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異世界の流離人~俺が死んでも世界がそれを許さない~  作者: えいりずみあ
第四章:魔の手に堕ちしダーテ王国
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098:山の上の修行場

 俺達が連れて来られた先はロビーだった。まさか、ここで……?


「や、さすがにここではやらんぞ。せっかく造り上げた本部が壊れてしまうからな……。上だ、上」


 ジークに言われて天井を見上げると、そこには煙突のように縦穴が掘られており、かなり上の方に光射す出口と思われる部分が見える。


「ここは山の上の修行場と直通になっております。我々はいつもここから行き来しておりましてな」


 ヴェッテが床に手のひらを向けると、床に掘られた模様が淡く輝き始める。


「こうして魔力を込めると、空へ打ち上げるための魔術が発動する仕組みになっております。貴殿らも同じようにすれば発動しますぞ」

「ではな。先に上で待っておるぞ」


 ジークが挨拶すると同時、まるで大砲の砲弾の如く上空へ飛んでいく二人。豪快な移動方法だなー。

 俺達四人も、同様にして床の模様の上に陣取る。ヴェッテ程の巨体が問題なく通れるほどの大きさの穴だ。

 故に、そう大柄でもない俺達四人くらい全く問題なく通れる……ハズなのだが――


「おいおい、縦穴は充分に広いんだからこんなにくっつかなくても……」

「な、何事にも『完全』という事はありません。これは万が一の事が起こっても大丈夫なようにお守りするためです」

「ご存知ですか? 法力をより強く、より多く伝達するためには直に触れていた方が良いのですよ。怪我などされてもすぐ対処できます」

「くっくっくっ、二人とも必死になっちゃって……。男日照りの影響か、ここぞとばかりに」

「「ち、違います!」」


 何故か女性陣がそんな御託を並べて俺にくっついてくる。レミアとエレナは左右から、リチェルカーレも二人を茶化しつつ正面を陣取る。

 おじさん、女性との密着は正直言って嬉しいけど、洞窟の中だからか暑苦しさを感じるんで今は放して欲しいかな……。


「さて、アタシ達も行くよ。床に魔力を込めるから備えておいておくれ」


 ヴェッテと同じように床に向けて手をかざすリチェルカーレ。模様が輝き始めるが……発光強くない?

 さっきは淡い輝きだったのに、今は目映いばかりに輝いているぞ。これって、まさか――


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーー!!!」

「「きゃあぁぁぁぁぁぁぁーーーーー!!!」」


 急・上・昇! 絶叫マシンの如く縦穴を物凄い勢いで駆け上る……。前言撤回だ。これは皆で密着していないと怖いわ。

 目線を下に向けると、リチェルカーレがニヤニヤしながら俺を見上げていた……狙ってやったな、こいつ。



 ・・・・・



 縦穴を抜け、間欠泉の如く噴き出した俺達は、そのままの勢いで空中にまで飛び出してしまった。

 眼下に広がるのは山に広がる森とふもとに広がる森、その森の先に広がる平原くらいだった……実に、辺境だな。

 確かここは国境沿いの山だったっけ。そう考えると、視界に収まる範囲に人里が見当たらないのも当然か。

 背後はさらに高くまでそびえる、森で埋め尽くされた山の上層部……。どうやらこの辺は山の中腹辺りらしい。


「ふはぁ……。一時はどうなる事かと思ったぞ」

「ほ、ほら。こういう事も起きましたし、お守りするために備えていたのは正解でしたね!」

「……どういう事が起きたんだ?」

「それはその、あれです。物凄い勢いで飛ぶ事による風の勢いとか、縦穴の岩盤が崩れた欠片が飛んできたりとか」

「勘違いしないでくださいね、レミアさん。そう言ったものからリューイチさんを守ったのは、法力で壁を張った私の功績ですから」

「残念ですが、法力だけでは守り切れない部分もあります。そう、心とか! 私はリューイチさんの恐怖を和らげたのです!」


 確かに、風圧を感じたり、顔に何かが当たったりするような感触はなかったが、エレナのおかげだったか。

 レミアが何か主張しているが、正直空回りしている感じだな……。心って何だ、心って。

 

「あのなぁ。俺達を殺す気か、リチェルカーレ……」

「人聞きの悪い事を言わないで欲しいね。このアタシが付いていて、キミが死ぬわけないだろう」

「他でもない、お前自身に何度か殺されているんだが……どの口でそれを言うんだ」


 言い合いを始めた二人から離れた俺は、同じく一緒に移動したリチェルカーレに文句を言う。 

 しかし、白々しく目線を反らしてピーピーピーと口笛を吹き始めたので、こめかみに拳を当ててグリグリしてやった。 


「痛だだだだだだ! じ、地味にそれは効くっ!」


 戦闘時は無敵に近いリチェルカーレも、気が置けない相手の場合はこうしてダメージを通せるんだよな……。

 コンクレンツにおいてはレミアに首根っこ掴まれてガクガクされてたし、旅立つ前はミネルヴァ様に杖で小突かれていたし。


「ふふ、ふふふ……。積極的なリューイチも、アタシは好きだよぉ」


 ……壊れたか?




「おい、そんな所で漫才などやっていないで早く来ないか!」


 ジークの声だ。改めて周りを見ると、まるで運動場のように不自然に切り開かれた領域が広がっている。

 直径にして五十メートル程か。俺達の居る位置とは反対側の位置で、二人が腕組みして立っていた。


「早速だが、余はツェントラール騎士団の副団長だったというお主と戦ってみたい!」


 ジークの指名はレミア。近衛騎士に修行をつけてもらっていた事もあってか、同じく騎士を相手に実力を確かめたいのだろう。

 思わぬ名指しを受けたレミアはエレナとの言い合いをスッと打ち切り、まるで何事も無かったかのように颯爽とジークの下へ歩いていく。


「御指名ありがとうございます。元ツェントラール騎士団副団長として、恥じない戦いをお約束致しましょう」

「うむ、では早速だが始めようか。ではヴェッテよ、合図を頼む」


 二人が円の中心辺りまで歩いて行ったところで、互いに剣を構える。


「それでは……始めいっ!」


 ヴェッテによる合図がなされた瞬間、ジークの姿が一瞬掻き消えた。


「なっ!?」


 気が付けば、レミアの手にしていた剣が弾き飛ばされていた。

 どういう事だ……? 動きが全く見えなかったぞ。


「単純な事だよ。あの王子サマの動きが素早いだけの話さ」

「素早い……って、瞬間移動とかじゃないのか?」

「それはまだまだリューイチが未熟だから動きを追えなかっただけの事。要修行だね」


 レミアも呆然としている。あの表情から察するに、予想外だったのだろう。

 もしかしたら、シルヴァリアスを取り戻して力を得た事で慢心が生まれていた……?


「おいおい、余が一国の王子だからって花を持たせる必要はないぞ。全力でやるがいい」



 *



 花を持たせた……? 違う! 私は決して油断などしていませんでした……。

 例えどんな相手でも、どのような戦い方をしてくるかは全く以って未知数。油断は死に繋がります。

 私は王子から決して目を離さず、その一挙手一投足を見逃さないつもりで居ました。

 なのに、王子はそんな私の認識を超える程の凄まじい速度で接近し、一瞬にして剣を打ち払ってしまいました。


『あんた馬鹿なの!? この私を使いもしないで何が「油断などしていませんでした」よ! 私を使うまでも無いって思ってたって事でしょ!? それを油断って言うのよ! 相手が相手なら、あんた今ので死んでたわよ!』

(うぐっ……)


 耳が痛いです。シルヴァリアスはあくまでも対魔族用の秘密兵器……などと考えていた自分が恥ずかしいです。

 世の中には、あのリチェルカーレさんのように人間でありながら超越者の域に達した存在が、少数とは言え存在しています。

 さっきの王子の動きを見る限り、少なくともその域に足を踏み入れています。私も同じ領域に立たないと話になりませんね。


「申し訳ございませんでした、王子……いえ、ジーク殿。仰る通り、全力で行かせて頂きます!」


 私はシルヴァリアスを手にすると、一瞬で着装を済ませてジーク殿と向き合います。

 ホイヘルの時は久々に取り戻した喜びと勢いで叫んだりポーズを決めたりしましたが、別にそんな事をしなくても着装は出来るのです。

 何せ、戦闘中はそんな呑気に叫んだりポーズを取ったりしているような暇など無い場合がほとんどですからね……。


「一瞬で武装が現れた……凄いな! それは一体何なのだ!」

「ギフト――神が作りしアイテムと言われております」

「神器とはまた違うのか……? いや、その辺の詳しい話は後だ。今は、闘るぞ!」

「わかりました! では、参ります!」


 私とジーク殿。同時に飛び出した二人の剣が、領域の中心でぶつかり合います。

 何という衝撃でしょう。力と力がぶつかり合い、余波が奔流となって辺りに拡散していきます。


「そうだ! そう来なくてはな! でなければ、余の力が試せん!」

「私も、改めて恥じない戦いをさせて頂きます! 御覚悟を!」

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