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異世界の流離人~俺が死んでも世界がそれを許さない~  作者: えいりずみあ
第四章:魔の手に堕ちしダーテ王国
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097:ヴィーダーを束ねる者

 俺達はシャフタに連れられて、音が響いてきた場所へとやってきた。

 どうやらこの場に彼女は立ち合わないらしく、一礼をするといずこかへと走り去っていった。

 欲を言うなら、メイド長みたくスッと消えて欲しかったな。忍者を名乗るくらいだし。


 案内された先は本部のロビーとも言える場所で、百人くらいは並んでも大丈夫な程の広い空間だった。

 隅には階段も用意されている。ここ、洞窟の中だよな……。よくこんな所に造り上げたもんだ。


 そんな洞窟内とは思えないロビーの中心に、土埃にまみれた人達が見えた。

 一人は金色の短髪が目立つ、軽装鎧を纏った少年。もう一人は重厚な鎧を纏った大柄な爺さんだ。

 二メートル以上はあるんじゃないだろうか。コンクレンツのアロガントに匹敵するぞ。


「ま、まさか……。まさか、あの方は!」

「知っているのかレミア!」


 いかんいかん。世代だからなのか、また反応してしまう。

 どうやらレミアは、二人のうちご老体の方に何やら心当たりがあるらしい。


「一際大きな体躯で、並の騎士では身に纏っても動く事すらままならないという重厚な鎧を軽々と着こなす老齢の騎士。あの方は、ダーテ王国近衛騎士――ヴェッテ殿です。サミットの際、ダーテ王の護衛についていたのを見た事がありますから、間違いありません」


 ダーテ王国の近衛騎士。そのような高い地位の人間がレジスタンス組織に居る。

 そして、そんな騎士が行動を共にするあの少年……なるほど。何となく見えてきたぞ。


「ほほぅ、そこな剣士のお嬢さん。このワシを知っておるとは驚きじゃ!」


 こちらのつぶやきが聞こえていたのか、ヴェッテさんの方から声をかけてくる。


「知らぬも何も、近隣諸国において貴方の名を知らぬ者の方が珍しいかと思いますが……。申し遅れました。私は元ツェントラール騎士団副団長のレミアと申します」

「なんと! ツェントラールの騎士だったとな? なんでまたこんな所に」

「元々は冒険者でしたので復帰しました。今は縁あって、こちらの組織に協力させて頂こうかと」

「ふむ……話を聞かせてもらおうか」


 しかし、そんな二人の間に立ちはだかる者が一人。


「貴様ら! 余を無視して話を進めるでないわ!」


 ヴェッテとレミアの会話に怒り心頭で割り込んできたのは金髪の少年だった。

 年の頃は今の俺より若干ばかり若いくらいか。近衛騎士相手にこの口ぶり、やはり正体は――


「もしかして、貴方はダーテ王国の王子ではありませんか……?」

「ふふん。さすがに余の威光は隠し切れぬようだな。如何にも、余はダーテ王国の王子ジーク・ギーレンである!」


 やはり、近衛騎士がお供している少年ともなるとこの国の王子くらいしかないと思ったが……ビンゴか。

 ドヤァと自己紹介してくれたぞ。念のため、尋ねる際に丁寧語で言って正解だったな……。


「私は『流離人』という冒険者パーティで活動している刑部竜一と申します。この度は、拝謁賜り恐悦至極で御座います」

「あー。分かりやすく王子とは名乗ったがそう畏まらなくて良い。今の余は既に王室から放逐され、レジスタンスを組織しただけの男に過ぎぬのでな」


 王子――ジークは尊大な口調とは裏腹に気楽に接する事を許容した。考えてみれば、ジークは平民を救うための組織の長なのだ。

 わざわざ身分差を持ち出して平民に礼儀を強要したりするなどと、平民を虐げる貴族のような真似をするハズがないか。


「お、王子!? も、申し訳ございません……。御尊顔を知らぬ無礼、如何様な裁きでも」 

「だから、畏まらなくて良いと言ったばかりであろうが。放逐された身であるが故に顔を知らぬも当然の事だ」


 レミアがその場で跪くが、すぐにジークはそれを止めるように言う。


「寛大な配慮に感謝いたします。改めまして、私は元ツェントラール騎士団副団長のレミアと申します」

「それはヴェッテへの挨拶で聞いたぞ。どうやら主は元々そういう堅苦しい性質のようだな……やりづらい」

「堅苦しい……やりづらい……」


 レミアの表情が曇ったぞ。まさか、本人に向かってストレートに言うとは……ジーク、侮れん。


「私は元ツェントラール神官長のエレナと申します。よろしくお願いします、ジーク様」

「う、うむ……。よ、余はお主を歓迎するぞ。ゆっくりしていくが良い」


 目線を反らすジーク。思わず見とれてしまい、その上緊張してるな……。俺も最初、似たような事になったからな。心中丸分かりってやつだ。

 エレナは美人だからな、仕方がないな。俺もジークも男なんだ。あんなのがいきなりグイッと来たらそりゃあ取り乱しもするわ。


「へぇ、王子サマも男の子って事だね。腐った貴族共とは違って、ちゃんと人間していて良い感じだよ」

「こうして女性に心動かせるのも人間であるからこそだ。だからこそ、魔に堕ちて心を失ってしまった者達は討伐しなければならない」

「挑発したつもりだったんだけど乗らないか。さすがは王子様だ。アタシはリチェルカーレ、皆と同じく元ツェントラールお抱えだった者さ」

「ははっ、伊達に王子はやっていなかったという事だ。それにしても、皆揃ってツェントラールの者なのか……事情がありそうだな」



 ・・・・・



 俺達はジークとヴェッテに連れられ、リーダーの私室へと案内された。

 元王子だから豪奢な部屋なのかと思いきや、執務室のような様相でまとめられていた。


「……ふむ。ツェントラールの平和のためにも、この国を平和にする必要があると言う事ですな」


 ここで語った内容は、大体スピオンに対して語ったものとほぼ同じだ。

 ツェントラールを救うためにしている現在の旅は、俺達に与えられた国務でもある。


「参考までに、既にコンクレンツ帝国の皇帝は降伏させ、エリーティ共和国は魔族の支配から解放している」

「皇帝を降伏させたですと……!? あの覇道を突き進む男が首を垂れるなどとは信じられぬ、お主ら……一体何をした?」

「いや、それよりも共和国の『魔族の支配』とは一体何なのだ? あの国で一体何があった……?」


 質問責めだ。そりゃそうだわな。今まで圧倒的な武力で覇道を貫いてきた国がいきなり陥落したなどとは信じがたい。

 ましてや魔族によって支配されていたなどと、誰が想像できるだろうか。場によっては、言った方が正気を疑われるレベルだ。

 実際は魔族ではなく魔物だったのだが、余計な混乱を招かないためにも魔族という事で話を通しておこう。


「前々からエリーティは何処か異質な部分があると感じておりましたが、魔族による影響でしたか……。確かに、あれらの発想は人間とは思えぬ」

「この世界に生きる者達にとっての敵性存在である魔族。まさか、裏から手を伸ばして密かに支配していたとはな」

「何を他事のように言っているんだキミ達は……。この王国も既に魔族の支配下じゃないか」


「「!?」」


 リチェルカーレの発言に、二人して目を見開いた。


「あれらの発想は人間とは思えぬ……たった今、キミが言った事じゃないか。この国の兵士達が平民達を虐殺しているあの光景、あれがまともな人間の発想に思えるかい?」

「むむ。腐りきった王侯貴族共なら当然のようにやる事だと思っていたが……そもそも、あれは人間では思い至らぬ事なのか?」

「魔族の支配下にあるからこそ王侯貴族共は腐りきってしまったという事なのか……? となると、奴らも元々は良い奴だったという事に? むむむ……」


 ジークもヴェッテも腕組みして唸っている。腐敗した国に居続けた影響か、感覚が麻痺しているのだろう。

 極稀に存在する例外は別として、大抵の人間は普通に考えてあのような狂気じみた言動には至らない。


「だが、余とヴェッテは何ともないぞ。魔族の影響とやらを受けているようには感じぬが」

「おそらくは中枢部……つまり王城や首都辺りが対象範囲内だったんじゃないかな」

「なるほど。放逐されたおかげで助かったと。このヴェッテ、王子に付いてきて正解で御座いましたな」

「いえ、まだ安堵するには早いですよ。今も瘴気は広がり続け、濃度を増しています。このままでは王国内全てが飲まれてしまいます」


 エレナが国境沿いの山道で見たこの国の様子や、直に感じた事などを話していく。

 驚いていた二人だったが、ここ最近を振り返ると空気が淀んできているような感覚はあったらしい。


「瘴気の濃度が増せば、当然の事ながら人間は死に絶えてしまうでしょう――」

「けど、せっかくの手勢をそのまま死なせるのは実に勿体ない。故に、敵は人間が死ぬ前に魔族化させようと狙ってくる。そうすれば、人間の数だけ戦力が増やせるからね」

「そのためにも電撃的に国を落とすべきでしょう。当然の事ですが、私達は目的のために力を貸す事を惜しみません」


 エレナ、リチェルカーレ、レミアと三人が立て続けに畳みかける。

 真剣に危機感を訴えているエレナはともかく、後の二人は早々に突撃したいだけだろう。

 特にレミアはシルヴァリアスを手にしてから脳筋度が上がってきている……。


「わかった。だが、その前にテストをさせてもらおう。まさか、山に籠って特訓ばかりしていただけの余に劣るという事はあるまいな?」

「二つの国を落としたというその力……実に楽しみですな。王子以上にこのワシを滾らせてくれる事を期待しておるぞ」


 うわ。違う意味で脳筋達の喜びそうな展開になってしまったぞ……。

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