表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の流離人~俺が死んでも世界がそれを許さない~  作者: えいりずみあ
第四章:魔の手に堕ちしダーテ王国
116/494

110:異常気象の原因

 厨房のシェフ達が次々と俺の身体を棺から取り出し、各々の持ち場へと持ち去っていく。

 その瞬間、ゴゴゴッと地面が揺れ厨房内の者達が一様にバランスを崩す。当たり前だがこの世界にも地震があるんだな。


「落ち着け! 貴重な異邦人の肉だ。調理を失敗でもしようものなら我々一同の首が飛ぶ……気合を入れろ!」


 避難よりも調理か。俺の身体は余程のレア食材らしいな……。かなり捕獲レベルが高そうだ。

 こうして自分自身が調理される所をのんびりと見物するなんて、多分そうそうに出来る経験では無いだろうな。

 そもそも人間の調理と言う時点で異次元の領域だ。どうやって調理されるのかは、正直気になる。



 股間から膝にかけての腿部分は輪切りにしてステーキのように焼いている。肉付きが良い部位だからなのか、至ってシンプルだ。

 肩から肘にかけての部位は同じく輪切りにしてはいるが、火を通す事無く骨を抜き取り、半月状に切ってから付け合わせと共に皿へ載せる。

 脛の部分は骨を取り出し、ブロック状に切り分けては様々な料理の中に混ぜていく。抜き取った骨は大きな鍋に放り込んでいる。

 貴重だと言っていたから、例え骨の一かけらすらも無駄にしないのだろう。俺も動物を調理する際は見習わないとな。

 手と足はその鍋に放り込まれた。骨も多く肉も少ない部位だから、丸ごとじっくりコトコト煮込んで柔らかくする算段だろうか。

 順調に調理が進んでいくが、その過程でまたも地面が揺れる。先程よりも若干強くなった感じかな……?


「い、一体どうしたというのだ! この地域でこんな地震……例が無いぞ!」

「だから落ち着けと言っているだろう! 今の我々は貴重な素材で大公の料理を作っているのだぞ!」


 厨房で一番偉い人が取り乱すシェフ達を一喝する。大公への恐怖心もあるだろうが、料理人の鑑だな。

 再び調理に戻るスタッフ達。幸い調理中のものに被害はなく、順調に俺の身体は豪華なフルコースへと変わっていく。

 唯一、俺の頭部だけはそのまま皿の上に載せられている。鯛の活造りみたくオブジェ扱いという事だろうか。


「よし! 順にお運びしろ! 念のためだ、余震も警戒しておけよ」


 次々と厨房から運び出される俺のフルコース。カートに乗せられた俺が、男女の使用人達によって運ばれて行く。ドナドナを流すにはタイミングが遅すぎたな。

 俺も執事達の後をついていくように浮遊している。さすが職務中とあってか、誰一人としてキリッとした表情を崩さず無言で淡々とカートを押している。

 やがて先頭を歩いていた執事が大扉を軽くノックすると、中から先程の大男の声で「入れ」と返事があり、執事が開けた扉から次々とカートが入室していった。


「おぉ、おぉ……! ついに来たか! 異邦人のフルコース!」


 大きなテーブルに一人だけで着席していた大公が、並べられていく皿の数々にご満悦だ。見ただけで、もう厨房スタッフの首が飛ぶ事は無いだろうって思えるほどのご機嫌ぶり。

 とても人間を調理したとは思えない美味しそうな料理が立ち並ぶ中、執事が最後に大公の目の前に置いた皿は……よりにもよって俺の頭だった。


「ご主人様。いつも通り、頭から行かれると思いまして、準備は整えておきました」

「はっはっは! さすが長年仕えてきただけの事はあるな。我の事を良く分かっているではないか!」


 大公が大笑いすると同時、三度地面が激しく揺れる。

 周りに居た使用人達はふらつきながらも机の方へと歩み寄り、何とか料理が零れたりしないよう守りにかかっている。

 自己の保身よりも主の料理。料理が台無しになり主が不機嫌になれば、どのみち彼らの命は無いだろうしな。


「た、大変です! 急に天候が荒れ始めました! まるで嵐がいきなり出現したかのようで、王都は大混乱です!」

「な、なんだと!?」


 大公が窓の方を振り返ると、確かに外は暗雲に覆われ、暴風雨が激しく窓を打ち付けているのが見えた。


「本当にいきなりだな。先程荷物が届けられた時は晴れておったではないか……。まぁいい、関係各所に通達して事にあたれ!」


 駆け込んできた者に指示を出した直後、再び激しく揺れる屋敷。


「一体何が起きている!?」


 こっちが聞きたいわ。




(では、疑問にお答えしましょう……)


 と、疑問に思った所で俺の心の中に響いてきた声。この声は――


『(ミネルヴァ様!?)』

(お久しぶりですね。少々事態が大きくなりそうなので声をかけました)

『(事態……まさか、この異常気象ですか?)』

(はい。これは端的に言って、貴方が死んでいる事により世界が壊れようとしている前兆です)

『(……マジですか)』

(要素が壊れた場所、つまり貴方を始点として災害が広がっていきます)


 そういや言ってたっけ。俺は『世界を構成するにあたって必要不可欠な要素』だって。

 他にも、必要不可欠な重大要素が破損あるいは欠損したりすると、世界そのものが壊れかねません――とも。

 という事は、今まさに俺という重大要素が欠損して世界そのものが壊れ始めていると?


(具体的に説明していなかった私の落ち度です。死すらも戦略として利用しようとする貴方には、その辺の詳細を伝えておくべきでした)

『(確かに詳細は知らないですね。世界が要素――つまり俺を自動的に修復して維持を図ろうとするような事は聞いていましたが、今までそんな事は一度も無かった)』

(世界そのものは、言葉通り『世界そのものを維持する事』のみを役目としています。自動的修復が行われるのは、これ以上崩壊が進むと取り返しがつかないという段階になってからです。つまり、世界に異常が起き始めた過程において、そこに生きる者達がどうなろうと気にも留めません。故に、そこの匙加減は全て貴方次第となります)


 ……想像以上に重い立場だった。


 戦略的に死を利用しようとして、それが長引く作戦だった場合、こうして世界に異常気象が起きてしまう。

 しかし、その程度ではまだ世界崩壊の危機としては認識されないため、俺自身の意思で復活して止めなければならない。

 世界をどれだけ壊し、どれだけの者達を犠牲にするかは、全て俺の裁量に委ねられているという訳か。


『(確かに、事前にそれを知っていたらもう少し作戦の立てようがあったかもしれませんね)』

(申し訳ありません。既に事が起きてしまってからこのような事を……)

『(いえ、詳細を知る事が出来たのは僥倖でした。ありがとうございます)』




 心の中からミネルヴァ様の感覚が消える。さて、異常気象は俺のせいらしいが……。

 とあれば、それを利用しない訳にはいかないな。俺は霊体である事を活かし天井を突き抜け外へ出る。


『(うぉっ! 想像以上に酷い事になってるな……)』


 王都は暴風雨の只中で大荒れだった。テラスでのんびりしていた御婦人方もあちらこちらに吹き飛ばされて倒れているのが見える。

 そんな中で地震までもが頻発しているため使用人達もなかなか助けに行けない。上空ではドス黒い雲が蠢き、今か今かと蓄積された雷が出番を待っているかのようだ。

 俺が始点になっているらしいから、俺を中心にしてその範囲が広がっているのだろう。雲は徐々に王都の範囲を超え、辺りにまで拡散していっている。

 なんとなくだが、地震もその範囲に倣うようにして広がっている気がする。あまり広がり過ぎると厄介だし、充分に王都は混乱したようだからそろそろ止めるか。


 屋敷の中へ戻ると、大公が再び席に着いており、執事が机に置かれた俺の頭に手を置き、まるでフタを開けるかのようにしてそれを取り外した。

 露にされる俺の頭の中。あれが俺の脳か……。自分で言うのもなんだが、グロテスクなものが詰まってるんだな。そして、そんなものを見て目を輝かせる大公。

 おい、まさかとは思うが、それを喰う気じゃないだろうな。右手にスプーンなんか持ってるし、アイスでも食うみたいな感覚でパクッと行くつもりか。


『(調理過程までは好奇心で見たが、やっぱ喰われるのは勘弁願いたいな。どうせならティアみたいな美人に喰われたいわ。オッサンは勘弁してくれ)』


 俺はここで自身の復活を願い、身体を再構築して顕現する。同時に、元々存在した身体が――調理済みのものも含めてフッと掻き消えた。


(俺、復活……ってな)


 もちろん、華麗にポーズを決めるのも忘れない。


「なっ!? 何事だ! ……一体、な――」


 大公が騒ぎ出したとほぼ同時、不意打ちで眉間に銃弾を叩き込む。もちろん、横に居た執事に対しても同じだ。

 何せ大公のお付きをしているくらいだ。実は相当な実力者なのかもしれない。存在を無視して仕掛けられてしまうとかあまりにもアホ過ぎる。

 俺は素早く倒れた二人のもとへと駆け寄り、様子を窺う。二人とも目を見開き大口を開けた状態で絶命している……ように見える。

 だが、俺は油断しない。貴族達はもう既に魔族化している――現に、大公は俺の肉を喰おうとしていたし、執事や料理人達にも一切の躊躇が無かった。


 故に、倒れている二人に対して銃弾の全てを叩き込む。弾切れしたらまた別の銃を召喚して撃ち尽くし、それを何度か繰り返す。

 撃つ度に跳ねる二人の身体。文字通り、蜂の巣と呼ぶに相応しい程の無数の穴が全身に渡って広がる無残な姿。魔族ってのはこの程度で死ぬんだろうか。

 念には念を入れて、手榴弾をいくつか召喚しては放り投げておく。盛大な爆発を背に、俺は大部屋を後にする……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ