チートを発揮するなら、今でしょ!7
「ヴィオラ、こっちはもう終わったぞ」
「あ、ありがとうリック。ごめんね、食事の手伝いまでさせて」
襲撃から三日。ものすごーく早いもので、街はもうほとんど元通りだ。
なんでってそれは、もちろん聖獣様のお力によるものが大きい。
あっという間にひび割れた地面や倒壊した建物ももとに戻してくれたし、荒らされた家の中も綺麗にしてくれた。
さすがに焼けてしまった民家は戻せなかったが、代わりに私の作る料理でパワーアップした騎士達が街の人達と一緒に聖獣の力を借りてこの三日あまりで建ててしまった。
赤ちゃん聖獣達が子ども達と遊んでくれていたため、大人達は安心して街の復興作業に集中することができたというわけだ。
「俺の仕事、もう終わっちまったからな。みんな腹減ってるだろうし、食器の用意くらいするさ」
リックは背中の怪我の影響もなく、こうして元気に働き、時間が空けば食事の手伝いもしてくれる。
フィルさんも王城で食材や物資の手配などしてくれているし、本当に気の回る兄弟だ。
「お、今日も美味そうだな!」
できたものを並べている私の手元をリックが覗いてきた。
「そうでしょう? 今日はね、アジフライ定食とハンバーグ定食の選択制だよ。子ども用にお子様ランチも用意したよ!」
うわ、どっちも美味そうで選べねぇー!とリックが悶絶する。
たしかにタルタルソースがけアジフライはサクサクで美味しいし、ハンバーグは肉汁たっぷりでお腹も大満足。
お子様ランチはミニハンバーグとエビフライ、それにおにぎりとミニサラダを用意した。
どれも〝定食屋そうま〟人気のメニューだ。
「ふふ。余ったら選ばなかった方のメイン、こっそりあげるから」
「マジで!? ヴィオラ、神!」
目を輝かせるリックと、前世の双子の弟達の姿が重なる。
こんな幼女を相手に、どっちが年上なんだか。
そう苦笑いを零していると、久しぶりに聞く、明るい声が響いた。
「やぁヴィオラ! 久しぶりだね!」
ノア王子だ。
疲れが出たから宿屋で休んでいると聞いていたけれど……元気になったのかしら?
「この三日間、君の料理を堪能させてもらったよ。いや~どれも珍しい料理で、とても美味しかった」
「それは良かったです。あの、お疲れが出て休んでいたと聞いていたのですが、もうお身体は大丈夫なのですか?」
もうすっかり!とノア王子は決めポーズをとってくれた。
……たしかにもう大丈夫そう。
「味ももちろんだけど、効果も、ね。素晴らしかったよ」
そう耳元で囁かれて、ぎくりとする。
そうか、隣国の王族でもある彼にも、私の能力のことがバレてしまったみたい。
そりゃそうよね、この三日間は惜しみなく魔力を込めて料理を作っていたもの、致し方ない。
「大丈夫、心配しないで。僕は恩人を売るような真似はしないから。それに…」
ノア王子は私のケープに触れると、まるで懐かしいものを見るような表情をした。
「……身内には優しくって家訓だしね」
「え……それって、」
どういう意味ですかと尋ねようとしたのだが、ノア王子はじゃあねと身体を滑らせて、護衛の男性と共に食事をする机の方に行ってしまった。
よく分からないけど、同盟国だし同じ釜の飯を食べた仲間だからってことかしら?
でも念のため、後で陛下達には報告しておこう。
今回もかなり尽力してくれたということだし、悪い人じゃないはずだけど、一応ね。
そう気持ちを切り替えて配膳へと戻る。
「ヴィオラー! お腹すいたー!」
「「「きゅぅぅぅー!」」」
「おねぇちゃん、きょうのごはん、なにー?」
ヴァルと聖獣、それに子ども達が集まって来た。
「お待たせ。みんなにはお子様ランチを作ったよ。ヴァル達はハンバーグとおにぎりね。今日が最後だから、張り切って作っちゃった」
聖獣と子ども達は大喜びでご飯を持って行って一緒に食べ始めた。
すっかり仲良しになっちゃったわね。
「おーヴィオラ、今日もありがとな。おい、騎士共は後だぞ、市民が先だからな!」
見回りから戻ったガイさんがそう言うのに、騎士のみんなが分かってますよー!と答えた。
街の人達も、そんな騎士さんの姿にくすくすと笑っている。
「今日は二種類から選べるのか。うわ、迷うな」
「ねえねえ、別の料理を頼んでメインを半分ずつしない?」
「それ良い! そうしよう!」
臨時食堂と化した広場に、笑顔が溢れる。
「ヴィオラちゃーん! そろそろ俺達も並んで良い?」
「はーい、どうぞ!」
明日からは、また日常が戻ってくる。
「ヴィオラ、準備はできたか?」
「陛下! お忙しいのに、迎えに来て下さってありがとうございます」
襲撃の次の日に王城に戻っていた陛下は、街の状況確認がてら私達を迎えに来てくれた。
さすがに全員を移動魔法で移動させるのは無理なので、ヘスティアに乗って。
「……ずいぶん仲良くなったのだな」
別れを惜しむ街の人達や騎士さん達、料理人や侍女のみんなと聖獣達を見て、陛下が目を細めた。
「ふふ。私も、料理のレシピを教えてほしいと言われて、街のおばさん達と仲良くなりました」
怒涛のような三日間だったけれど、こうして活気を取り戻した街を見ると、ここに来て良かったって思える。
「……ヴィオラ」
「はい?」
名前を呼ばれて陛下を見上げると、ぽすりと大きな掌に頭を覆いかぶされた。
「助かった。国の民を救ってくれて、感謝する」
そして優しく撫でられた。
それが、恥ずかしかったけど嬉しくて。
「……私こそ、ありがとうございます。私のことを、信じてくれて」
とびきりの笑顔を返して、お礼を言った。




