力をじゅうたんに流し込むイメージで……そうそう、簡単だろう?」


 じゅうたんが五十センチくらい浮いた所で、続いてこれが前へと動くイメージをすれば、そのイメージ通りに動く……が、


「ひゃあっ!?」


 急加速したじゅうたんが壁に向かって思いっきり衝突し、乗っていたシャフタもびたーんと思いっきり壁に叩きつけられる。

 さすがにコントみたいにペッタンコになるような事は無かったが、相当な勢いで発進したためか気を失ってしまった。


「とまぁ、こんな感じでコントロールをミスると危険だから、練習して慣れておいて欲しい。あくまでもレンタル品だけど、希望者には売ってあげよう」


 当然の事ながら「いくらですかー?」と尋ねられるが、百億と返すと皆して黙ってしまう。

 魔術関連グッズは総じて高く、億単位に達する魔術道具は決して少なくないが、それでも百億は高い部類に入る。


「協力者となったよしみで、十億でもかまわないよ。それか、材料さえ用意してくれれば、加工はタダでやってあげるよ」

「ふむ、その材料とは……なんだ?」


 興味を示したのか、ジークが尋ねてくる。


「カイザーフェニックスの羽とインヴィンシブルドラゴンの鱗だよ」

「……聞いた事がないな。ヴェッテは分かるか?」

「少なくとも、フェニックスの名は神話で目にした事があります。名前の響きからして、それらの上位個体でしょうな。ドラゴンの方は、そのような種類は聞いた事が無い……が、並々ならぬ種なのでしょう」

「神話の存在……神獣か。十億もの費用をゼロにして構わぬという程の素材というだけあって、難易度も並大抵ではないようだ。苦労を考えると、買う方がむしろ得ですらあるな」


 ジークはあっさりと購入を決めてしまう。ヴェッテのアドバイスもあって、素材の獲得難度を悟った彼は、正しい選択をする事が出来た。

 かつてネーテからレシピのみを買い取った商人とは異なり、無駄に苦労する事無く目的の物を手にする事が出来る権利を得たのだ。


「いいのかい? さすがに百億は請求しないけど、十億はきっちり取らせてもらうよ」

「構わぬ。余は気に入ったのだ、是非とも欲しい。国を取り返せばそれくらいの金はあるだろう。奴らの事だ、金銀財宝を蓄えているに違いない」


 そう言うと、ジークは早くも手慣れてしまったのかロビー内をフワフワとじゅうたんで飛び始める。


「はっはっは。これは愉快愉快。ワシが乗っても大丈夫とはの」


 ヴェッテも歴戦の猛者ゆえか、早くもコツをつかみ同じようにフワフワと漂っている。

 他の隊員達も、少し浮かせる段階で苦戦している者や、リーダー達のように飛ぶ事が出来るようになった者まで、実に幅広い。

 一時間に満たない訓練であったが、指導が的確だった事もあってか、最終的に皆が車くらいの速度は出せるようになった。


「……では、そろそろ出発しようか」


 ロビーの床全体が漆黒の闇と化し、その場に居た一同が悲鳴を上げつつ落下していく……。



 ・・・・・



 転移先の草原では、大半の隊員達が尻餅をついていたり、地面に倒れ伏していたりと、いきなりダメージを受けている様子だった。

 事前に実践してはいたが、その時は横向きの穴に飛び込む形で訓練していたため、落とされる形での空間転移は誰も想定していなかったのだ。


「……可愛い顔して見せてもダメですからね、全く」


 エレナが『てへぺろ♪』みたいな顔をしているリチェルカーレに呆れ交じりで溜息しつつ、広範囲の回復魔術を発動する。

 一瞬にして草原に広がっていく淡い緑色の光に、その場に居た者達が感動の声を漏らす。その魔術は、オーロラのように美しかった。

 身体的なダメージと共に、日頃溜まっていた疲れまで吹っ飛んだかのように、皆が清々しい顔で立ち上がる……。


 しかし、それをあざ笑うかのように突然地面が揺れ、隊員のうちの何割かが転んでしまう。


「地震だと!? この地域で、これ程の揺れなど滅多にないというのに」


 ダーテ王国でも地震は起きるが、それは極稀に、地球で言う震度二程の揺れが発生する程度だった。

 それが、今のは震度五にも匹敵しようかというなかなかの揺れだ。日本人なら余裕でスルー出来ても、異世界人はそうもいかない。

 駄目を押すように繰り返し発生する揺れに、神懸かり的な何かの怒りを連想したのか、ついには拝み出す者も現れた。


「大丈夫です。皆様、どうか心を落ち着けてください。精霊姫は正しき者の味方です。正しき我らに天罰などはあり得ません。さぁ、皆で祈りましょう」


 まるで後光が差すかのような暖かいオーラを放つエレナに対して、多くの者が膝を付いて祈り始めた。


「さすがは神官長を務めるだけあって、エレナのこういう事態における対応は凄いですね」

「あの子が凄いのは、自覚無しに聖性の強い気を放って周りに居る人間を酔わせている所だね。そんな状態の人間があの子を見たら、それこそ女神様にでも見えるだろうさ」

「しかし、これほどの聖性を放つ事が出来るとは……。エレナとは、いったい何者なのでしょうか?」


 同じ王城で勤め続けてそれなりに付き合いの長いレミアであったが、彼女もエレナがここへ来る以前の事は知らなかった。

 王城へやってきた時から既に圧倒的な法力を持ち、高い練度の術を使いこなしており、瞬く間に国内における神官長の座を勝ち取った。

 どういう身の上の存在なのか、神官としての規格外の力は一体どのようにして身につけられたものなのか……。


「気になるかい? ならもう少し待つといい。この先、嫌でもあの子が自身と向き合わなければならない時が来る。と言うより、逃げられない所まで来ている……と言った方が正しいかな」

「リチェルカーレ殿、貴方は一体……何を知っているのです?」


 レミアの問いには答えを返さず、エレナを瞳に映しながら不敵に微笑むリチェルカーレ。

 そんな彼女の様子など、一同を前に説法を続けるエレナは知る由もなかった。

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