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異世界の流離人~俺が死んでも世界がそれを許さない~  作者: えいりずみあ
第四章:魔の手に堕ちしダーテ王国
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099:王子と近衛騎士の実力

 レミアとジーク、二人が剣をぶつけ合った事で発生した衝撃波が拡散する。

 リチェルカーレがノーモーションで障壁を展開し、その直後に吹き荒れる暴風が直撃する。 

 これだけで、最初の一撃にどれほどのパワーが籠っているか、皆が早くも察した。


 そして、その後も同等の衝撃が繰り返し発生する事になる……。


(何という凄まじい練度……。ヴェッテ殿がかかりっきりで育成すると、これほどの剣士が育つのですか)


 シルヴァリアスで身体強化したレミアの動きにすら余裕でついてくるジーク。

 剣風だけでホイヘルをも両断した程の一振りを余裕で受け止め、笑みすら見せている。


(いえ、ですが――それならばダーテ王国の兵士達は皆が皆、百戦錬磨の戦士に育っているはず……)


 上段下段を使い分け、時には蹴りなども交えて不意打ちを仕掛けてみるが、同じように蹴りでしっかり捌いてくるジーク。

 これがあくまでも『剣による試合』などではなく、何でもありの『死闘』であるのだと自覚している証拠だ。


(これはジーク殿の才覚によるところが大きいのでしょうね。恐ろしい逸材です)


 レミアはもう一段ギアを上げる事にした。ホイヘル戦では使う必要のなかったレベルの強化だ。

 全身から銀色の光が煌めき、ジークと同時に放ったはずの一撃が先んじて相手に届く。

 ジークは自身が振りかぶろうとしていた剣を止められる形になってしまい、後方へと弾かれる。


「……まだ速さが上がるのか。さすがは騎士団の副団長にまで上り詰めただけはあるな」


 それでもジークは笑みを崩さない。同じようにスピードを上げて、レミアと何度も剣を打ち付け合う。

 しかし、その回数を重ねていくごとにレミアはある事に気が付いた。それを確かめるため、彼女は剣を振るのを止めた。


「何を……!?」


 無防備となったレミアに、吸い込まれるようにしてジークの斬撃が届……かない! 何と彼女は素手でジークの剣をつかみ、止めてしまった。

 片手による真剣白刃取りとでも表現すべきか、親指と四本の指で剣の面を挟み込み、手が斬れる直前で押さえている。


「あれは、シンケンシハラドリ!? 和国のサムライの中でも、特に腕の立つ者が得意としているという最高峰の技術か……」


 二人の戦いを見ていたヴェッテが思わず叫ぶ。齢を重ねているだけあって、彼は様々な技術に詳しかった。


「いいえ、これはシラハドリではありませんよ。私のは、ファーミンの暗殺者が使っていた『フェアシュヴィンデン』という技術を取り入れたものです」

「ファーミンの暗殺者……お主、そんな所からも技術を取り入れていたのか。暗殺者と言えば、騎士が最も毛嫌いするような者であろうに」

「私の場合は元々が冒険者というのもありますが、生き残るためには四の五の言ってなどいられないという事を、己が身を以って体験していますので」


 ツェントラールで竜一が短剣を使うと言っただけで顔をしかめたギャラリーが良い例である。彼らは、暗殺者が良く使う武器というだけで忌避しているのだ。


「さて、ジーク殿。歯を食いしばってください」

「ん? それはどういう……ぐはぁっ!」


 レミアの拳がジークの腹部を抉る。深く突き入れられた拳は衝撃を余す事無く伝え、彼を放物線状に吹き飛ばすに至った。


「戦闘中ですよ。不測の事態が起きたからと動きを止めるのは愚の骨頂です。私がヴェッテ殿との会話に気を取られた時、まさに絶好の攻め時でしたよ?」


 ジークは剣を受け止められてから、あろう事か驚きでそのまま硬直してしまっていたのだ。

 これが熟練の戦士であったのならば、すぐに剣を手放し、別の攻め方へと切り替えていた事だろう。


「あと、貴方は教えを吸収するのは早いようですが、さすがにそのまま使い過ぎです。まるで剣技の教科書のように綺麗な攻め方でしたが、故に動きが読みやすい」

「さすがですな。少し交えただけで王子の欠点を見抜かれるとは……」


 直後、レミアの頭上から巨大な物体が降ってくる。一メートル程の黒い球体――鉄球だ。

 危なげなくそれを回避するが、激しく地面を叩きつけられた鉄球は地面を大きく抉りつつ地面を揺らす。


「むぅ、さすが人に指摘するだけあって、自身は微塵も油断しておらぬか……見事」


 鉄球を叩きつけたのは、先程まで見学に徹していたハズのヴェッテだ。


「明確に一対一の戦いであるとは宣言されておりませんので、可能性は考慮していました。しかし、鉄球とは巨躯に相応しい大物ですね」

「誉め言葉として受け取っておこう。だが、お主との正面切っての戦いにおいては不向きだろう。故に、ワシはコレを使わせてもらおう……」


 ヴェッテが何処からか取り出したのは赤い宝玉。それを宙に放ると、光と共に巨大な斧が姿を現した。

 地面に落ちた斧が、鉄球の時と同様に地面を揺らす。彼は、自身の巨躯をも包み隠す程のそれをいともたやすく持ち上げてみせる。


「斧は剣より鈍重……などとは思わぬ事だ」


 素早く間合いを詰めるレミア。しかし、銀閃は斧の刃によって止められてしまう。

 常人であれば見てから振っているのでは間に合わないのだが、ヴェッテは間に合わせる事が出来てしまう。


「……痛感しました。それでいて、重い。やはりジーク殿の師匠なだけはありますね」


 まるでジークが剣を振り回している時の如く、片手でブンブンと素早く斧を振ってみせるヴェッテ。

 何とも馬鹿げたデタラメな力だ。闘気で強化されているとはいえ、その強化度合いが凄まじい。

 一体どのように動かしているのか、レミアが振る剣に対し、巨大な斧で問題なくついていっている。



 ★



「なぁ、一体何が起きているんだ? もはや次元が違い過ぎてキンキンキンキンって音しか聞こえないんだが……」


 ジークとレミアが一段ギアを上げた辺りから、二人の速度は俺の目では追えない程の領域に至っていた。

 そして今、ヴェッテとの戦いに移行した訳だが……あの爺さん、巨大な斧でジーク並の速度を出していやがる。


「仕方ないね。今はアシストしてあげるけど、いずれは自力で視認できるようにしなよ? エレナはどうする?」

「申し訳ありません。私もちょっと……動きを追えない感じです」


 リチェルカーレがパンッと軽く手を叩くと、急に目の前にジークとヴェッテの姿が現れた。

 今まで目で追いきれていなかったが故に誰も居ないように感じられた視界に、突然現れる二人。

 魔術によって視力と認識力が向上し、二人をちゃんと確認する事が出来るようになった。


「す、すげぇ……。あれほど巨大な斧を全く重さも感じさせずに軽々と振るってやがる」

「どうしてあれでレミアさんと互角に打ち合えているのでしょうか。斧ってあんな動きしましたか?」


 よく見ると、一つ打ち合う度にレミアが歯を食いしばっている。やはり、衝突の度に感じる衝撃はレミアの方が上なのだろう。

 下手したらトンはありそうな金属の塊が打ち付けられているのだ。打ち付ける力が同等でも、得物によるウェイト差が生じているようだ。

 また、ヴェッテの方は巨大な斧を使っているだけにリーチが長く、レミアが振るう剣を届かせるにはさらに踏み込む必要があった。


「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」


 キンキンどころかガキンガキンの応酬になっている。それだけ、互いのぶつかる力が増しているのだろう。互いに一度でも捌き損ねたら致命的だ。

 拮抗する競り合い。もしかして二人の体力が尽きるまで終わらないのではないかと思われたその時、状況は動いた……。


「ぬぅっ!?」


 ヴェッテの斧が砕けた。神が作りしアイテムと言われるだけあって、シルヴァリアスの強度が遥かに勝っていたようだ。

 もしかしたらレミアは、間合いに踏み込めなかったのではなく、この状況を待っていたのかもしれない。

 当然の事ながらそうして生まれた隙を逃すはずもなく、すかさず懐へ潜り込み、重厚な鎧にそっと手を当てて――。


「御覚悟を!」


 黄金色に輝く濃密な闘気が零距離で放たれる。ヴェッテも闘気を放出してそれを受け止めるが、勢いを殺しきれず山の外へ飛んで行ってしまった。

 しかしその直後、リチェルカーレが指を鳴らすと修行場中空に空間の穴が開き、そこからヴェッテが飛び出して地面に墜落し、地響きと共に粉塵を撒き散らした。

 さすがにあのまま彼方へ飛んで行ってしまったら面倒くさいと思ったのだろう。空間を繋げてこの場へと戻したようだ。


「おいおい、勢いは殺していないのかよ……。すげぇ勢いで衝突したぞ」

「アレがこの程度で死ぬようなタマに見えるかい?」


 などと言った直後、当のヴェッテがむくりと起き上がり――


「がっはっはっは! 見事だ! こんなに白熱したのはいつぶりであろうな……愉快愉快!」


 彼の鎧に傷一つ付いていない。あの一撃を受けて、自身の闘気で完全に守り切ったと言うのか?

 レミアは察していたのか、特に驚きも無く澄ました顔でヴェッテの言葉を聞いている。


「さぁて、身体も温まってきた所で次だ! そこの少年と魔導師のお嬢さん、次はお主らとやってみるか」


 あっ、俺はともかくリチェルカーレに話を振るのは非常にマズい……。

 そっちからは見えないかもしれないが、隣で魔女が嵐を呼ぶ園児の如くニヤニヤしてるぞ。

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