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異世界の流離人~俺が死んでも世界がそれを許さない~  作者: えいりずみあ
第四章:魔の手に堕ちしダーテ王国
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096:レジスタンス組織ヴィーダー

「さて、そろそろですね」


 シャフタに案内された先はただの岩壁だった。どうやら国境沿いの山にまでたどり着いたようだ。


「へぇ、幻術か。なかなかに高度な術式のようだね」

「やはり魔導師さんには分かっちゃいますね。その通りです。入り口は幻術で隠してあるのです」


 シャフタが懐からメダルを取り出すと、そこから放たれた光が岩壁を照らし、幻術によって作られたと思われる部分が溶けるようにして消えていく。

 曰く、幻術には当たり判定が無いため別に解除しなくても通る事が出来るらしいが、解除せずに通った場合は外部からの侵入者と判断されて罠が作動する仕組みになっているとの事だ。

 幻術を見抜いたと思って調子に乗った奴らをぶちのめすにはいい策だな。リチェルカーレだったら、あえて解除せず罠諸共にぶっ潰してゴリ押ししそうではあるが……。


「道中も迷路のようになっていて、罠も張ってあるので気を付けてくださいね」


 それから俺達は三十分近くをかけて岩山の中を掘り進められた洞穴の迷路を抜け、大きな鉄扉の前までやってきていた。

 確かに、この道中を案内無しで侵入して来ようと思ったら骨が折れるな……。案内が無ければ道に迷い、罠にもかかって踏んだり蹴ったりだろう。

 少々ばかり出入りが面倒ではあるが、敵から身を隠しつつ活動を続けるのにはうってつけと言える。


『我ら、レジスタンス組織ヴィーダーは!』

「淀んだ瘴気を晴らす猛き風!」

『貴族!』

「殲滅!」

『「平民! 救済!」』

『「感じろ! 不死鳥の如く蘇るその時を!」』


 な、なんだ!? いきなり何が始まった……? 門の内と外で何やら叫び合っているぞ。


『よし、通れ!』


 今のやり取り……まさかそれが合言葉だったのか? ここに動きを加えたら、何処かの流派の師弟みたいなノリになりそうだな。


 重厚な音と共に扉が開いていくと、先程中で喋っていたと思われる男性が通路の隅に立っていた。

 扉から先は洞窟内とは思えないほど綺麗に整備されており、壁もちゃんと作られている。

 まるで屋敷の中だ。これほどの設備を創り上げてしまうとは……レジスタンス組織、侮れないな。


「シャフタさん、ご無事でしたか。して、その方達は……?」

「王国の兵士達と戦っていた同志です。色々とお話したいのですが、スピオン様は何処に――」

「ここに居ますよ」


 いつの間にか、門番の男性とは反対側の位置に撫でつけ髪の男性が立っていた。

 鋭い視線を眼鏡の下に隠し、肩より下まで伸びる銀色の髪。如何にも参謀タイプを思わせる痩せた風貌だ。


「感心しませんね。見ず知らずの他人を本部へ招き入れるとは……。もしその者達が敵であったらどうするのですか?」

「この方達は敵ではありません! 炎上する村を見てすぐさま駆け付け、非道を働く兵士達を倒してくれた冒険者で、同胞足り得る人達です」


 目つきからして辛辣な印象を感じさせたが、やはり最初は疑ってかかってくるか……。

 だが、シャフタによるとこの男は組織のナンバースリーらしいし、まとめる側の立場として見知らぬ者達を疑うのは正解だ。

 ほんのわずかな綻びから一気に崩れるのは、何事にもよくある事だ。ならば、その綻びすら許さぬのも道理。


「まぁ良いでしょう。貴方が見込んだ方々です。貴方の判断を信じましょう」

「スピオン様……ありがとうございます!」


 意外にもあっさりと認められた。どうやらシャフタはこの組織においてかなり信頼されているようだな。

 森林巡回班のリーダーからもさん付けで呼ばれていたし、もしかして結構立場が上だったりするのだろうか。

 ちなみにそのリーダーは「巡回の報告をする」と言って、既に本部の奥へと姿を消している。


「……いきなり疑うような真似をして申し訳ありません。私はスピオンと申します。冒険者の皆さま、レジスタンス組織ヴィーダーへようこそ」


 改めてこちらへ向き直り、自己紹介してくるスピオン。若干目の鋭さは緩んだようだが、元々がこの顔なのかあまり雰囲気は変わらない。


「ツェントラールから来た冒険者パーティ『流離人』のリーダーを務めている、刑部竜一だ」

「元ツェントラール魔導研究室主宰、リチェルカーレだ」

「元ツェントラール騎士団副団長を務めておりました、レミアと申します」

「元ツェントラール神官長のエレナと申します」


 そういや、三人共ツェントラール王城に勤める重役だったな……俺だけなんか浮いている感じが。


「ほほぅ。お三方は冒険者になる以前はツェントラールに勤めておられたのですか。しかも、なかなかの役職であったようで。何故また冒険者に転身を?」


 当然の疑問だわな。単純に収入面や安全面を考えれば、城に籠っていた方が遥かにマシだろう。

 レミアの場合は騎士ゆえに任務で戦いに出る事もあるから、安全面と言う意味では保証されていないが……。


「内に籠っているよりも外へ出た方が面白いからさ」

「私は元々冒険者でしたので、転身したというより復帰したという方が正しいですね」

「神官長と言う立場上、ずっと城に籠りっぱなしだったので、外で冒険をする事に憧れてました」


 三人のうち二人が引きこもりからの脱出と言う、なんとも締まらない理由だ……。さすがにスピオンも苦笑いしている。


「そ、そうですか……。まぁ、その辺の経緯はともかくとして、何故我々に協力をしようと?」

「端的に言うと、俺はこのエレナによってツェントラールの救済を目的に召喚された異邦人だ。ダーテ王国の革命を成功させる事が、間接的にツェントラールを救う事に繋がると判断したんだ」

「なるほど、異邦人ですか。確かに、貴方の名前は我々とは異なる独自の響きのもの。そう言われれば、納得できる部分もありますね」

「ダーテ王国は今まで幾度もツェントラールへ侵攻してきた。俺としては今の国の体制を潰し、新たな体制で王となった者には、平和的な関係を築いてもらいたいと思っている」

「冒険者というのは隠れ蓑――実態はツェントラールのエージェント、と言った所ですか」

「だが、冒険者として登録してあるのは事実だ。だから、俺達の事は冒険者として扱ってくれてかまわない」

「了解しました。もうすぐ我が組織の代表たちも戻ってくると思いますので、それまではここでおくつろぎください」

「その前に、襲撃を受けた村で救出した人間が一人いるんだ。その人を受け入れてもらっていいか?」


 スピオンは俺の申し出に頷くと、救護室へ案内してくれた。そこに滞在していた医師と神官に女性を任せ、俺達は場所を移動する。

 去り際、リチェルカーレが何やらスピオンの事を気にするような感じで目線を向けていたが、何か引っかかるのか……?



 ・・・・・



「はぁー、やっと落ち着けたな」


 俺達は食堂で飲食を済ませ、しばしのまったりした時を過ごした。アシャラ村を出てからずっと動いていたからな……。

 食料の確保も楽ではないであろうレジスタンスの備蓄を頂くのも申し訳ないので、食料自体は俺達が用意した。

 調理自体はここのスタッフに任せた。俺達で調理が出来ないという訳ではないが、専門家に任せた方が確実だと判断したのだ。


「冒険者って結構ハードなんですね。私はもうくたくたです……」

「エレナはずっとあの女性を法力でケアし続けてましたからね。常に全力で走り続けていたようなものですし、疲労も当然でしょう」


 レミアが指摘した通り、エレナは村からここまでの間中ずっと女性を法力で癒し続けながら歩いてきた。

 それは当然ながら、普通に歩き続けるのみと比べて遥かに消耗が激しい。むしろ、並の神官では出来ない芸当だろう。

 もし治療をしながらさえでなければ、法力を自分の身体能力に上乗せしてもっと楽に移動が出来ていたハズだ。


「くたくたになった事は決して無駄じゃないさ。おかげで、安定した状態で医師達に引き継げたんだ。今はゆっくり休むといい」

「ありがとうございます。そのためにも、今は食べないと……ですね!」


 エレナはその見た目に反して意外と健啖家のようで、失った体力や法力を補うかのように出された料理を次々と口に入れていく。

 それでいて、ガツガツと下品に食べている訳ではなく、優雅さを全く失わずに食しているのだから恐ろしい。

 これで食べる姿が完全に見えなかったら格闘デ○ナーの使い手を名乗れるぞ。まさか、その領域までは行かない……よな?


「はぁ~。美味しいですね。王宮のものとはまた違った感じで、ガツンと濃い感じがたまりません」


 冥王のゆりかごによって切断されていた四肢が再生した女性だったが、その時点ではただ再生しただけに過ぎない。

 その過程で失われた血液の補填や、切断面から雑菌が侵入していた可能性なども含め、状態が落ち着くまでは措置を続ける必要があった。

 法力による癒しは、表面的な傷の治癒にとどまらず体内の浄化、身体機能を活性化させて造血を促すなどの効果もあるらしい。

 つまり、エレナのサポートが無ければ、女性の命の灯が半ばで消えてしまっていてもおかしくなかったという事だ。


「エレナを連れてきた事が、早くも功を奏したようだな……」

「連れてきて正解だったろう? ただ、アタシが連れてこようと思った理由はそこじゃないんだけどね」


 極端な話、リチェルカーレも法力を使う事が出来る。もしエレナが居なかった場合は、代わりに彼女がやっていただろう。

 そうなると、エレナを連れてきた理由と言うのは――彼女にしか出来ないであろう何かがあるという事になる。

 色々と先を見据えて備えているリチェルカーレの事だ。現時点においては、俺ではまだ予測すら出来ない事に違いない。

 存分に美味しいものを食べつつ感想を述べてご満悦なエレナを尻目に、俺は飲み物を口に含むが――


 ズガァァァァァァン! と強烈な音と共にアジトが揺れ、俺は口に含んでいたものを吐き出してしまった。


「ぶうぅーーーーー! な、なんだ!?」

「きゃあ! リューイチさん、お下品ですよ!」

「すまん、エレナ――」


 と詫びるのに重なるようにして、食堂の外から凄い勢いで走ってくる足音が。


「皆様! たった今リーダー達がお戻りになられましたよ!」


 駆け込んできたのはシャフタ。あの音はどうやらリーダー達が帰還した音だったらしい。一体どんな帰還の仕方だ……。

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